ミリの足下から突如現れた恐ろしい闇は瞬時に形を変えるとミリを守る防壁となって数多の攻撃を防いだ。あまりにも予想外過ぎた横やりに、ランスやアポロ達の驚いた表情がよく見える

勿論―――この闇の存在を、全員は知っていた





「「「「「闇夜!!」」」」」





足元の影が不自然に伸びていき、そこからゆらりと不気味に現れた存在こそ―――上の階で自分達を先に行かせてくれた、黒銀色のダークライの闇夜

完全にその光沢光らせる身体が影を離れた姿は―――普段の姿に似合わずボロボロで、あの後の戦いがどれだけ厳しかったのかを物語っていた





「よかった…!無事だったのね!」

「まさか闇夜もこの広場に立っていられるとは…!」

「よっしゃ!少なくてもこれでミリの戦力が増えたってもんだ!」





ミリを守り、無事に再会を果たした闇夜の様子はこちらから見て分かるくらい安堵の色を浮かべていたが―――ミリの容態に言動、様子といった不思議な状態に小さく驚く姿を見せた

残念ながらテレパシーは聞こえない。最初っからテレパシーを向けられていなかったシロナ達は勿論、会話を可能としていたナズナとゴウキにも闇夜のテレパシーが届く事はなかった。ポケモンの声が聞けるレンも、闇夜は声ではなくテレパシー主体な為、同様に闇夜が何をミリに話しかけているかは分からなかった

少なくても闇夜の予想外な事がミリに起こってしまっている事だけは、理解していた






『ククッ、―――ハハハハッ!待っていましたよ、ダークライ!まさかこの場で貴方と決着を着けれるとは!やはり女王一人よりも貴方がいてこそです!【三強】や他の【五勇士】がいないのが残念で仕方がありませんが……一番に倒すべき相手こそ、ダークライ!貴方ですからね!』






よほど嬉しいのか、闇夜の登場にランスは歓喜に声を上げ、身体は恐怖に震えていた

そこまでランスの抱く憎しみは深く濃いのだろう。あそこまでいくと、もはや末期に近かった





『……』

『覚えている?あの時の彼よ。性懲りもなくまた悪いことしてるんだよね。どうやら私達、彼等に誘拐されたっぽいの』

『!……、……』

『他の?他にも誘拐されている人達がいるの?………それはいけないね、助けにいかなきゃ。此処にはその人達の気配は感じないから…もしかしたら別の場所にいるかもしれない』

『……』






のほほんとした口調は相変わらずだが、その盲目の瞳は冷ややかで、背筋を凍らせるものだ。雰囲気がガラリと変わったその姿こそ、一番に信じられないものだった

シロナ、ダイゴ、ゲン、ゴヨウ、デンジ、オーバ―――かつての仲間達は目の前にいるミリの姿に、唖然として、茫然としていた

自分達の記憶にあるミリは温かくて優しくて、太陽みたいな存在。人に対してあんな態度など取れる様な人間ではなかったはずだ。先程のプレッシャーといい、今の姿といい―――嗚呼、自分達の知らないところで彼女は歪んでしまっていた。話に聞くよりも実際に見てしまうと誤魔化しが効かない。ショックが大きかった。色々思う事はあるにしろ、全員が一番にこう思っただろう


何故、あそこまで自分を追い詰めてしまったんだ

何故、自分達に相談してくれなかったんだ、と

何故―――





「…!見ろ、闇夜が動き出したぞ!」

「「「「「―――!」」」」」





闇夜が動き出した。金色の瞳が妖しく光ったと思った途端、闇夜を中心に深く恐ろしい闇は一瞬の内に広場を覆い尽くしたではないか。まるで津波に飲み込まれていく様な、闇は容赦無くポケモン達とアポロ達を呆気なく飲み込んでいった

やはり動けるポケモンがいると違う。否、それが【夢魔の影】である闇夜だったからこそ成せた事か。あれだけ自分達を嘲笑っていた奴等は呆気なく地に伏せた。闇が引き、残されたのは残骸―――味方にするには頼もしいが、敵にしたら末恐ろしいんだと嫌でも現実を突き付けられた事だろう

悠々と不気味に佇む闇夜に、自然と生唾を飲み込んだ






「……これが、闇夜の力…!」

「…すげー、瞬殺」

「…だな。圧倒されちまって言葉が出てこないぜ」

「………やはり一匹動けるだけで逆転するんだな。いや、この場合は闇夜だからこそ出来た事か…」

「【夢魔の影】…恐ろしい実力ですね」

「えぇ…少し見くびっていたわ。まさか闇夜があれだけの力を持っていただなんて……」

「「「…………」」」






各々の感想を漏らす彼等を横目に、この闇を一度飲み込まれ掛けた事のあるレンとゴウキとナズナは静かに眼前の光景を見つめるだけ

ナズナは遠くに見えるアポロ達に視線を向ける

先程まで雛段の上にいた四人は呆気なく床や階段に転がっている。ポケモン達も四方八方散らばってダウンしている。此処からは彼等の表情を詳しく見る事は出来ないが、きっとその表情は苦悶に歪み悪夢にうなされている事だろう。アポロ、アテナ、ラムダはその様子が見えないが―――少し離れて倒れているランスの表情が、同情を覚えてしまうくらい哀れなモノだった





