アポロが言い放った残酷過ぎる言葉は

当然、彼等全員の耳に届いていた





「ミリがいない…じゃぁ!アイツは!一体何処に行っちまったんだよ!」

「そんな…嘘よ!ミリ…ッ!」

「ッ………アイツ、俺達に動揺を誘う為にワザと言ってるんじゃねーか?」

「…いや、それはないだろう。奴は本当の事を言っている。気と瞳に嘘は無かった…間違いないだろう」

「あぁ…彼の波動からも同じ様に感じられた。嘘ではない、きっと…真実だ」

「クッソッッ!!」

「これぞまさに万事休す、いえ…絶体絶命と言ったところでしょうか……」

「「「………」」」






彼等に降り懸かるのは、言い様の無い絶望感

今日この日までずっと、彼等の意識はミリを自分が一番にでも救出せんとばかりに気持ちを保ち続けていた。ミリは生きている、奴等に捕らわれていると。シンオウが脅威に陥り、敵の撲滅は当然だが―――やはり、全ては、自分達にとってかけがえのない大切な存在を救出する為

その為にも彼等突入チームは結成されたというのに…まさか、だ。まさか―――此処に来ても、ミリの行方が分からないだなんて




バチバチバチッ、と小さく迸る音以外―――発する言葉も無く、沈黙になるメンバー達

敵の思惑に簡単に落ちてしまった怒りは勿論ある。奴等の嘲笑う姿に憤りを覚えて仕方ない。しかし、やはりその気持ちを上回るのは、ミリの安否への喪失感と絶望感。奴等に捕らわれていなかったとしたら、一体ミリは何処にいる?アポロが言った「海の中に消えた」という言葉が本当なら、生きている確信があったにしろ、まさか―――






「(ミリ……)」






レンはポケットからあるモノを取り出し、視線を落とす

二つに割れ、真っ黒くなってしまった、あの腕輪。一週間前に自分をダークホールから救ってくれた、大切なモノ。相変わらず、腕輪は真っ黒だ

ミリの笑顔が脳裏にちらつく。気付くとレンの拳は強く握り締められていた。そのピジョンブラッドの瞳は、憎悪の色を。まだ彼の中ではミリが生きている確信が残っているにせよ、このまま増長させてしまったら、レンは―――






何分間、この空間は静寂に包まれていたのだろう

この沈黙は、ある人物により終止符が付く事になる






「…ナズナさん、教えてくれ。彼等とナズナさんの関係、それから緑色のミュウツー…刹那の話を」

「…………」

「僕が秘密裏に調べた話は本当に簡単な情報でしかない。元ロケット団の団員、科学者でありながら首領補佐の実力者……貴方がもうあちら側の人間ではない事は分かっている。話せる範囲で構わない、彼等が話していた内容を教えてもらいたい」





動いたのはダイゴだった

彼のコバルトブルーの瞳は、鋭くナズナを写す

ナズナが敵側の人間ではないのはもう分かっている。敵ではないから、彼は此処にいる。全員もナズナが敵ではないと分かっているから、ラムダの居る階で発覚した事実を受け入れた

たとえ受け入れたとしても、このままいけば更にロケット団としての裏の顔の姿を晒される事になるだろう。ダイゴが調べた情報は表面上のモノでしかない。どんな話が舞い込んでくるかは分からない。後になって驚かされるよりも前に、やはり張本人から本当の話を聞いた方がいい。その意味を込めて、ダイゴはナズナに問うのだ

貴方はあちらで何をして、どうしてロケット団を脱退したのかを―――




ナズナは小さく溜め息を吐いた






「…俺は確かに元ロケット団、科学者であり首領の補佐を勤めていた。それは偽れない真実で、今更否定するつもりはない。しかしある事情で俺は組織を脱走という名目で脱退した。…事情の件は聞かないでくれよ。この脱走については首領に相談してこそ行なった行為……首領以外誰にも言わずに一人組織を去った。それが約七、八年前の話だ」

「七、八年前…」

「「「「「………」」」」」

「当時俺には部下がいた。さっきの奴等四人がそうだ。まだしたっぱだった四人の才能を見抜いた俺は、四人を引き抜き自分の部下にさせた。アポロは特に優秀な奴だった……しかし、この脱走の件に関してはアイツ等にも何も告げずに去った。今まで何も知らなかったが…アイツ等は相当俺を必死になって探してくれていたらしい。その結末がランスだ、笑えた話ではない」





憤慨する気持ちを、吐き捨てる思いでナズナは話す

その銀灰色の隻眼は憤怒の色を、ギリリと握り締められる拳はそれだけ彼が憤りを隠せていない証拠

嗚呼、本当に馬鹿な奴等だ

ナズナは遠くに鎮座する怪電波装置を見上げて、独白の様に吐き捨てる






「そもそもロケット団などもう復活はしない。アイツ等は無意味な事を危険を犯してまで達成しようとしている。無知は事は時に残酷だ……真実を知ったら、四人はどうなってしまうんだろうな」

