森の中に一人、少年がいた





いや、少年と言うよりも少女と言った方がいいかも知れない麦わら帽子を被った少女は、手持ちのピカチュウを腕に抱いて困惑した面持ちで辺りを見回していた

先程まで静かだった森が急にざわざわと雰囲気が変わり、森の中にいたポケモン達も急に様子がおかしくなっていた


勿論、それは


少女が今腕に抱いているピカチュウも同じで





「チュチュ…」





少女は心配そうにピカチュウを覗き込み、ギュッと抱き締める



ピカチュウは泣いていた



瞳からポロポロと涙を流し、一点だけを見つめるピカチュウ


少女は分からなかった


先程からピカチュウと意思の疎通を何度も試してみてはいるが、全然読み取る事が出来ない。今までこの様な事がなかった為、少女はただピカチュウを抱き締める事しか出来なかった


ピカチュウに呼び掛けても

涙を拭いてあげても

くすぐってみても

尻尾を掴んでみても


ピカチュウは微動だにしなかった





唯一分かったのは







何かが、何かがこの森に現れた事しか分からなかった









ピカチュウを抱き締めて歩き回っていた時

少女はあるポケモン達を見つけた




それは何年か前ロケット団によって野生として放たれた凶暴なポケモン達が

ピカチュウと同じ様に涙を流していた

勿論元々トキワの森で暮らしていたポケモン達もいて、彼らも同じ様に涙を流していた



彼らもまた、ピカチュウと同じ様に、同じ方向に、一点だけを見つめていた


少女は意を決して近くにいたポケモンに意志の疎通を試みた所、一瞬だけ読み取る事が出来た





"かえってきた"







何が帰ってきたのか分からない


これこそまさにポケモンの中でしか分からない意味でもあるに違いないという事はよくわかっていた




森も、何かを訴えていた

まるで待っていましたと言わんばかりのこのざわめき






「…トキワの森が、ポケモンが…誰かを待っていた…?」






少女は分からなかった


何をすべきかも

どうすれば良いのかも






ただ、今自分が出来る事は自分の目で何かを見つける事だった


少女はピカチュウが見ている一点の方角を見る


あそこに、何かがある



そう思えば、足が勝手に動いていた












まるで少女も、ポケモン達と同じ様に何かに導かれる様に






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