蝶はもうじき目を覚ます 大切な記憶を封印され、大切なモノを忘れて 光に包まれた身体は時を翔び、空間を渡り 本来生きるべき場所へと戻される 「――――――………」 蝶はもうじき目を覚ます 長い長い、愛しい夢から目を覚ます ――――――― ―――― ― キングサイズのベッドに横たわる、一人の女 人形の様に美しく静かに眠る女こそ――――自分達が焦がれ、求め、探し続けた大切な存在 やっと、見つけた やっと、会えた! 「ミリ!待ってて!今から助けに行くわ!―――デンジ!行くわよ!」 「あぁ!」 真っ先に動き出したのはシロナとデンジだった ミリ救出チームとして、早くミリをこの手に取り戻したい。ずっとミリを想っていた気持ちが二人の行動を駆り立てた 目の前に転がる沢山のぬいぐるみを押し退け我先にミリの元へ駆け出そうとする二人に、続いて他の者達も後に続こうとした時―――制止の声を掛けた者がいた 「待て!シロナ!デンジ!」 「そいつはミリなんかじゃねぇ!!」 「「―――!?」」 「「「「「!!!!」」」」」 まさかそんな声が上がるとは思わなかったらしい。全員は足を止め驚いて声を上げた二人に振り返った 声を上げたのはゲンとレンだった。二人は凄い形相で―――静かに眠るミリを、睨み付けていた この二人の姿を見てしまえば誰だってアレがミリではないと悟る事になる。しかしシロナとデンジは普段の冷静さを欠けてしまっているらしく、ありえないと被りを振った 「ゲン!レンガルス!」 「何言ってんだ!アイツはミリだろ!?」 「アレはミリじゃない!私の知っているミリの波動を全くしていない!―――アイツは偽者だ!!」 ゲンは気付いていた アレは、偽者だと 仮にミリだとしたら突入の前に、既にミリの波動に気付けていた。なのにその兆候もなければ目の前にいるアレは全くゲンの知るミリの波動なんかではなかったのだから 「白皇、」 「間違いねぇ。アイツがミリだったとしたら―――この腕輪、いつもの色に戻っているはずだ」 ミリを睨み付けながら、レンはポケットから腕輪を取り出してゴウキとナズナに見せる レンの言う通り本来だったらオレンジ色に戻るはずのソレ。しかし、今もなお、その腕輪は真っ黒いままだ。二人は小さく驚き、ミリを振り返った ミリを見るその眼は―――既に敵意を浮かべていた 「……なら話が早い。ミリさんに扮したアイツは、」 敵だ その言葉で、全員は戦闘態勢に入る事になる 「―――――……ほー、なるほどな。報告書通り面倒くせぇ能力持ってんのな、お前ら聖蝶姫親衛隊つーのは」 「「「「「!!」」」」」 遊具の間からのっそりと現れた、一人の男 面白そうに喉の奥で笑いながら現れる不審な男に、殆どの者達は眉間に皺を寄せその男を睨み付ける 「……誰だ、お前」 「報告書にあんな奴はいなかったはずだぜ」 「…その服装からして、お前はロケット団か」 「まぁこんな目立った服装着てりゃそう思うよな。どーも、俺の名はラムダ。ロケット団でーす、ようこそ起こし下さいました、てか?」 愉快そうに笑いながら現れ、大袈裟な身振りで自己紹介をしながらミリが眠るキングサイズのベッドの端に腰を降ろす、ラムダと名乗った男 ロケット団の残党―――報告書には無かった男の顔と名前に、殆どの者は訝しげにラムダを睨み付ける。しかし唯一、情報通のレンはあの男が何者かに勘づいたのだろう。レンの眼は、ある者を写した その相手は―――元ロケット団である者 あの男の元上司だった、ナズナに向いていた ラムダは面白そうに口を開いた 「久し振り、ですね―――ナズナ様。いや、この場合はサラツキ博士と言うべきか?…随分と活躍されているようで、元部下の俺としたらお涙頂戴嬉しい活躍ですってな」 「……なるべく可能性が無い事を願っていたが、やはりお前も絡んでいたのか。そうなるとアイツも…」 「そんなところっすよ。…しかし、驚きましたよ。