それから暫く森の奥に足を進めていって早数時間後。ハクタイの森の奥深くに佇む、あの洋館の姿があった。誰も足を踏み入れようとはしない、禁断の土地。昔は立派で豪勢だっただろう洋館は、形は残せど廃れている。その廃れ具合がまた不気味さを更に極め、近寄りがたい雰囲気を醸し出す

全員は近くの樹々や岩の影の中に隠れ、洋館の様子を伺う

そろりそろりと、緊張感の中で忍び足で洋館に近付き、突入の機会を伺う中―――突如洋館の扉が、ギィィッと開いたではないか。彼等は驚き、慌てて身を潜めた。まさか奴等が出て来たのか、と身構えるが……一向に敵が出てくる気配は全く無い。しかも開いた扉が閉じられる気配すらも無い

これは一体、どういう事だ






「ゴウキさん、」

「本来だったら外堀を固めて一斉に突入が基本なんだが…どうやら奴等は、そんな事をせずとも俺達を歓迎してくれるらしい。随分と舐められたものだ」

「洋館のから人の気配は感じられない。勿論、ポケモンの波動も。………罠かもしれないな」

「……」

「……行くぞ。悠長してはいられない。特攻チームの名にかけて俺達がまず行かねば。……お前達は後から来い」

「頼んだぞ」






先に動いたのは特攻チーム。ゴウキを先頭にし、後をゲンとオーバが追う

洋館の扉まで近付いた三人は中を覗き、外の様子も確認する。危険が無い事を判断したゴウキは遠くにいる他のチームに合図を送る。合図を確認した他のメンバー達もゴウキ達の後を追う

そうして全員が洋館の中に入り、最後の一人が完全に洋館の中に入ったその時―――開かれていた扉は、バタン!と閉められてしまう。突然扉がしまり、一部の者達はギョッと身体を強張らせた






「…おー、リアルだ」

「閉じ込められたな」

「もう後戻りは出来ないな」

「誰も後戻りなんてしませんよ」





入ってしまったら、もう出られない

無事に戻れる保証も、何もない





「薄暗いな………デンリュウ、フラッシュを頼む」

「リュー!」

「おー……見取り図で見るより結構広いな」

「うわっ!なんだこれ石像か!びっくりしたー…」

「よし、各自それぞれ動こう。勿論、団体行動を崩すなよ」

「あぁ、分かった。…ルカリオ、敵の位置を把握するんだ」

「私も。ルカリオ、ミリの波動を探して」

「ルカリオ、怪電波装置の位置を探すんだ」

「レントラー、お前の眼でくまなく探してやれ」






デンリュウの明りで明るくなる、幽霊屋敷の内部。吹き抜けの広場、上を見上げれば二階の層が見える。天井には薄汚れたシャンデリアがただ静かに揺れていた。二階に登る階段の横には薄汚れた不気味なミカルゲらしい石像も鎮座してあった

敵はいないのは確認が取れている。突然襲われる事は無いだろう。しかしもしもの事があってはいけない。全員は各自ポケモンを出し、団体行動をしながらこの幽霊屋敷の捜索に入る

しかし―――






「………歓迎されたわりには、何もないな」

「凶暴化したポケモンすら、いないなんてね…」

「…罠、か?」

「かもな」

「おーい!こっちの二階は人が暮らしていた形跡があるぜ!」

「人…?此処に人が住んでいたのかしら?」

「…もしかしてあのロケット団員の方達かもしれませんね」

「もっと探すぞ」






見取り図でこの洋館の内部は把握している。一階は食堂と厨房と書籍室と遊具室に風呂場、二階は主に寝室に使われていたという報告があった。

実際に確認してみると確かに誰かが使われていた痕跡が残っていた。使われた食器、寝室のベッド、煙草の吸い殻、読みかけの書物―――確実に最近のモノで間違いはなかった

かといってそれらの持ち主が居る気配は全く無かった。どんなにくまなく探したところで何一つその姿を見つけ出す事が出来なかった。洋館の扉は勝手に開き、意図的に自分達を招いたとなったら確実に敵は此処にいる事になる

