ミリの足下から突如現れた恐ろしい闇。その闇は瞬時に形を変えるとミリを守る防壁となって数多の攻撃を防いだ。11匹の攻撃はミリに直撃する事なく、防壁の存在によって四方八方に逃げていき、広場の壁や床に直撃しては爆風を起こす

攻撃を繰り出したポケモン達や命令を降したランスは勿論、雛段の上で静観していたアポロとアテナとラムダを驚かす事になる

この恐ろしい闇の存在こそ―――戦況を一気に変えてしまう、招かれざる存在



パァアッ、とミリは現れた存在に笑みを浮かべた






《―――会いたかった、主》

「やーん闇夜ちゃーんおかえり〜」






ミリの足元にある影が不自然に伸びていき、そこからゆらりと不気味に現れた存在こそ―――【盲目の聖蝶姫】及び【氷の女王】として屈指の実力を見せつけては絶望に落としまくったポケモン、黒銀色のダークライ

その身体が影から離れた時、広場の蛍光灯の光で不気味に反射する身体。はがねタイプでもないはずのボディは、普段の姿に似合わずボロボロだった






《無事でいてくれて本当に良かった。随分心配したんだぞ。…それに何なんだその格好は。ボロボロじゃないか》

「闇夜も無事でよかった。怪我は無い?…って闇夜の方もボロボロじゃないの!痛いところは無い?」

《……!主…眼が…》

「闇夜が無事なら他の子達も無事かもね。闇夜、皆は何処にいるか分かる?闇夜もボロボロなら、皆も危ない状況かもしれない。色々説明を聞きたいところだけど、まずは目の前を片付けよう」

《………》

「あ、そうそうこの子達。どうやら迷い子らしいの。闇夜、此処から抜け出したらまずこの子達のご主人様を探しに行こっか」

「「ブイブイ!?」」






影から身を離し、ミリの傍へ降り立つ闇夜だったが―――ミリの容態、言動、様子に小さく驚く素振りを見せる。そんな闇夜の姿なんて気付かずといった様子で、ミリは足下にいた白亜と黒恋を抱き上げては呑気にそう言いのける。腕に抱かれた二匹はそろそろ泣きそうだ言わんばかりに、そのつぶらな瞳には涙を浮かべている

一体主に何が起きているんだ。闇夜はそう思うしかない






「ダークライ―――あの階にいるポケモンを闇に落としたきり姿を消していましたが、まさか女王の元に戻るとは…」

「おいおい、ランス奴大丈夫なのかよ。特にダークライとかランスにとっちゃトラウマもんだろ」

「なんでダークライもこの階にいれるのよ。ねえアポロ、あの装置ちゃんと動いているの?」






雛段にいる三人は、闇夜の登場に動揺を隠せずにいた


しかし一方では―――






「ククッ、―――ハハハハッ!待っていましたよ、ダークライ!まさかこの場で貴方と決着を着けれるとは!やはり女王一人よりも貴方がいてこそです!【三強】や他の【五勇士】がいないのが残念で仕方がありませんが……一番に倒すべき相手こそ、ダークライ!貴方ですからね!」






声を張り上げるのは、ランスだった

歓喜と興奮を表情に、そして拭い切れない恐怖の光をその浅葱色の瞳に宿して

カタカタ震えだし始めたその身体は、やはり未だにダークライに対する恐怖を―――否、二人が揃った事によるトラウマが払拭されていない証拠。深々と根付いてしまった恐怖を前に、トラウマを前に、彼がそこまでして【氷の女王】を求めるのか―――誰がどう見ても、ランスの姿は異様にしか見えなかった


闇夜はここで初めてランスの存在に気付く






《――――主、》

「覚えている?あの時の彼よ。性懲りもなくまた悪いことしてるんだよね。どうやら私達、彼等に誘拐されたっぽいの」

《!…………》






数週間前、【聖燐の舞姫】として最後に見た時にはその姿は完全に消滅していたが―――今のミリは、【氷の女王】としてランスを見下げながら闇夜に簡略な説明をする

のほほんとした口調のまま、しかし盲目の瞳は冷ややかなまなざし。闇夜はミリの言葉、そして彼女の雰囲気そのものに驚きを隠せなかった

ミリは、思い出したのだ。ランスの事を、自分の事を。思い出してしまったのだ。【盲目の聖蝶姫】であり、【氷の女王】としての、記憶を――――生存を代償に【聖燐の舞姫】の記憶を、ミリの腕に抱かれる白亜と黒恋の記憶を失ってでも。ミリは六年前の記憶を取り戻したのだ

忘れて欲しかった、記憶までも






《…………他の人間達は?》

「他の?他にも誘拐されている人達がいるの?………それはいけないね、助けにいかなきゃ。此処にはその人達の気配は感じないから…もしかしたら別の場所にいるかもしれない」

《…………》






嗚呼、一体どうなっている

ミリの記憶は何が消えて、何を思い出したというんだ






《…詳しい話は後でにしよう。主、私に命令を。【夢魔の影】として、奴等を闇に落とすその許可を》

「…………そうね。お願いするよ。一人くらい意識残しておいて。尋問させるから」

《―――その必要は無い》







闇夜の金色の瞳が、妖しく光る

そして―――広場は深い闇に染まった






* * * * * *








一方、別の場所では

巨大なモニターの前に立つ、一人の男がいた





「―――これはこれは…」






モニターに映し出されるのは―――遠く離れた拠点にある監視カメラの映像

巨大なモノ、小さなモノ、数あるモニターの映像には多方面に映し出される。ロケット団の様子、捕らわれてしまった人間達の滑稽な姿、そして―――突然現れた、自分達が探していた存在を






「まさか卿自ら来てくれるとは思わなかった。ククッ、愉快愉快。卿は本当に私の意表を突いてくれる。これだから飽きない、飽きないから欲しくなるのだよ」





監視カメラで施設内をくまなく監視し続けていたのに

彼女はいつの間にか現れた

その点に関しては色違いのイーブイも該当する。小柄なポケモンは仕方無いにしても、彼女の登場は大いに男を驚かせた

もしかしたら自分が彼等の存在に集中し過ぎていたのかもしれない。しかしそうだとしても何らかの警戒センサーが知らせたはずだ。なのに、何も起こらない。何もなかったのに、彼女は現れた

一体、どう説明をつけようか





「しかし―――また逃げ出したあのダークライも、こちらに戻って来てくれたとは。探す手間も省けたという事だ」






モニターに映る、【聖燐の舞姫】の隣に立つ黒銀色のダークライ

男は嘲笑う。意味深なまなざしを向けて





しかし面白い事が起きているものだ、と男は【聖燐の舞姫】を見ながら続ける

今の【聖燐の舞姫】は、まるで―――






「――――まるで、あの時の格好と同じではないか」






六年前、海の底に落ちてしまった彼女

最後に見た彼女の姿はポケモン達の攻撃でボロボロで―――そう、あの様な黒のワンピース姿で海に消えていったのだ

オレンジ色のコートを、その場に残して







「――――私は貴方を許さない」







「さぁ、卿等は一体どの様にこの私を楽しませてくれるのだろうか。私は紅茶を飲みながら、楽しませてもらうとしよう」








男、カンザキは

そう言って、嘲笑った








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