空はもう夕焼けに差し掛かり、一面には青だった空がオレンジの空に変化する。その空を背後に、巣に戻るポッポやキャモメやペリッパーの姿が見える。草むらに視線を向ければ同じように巣に帰ろうとするポケモンの姿があった。勿論それは人間だって同じで、トレーナーはポケセンに、他の者達は自宅に足を運ばせていた


此所はクチバシティ


レンは一人、無限に広がる海原を見つめていた







「…………今日も情報は無し、か」








ベンチに腰を降ろし、ポケギアを操作しながらレンは浅い息を吐く

その顔は疲労を浮かばせていた

それもそうだろう――数週間前に突然行方を眩ました女を、眠い目擦りながらレンはクチバシティを拠点にカントー全土を探し回っていた。何処に行っても姿は愚か、存在すらあやふやで流石のレンもどうする事も出来ないでいた

カチカチと動かすポケギアのアドレス帳の中には、沢山の番号が連なっている。それは今までレンが出会ってきたトレーナーの連絡先でもある番号。…その中にあったはずの番号が、無い。一覧を全部見て再度無いと確認すれば、今度こそレンは大きな溜め息を吐き、クシャッと前髪をかき上げた





「……チッ……」





レンの脳裏に浮かぶのは…数週間も探し求めている存在、ミリ

最後に見た姿はグリーンバッチをゲットして嬉し涙を零した姿。あの姿を見て多少なりともレンに衝撃を与えたが、その姿は目に痛くなく、純粋にミリに心からおめでとうと思った。次に浮かぶのは、自分達を守るあまりミリ自身が痛い思いをさせてしまった事。テレビで見た映像が実際に目の前に起こった事にはびっくりしたが、それよりもミリの状態をかなり心配し、自分の身体を投げ出してまで守ろうとしたミリに怒った自分がいた

あの一件で、ミリの人物像が大幅に確定した。ミリは目の前に起きた事を己の不思議な力で守ろうとするが、自分の事は後回し。ミリ自身が自分に無頓着なのはふたごじまの一件で分かっていた。だからこそレンはミリ怒った(三人がいたため、極力怒りを押さえながら)しかしあまり言う事を聞かないミリにカチンときたのは置いといて←






「アイツ…見つけたらただじゃおかねぇ」





ポケギアを無造作にバックの中に放り込む。ベンチから立ち上がって、此所から見える景色を見渡す

今レンが立っている場所は、以前ミリと共に仲間として決意を決めた場所でもあった。気付けばレンはこの場所に居て、気付けばミリを思い浮かべていた。胸がキュッと締め付けられ…寂しいと思ってしまっていた

一人でいる事は慣れていた、慣れていたのにオレンジに恋い焦がれいた。実際に目の前に見えるオレンジ色の空と、空の色に反射されて浮かぶオレンジの海、クチバシティを象徴する色はオレンジ…全てが全て、気付かずにオレンジを追い求めていた







「ミリ…お前、消えたわけじゃないだろ…?」








腕にあるオレンジ色をした腕輪にソッと触れるも、何の光も浴びない。レンは眉を潜め、唇を噛み締める


それが何の感情か――レンは今でも分からないでいた

















「レン、お前まだクチバにいやがったのか?」

「!…マチスか」





港から一人、ライチュウを引き連れて現れた男、マチス

どうやら港からレンの姿を発見したらしく、荷物を詰め込む作業を休憩(すっぽかし)しレンの元へ訪れたらしい。マチスはレンの隣りに歩み寄り――レンの面を見て苦笑を零した






「お前疲れてるだろ?さっさとセンターにでも行って休ませてもらっとけ」

「あぁ…そうだな」

「その様子だと今日も嬢ちゃん見つけられなかった、ってところか?」

「……………」






マチスの問いにレンは返事の変わりに溜め息をつく

それこそマチスは苦笑を零すしかなく、ドカッとベンチに腰を降ろす。ライチュウも隣りに腰を降ろし尻尾をゆらゆらと揺らす。レンは二人の姿を視界に入れるが、すぐに視線を逸らし海に向ける

マチスはレンがミリを探しているのは知っていた。何故、レンがこのクチバシティに止どまっている理由も分かっていた。分かっているからこそ、マチスは何も言わずレンの後ろ姿を見つめていた










「…カントーに居ないなら、もしかしたら別の地方にいたりしてな」

「………………」

「この近くならジョウト地方だな。ダメもとで探しに行ってみればいいじゃないか?レン」











マチスは知っていた


ミリが、聖燐の舞姫が



ジョウトに現れ、活躍しているのを









「んな不抜けた顔していたら嬢ちゃんがびっくりするだろうな。ハッ!笑えるぜ。なぁ、ライチュウ」

「チュウ!」

「…ジョウト、か…本当だったら、今頃ミリと旅してたんだよな…俺達」

「………………」











レンは海を見つめ、空を見上げる








オレンジ色に染まるそれらを通して見るのは一人の女。ただ黙って見つめるレンにマチスはほとほと溜め息を零した




どいつもこいつも馬鹿ばっかだな、そう思いながら










恋い焦がれる存在


なぁ、ミリ

お前は一体…何処にいるんだ



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スザク様の長編気になる話
ヒロインに置いていかれた所〜ヒロインと再会するまでのレンsideの話

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