今日のコガネシティは晴天


そして今日も一日…悲鳴が上がる








「なぁなぁそこのねーちゃん!そんなことしてないで一緒に茶でもしようよ!」

「そうだぜ、今日は俺達が奮発してねーちゃんにとびっきり美味いもんでも喰わせてやr「よーミリ、こんなところにいやがったか〜」ブシャァアアアアアーーーーッッ!!??」

「マサオーーーッッ!!?」





ナンパ男の内の一人であるマサオ(推定25歳)は、突然襲いかかった足蹴りを食らい、弧を描いて綺麗に吹き飛ばされた






「ミリ、捜したぜ?お前こんなところにいないであっち行こうぜ?こんな場所にいたら捜すのに苦労するからな、俺が。それに一人でいるから変な奴等に絡まれるって何度言わせんだよ」

「あ゛ぁ!?んだとゴルァ!テメェ!!よくもマサオに向かっブルワァアアアアアーーーーーーッッ!!??」

「あぁ、そういえばさっきジョーイさんがそろそろ休憩にしても良いってよ。疲れただろ?部屋でゆっくりしようぜ」



ドガッッ、ドガッッ



「「ギァアアァァアアアァアアーーーーッッ!!!」」






ナンパ男の内のもう一人であるトオル(推定25歳)は突然現れた白銀の髪をした男に殴りかかろうとしたが、何事も無かったかの様に話しながらも裏拳を決め込み、トオルは鼻血を噴き出して同じく弧を描いて地に伏した

トドメと言わんばかりにその得意な足蹴りで地に伏した二人もろとも踏つ付け、蹴りあげれば、センターの中から叫び声が大きく響いた。コガネシティのセンターは都会であって人盛りが激しい。それを上回る程の叫びは無情にも虚空に吸い込まれていった

無残にも散った屍二体(ナンパ男)を唖然と見つめる女の腕を掴み、つかつかと男は歩き出す。勿論、憎しみを込めて踏みつぶす事を忘れずに。一連を見守っていた他トレーナー(同じくナンパしようかとしていた多数の男共)にも睨みを訊かすのも忘れずに






「……………」

「レン…あの、さ…あの二人…大丈夫…?」

「あ?…あぁ、多分生きてるだろ。死んではいねぇと思うぜ」

「あー、うん…?」





男、レンは面倒くさそうに屍に視線を向けるもすぐに視線を変え足速に自室にへと向かう。対する女、ミリは心配そうに屍に視線を向けるが、まぁ簡単に人間は死なないだろうと自己完結を決め込んだ

あまりにもコレが日常になり過ぎてどうでもよくなったのだろうか。コガネシティのポケモンセンターで一日二回は必ず悲鳴が木霊する。初めて来るトレーナーは何事かと挙動不審になるが、これが常連さんになると「あー今日も頑張ってんだなー白銀のあんちゃん」と悲鳴をBGMに換える人も中にはいた。しまいには近くにすむご老人なんかには「今日は何人退治したんかい?」と、鬼退治でもしてきたノリで問い掛ける姿もしばし見受けられる

しかも質問を受けた張本人なんて「あぁ、今日は三人の馬鹿野郎共を吹っ飛ばしてきたぜじーさん」と普通に答える程だ。しまいには「カッコいい兄ちゃん!今日もキレーな姉ちゃんを救ってる!」「ヒーローだヒーロー!」と言われるまでになってしまっていた。レンの手伝いは主に荷物運びだとか男の手が必要な時に活躍するのに、いつの間にか警護の位置付けにヒーローという称号を得るハメに。そんなレンはコガネシティのポケモンセンター内の人気者であり、今日も一日ミリの回りに群がる虫共を屍にさせる






「今日も疲れたな。昼寝とかしとけ、休憩つーかもう上がってもらえる様にこっちから一言言っておくぜ」

「え、大丈夫だって!……てかさっき休んだばっかだし頼まれた仕事も終わってないし…」

「馬鹿、お前は病み上がりなんだぞ。普通ならまだベットに居る身の癖に…動く分、多くの休憩が必要なんだよお前は」

「だったらそれはレンだって一緒…」


「すみませーん!」






慌ててレンに抗議を訴えようとしたミリに、後ろから声が掛かる

振り返ればボールを数個持ってこちらに駆け寄るエリートトレーナーの姿(推定21歳)があった。その顔はミリを見つけて嬉しそうに表情を緩めている。そんな彼の姿を見て(先程の事もあり)レンは面倒くさそう(嫌そう)に小さく舌打ちをし、それに気付かないミリはレンの手から逃れ、笑顔で対応する





