「俺のポケモンが駄目で、二人のポケモンが眠らずに済んだ……二人のポケモンが眠らずに済んだその共通点は、一体何だというんだ」

「俺が分かる訳ないだろ。…とりあえず眠ってしまったポケモン達は戻しておこう。戻れお前達」

「…………」






ゼルが立ち去る後ろ姿を視界に入れつつ、眠っているポケモンと起きているポケモンを愕然と見つめていた三人。全く状況が掴めていない、そんな様子でひとまず眠ってしまったポケモン達をボールに戻す

頭の中に残るのは、去り際にゼルが言い残した言葉。ゴウキには駄目で、ナズナとレンには可能だった事―――二人は思考を巡らすが、一向に答えに辿り着かず頭を捻らせるばかり。こんな状況でなぞなぞは勘弁してもらいたい


しかし、一人だけその答えに辿り着けたらしい。「まさか…」とレンは顔色を変えた






「――――聖地の湖………まさか…聖地に足を踏み入れたからか…?」

「「!」」






――――聖地の湖

禁忌の土地に足を踏み入れたからこそ、ナズナとレンの人生を狂わせた大きな原因



憶測とはいえ納得がいく答え、三人だからこそ理解出来る結果に、ハッとしてレンはナズナに振り返る






「ナズナ、お前…確か聖地に行った時の手持ちは、」

「デンリュウとアリアドスだ。……実際にあのイーブイ達を捕まえた時にボールから出ている。お前の方は?」

「俺は…当時キルリアだったエルレイドと、コリンクだったレントラーだ。後、まだ卵だったはずのガブリアスだけだ。そうなるとスイクンは意外だが…伝説級のポケモンはあの怪電波は効かねぇって事か」

「…まさかゼルジースの奴、遠回しにこの事を知らせる為に俺達を…」

「「……」」






ゼルもまた、聖地に足を踏み入れた者の一人

ゼルは分かっていて三人を此処に連れて来たのだろうか。わざわざポケモンを出してまで、実際に見せる事で分からせたつもりか。敢えて口に出さなかったのは―――聖地に踏み入れたナズナの命を狙ったという真実を葬ったからこそ、言わなかったのか






「…ナズナ、時に聞くが―――聖地に行って貰った土産、こいつらポケモンにも影響あったか?」

「……いや、俺だけだ。この二匹に影響は無かった。……が、これでよく分かった。聖地から貰った副産物、怪電波をもろともしない力を得ていた事をな」

「………、そうか」

「そうなるとゼルジースのポケモンも同様な力を得ていた事になろう。…白皇、そのポケモンの事は覚えているか?」

「確実に言えるのはあのサーナイトと、ボーマンダだ。ロズレイドも該当する。サーナイトはキルリア、ボーマンダは卵、ロズレイドはスボミーだったからな」

「……ボーマンダ、か…」

「………気に食わねぇが結果オーライ、とりあえず奴等のアジトに突入出来るポケモンは見つかったって事だな」

「………仕方が無い、か」

「ゴウキ、お前にデンリュウを預ける。一匹だけでも無いよりマシだろ。デンリュウの戦い方は分かっているな?」

「あぁ、任せろ。デンリュウ、暫くの間よろしく頼んだ」

「リュー!」

「…………」






少なくともナズナのポケモンは―――エルレイドみたいな鳩血色に変色し、能力が大幅に上がるわけではないのか、とレンは頭の片隅に思う

聖地に踏み入れたからこそ、エルレイドだけではなくレントラーやガブリアスの瞳の色が変わり、能力が大幅に上がった事実。説明の付かない話が、この聖地にはある。今はまだ真相追求すべき時ではないにしろ、まさに結果オーライ。今自分達がすべき事は、別にある


大切な存在を、救う為にも






「ミリ……もう少しだ。待っててくれ、すぐに助けに行くからな」






敵が確実にいるであろうアジトの方角を見上げて

レンは一人、愛しい存在を想いながら決意を固めるのだった





――
――――
――――――








コポポ…

コポポポポポ…





「…………」






三つの液体回復保管機の前に立つ、一人の男がいた

男はただ静かに保管機に眠るポケモンを見つめていた。保管機から発光する光に反射されたその表情は、残念ながら読み取れない。男は何を思って保管機の中にいるポケモンを見つめているのだろうか



不意に男は、三つの保管機の内―――水色のスイクンの方に歩を進める

保管機に入られ傷を癒してから軽く一週間が経過しているのにも関わらず、未だに意識が回復していなかった。ただただ静かに眠るスイクンを、男の夜色の瞳は静かに見つめる






「―――我が宿敵よ、随分無様な姿に成り果てたな。…たとえあのイーブイ達を守る為とはいえ、お前の実力はそんなものだったか?お前なら意図も簡単に片を着けれたはずだろう?―――ソウカよ」






男は言う

夜色の瞳を―――じんわりと、紫色に変えて


男は視線を移した

次にその瞳を写したのは―――紅色のセレビィへ






「トキト…お前もお前だ。お前の力があればミリ様をお救いになられるというのに、ミリ様のお傍を離れた故の失態―――かつての【御方】を守る為に逃げの姿勢を崩さなかったはずのお前が、何故戦おうとした?」






男は言う

かつての記憶を思い出しながら

呆れ気味に肩を竦める男は、一体この二匹の何を知ってその様な言葉を言えるのだろうか

今はまだ、知る時ではない






「早く目を覚ますんだな、かつての同志達よ。お前達の目覚めを待っている者達がいるのだからな」






男はそう言い残し、踵を返した

黒髪の長い髪が、光に反射されて赤から橙のグラデーションに変わるその様が―――やけに印象強かった







(そして男は居なくなった)



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