思い立ったら吉日

その日以降は全て凶日


さあ、行こうか













Jewel.39













シロナの助言を頂き、次の旅の矛先を決めた

思い出は沢山あるけど、思い残す物は何も無い。残してしまったら最後、執着が湧いてしまい、次第には抜け出せられなくなるから。そうやって私は踏ん切りを付けて旅をしてきた。今回もいつもの様に、"シンオウの旅"に終止符を着ける

それに此処ではもう全ての事を終わらせた。コンテスト大会で優勝したし、殿堂入りも果たした。シロナの成長も見届けたし、皆と交わした約束も全て完了した。全てを終わらせた私の心中にあるモノといえば、充実感と満足感に限る

蒼華と時杜と刹那も、シンオウでの旅を十分に楽しんでくれたみたいだし。三匹で一緒に旅をするのは初めてで、色んな人達と出会えた事は三匹も良い刺激にもなってくれた。特に刹那なんて初めてな事ばかりだったから全てが全てキラキラ輝いていたはず。勿論、旅先で出会えた闇夜も朱翔も水姫も風彩も――…皆が皆、全てが初めてな事ばかりだったから、このシンオウの旅は感無量と言ったところだろう

皆は早く次の旅がしたいと急かせた。皆で旅をする楽しさを知ってしまった彼等はまだ見ぬ世界に思いを馳せる。うきうきワクワクする皆をほっこり眺めつつも、そんな皆に私は問う。「思い残す事、名残惜しい物は残してないか」と。蒼華と時杜と刹那はともかく、他の皆の故郷はこのシンオウの地だ。時杜の力があればいつでも帰郷は可能だけど、なるべく皆の気持ちを汲み取りたい。故郷を捨てたこの私の様に、惨めで寂しい思いはさせたくないから

そんな私の心中とはうって変わり、意外と皆は簡単に頭を振った






《思い残す事は何も無い。主達と共に過ごした日々は私にとってかけがえのないもの。主と出会えた事で今の私が存在出来る。…それに私には、此処での居場所など存在しないのだから》

《マスターに会う前までの過去や思い出など、私には不要。故に思い残すモノなど元より存在しない。私はマスターの為ならば、どんな過酷な道でも共に歩ませて頂く》

「ミロォー」
《ミリ様と出会えてから、私の人生は大きく変わってくれました。私はミリ様と皆さんと共に、また新たな舞台に立ちたい。昔の自分とさよならをして、また違う場所へ、また新しい自分を魅せたいです》

「ふりぃ〜!」
《ボクはまた皆と楽しい旅がしたい!この寒い土地以外にも、たっくさんの土地に行って、色んなモノを見るんだ!今から楽しみだよ〜。それに思い残す事といえば…うーん、あまいみつが食べられなくなっちゃうくらいかなー》

「もう皆大好きおねーさんの胸に飛び込んでおいで!」

「…」(ペシッ
《僕もー!》
《主、流石に全員は無理だ》






思い残すモノは何もない

なら突き進もうじゃないか。振り返る必要がないなら、安心して前に進もう。まだ見ぬ世界を目指して、新たな目的を掲げて

相変わらず目が見えないけど、皆には私の代わりにもっともっとたくさんの世界を見てもらわなくちゃ。それにチャンピオンになれたらそれこそ皆には大活躍してもらわないと。忙しくなるかな〜。旅と併用してチャンピオン、出来たら最高だよね







「―――さて、と」






私は腰を上げた






――――――
――――
――








冷風より刺激強過ぎる海風に身を震えさせながら、この馴染み深かったナギサ海岸とお別れって思っちゃうと、ほんのりちょっぴり寂しく感じちゃうのは…しょうがないよね

なにせ此処は私達が初めて訪れた街でもあり、此処が私達の原点だったから






「私、次の旅をしようと思うんだ」







久々の再会、久々の面子

無人発電所という三人だけの秘密基地的なモノが現れて以来のナギサ海岸。寒いのにも関わらず三人でブルーシートの上で身を寄せ合いながら(外が寒過ぎて時杜は私の腕の中でブルブル)(刹那はスヤスヤお昼寝中)(蒼華は紐でペシペシ)そんな事を言えば、先程まで楽しげに会話していた二人の声がピタリと止まる

あはー。まあ止まっちゃうよねこんな話。二人のオーラはまさに「は?今何っつった?あ?」って感じ。やっちまったぜ。違う話を楽しく話していたのに急にそんな話振っちゃえば誰だってびっくりするよねぇ。うん、なんかデジャヴ。しかも何だか知らないけど仲間内で私、突発的で衝撃的な話を振るの定評になっちゃってるし。それで最近シロナに怒られたばっかりだったんだよねー、うん気にしない(←)悪い癖が出てるぞって後ろで頭をペシペシ紐で叩く蒼華の事も気にしない!←

