「汚ない手でミリに触らないで!!!!」

「テメェッ!!ふざけんじゃねぇ!!!!」

「ぶっ飛ばしてやる!!!!」

「いい加減にするんだ!!!!」

「ミリを離せ!!!!」

「冗談も大概にしなさい!!!!」

「ラムダ!!この俺を怒らすな!!!!」

「舞姫をそんな目で見るな!!!!」

「偽者相手でも安易に気持ち悪い手でミリに触れてんじゃねえッ!!!!」






全員、ブチ切れた

普段から温厚なゴヨウやダイゴ、物事に動じないゴウキやナズナやゲン、冷静なデンジやレンでさえ―――ラムダの行為に対してカッと表情を歪ませた




確実に彼等にとって"触れてはいけない何か"に触れてしまい、彼等の堪忍袋の尾を切ってしまった事には間違いないだろう

それもそうだ。たとえ偽者だとしても目の前で強姦紛いな事を―――大切に想っている相手に対しての行為だからこそ―――簡単に全員の怒りを誘う結果となってしまう




勿論、全員が腰に手を掛けボールを投げるのも時間の問題だった。ゲンとシロナとダイゴのルカリオ三匹、ナズナとゴヨウのフーディン二匹、オーバのバリアード、レンのエルレイド、ゴウキのデンリュウ―――現れた勇猛果敢な彼等のポケモン達もボールの中で見ていたらしく、怒りを露にしたまま彼等は主の指示の元に特殊攻撃を繰り出した

ルカリオ達ははどうだん、フーディン達とバリアードはサイケこうせん、エルレイドはサイコカッター、デンリュウはエレキボール

放たれた全員の攻撃は、まっすぐで的確にラムダと偽者を狙った



が、しかし





ブゥウウン―――…






「「「「ッ!!!!!」」」」

「なッ!?」

「防いだ!?」

「ククッ、ハハハハッ!こいつは面白れぇ!お前らって本当に聖蝶姫親衛隊だな!いや、聖蝶姫バカか?あの冷静沈着なナズナ様でさえ怒るんだ、相当聖蝶姫はお前らに愛されてんだな!こいつァいい!思わぬ弱点見付けちまったな!」






偽者のミリに跨がったまま、ラムダは平然とした様子で我を忘れている彼等に向かって高笑いんする

全員は目を見張った

もはや高笑いするラムダなんて視界にすら入っていなかった。本来なら当たるはずだった攻撃が――――眠っていたミリの偽者が、その華奢な手を翳して見えざる壁を造り、その攻撃を防いだのだから


その技は、全てを無効にさせる絶対防壁

ポケモンの技の一つ―――"まもる"だった






「「「ミリ!!」」」






眠っていたミリの偽者の瞳が、開かれる

ラムダが上から退く事により、偽者はゆったりと上半身を起こし、"まもる"の解除をする。ゆったりとした動作は気品があり、漆黒の長い髪から覗かせる顔は相変わらず美しく、その瞳は純粋に澄んでいる。アレが偽者と分からなければ本当にミリにそっくりだっただろう

ラムダが手を差し出した。ラムダを見上げた偽者は小さく笑い、その手を取ってベッドからゆっくりと降りた。まだアレが偽者と分かっているからいいが、正直目の前の光景はけしてずっと見続けれるものではなかった






「やはりあれは…お二人の言う通り、偽者に間違いありませんね」

「ッ気持ち悪いくらい、似ているな…」

「アレは一体、何者なの…?」






困惑と疑念の声が上がる中―――そんな彼等にお構いなしにラムダと偽者はお互い顔を見合わせて微笑み合う

目に毒だ。というか胸糞悪い光景だ。何度も言うが偽者なのは分かっている。分かっているが、やはり、とっても不愉快でしかない。自分達の知る笑顔が、微笑が、自分達にではなく"敵"に向けられている―――嗚呼、たとえ偽者だとしても、別の人間にその笑顔を振り撒くなんて、絶対に許してはおけない

ギリリ、と音がするのは拳を強く握った為に鳴った音か、それとも悔しい気持ちで噛んだ事による歯ぎしりか。憎しみ、憤怒、嫉妬―――全てが混ざり合う負の感情を撒き散らし、知らずに全員はラムダと偽者を凄い形相で睨み付けていた




そんな彼等の姿を嘲笑うかの様に

ラムダは流暢な口調で口を開き、偽者の身体を自分の身体に引き寄せた






「怖いねぇ、醜い嫉妬っつーもんは。同じ顔をした女に対してでもそこまで激情出来るんだ、本物は随分幸せなこったな。…さて、ここで注目!もうこいつが偽者だと分かってんなら別に隠す必要はねーな。似てるだろ?俺も変装は得意なんだが、ここまでそっくりに化けれねぇんだよな。体格の問題もあれば声色の問題、話し方の問題もな。惚れ惚れしちまうぜ、ここまで完璧に変装しちまうんだからな」