「…どうしてそこまで断言出来るの?ロケット団…レッド君の活躍で壊滅したとはいえ、何度か復活しているって話は集会で聞いているわ。それだったら『彼岸花』もそうよ。あなたが昔に壊滅に追い込ませ世間から忘れ去られていたとはいえ…今こうしてシンオウに牙を向けているのよ」

「…ロケット団首領、名はサカキ―――今、彼はカツラさんのところにいる。彼こそ、このアジトを見つけるキッカケを作ってくれた一人だ」

「―――!」

「「「「「!!」」」」」

「彼にもうロケット団復興の意思は無い。彼には探し求めていた大切な存在と再会出来たのだからな。それに―――首領とミリさんは、家族同然の仲だ。首領はミリさんの事を娘の様に思い、無事を願っている。そんな彼が、このような暴挙に出られるわけがない」





そう、だからこそありえないのだ

ロケット団はもう、復活しない

分かっているからこそ、意味の無い事だと言えるのだ。お前達のやっている愚行に対して。真実を知っているからこそ、ナズナは何度でも彼等元部下達に言う

ロケット団は復活しない

いい加減に目を覚ますんだと―――






「…では、刹那の件は…」

「…幻のポケモン、ミュウの睫毛の細胞とロケット団の最高技術力で造り上げたポケモン、それがミュウツーだ。無論、それを造り上げたのは―――この、俺だ」

「「「「「「!!」」」」」」

「正確には俺と、もう一人の科学者だがな。ミュウツーは二体いてその内の一体が刹那だ。脱走する際、俺は刹那を連れてロケット団から立ち去った。アイツが自ら望んだ事でもあったからな…脱走した後、俺は首領が用意してくれた隠れ場所で五年間、ひっそりと暮らしていた。勿論、刹那と一緒にな」






《ナズナ、このテレビは面白いな。否、人間というものは面白いと言った方がこの場合はあっているのかもしれない。好いた人間を奪い合い、犯罪にまで発展するドロドロの展開は人間ならではの行動だ。ポケモンではあまり聞かない話だ、それだけポケモンの方が平和だという事でもある。…ほう、この男はよほど手癖が悪いときた。ナズナ、時に聞くが人間の男はあんな感じなのか?お前もあのテレビの男の様に女をとっかえひっかえ食い散らかしていたのか?》

「…ミュウツー、お前暫くテレビ見るのは禁止だ」

《?何故だ?駄目なのか?》

「教育上よろしくなさすぎるだろ。見るならもっと別の番組を見ろ。お前の年齢こそ〇ンパ〇マンでも見てろ。まだお前は実年齢は3歳だという事を忘れるな」

《しかしナズナ、人間とポケモンとは歳の老い方は違うと聞くが、》

「駄目なものは駄目だ。今の話は誰にも言うなよ、そんな事を言ったもんなら新しい主が泣くぞ」







ナズナの脳裏を過ぎらす、かつての思い出

そう、ナズナはロケット団から脱退してからずっと、ミュウツー改め刹那と共に暮らしていた。ひっそりと、静かに。来たるべく日を待ち受ける為にも―――身を潜めて、時が来るのを待っていたのだから




――――なのに、だ



自分達の知らないところで"緑色のミュウツー"が活躍していて、知らぬ間にその存在が忘却された

これは一体、どう説明を着けようか






「そうだったのか…」

「刹那はナズナ博士が…」

「ッしかし……ナズナさん、それだとつじづまが合わない。詳しく経歴を調べなければ分からないけど、少なくてもミリが活躍していた時にはナズナさんの傍に刹那がいたって話になってしまう」

「それに総監はこの件に関してはご存じなのですか?あの総監が…たとえ前科持ちの貴方を先陣に立たせる事はさせなかったのでは?」

「それは……」

「……そこまでにしてやってくれ、ダイゴ、ゴヨウ。色々疑問に思う事があるかもしれんが、この話はまた後日にでも話す手立てだ」

「俺達が当初予定していた会合で、その事も踏まえてな。…ま、ナズナの話が此処で決着つけたんだ。これでやっと言えるってもんだぜ」

「…?どういう事だ?」

「…ま、色々な」

「…色々とあって」

「色々とあった…」

「………そうか、色々あり過ぎたのか…」

「何があったのよ、あなた達」






―――その時だった







ガタッ、カタカタッ


ガコン!






『――?ブイブイ?』

『ブーイ?』






自分達の捕らえられた檻の近く

排気口から現れた、二つの存在






「!?」

「―――あの子達は…」

「「「白亜!?」」」

「「「黒恋!?」」」








現れたのは、

此処に居る筈の無い、白と黒のイーブイ達






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