あのナズナ様がそちら側に成り下がってて…ククッ。随分と落ちぶれましたね、アンタ」 「………」 ナズナの隻眼はギロリと鋭くラムダを睨み付け、その声色も、銀灰色の瞳の色も―――憤怒の籠った感情を隠さずにラムダを写す アポロ、ランス―――かつての部下である男達が自分や首領の意思に反して行動し、大切な存在に牙を向けた。あの二人が絡んでいるとなったら残りの部下も、という一抹の不安と勘を抱いていたが、やはり現実はうまくいきやしない。こうも的中してしまうと―――とても、とても腹腸が煮えくり返って仕方が無い ラムダの言動、ナズナの雰囲気―――様子を見ていた回りの者達は、ふと浮かんだ可能性に動揺を隠せずにいた 「…おいナズナ博士、どういう事だ」 「知り合い、なのかよ」 「まさかナズナさん、貴方………」 「―――ご察しの通りだ。俺は元ロケット団だ。アイツの元上司で、首領の補佐をしていた……元、悪人だ」 「「「「!!」」」」 誰も気付く事なく知らされる事もなく、ゼルの一言で表に公開される事が無かった―――ナズナの、裏の顔 願わくばこのまま表に晒される事が無いままでいたかった。しかし現実はきっとロケット団という言葉がナズナの行く手を阻むだろう。いくらゼルが見過ごしたとはいえ、下々には関係ない。ナズナは覚悟を決めていた。こうなる結末を、自分がロケット団だったという過ちが回りに知らされる事を――― 勿論何も知らなかった殆どの者達はかなり驚いてナズナを見ていた。特に日常的に接点が多かったゲンなんてかなりの驚きっぷりだ。元ロケット団、なによりあのツバキ博士の息子がまさかロケット団にいたという予想外な真実は彼等に衝撃を与えただろう。この真実はナズナの博士人生を大きく左右する、いわばスキャンダルに相当する話なのだから しかし唯一、意味深な表情でナズナを見る者達がいた 「……えぇ、知っていたわ。あなたがロケット団だったことをね。あの男…ランスが去り際にそう言っていたから…もしかしてと、思っていたわ」 「実は調べさせてもらった。ナズナさん、貴方の事をね。…最初はかなり驚いたよ、貴方程の人間が、まさか過去にロケット団の科学者で、首領の補佐に在籍していたんだからね」 「…だったら俺は、敵になるか?」 「いいえ、あなたは敵じゃないわ。………たとえあなたが元ロケット団だったとしても、今は関係無いわ。あなたは、サラツキ博士―――仮にあなたがロケット団だったとしたら…シンオウの為、ミリの為に動くわけがないわ」 「あぁ、シロナさんの言う通りだ。もう僕達は曲がりなりにも互いを信頼し合っている仲だ。貴方が何者かだなんて、関係ないな」 ―――いつの日かランスが口にした言葉をキッカケに、極秘裏に調べてナズナの過去を知ってしまう 当初こそは驚き、信じられないと我が目を疑ったものだ。特にシロナは同じ考古学者としての仲間意識もあり、ツバキ博士の事も知っていた為、中々受け入れる事が出来ずにいたのも記憶に新しい。それこそナズナは奴等の仲間で敵なのではないか、と疑った事もあったのだ しかし、二人はすぐに知る事になる。ナズナは本当にシンオウの為に、ミリの為に必死になって動いている事を。敵であったら何かしら隠匿してもおかしくないのに、ナズナはむしろ包み隠さず全てを晒し、敵アジトを見つけてくれた。その真摯な姿に二人はナズナを信用し、元ロケット団という過去を言及せずに黙っていた 二人の言葉に小さく驚くナズナに、回りの者達も頷いた 「ナズナさん、貴方の波動は悪人が纏う波長ではない。だからこそ正直元ロケット団だった事には些か信じられなのが本音。しかし、ダイゴの言う通りだ。貴方が何者かどうかなど、関係ない」 「私達は仲間です。本来交わる事が無かった、ミリさんが繋いでくれた仲間―――貴方の活躍は、過去を払拭したと言ってもいい」 「安心しろ、別にアンタが元悪人だからって此処にいる連中は秘密を守る代わりにアンタから金を要求する様な奴じゃねぇよ」 「そうだぜ。