大きな爆発音と爆風は容赦無くこの広場を襲いかかり、粉塵を巻き起こした。もしあの爆発に巻き込まれていたら確実に命が危なかっただろう、そう戦慄してしまうくらいの威力だったのは間違いない


ナズナが瞬時に避難を命じた事で、ギリギリのところで爆発から逃れる事が出来た彼等は―――バリアードのバリアー、そしてダイゴ(※ジン)のルカリオのまもるを使い入口を二重に塞ぐ形で難を凌いでいた。二重のバリアーでも二匹に反動を感じたとなったら、もしバリアーが無かったら大変な事になっていただろう






「―――間一髪、だったわね…ありがとう、助かったわ」

「ルカリオ、よくやってくれた。流石はジンさんのポケモンだ。今のは僕の読みが甘かった…自らボールに出てくれて助かったよ」

「バリアード、お前もサンキューな。お前もボールから出てくれなきゃ無事じゃすまなかったぜ…」

「バリアードには万が一の事を想定して自己判断でボールから出るように指示を出しておいたので、それが功を奏しました。……まさか、爆発が起こるなんて思いもしませんでした」

「クソッ!一歩間違えたら俺達爆発に巻き込まれて死んじまっていたじゃねーか!」

「それだけ奴等は俺達を生きて帰す気は無いらしい。…より慎重に進んで行かねばこちらの命が危うい、か……舐められたものだ」






まさに生きた心地がしない

今更な事だ。敵陣にいる今、安堵出来る場所なんてそんなモノなど存在しない

奴等は本気で自分達を潰しに掛かっている。それだけは分かった。ヒヤリと背筋を凍らすのは恐怖か、それとも別のモノか―――今はそんなモノなど考えない様にするしかない





爆発によって舞い上がった煙や粉塵が落ち着いたのを見計らい、全員は改めて広場に足を踏み入れる、のだが

全員は驚愕した



何故なら―――あんなに大きく立派な怪電波装置が、忽然と姿を消していたのだから







「…!?怪電波装置が無い!!」

「おかしい…アレだけ大きい装置だ、爆発しても形跡は残って破片も転がってもおかしくはないはずなのに…」






粉塵や煙が落ち着いたこの広場。辺りを見渡すと驚くくらい、"何もない"。先程の装置をあれだけの威力で爆発させたにしても必ず痕跡が残り、粉塵並に全てをぶっ壊す事など到底不可能でしかない

しかし辺りを見渡しても目を疑ってしまうくらい本当に何もなかったのだ。破片も、爆発した名残も―――まるで怪電波装置なんて存在しなかった様に、夢でも見たのかと錯覚してしまうくらいに

確実に怪電波装置は存在した。それは間違いない。その事を一番に分かっていたのは解除に取り掛かっていたナズナであったが―――その表情は、眉間に皺を寄せ、まるで苦渋を飲まされたものだった






「―――なるほどな。元々此処には怪電波装置は存在してなかった、そういう事か」

「「「「「!!?」」」」」

「ナズナさん…どういう事なの?」

「そもそも先程俺が怪電波装置の解除に取り組むのを向こうは分かった上で偽物の怪電波装置を用意し、爆発物を仕込んだ。しかも偽物の怪電波装置は最初っから存在しない―――俺は幻影で作られた怪電波装置の解除に取り組んでいたという事だ」

「!幻、影…?」

「偽物…?」






本物そっくりに造られた幻影。ナズナにバレない様にきっと中身まで同じように似せたのだろう。爆発を誘発させる為の時間稼ぎとして。最初こそ気付かずに解除に取り組んでいたナズナだったが、長年の冴え渡る勘により違和感を覚え、コレが偽物だと気付き、爆発する事にも気付いた。モニターと爆発物は繋がっていた。モニターに触れる事で自動的に爆発する設定にもなっていたんだろう。全く、油断も隙もあったものじゃない

