レンもまたパネルワープで飛ばされてしまったらしい。鳩血色のエルレイドとガブリアスと共に、彼は現れた。状況が飲み込めていないらしく、自分の目の前には先程別れた筈の仲間達が全員揃っている事に、驚きを隠せないといった様子だった

しかも一拍も置く間もなく、レンの腰ベルトにあったボールが勝手に動き出し―――先程戦っていたエルレイドとガブリアスをボールに戻る事となる。レンは二度の衝撃を受ける事になる。自分達が違う場所に移動し、しかも自分の意志とは関係無しに二匹がボールの中へ戻ってしまうだなんて

対する仲間達もレンの登場に驚きを隠せずにいた。レンの登場も勿論―――あのエルレイドが、色が違っていた事にそれはそれは驚いた事だろう。一瞬しか見れなかったとはいえ色違いのエルレイド姿を、見間違えるものか


しかし、レンが無事だった事には変わりはない。色々と聞きたい事だらけだが、ひとまず置いておくとして。全員はレンの回りに集まった






「無事でよかった!」

「心配していましたが、安心しました…!」

「レン、さっきのエルレイド…」

「説明は後にしてくれ。…おい、これは一体どういう事だ?」

「ッ、それが………」






そしてレンは知る事になる

自分と仲間達が別れた後の、その先の話を

状況が状況の為に簡略された説明であったが、レンには十分な内容だった。一通り説明を受けたレンは形良い眉を顰め―――この檻の向こう側にいる敵に、視線を向けた






「へぇ…そういう事か」

「お久し振りですね、【白銀の麗皇】。お前もパネルワープでこちらに来ましたか。ようこそ、歓迎しますよ」

「随分と手の混んだ歓迎だな。まさかここまで技術が進んでいたなんざ、こりゃ土産話にもってこいってところか。………隣にいる女、アンタは確かアテナと言ったか?これでナズナの元部下が勢揃いってわけか」

「あらやだ!こんなイケメンに名前を覚えてもらえてるなんて光栄だわ!」






嬉しいわぁ〜!とキャピキャピしだすアテナの姿なんて目もくれず。レンは辺りを見渡し、自分の状況下を冷静に分析し始める

目の前には、見えない壁。確かに何も見えないが、バチバチバチッと小さく電気が迸る音が聞えているとなると―――ポケモンが使えない状況で、生身の自分達がこの壁を突破するのは至難の技なのは誰が見ても明白だろう

怪電波装置との距離は遠い。自分達の居る場所はこの広場の端の方、もし万が一に奴等の操作でこちらの姿を完全にシャットアウトしてしまったら、確実に自分達の存在に気付いてくれる見込みは…薄い

やってくれたな。レンは隠す事なく舌打ちをした






「そっちはどうだったんだ、レン。君と別れて随分心配したんだぞ」

「こうして無事に会えたのはよしとしても、さっきのエルレイドといい…ミリの偽者やあのラムダという男も、一体どうなったんだ?」

「あぁ、それが―――」






今度はレンが語り出す

先程あった、出来事を―――










「―――ゾロアーク、悪かったな。もう安心しろ、こいつらを片付けたらすぐにでも手当てしてやるからな」






パァアアアッ―――と消えるのは、広場にあった大量に転がっていたぬいぐるみの山。幻影の元凶が倒れた今、幻影で作られた光景が本来あるべき姿へと戻される。そこにあったのは、上の階と同じ無機質な広場だった

レンの目の前には、鳩血色のエルレイド。多少傷を負っているが、勇敢に立つ姿には圧倒されただろう。隣りには、妖しく輝かすピジョンブラッドの瞳を持ったガブリアスに―――彼等の前には、無惨に地に伏したゾロアークの姿

壮絶なバトルの中で迎えた結末。勝者は誰が見ても分かるだろう






「次はお前だ、ラムダ」

「エル!」
「グォウ!」

「偽者、ゾロアーク相手とはいえ大切な女を前に不埒な行為を見過ごしてやるほど、俺は心広くねぇんでな。……お前を捕らえて、全てを吐いてもらうぜ?」







広場にある全ての幻影が解け、取り残された敗北者のラムダを前に、レンは言う。エルレイドとガブリアスもラムダを捕らえる為に戦闘態勢を崩さない

ラムダは、笑っていた

やってくれやがって、と吹かしていた煙草を足で踏みつぶしながら彼は悠長に笑っていた。諦めが付いたのかは分からない。しかし無抵抗なところを見ると反撃の意思はないだろう。レンは、エルレイドは、ガブリアスは、ラムダを捕らえる為に歩を進めようとした