アンタにはこれからももっと活躍してもらわねーとな!」 「――――お前達………ッありがとう、俺を信用してくれて」 「よかったな、ナズナ」 「ひとまず安心、てところだな」 パン、パン、パン! ラムダが眼前の光景に拍手を送った 「お涙頂戴な感動シーンをどーも。これで晴れてナズナ様はまっさらな人間になったっつーわけか。ま、いいんじゃねーか?正直言って俺はアンタを悪人になりきれてない善人だと思っていたんで。聞きゃアンタ【隻眼の鴉】だったらしいじゃねぇっすか。そりゃ悪人になりきれねぇのも無理ないっすよ。アポロ達はともかく、俺は構いませんけどね。アンタが表の人間に成り下がったとしてもな」 大袈裟な身振りでそういうラムダ。本心は一体どう思っているかは分からないが、喉の奥でクツリと笑いながらナズナを面白そうに見つめる そんなラムダに、ナズナは視線を移す 相変わらずラムダに向けられた銀灰色の瞳には憤怒の光を帯びている。しかし表情はどことなしに晴れやかで、秘めていた何かが吹っ切れた様子だったのは確かだった 元ロケット団で、元上司として ナズナは言う。愚かな部下に対して 「………ラムダ、お前達が何を企んでいるかは知らない。知りたくもない。だが俺の部下だったお前に、一度だけ言う。…―――『彼岸花』と手を切り、早々に手を引け。ロケット団復興など、意味の無い事を考えるな」 そう、意味の無い事だ ロケット団はもう、復活なんてしない 自ら首を絞めるのではなく、お前達も罪を償いまっさらな人間に戻ってくれ 「………残念だが、その命令は聞けねぇな。悪いなナズナ様、簡単に手を引くほど俺達は生半可な覚悟でここにはいねーんだよ。…俺だけアイツらを見捨てるわけにはいかねぇしな」 「…………。だったら、お前にもう何も言う事はない。先に進ませてもらう 俺の前から早々に消えろ、ラムダ!」 「はは、怖いねぇ!」 凄味を利かせて言い放つナズナに かつての上司の叱責にもろともせずへっちゃらだと言わんばかりに笑い出すラムダ。全く堪えていないラムダの姿にナズナの怒りのボルテージが上がっていき、ピキピキとこめかみに何かが走っていく 更にラムダはナズナの怒りを、否―――此処にいる全員の怒りを沸かせる行動を取る事になる 「で、ここが肝心!こいつの存在を忘れちゃ困るよな?」 「「「「ッ!」」」」 「綺麗な女だよなぁ、こいつ。流石は天下の聖蝶姫、確かに目の前にしたらコロッといっちまうのも納得しちまうっつーか。なんの趣味かは知らねーが、人形みたいだろ?目の保養というかなんつーか、確かに傍に置きたい気持ちは分からなくもねーな」 ニヤリと口角をつり上げ、面白そうな玩具を見付けた目でラムダはナズナ達に向けて挑発的に笑う ベッドに眠るミリの上に、ラムダが跨がったのだ。ギシリと鳴るキングサイズのベッドは容易くラムダを受け入れた。ふわふわのベッドに沈むミリと同じ顔をした偽者は、抵抗する事もなくラムダにされるがままだ ラムダは静かに眠る偽者の首筋に顔を埋め、全員に見せつける様に偽者の身体をまさぐった。ラムダの手は腰を撫で、下へ下へと進め、ドレスの裾から覗く綺麗な足まで辿り着く。ニヤリとイヤらしく笑う口許をそのままに、ラムダの行為はどんどんエスカレートしていく まるで、その姿は 本物のミリが、ラムダに襲われている姿にしか見えなくて 「太陽みたいに笑うのが【盲目の聖蝶姫】、月の様に静かに見下すのが【氷の女王】……表も裏も完璧で、恐ろしい女の本心は一体どこに向いているんだろうな?」 まさぐる手は、ドレスの下に隠された足の付根へ コルセットにより強調されたミリの豊満な胸に、ラムダの唇がはわされる ラムダは嘲笑う イヤらしく、雄の顔をして――― 「実際に、こいつはベッドの上で―――どんな風に鳴いてくれるんだろうなァ?」 ――――ブチッ 何かがキレる音がした → |