偽者の身体を抱き寄せて、イヤらしい手付きで腰を撫でる。長い黒髪を一房持ち上げ、見せつける様にその髪にキスを落とす

対する偽者は―――恥ずかしそうに、嬉しそうに、ラムダの胸に身を落ち着かせていた。憎たらしい事にその反応はまさにミリそのもので―――恋人だからこそ分かる反応に、更にレンの怒りを煽らせ

そして偽者は笑う

皆の知る笑顔で、レンの大好きな笑顔で






「――――…フフッ」















「……もしやアレは…」

「…間違いないだろう。白皇、」

「………あぁ、分かっている」






レンは腰から更にもう一つのボールを取り出した






「アレは俺に任せてお前等は先に行け」

「「「「!!!!!!」」」」

「レン、しかし…!」

「それだと君は!」

「お前等は自分の役目を果たせ




 ――――さっさと行け!」

「先に行くぞ麗皇!」

「お前達!白皇に任せるんだ!行くぞ!」

「!?お、おう!」

「レンガルス、必ず来るのよ!」

「ご武運を!」

「おいおい、行かせるわけねーだろ」





ポケモン達をボールに戻し転がるぬいぐるみ達を掻き分け、ラムダの後ろの先にあるこの部屋の出口に向けてレン以外の全員は駆け出した。当然ラムダはそれを阻止する為に腰からボールを取り出した

現れたのはドガースだった。毒ガスを振り撒いて彼等の行く手を阻もうとするが―――現れて早々に突如降り懸かった痛烈な攻撃を食らってしまい、ドガースは呆気なくぬいぐるみの山の中に突っ込んでしまう

おおう、と小さく驚くラムダ。呆気なく倒されたドガースをしばし眺めた後、おいおいマジかよと攻撃の元凶である―――エルレイドとガブリアスの二匹に視線を向けた






「お前の相手はこの俺だ。悪いがアイツ等を先に行かせてもらうぜ」

「エル!」
「グォウ!」

「ほー。報告通りお前の手持ち、本当にこの怪電波が効かねぇんだな。…ま、いつまでもつのやら」

「ハッ、言ってろ」






そうこうしている間にも仲間達は部屋の出口まで辿り着き、無事に部屋を後にする事が出来た

閉まられる扉を見て、ラムダは面倒くさそうに溜め息を零した






「あー、行っちまった。後でアポロにどやされんなぁ」

「………」

「で?お前は確か…【白銀の麗皇】だったか?噂は聞いてんぜ。あの一匹狼のお前がリーグ側に着いているならまだしも、まさか聖蝶姫の恋人たぁ驚きだ」

「…………」

「そうなると聖蝶姫とは夜を共にした仲ってわけか。ま、恋人同士にもなれば当然…据膳喰わねば何とやらだ。ククッ、さぞ情熱的な夜だったんだろうなァ?」

「…よく口が回る野郎だ。いい加減にしやがれ万年欲情男。テメェにはさらさら用はねぇんだよオッさん」

「オッさ…!?…万年欲情男も訂正したいが俺こうみえてまだ35なんだけどな!」

「ハッ、知るかよ老け顔が。さっさと失せな。用があるのは、そっちの偽者野郎だ」







レンの鋭く睨まれたピジョンブラッドの瞳は

まっすぐに、ミリの偽者へ向けられる


自分に視線が向けられていると気付いた偽者は、キッと瞳を睨み付けて、しかし逃げる様にラムダの身体に縋りついた。こんな男なんて知らない、そう言いたげな視線に―――レンの瞳の奥は、かつての記憶と共に悲しみに揺らぐ







「―――――俺の事、覚えてねーのか……俺はお前の事、しっかり覚えているぜ。…生きていてくれてよかった、と言いたいが……まさかだよな。まさか敵に着いているとは、思わなかったぜ」








「お前もまだまだ集中力が足りないぞ。尻尾くらいちゃんと隠さなければバレてしまうぞ?こいつがお前の弱点なんだからな」

「うっかりな父さんと比べたらこの程度なんてまだいい方だぜ!」

「そうだぜ!アホ親父ならすぐにまるわかりだぜ!」

「よーしお前達。ちょっと頭を貸しなさいグリグリしてあげよう」

「「だが断る!」」

「コラ!待ちなさい!」











脳裏に霞むのは、昔の記憶

まだあの時は幸せだった、かつての思い出







「久し振りだな――――"ゾロアーク"」














ニ ン マ リ と

ミリの偽者は―――三日月に笑った









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