奴等は一体、何処に身を潜めているんだ



―――その答えを導き出したのは、先程からずっと得意の波動を発動させていたゲンだった







「………地下だ。地下に波動を感じる」

「!ゲン、それは本当か?」

「あぁ。間違いない、ポケモンも全て地下にいる」

「ばうばう」

「ばうー」

「!私のルカリオも同じ事を言っているわ」

「こちらも同じく」

「…しかしそれにしたら妙に少ない…奴等は一体何のつもりなんだ」

「とにかく地下に通じる入口を探すぞ」

「分かりました」






たとえ目視で確認取れなかったものでも、波動の前では全てが筒抜けだ。具体的な地下通路の出入り口までは把握しきれなくても人間やポケモンの波動をキャッチ出来たそうだ。こういう場面ではつくづく波動という未知の能力の存在は有り難いばかり

そうと決まれば次は地下に続く入口を見つけるぞ、と全員は捜索に入った


―――ふと、レンの目線はある場所を写した






《――――…》






天井に吊り下がっている薄汚れたシャンデリアの下

そこにはゴウキの影からいつの間にか抜け出していた闇夜の姿があった

闇夜はただ静かに浮遊していた。微動だにしない。何を思ってそこにいるのかさえも、様子を見る限り何も分からない。レンは訝しげに見上げながら口を開いた






「闇夜、そこで何をしている?そこに浮いてないでお前も探すの手伝ってくれ」






ていうかただでさえダークライが暗い場所で黙って浮遊している姿は貫禄があるというか恐いというか不気味というか目が慣れないというか

特に意味も無くレンは闇夜に投げ掛けたつもりだった。そこにいないでお前も探せ。ただそれだけだった






《安心しろ、今聞いている》






闇夜が答えた言葉は、予想を反する答えだった






「…………………、は?」

《ふむ、そうか。それは嫌だったな。…安心しろ、暫く騒がしくなるがその内に落ち着いた生活を送れるはずだ。少し待っていてくれ》

「―――――……!!!!!!」

「…?レン、闇夜は今何をしてるんだい?」

「何か言ってんのか?」

「てかレン、顔…青くないかい?」

「「「「??」」」」






ビシィッと固まるレンの様子を疑問に思った他の者達が、なんだなんだと捜索の手を止めて集まり出す

ゴウキやナズナはともかく、他の者達は残念ながら闇夜のテレパシーが向けられていない。故に闇夜の言葉は聞こえない為、闇夜がレンに言った言葉は分からない。尚且、ゴウキとナズナも今の会話は聞いていなかったらしく、回りと同じ様に疑問符を浮かべていた

そんな彼等の様子なんてお構いなしに闇夜はスィーッと降下していき、レン達の頭上を通り過ぎて―――ある場所まで辿り着く

それは、石像

ミカルゲの形をした、石像だった

闇夜はミカルゲの石像にある、ギザギザしている口の中に黒銀色の大きな指を入れた。ガサガサと何かを探っていると―――カチッと、何かの音が小さくなった

すると石像が大きな音を響かせながら、勝手に動き出したではないか。スライドされて現れたのは―――それこそ、今まさに全員が探していたこの洋館の地下への入口で






《ここだ》

「―――どうやら、入口を見つけてくれたらしいぜ」

「「「「!!!」」」」

「石像…!なるほど、隠しスイッチだったのか!」

「地下に続いている!奴等はきっとこの先だ!」






全員は駆け出した











(闇夜、お前今誰と…)

(聞くか?構わないぞ)

(…いや、止めとく)




* * * * * *













「おや、意外にさくさく進みますね」





此処は、洋館の地下深く

館内の映像を映す監視カメラの前で、アポロは面白そうに映像を見つめていた





「どれどれ……おいおい、ダークライがいんぞダークライ。こいつの話は無かったよな?なんでこいつまでいるんだよ」

「ッ!!!!―――ダークライがいるという事は、まさか女王が!!」

「そんなわけないでしょ。いたらこんなところにわざわざナズナ様が来るわけないじゃないの。ましてやチャンピオン達がわざわざ集結していて…………あらやだ!イケメンばっか!あの聖蝶姫はこんなイケメン達にチヤホヤされてたってわけ!?―――羨ましい通り越して、憎たらしいわね!」

「おー怖ぇなァ女の妬みっつーのは」






アポロだけではなく、ラムダとランスとアテナの姿もそこにはあった

彼等は地下に潜み、館内に入って来た来訪者がこちらに辿り着くのを今か今かと待っていた。高見の見物をしながら、美味しい紅茶を嗜みながら。なんのためらいも無く地下へ足速に進める来訪者達の映像を前に、彼等は余裕の姿勢を崩さずに悠長に構えていた






「それでは私達は予定通りに任務を遂行しましょう」







四人は腰を上げた





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