それは、レンとゼルがまだポケモントレーナーになっていなかった子ども時代に逆上る――― 「「ぞろあ?」」 「あらあなた、可愛い子ね」 「化けキツネポケモンというポケモンだ。名はゾロア、生息地は主にカロスという地方で暮らしている珍しいポケモンだ。化けキツネポケモンなだけにポケモンや人間に化けるのを得意とするんだ」 「「へー」」 仕事の都合で暫く言えに戻らなかった自分の父親、アルフォンスが久し振りに帰って来たと思ったら―――腕に、黒いモコモコの毛玉みたいなポケモンを抱えていたのが始まり 初めて見るポケモンにレンとゼルは興味津々にその対照的な瞳をキラキラと輝かせてソレを見る。母親のユリも初めて見るポケモンに好奇な目を向けていた 対する父親は、モコモコするゾロアと言われるポケモンを撫でながら―――しかし別の手は白い本のページを片手で器用に捲りながら、いつになく鋭い目で文字が書かれていない真っ白なページを読み進める 「珍しいわねぇ、あなたがそんな可愛いポケモンをゲットするなんて。いつもはゴッツイポケモンを好むのに…またどうして?」 「知り合いに頼まれたのさ、この子を貰ってくれってな。年齢でいったら…ラルトス達と同い年くらいだ。いい刺激になってくれると思ったし、新しいポケモンを育てるのもアリだと思って引き取ったんだ」 「「ルー?」」 「「へー」」 「またこいつの進化系が俺の心を掴んだというか。今は可愛いこいつが進化するとカッコいいポケモンに大変身さ」 「惚れたってわけね。いいじゃないの?確かに二人にはいい刺激になりそうだし、なにより新しい仲間を迎え入れるもの!テンション上がっちゃうわ!」 「そんなわけだからお前達、この子をよろしくな」 そう、これがかつての記憶 「俺はゼル!」 「俺はレン!」 「「こっちはラルトス!」」 「「ルー!」」 「「よろしくな、ゾロア!」」 今はもう失ってしまった、 優しくも儚い、大切な思い出 「―――…レンガルス、報告書には二人が所持していたポケモン、一匹行方不明を除いて全て死亡とされている。…俺は当時の事は何も知らねぇ。行方不明になっている残りの一匹…俺の記憶違いでなければ、それはアイツだな?」 「…あぁ。あの時はもう進化して父さんの下で働いていたぜ。ま、こっちでは珍しいポケモンだったのもあってあまり人様の前に出る事はなかったぜ。……だからこそ最後の一匹が何のポケモンか、結局誰も分からずに終わっちまったがな」 「……だったら話は早い。これを見ろ。ナズナに命令してシンオウにある全ての防犯カメラをハッキングして調べたモノだ。…写真に写るコイツ、見覚えあるんじゃねーか?」 差し出された、複数の写真 そこにあったのは―――人間の姿から何者かが変化を解くさまを連写した、揺るぎない証拠で 変化を解いた、ソレはポケモン 自分達の知る―――大切な形見の存在だった 「…へー、『彼岸花』とお前は因縁の相手だっつー話はアポロから聞いていたが…因縁も因縁、まさに絵に描いた因縁の相手ってわけか。流石の俺も同情しちまうぜ、お前も苦労してたんだな」 しみじみと、レンに対して同情の目を向けるラムダなどお構いなしに、レンの眼は鋭くミリの偽者―――ゾロアークを注視する ニンマリと三日月に笑うゾロアーク。ミリの姿をしていてその表情は、もはやミリではない。ミリの皮を被った、全くの偽者そのものだ 歪んだ笑みをも浮かべさせるゾロアークに、レンは静かに口を開く 「…随分と器用に変化してくれてるじゃねぇか。昔のお前は、そこまで器用に変化出来なかったはずだぜ?