そんな事を内心笑いつつも、未だに動きを見せない二人を尻目に私は言葉を続ける






「二人には言っておこうと思ってね。リーグ以外の人達にはまだ言ってないの」

「え、らい…急じゃないか…」

「(お、復活した)私達はずっと考えていたんだ。シンオウで、やる事はやったから…次は、ホウエンで頑張ろうと思ってね」





元々、リーグの幹部長の方々が言ってくれた話から始まった次の旅。既にシロナから話が回っていたみたいで、私が報告しに行った時は暖かく迎えてくれて、彼等から直々に激励の言葉を頂いたのを覚えている(厳しい方々だって話を聞いているけど本当に優しい方々で将来のシンオウリーグ協会は安泰だね←

お世話になったジムリーダーの方々や、旅先で出会った知り合い達にはきっとリーグからの電報やどっかの噂やらで既に話が回っているはず。人の噂は本当に早くて凄いから。私が動かなくても勝手に皆が知っているから本当にびっくりしちゃう

いつもだったら動かない。普段の私だったらこのまま何も振り返る事をせず、ただ目先の事しか考えていなかった。だけど、この二人には伝えておかないといけない。デンジとオーバーは、私にとって一番の友達。私達がこのシンオウの地に訪れた最初の人間で、こんな私に優しく接してくれた大切な存在だから。彼等がいてくれたお蔭で今の私達がある。だから、次の旅の報告をしておかないと罰当たりだし、失礼に値しちゃうからさ

それにやっぱり、二人には応援してもらいたかった。今までも二人に応援してもらっていたから、次の旅も、二人の応援があれば頑張れると思っていたから。……本当に、随分とこの世界の住人達に感化されたと思うよ。なんだかちょっと、くすぐったい






「何時、行っちまうんだ?」

「明日の明朝には、」






二人の雰囲気がぎこちなく感じ取りつつも、オーバーの言葉に私は答える

明日の明朝に、私達はシンオウを発つ。この、馴染み深いナギサシティからホウエン地方にある街、ミナモシティへ

旅立ちは早い方がいいと、私はGF・K協会の役員の方に船のチケットを取って貰った。本当だったらケジメとして自分自身でチケットを購入するところだったけど、盲目の目では難しく、しかも私は仮にもトップコーディネーター。チケットを購入するという行動がもしかしたら報道になってしまう恐れがある、って支部長さんの意見によりあちらの方々に任せる事になった。事実、私をつけまとっていたストーカー疑惑ありありな記者がいたり、私やシロナの行動一つでテレビ放送されちゃうくらいだから……こっそりひっそり旅立ちたい私にとって、支部長さん達の配慮は本当に有り難い

そんなわけで、早い出港が明日の明朝しかなくて。それも踏まえて二人に報告をしにきたわけだけど……うーん、まさに二人共、開いた口が塞がらないって状態だよハッハッハ悪い癖が出ちゃっているよねあはーごめーん知ってたー(笑)←

ま、でも二人は許してくれるよね







「そうか…。寂しくなるけど、俺はお前を応援するぜ!次の地方でもバリバリ活躍してくれよ!」

「うん、オーバーありがとう!」

「ついでにオーバーからオーバに直そうな?」

「あはー」

「ほらデンジも何か言ってやれよ……デンジ?」

「…………」

「デンジ…?」

「…っ……いや、何でもない。ミリ…頑張れよ、応援するからな」

「うん!」








予想通り、オーバーは私を応援してくれた。彼らしいいつもの声援に、気持ちが軽くなって自然と頬が緩んでしまう。オーバーは最後まで良い人だ。まあ最後の言葉は聞かなかった事にして←

それから先程からずっとデンジの様子がおかしいけど―――ま、いっか!無駄な詮索は返って踏み止どまってしまうし、それにせっかく応援してくれるんだから小さな事は気にしない事にしよう

二人に応援してもらえたなら、尚更次の旅を制覇して、チャンピオンにならないと。私がチャンピオンになったら二人共、一体どんな反応を見せてくれるんだろう。今からすっごく楽しみでしょうがないよ







「楽しみだなぁ、ホウエン地方。一体どんなポケモン達と出会えるんだろうね」

「…」
《ですね!》
《Zzzz…》







だから今日は最後まで三人で過ごそう

こうしていつもの様に笑いあって、楽しんで、トムさんの所でパフェを食べて。今日で最後になるから、最後はこの二人と一緒に一日を過ごそう


明日が本当に、楽しみだよ













(だから私は知らない)(二人がどんな気持ちで私に笑いかけてくれているかなんて)



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