闇夜から放たれた深く恐ろしい闇は一瞬の内にこの広場を覆い尽くし―――広場にいたポケモンを、トレーナー達を呆気なく飲み込ませた 抵抗なんてままならず、対策も取れないまま彼等は闇に落ちた。闇の前に成すすべも無い、闇を降り払う力を持たない故に【夢魔の影】の存在に呆気なく崩れた。先程の、一歩上にいく余裕綽々の姿など、もはや影を失わせた 覆い尽くした闇が引き、そこにあったのは無惨な残骸 11匹のポケモン、四人のトレーナー。冷たい床に転がっていた。彼等は無様な姿に成り下がる結果に終わった。闇に取り込まれた者の末路―――今まさに恐ろしい悪夢に震えている事だろう。眠るその表情は、苦悶を浮かべていた もはやこの者達など我々の敵ではない たとえ復讐に身を駆られた者による逆襲があったとしても 闇夜は静かに彼等の哀れな姿を一瞥していた 「「ブィィィ…!」」 「あらー、本当に全員倒しちゃったね。闇夜、張り切るのはいいけど一人は残しておかないと皆の居場所が吐かせないじゃーん」 《………》 すごーい、と驚く白亜と黒恋、呑気にケラケラと笑うミリの姿 闇夜はゆっくりとミリの傍に近付く。盲目の瞳は自分を写していない。一見自分の存在に気付いてくれないと思われがちだが、気配だけで分かってくれる彼女にはそんな心配はない 闇夜はミリの前に対峙した。彼女はニコニコと笑う。この流れでいくとミリは自分の身体を撫でて労いの言葉を掛けてくれるのだろう。闇夜は自分の大きな腕をミリに伸ばして――― 《……主、》 その細くボロボロの身体を引き寄せた 「おふっ、…闇夜?」 《………主、主、》 「あらら?どうしちゃったのかな闇夜ちゃん。珍しいね、甘えたくなったのかな?フフッ、お家に帰ったらいーっぱいよしよししてあげるよ。ううん、お家に帰らなくてもよしよししてあげちゃう!なんだか今日の闇夜ちゃん可愛いよ!キュンキュンだよ!」 「ブイブイ!」 「ブーイ!」 《……》 抱いていたイーブイ達を降ろし、 腕を広げて、ミリは闇夜を抱き締め返す 細く、ずぶ濡れで冷たくなっている身体。昔と変わらない、記憶にある感触。六年前に行方を眩ませ数週間前にも行方を眩ませた、大切な存在。やっと、やっと抱き締める事が出来た。言葉に出来ない安堵感が闇夜の心を包み、身体は知らずとミリの身体を抱き締めた フフッ、と上機嫌にミリは闇夜の身体をよしよしと優しく撫でる。状況が状況なのによほど闇夜が甘えて来た事が嬉しいのだろう。全く緊張感を感じられない。それがミリらしいと言うべきか 暫くミリの身体を堪能した闇夜は、ゆっくりと傍から離れる。出来るならもっと抱きしめたいしよしよししてもらいたいが、ここは小さな欲求を耐え忍び、まずはミリに色々問わねばいけない ふふふ〜ん、と未だ上機嫌に笑うミリに闇夜は本題を出した 《…主、今まで何処で何をしていたんだ。本当に、凄く、心配していたんだぞ。私だけではない、此処には居ない他の人間達も……》 「今まで?……何を言っているの闇夜、私達ずっと一緒だったでしょう?」 《は、》 「ほら、一緒にリーグから帰宅したじゃん。ダイゴ達が私達の為に開いてくれた送別会に参加して、皆に見送られる形で家に帰ったの…忘れちゃった?」 《!》 ――――先程感じていた違和感は、こういう事だったのか。闇夜は悟り、愕然とした ミリの記憶は、自分の持つ六年前最後の記憶と同じ内容だった 彼女は思い出した。それは先程確信したのでまだいい。やはり記憶を取り戻した代償に数週間前の出来事も、『彼岸花』という奴等の存在すらも忘れてしまっていた。そして、白亜と黒恋の事も―――当然、ミリを陥れた『彼岸花』の本拠地の存在の在処も、忘れてしまった事になる。 一体、この数週間の間にミリの身に何があって、こういう事態になってしまったのか。問いただしたところで今のミリには到底理解出来るモノではないし、この一件の解決は見出だせない 闇夜の辿り着いた答えは――― 《――――まずは一旦、他の人間達を探そう。私の口から説明するよりその者達から説明をしてもらった方がいいだろう》 闇夜が出した答え "今は何も伝えるべきではない" 今はこの洋館から抜けだし、ミリの安全を確保させる。別れた他のメンバー達と合流して状況を説明した後、この役目こそメンバー達が話すべきだと判断した 「?さっきから他の人間達って言っているけど………それは一体誰なの?闇夜の知り合い?あ、それともこの子達のご主人様?」 「「ブイブイ!?」」 《…確実に言えるのは、主の知り合いで、大切な存在に値する―――主の無事を必死になって探し、無事を祈り続けていた者達だ》 「!…大切…、無事を…?」 その時だった 「―――――!」 ミリが小さく反応する 「ブイブイ?」 「ブーイ?」 《主、どうかしたか?》 「――――……」 何かの気配に気付いたらしく、ミリは後ろを振り返る 盲目が後ろを振り返ったところで何処を見ているのかは分からない。しかし盲目だからこそミリは眼では無く、気配で感じ取っていた ミリだからこそ明確に分かる、ナニかを―――― 「この力を、私は知っている…………これは、波動の力……………?」 ミリが振り返った先は、ただの壁 ただの壁とは言い難い、マジックミラーをした壁 無機質な光沢は、鮮明に闇夜達を写し出す 「――――ゲン、貴方はそこにいるの…?」 (彼女を呼ぶ、青き波動) |