「……馬鹿な奴等だ。無意味な事だったと、これで痛いくらい分かっただろう」






ナズナは独白に呟く

しかしその声は誰の耳に届く事はなかった




そうこうしている間にも闇夜はミリの身体を抱き寄せて、無事でよかったとばかりに震えている。あまり感情を露にしない闇夜であったが、今回ばかりは感情が抑えられなかったらしい。気持ちは痛いくらいに分かる

闇夜の心中なんて気付いていないミリは、甘えて来たと勘違いして嬉しそうに抱き締め返していた。すごく嬉しそうだ。本来だったら微笑ましい光景だったはずなのに、ミリの反応は場違いで緊張感が無さ過ぎた。こればかりはなんともいえない空気間がメンバーを取り巻いた

闇夜がミリから身体を離した。きっとこれから闇夜の口からミリに諸々の説明が入るのだろう。それから、ミリからも。テレパシーが届かず内容が聞こえないのがもどかしいが、闇夜なら任せられるだろう。誰もが皆、信じて疑わなかった

しかし、

ミリの口から出た言葉は、信じられない内容だった





『……』

『今まで?……何を言っているの闇夜、私達ずっと一緒だったでしょう?』

『……』

『ほら、一緒にリーグから帰宅したじゃん。ダイゴ達が私達の為に開いてくれた送別会に参加して、皆に見送られる形で家に帰ったの…忘れちゃった?』

『!』







「……ミリの言う通りだ。ミリが行方不明になる最後の日は僕らが開いた送別会に出席してくれて、最後はリーグ職員全員で見送った。今でも鮮明に覚えている。…けど、おかしいじゃないか!」

「あぁ、おかしい話だ。今の話が確かだとしても…ミリの記憶は当時に逆戻りしてしまった事になる」

「おいおい、なんだかややこしくなってやがんぞ!どうなってんだよミリの記憶は!」

「…確実に言えるのはミリさんの記憶は無事思い出してくれた、という事でしょうか…」

「結果オーライ、にしちゃ後味悪いが…今のアイツがどうであれ俺達の事を覚えているミリに戻ったって事だな」

「実際にどれくらい思い出してくれたのか、ミリをカウンセリングしてもらった方がいいわね」






先程は自分達の知らない一面を見せられ、記憶を取り戻した事を素直に喜べなかったが―――それを抜きにしたら無事は勿論、思い出してくれた事は凄く嬉しい話なのだ。会話の内容は別としてもダイゴの名前が出た事は確実だと言ってもいい

少々自分達の理解出来ない事が起こっているにしろ、ひとまずこの件は置いておいてまずは目の前の事が先だ。後からじわじわとくる衝動に、彼等の顔には笑みが浮かんでいた


しかし、

ミリの状態を由と思わない者達がいた





「…おい、何勝手に話を終わらせてやがる。肝心のミリはどうなるんだよ。【聖燐の舞姫】の方のミリだ」

「まさか聖蝶姫の事を思い出しただけで満足した、とは言わせんぞ」

「白亜と黒恋の事もある。これで一件落着と話を終わらせないでもらいたい」





レンとゴウキとナズナだった

壁の向こう側にいるミリに目線を向けたまま、三人は彼等に釘を刺す事を忘れない

心外だ、と彼等は三人に振り返った






「聞き捨てならないね。勿論分かっているさ」

「その点も含めてちゃんとカウンセリングさせるわ」

「【聖燐の舞姫】と呼ばれているミリさんも、私達の知る彼女に代わりはありませんので」

「ハッ、どうだか。あの時のお前等はその【聖燐の舞姫】を否定していただろ。また軟禁させそのまま【聖燐の舞姫】の記憶を失ったままにさせられちまったら困るんだよ」

「あ?聞き捨てなんねぇ事言いやがって。そんなに俺らの事信用なんねーのかよ」

「フッ、胸に手を当て自分達の行動を振り返ってみるんだな」

「…テメェ…」

「落ち着けお前達。こんなところで揉めるんじゃない」

「しかし、いずれにせよこの件は決着をつけなければならない。…互いに平等且つ冷静に、真実を追求しようではないか」

「勿論、僕達もそのつもりだ」






バチバチバチッ―――


見えない何かが、三人と九人の間に迸る






「―――!見て下さい、ミリさん達が動き出します!」

「「「「「!!」」」」」





そうしている間にも壁の向こう側にいるミリ達が動きだそうとしているじゃないか

このままいけば自分達の存在に気付かずに行ってしまう恐れがある。それだけは避けなければならない

しかしどうやって―――





「ッ、ミリなら気付いてくれるに違いない!皆、すまないが下がっていてくれ!ミリに私の波動を送る!」

「「「「「!!」」」」」






動き出したのはゲンだった

驚くメンバー達など構わずに、先程白亜と黒恋に波動を向けた様に―――壁の向こう側にいるミリに向けて手を翳し、青色の波動を発動させた

白亜と黒恋に意思疎通が難しかった、と本人は頭を振っていたというのに何故ミリなら気付いてくれるのか。シロナとダイゴとゴヨウ、デンジとオーバの八人は困惑気味に顔を見合わせた。しかし対するレンとゴウキとナズナは彼等と違い―――確信を秘めた眼でゲンを、そしてミリを見守っていた


そして――――






『この力を、私は知っている…………これは、波動の力……………?』




『――――ゲン、貴方はそこにいるの…?』








「――――よし!読み通り…私の波動に気付いてくれた!」

「「「「「!!」」」」」










さぁ、物語の続きを進めよう






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