「こんにちは、今日もお疲れ様です!回復ですか?」

「はい!今日も回復でお願いします!さっきバトルしてきてポケモン達が傷付いてしまって…」

「あらあら、それは早めに回復させないと、ですね。早くポケモン達に休憩してもらわないと。ではポケモンを預かさせてもらいますね」

「はい!お願いします!」






どうやらこの男は何度かこのセンターに足を運び、回復を頼んでいたらしくお互い顔見知りらしい

名前は知らなくても笑いながら会話する二人を…約一名、苛々しながら待っている奴が






「……………」

「はい、ポケモンは四匹ですね。それじゃ今から回復させてきますね」

「……………」

「お願いします。…あ、あの、名前を教えてもらってもいいですか?俺はユウスケです」

「私はミリです、ユウスケさん」

「………………」

「ミリさん、ですか。…あの、ミリさん」

「はい?」





顔を赤らめて、言おう言おうと決心しようとする純情青年ユウスケに、頭を傾けてユウスケの言葉を待つミリ

普通此所まで見ればパターンは一つしかない。苛々がピークに達していたレンはユウスケが何を言おうかすぐに悟り―――


ピキィ、と何かが切れた








「ミリ」








腰からボールを取り出し、出したポケモンはハピナス。もう何をすれば良いか分かっているらしく、ハピナスは受け取ったユウスケのボールを奪い、テクテクと去っていく。ユウスケに向かって「ハッピー」と一声かけていくが、多分その内容は「あまりレンを苛々させないほうが良いわよ」と助言を意味する内容だが、残念ながらユウスケにはポケモンの声が聞こえない

ポカンと去っていくハピナスを見送るユウスケ。ミリはどうかしたのかとレンに振り返るが、振り返る前に…強い力で引き寄せられた






「―――Σ!!??」

「レン…!?」





ミリの肩を抱き寄せる形で自分に引き寄せたレン。ハピナスに視線を向けていたユウスケはびっくりして二人を見る。ミリもまさかこんな所で…!と顔をじわじわと赤らめる。実際に今居る場所は人通りが多い、レンが抱き寄せた事によってより多くの視線を受けるはめに

当の本人は気にしている様子は見受けられない。ミリの位置からは分からないが――ユウスケや第三者から見えるレンの表情は…それはそれは分かりやすい程に、ユウスケ…いや、此所にいる全部のトレーナー(男)に威嚇をしていた。威嚇よりも睨んでいた。睨んでいたよりブラックオーラを放っていた

ピジョンブラッドの瞳とはよく言ったもので、直訳すれば鮮血の瞳。その鮮血の瞳に直に睨まれたユウスケはビクッと身体を震わせた。まるでへびにらみにでもされたように。怖じ気つくユウスケ(その他)に見せつける様にレンは抱き寄せる力を強くする。次にはニヤリと口許をつり上げ、動けないでいるユウスケに向かって…鼻で、笑った






「ミリ、部屋に戻ろうぜ」

「え、ちょ、レン!?」

「部屋にはマスターお手製の美味しいケーキが待ってるぜ〜」

「ケーキ…!」






グイッと身体を引き寄せたまま、レンは後ろを向き歩き始める。勿論ミリも肩を掴まれたまま引きずられる形になり、ミリは驚きの声を上げるも、ケーキの単語で簡単に押さえ込まれる。なんて単純なんだろうか。しかし自分の職務の事は忘れていなかったのか、「ユウスケさん、失礼しました」と頭を下げ、引きずられて行った

固まっているユウスケ(プラスその他)を置いてレンはミリを連れて立ち去った。勿論、消える間際に後ろを振り向き…ギロッと、睨むのを忘れずに…







「……………」

「…まぁ、アレだ。お前のその心意気に拍手だな」

「諦めろ…そうして散っていった同士が何人もいる…あの男の手によって」

「…よし、ちょっくら飲みに行こうぜ。な?」

「…………はい」






先程屍になったナンパ男達、そして回りに見守っていた男達(元、屍)はユウスケの行動に拍手を送り、またナンパ男達にも拍手を送り――一同は涙を忍び、共にセンターを出るのであった

その後ろ姿を、遠くでジョーイとラッキーとレンのハピナスが苦笑を漏らしながら見送っていた









高嶺の花を守る壁

その壁は、一人の男が女に対する独占欲と嫉妬からなる強烈な強度を誇る壁



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あぷ様の長編気になる話
『第二章の二十話後のレンの独占欲あっぷな日々』

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