ナズナの分析にゴウキは言葉の意図に気付いた様で眉間に皺を寄せた。しかし周りの者達は意味が分からずと言った様子で疑問符を浮かべている


彼等の様子など構わず、忌々しそうにナズナは悪態を吐いた






「してやられた。まさかこちらまで範囲を広げる事が出来るとは………麗皇の安否が、少々不安だ」

「ナズナさん、貴方は…その幻影を造った敵を、知っているのですか?」

「その幻影を作り上げた元凶は―――今、麗皇と戦っているミリさんの偽者で間違いないだろう」










「流石ナズナ様ですね。そこまでお分かりなら、こちらから何か説明する必要はありませんね」






不意に、広場に男の声が響いた






「「「「「!!!」」」」」

「―――ッ!!お前は!!」

「あなたはあの時の!」

「お久し振りです、チャンピオンのお二方。そしてその他の方々は初めまして、と言うべきでしょうか。もうお分かりかと思いますが、ランスです。どうぞよろしくお願いします」







いつの間にか、広場の隅に一人の男―――ランスがそこにいた

彼は壁に背を預ける形で困惑していた彼等の姿を愉快そうに眺めていた

一体いつからそこにいたのかは分からない。悠長な物言いでカツカツと広場を歩きながら自己紹介をするランスを前に、当然全員は腰に手を掛けいつでもバトルが出来る様に戦闘態勢に入る






「お前か…ダイゴさんとシロナさんに襲撃したランスって奴は」

「それに昔、ミリにも色々ちょっかい出していた奴だろ」

「お久し振りですね、ナズナ様。貴方の事はアポロから聞いていました。まさかナズナ様とこうして再会出来る日が来るなんて思いませんでしたよ。………貴方を探すのに、今までどれだけ苦労した事か……お元気そうでなによりですよ」

「おい無視か!こっち見やがれ!」

「……ランス、お前の話は色々聞いている。勿論、六年前の事もな。俺を探す為とはいえ、随分活躍したそうだな。……そこまでしてこの俺を見つけたかったのか?お前の心に、【氷の女王】による罪の鎖を巻き付けられても」

「…………女王と貴方がお知り合いで、仲間だった事に対しては今更驚きはしませんよ。緑色のミュウツー…やはり貴方達は繋がっていたというだけの話です」

「……………」






嗚呼、こいつは相当やられている

女王に対する強い恐怖もそうだが―――ナズナに対しても、強い憎しみの色をその浅葱色の瞳に宿していた


想像以上なランスの様子に憐れみの眼を向けていたナズナの隣に―――カツリとヒールの音を鳴らして、シロナが前に出た






「…ランス、ミリは一体何処にいるの?」

「おや?先程女王の姿を見たのではないのですか?」

「アレは偽者よ!ミリなんかじゃないわ!」

「そうだ。この波動使いの私が、ミリの波動を見間違えるわけがない!」

「「「あぁ!」」」






確かに先程の偽物に騙されかけたとしても、揺るぎない核心と絶対の自信の前には、簡単に自分達を騙せるわけがない

ミリを知り尽し、自分達の勘を信じて疑わない―――そんな彼等の姿に、ランスは愉快そうに笑い出した






「ククッ…ハハハハハハッ!本当に貴方達は【氷の女王】の事を大切にしているんですね!でなければ貴方達ほどの人格者がこんな危険極まりない自殺行為に近い事をするわけがない!…まさかナズナ様もその仲間としてこの場に立っているだけでも驚きなのに、そうやって躍起になる姿がまさに滑稽で愉快ですよ!」

「その【氷の女王】の呼び方止めろ!ミリをそんな名前で呼ぶんじゃねえ!」

「ミリはミリだ!【氷の女王】なんかじゃない!それは俺達が一番によく分かっている!」

「おや、どうやらその様子だと【盲目の聖蝶姫】の裏の顔を知った様ですね。さぞ、驚かれたのでしょう。自分の知る彼女が、冷徹無慈悲な恐ろしい一面を持っていたという真実に」