――――が、

ある場所まで足を進めた際、ラムダの笑みが不敵に歪んだ






「お。やっちまったな」

「あ?」

「はいポチッとな」







ブゥウウン―――


レン達の足下が、突然光り出した






「!?――な、」

「俺はまだ捕まるわけにもいかないんでな、詳しい事は下の奴に聞いてやってくれや」

「待て!ラム――――」






シュッ―――












「ラムダの奴、まさかこちらに丸投げするとは…」

「あらやだラムダったら。任務放棄じゃないの」






レンの説明を遠くで聞いていたアポロとアテナはやれやれと頭を振っていた






「まぁいいでしょう。とりあえず私達の任務は完了した事ですし、あの二人については大目に見てもらいましょう」

「!…任務とはなんだ、アポロ!」

「勿論、ナズナ様達を捕らえる事ですよ。リーグの名の元で動くお前達の出っ鼻を挫かせるのが私達の役目―――リーグに私達の存在を知らしめ、恐怖を与える。その為のダシに使われたんですよ、お前達は」

「「「「!!?」」」」

「やり方はこちらに任せて頂いたので、不本意な流れとはいえ任務は達成出来ました。お前達を捕らえる―――ククッ、無差別に攻撃させなかった私達の計らいに精々感謝して頂きたいところです」

「テメェッ!!!」

「ざけんなッ!!」

「今からこの檻から出しなさい!」

「アポロ、イケメン達が色々喚いている姿は中々見物だけどちょっと煩いからもう押しちゃいましょーよ」

「そうですね。では、」






はいポチッとな

アポロは手にしていた小型装置機のボタンを押した


――――すると、どうだろうか。目の前に居た彼等突入チーム達の声はピタリと聞えなくなったではないか

アポロとアテナから見えるのは、口パクのままにこちらに向かって怒鳴ったり凄んだりと様々な様子の彼等の姿。中々お目にかかれない滑稽な姿を前に、腹の底から笑いたくなるのを耐え忍ぶ






「あらあら、本当に何にも聞こえなくなったわ。ウフフ!よく出来てるわねー面白いわぁ〜」

「あそこまでいくと愚かでしかありませんねぇ。ナズナ様の無様な姿も見納め、ついでにこのボタンも押しておきましょう(ポチッ」

「―――ま!本当にただのマジックミラーになっちゃったわ!よく出来てるわねー。確かにこれなら人が閉じ込められている事に気付かずに終わりそうだわ」






カツカツとヒールの音を鳴らし、余裕の足取りでマジックミラーになった壁に近付いたアテナはコンコンとマジックミラーをノックする。勿論返事なんて返ってこない。あるのはマジックミラーに反射された自分達の姿でしかない


嗚呼、この中に閉じ込められた彼等は一体今どんな気持ちでいるのだろう






「さて、私達はとりあえず上に行ってあの二人を回収しますか」

「そうね。…アポロ、一応聞くけど、そのままにしても大丈夫なの?」

「大丈夫でしょう。ただの人間にあの檻を攻略出来るわけがありませんし、ナズナ様とてあの場所からこの怪電波装置の解除なんて出来ませんしね」






内側は電気が走っているが外側には電気が走っていない。アポロの持つ小型装置の操作一つで自由に内側も外側も電気が走る仕組みになっている。電気に関してはアポロから小型装置を奪わない限り、攻略は困難だ

閉じ込められている彼等にそんな芸当は到底不可能。あの檻の中からハッキングしようにもノートパソコンはあっても檻のセキュリティーに繋げる通信機具が無い。無線のインターネットからと考えたところで『彼岸花』が易々セキュリティーの侵入を許す筈はない

ポケモンも使えない、ハッキングも出来ない、ただの生身の人間が出来る限度はたかが知れている。撒いた餌に食らいつき、のこのこと現れては呆気なく捕まった愚かな人間達。巷では凄腕トレーナーやチャンピオン、名高い者達がいるというのに―――所詮は名前だけに過ぎない事がこれでよく分かった事だろう







「嗚呼―――しかし、この者達も随分と愚かな人達ですよ」






アポロはマジックミラーの前に立つ


反射された自分の顔。その壁の向こう側にいる彼等に向けて、アポロは嘲笑う







「【聖燐の舞姫】、もとい【盲目の聖蝶姫】。世間を騒がせているポケモンマスター。お前達が焦がれ、必死になって探している彼女は、






―――最初から此処には、居ないんですからね」






アポロは言う

面白そうに、愉快そうに


嘘偽りのない真実を、彼等に言い放つ






「たとえ私達『彼岸花』とロケット団を止める名目で動いているにしろ、お前達の一番の目的はけして達成される事はない。彼女は此処には居ない、何故なら私達の前から彼女は海の中へ消えてしまったのですから。…精々、生きているといいですね。可能性は限り無く低いですが」







「私は、貴方達に負けない。せいぜいそこで高みの見物でもしているといいわ」








「ま、それよりもご自分の命の心配をした方がいいと思いますけどね。『彼岸花』のリーダーは、ランスなんかと違って冷酷な方ですから」






そう言い残したアポロは

アテナと共に広場から立ち去ったのだった










残されたのは、痛いくらいの沈黙だけ





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