それでいて、その力を使って相手を傷付けさせる事も嫌っていた… そんなお前が何で、俺に化けてまでミリに手を上げたりしたんだ」 信じられなかった 信じたくなかった レンに化けたゾロアークがミリに攻撃した事を、蒼華達を倒した事も、その行為全てを 行方を眩ませていた、かつての仲間 まさかあんな形で生存を確認する事になり、こんな形で再会する事になろうとは―――覚悟はしていたとはいえ、やはり戦わないといけない現実は、辛いものでしかない レンはギロリとラムダに睨み付けた 「そいつに一体、何をした」 「おー怖い。残念だが俺は何も知らねーよ。俺だってあまりこいつの事、知らねーし。…仮に知ったところでお前に教えると思うか?」 「…………」 「諦めな。こいつはもうお前の事なんて覚えてねーよ」 ほら、お前の出番だ―――そう言ってラムダが偽者の背中を押す。歪んだ笑みはそのままに、偽者はゆったりとした動作でレンの前に対峙する 歪んだ笑み、不敵な笑み ミリの顔で笑ったのを最後に―――偽者の身体が、空間が、歪んだ そして現れた、別の存在 ―――スッとしたシャープな顔 鋭さを持った眼と耳、目尻と目頭 口角に浮かぶ赤は歪んだ笑みを めざめいしの様な神秘的な青をした瞳――― 最後に記憶していた姿のままで ゾロアークは、本来の姿に戻ったのだ 「ルガアアアアッ!」 咆哮が、上がる 全てを打ち返す、強力な咆哮が ビシビシッと咆哮の風圧が壁を、遊具を襲い―――レン達にも襲いかかる 「…エル、ルー」 「グルルル…」 「……こいつらの事も、分からねぇのか…」 「そいつはかなり強いぜ。なんたってあの【三強】を倒したって話だからな。ハハッ、俺はのんびり高見の見物をさせてもらおうかな」 「…………」 嗚呼、結局こうなってしまうのか お前とは、戦いたくなかった 「進化したのか…へぇ、随分逞しくなった。よかったな、ゾロアーク。念願叶ったな、これで少しは変化も上達するんじゃねーか?」 「ルガァ!……ルァ、アー」 「……あぁ、ありがとな。お前もこうして進化して頑張ったんだ、俺も頑張るさ。…アイツを見つける為にもな」 「ルガッ!」 色々と聞きたい事がある 何故敵側に着いているのか、何故ミリに攻撃したのか 両親が殺されたあの日、 一体お前に、何があったというんだ 「ゾロアーク、今…目を覚ましてやるからな」 レンのピジョンブラッドの瞳が 憎悪と悲愴の色に、染まっていく そしてバトルが始まった * * * * * * 此処は、何処かの森の中――― 「サー」 「ブイブイ」 「ブーイ」 薄暗い、樹々の木漏れ日だけしか光が入ってこない静寂が包み込む森の奥 野生のポケモンが一匹も現れない不気味な森の中を、あるポケモン達が進んで行く姿があった 一匹は、白いイーブイ 一匹は、黒いイーブイ 一匹は、サーナイト 二匹の白黒イーブイ達は静かに前へ進めるサーナイトの後を、短い足を懸命に使って後を追っていた 「サー」 さぁ、こちらですよ おいでなさい。もう少しですよ サーナイトは時折振り返って二匹のイーブイ達にそう言っては滑らせる様に歩を進める イーブイ達は無邪気にも元気よく返事を返し、ただひたすらにサーナイトの後を追う サラリ、サラリ トットットットッ、 三匹は進む 森の奥へ、森の最深部へ 「…!ブイブイ」 「!ブイ…?」 サーナイトの後を追って、何分掛かったのだろうか 三匹が辿り着いたのは―――森の奥に隠された、大きな洋館だった 不気味とも言える雰囲気を醸し出す、近寄りがたい洋館。その洋館の扉は固く閉じられている。まるで来訪者の訪問を、拒絶しているかの様に 二匹のイーブイ達はその雰囲気に少々怖じ気付いたのかサーナイトの後ろに隠れた。賢い二匹は自分達が向かっていたゴールが此処だと気付いてしまった様だ 不安げにサーナイトを見上げる二匹に、振り返ったサーナイトは二匹の前に腰を降ろす 安心させる様に、おまじないを掛けながら 彼女は微笑む 私が、着いていますと――― 「サー」 「「ブイブイ!」」 さぁ、行ってらっしゃい この先に、ミリ様がお待ちですよ → |