「ミリを愚弄しないで!!」

「それ以上言ったらただじゃおかない!!」

「ククッ…此処に女王が居ないのが残念ですよ。見せてあげたいですよ、あの、恐ろしくも美しい姿の、女王をね」

「やめろ!!ランス!!」

「黙りなさい!」

「言うんじゃねえ!」






不本意で予想外な形で知る事になってしまった【盲目の聖蝶姫】の裏の顔、【氷の女王】の全貌。話を聞いたあの日から幾日も経っていてもけして信じられるものではなく、認めたくない気持ちが先立ってしまうのが彼等の気持ち

自分達の気持ちを差し置くにしても―――ミリの事を悪く言われる方が、聞き流せるものではなかった。躍起になって言葉を遮る彼等の姿に、ランスは嘲笑を浮かべて更に言葉を続ける







「話を聞いたのなら、きっと私の事を聞いているのでしょうね。…今更言い訳はしませんよ。言い訳しないからこそ、私は断言出来るんですよ。【氷の女王】の、本当の恐ろしさを―――――ククッ彼女の本当の姿を見たら、貴方達は今まで通り女王を慕う事が出来るんでしょうかね」








「私を狙いに来たわりには随分爪が甘いのね。それだとこの私の命は到底奪えないわよ?」


「もっとしっかり狙いなさい。もたもたしていると、逆に貴方の命が奪われるわよ」


「さようなら、愚かな人





 貴方の顔は、もう見たくない」












「―――ランス、元はといえばお前が原因じゃないか。お前が無意味に聖蝶姫を襲撃する事で、優しかった彼女はおかしくなってしまった。…お前が聖蝶姫に襲撃する事が無ければ彼女は【氷の女王】などという恐ろしい名前を付けられる事はなく、お前自身も深いトラウマを刻まれる事は無かっただろうに―――いくらアポロの命令だったとはいえ、ランス…随分愚かな男に成り下がってしまったな。呆れてもはや、言葉も出ない」

「――――知った風に語ってくれたところですが、お言葉を返させてもらいましょう。…………真の原因は、ナズナ様にあるのではありませんか?」

「――――…」

「貴方の造り上げたミュウツーがどういう経緯で女王のポケモンになったかは分かりませんが、そもそも貴方が私達を裏切り、ロケット団から脱走したのが全ての始まり―――いいえ、違いますね。ナズナ様…14年前、この『彼岸花』の組織を完全に壊滅し損ねた、貴方の失態が全ての始まりなのですよ。だからこそ、言わせて頂きます





全ては貴方の所為ですよ、ナズナ様。貴方が聖蝶姫の笑顔を奪い、その心に傷を付けた最も許されない元凶なんですからね」

「ッ――――!!!!!」

「とんだ責任転換だ!ランス!それ以上言うならこの俺が許してはおけん!」


「…一体、何の事だ…?」

「刹那…?刹那は造られたポケモン…?」

「…ナズナさん、貴方は一体ロケット団で何をしたんだ…?」






言葉に詰まらせるナズナ、声を上げるゴウキ、ランスの言葉に困惑する彼等の姿

ニヤリと笑ったランスは―――パチン!と軽快に指を鳴らした



すると広場の他方の壁からガゴン!と扉が開き、そこから続々とポケモンが現れたではないか。主に大型のポケモン、屈強なポケモン達が更に怪電波によって凶暴走化している姿は、まるで異形だ

突然のご登場に全員の顔は驚愕の色に染まり、あっという間に回りを囲まれてしまい、互いに背を合わせる事になる





「マジかよ!横から出てきやがった!」

「チッ、マズいな…上にいたポケモンよりレベル高い奴等ばかりだな」

「見事に囲まれましたね…」

「ッまさか!波動では何も感じなかったのに!」

「さて、そろそろ私も動き出しましょうか。全く、ラムダが使えないあまりにこうして此処まで辿り着けられたんです。戻ったらこってり反省してもらいましょうか」

「構えて!来るわよ!」

「あぁ!」

「ランス!!」

「「「グオオォオォオオォッ!」」」







咆哮が、上がる


悲鳴が、上がる








「貴方達は此処で、ゲームオーバーです」








無慈悲な戦いが、始まった





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