「「「総監!?」」」

「「ゼル!」」

「総監、わざわざ本部から起こし下さり―――」

「堅苦しい挨拶は抜きにしろ。今は目の前の事が先決だ」





総監という絶対的頂点に立つゼルが現れた事で、現場は騒然となり、回りで仕事をしていた従業員達は慌てて頭を下げる

此処で働く従業員達はゼルが総監である事は知っている。特別紹介されたわけではないが、自分達の上司が畏まっている姿を見てしまえば―――自ずと上下関係が把握してしまうだろう。まだまだ若い青年に従う自分達の上司達の姿は、中々お目にかかれないのだから

畏まる彼等全員に対し、ゼルは目もくれずにピシャリと切り捨てつつカツカツと歩み寄る。コウダイの隣に立ち、そのカシミヤブルーの瞳はくまなくシンオウ地方を映すモニターを見つめる

総監という存在に空気が固まり、恐縮してしまった雰囲気に―――全くもろともせず、ゼルに話し掛けてきた強者がいた






「久しいな、ゼルジース。最後に会ったのはあの日以来か。わざわざお前達がこちらに来るとは思わなかった。今日はこちらに来て平気か?」

「予想外な事が起きちまっていると聞けばいても立ってもいられねぇってな。安心しろ、今日の俺は非番だ。本部から離れてもさほど問題はねぇよ」

「フッ、そうか」

「お久し振りですね、サラツキ博士。貴方の事は耳に届いています。貴方の成果、このガイルは嬉しく思います」

「……白々しく聞こえるのは何故だろうな」

「気のせいですよ。友人として、当然の事を言ったまでです」

「フン、言っていろ。俺はお前の事を友人になった覚えはない」

「あ、あれー…ゴウキさん達、いつの間にか総監と仲良くなってる…」

「すっげーな…」






まるで友人の様に会話をしている四人に対し、回りの者達は呆気に取られるばかり

しかしそんな戸惑いも一瞬。正気を取り戻したコウダイはゼルに声を掛ける






「総監、先程の言葉なんですが―――」

「怪電波が効かねぇポケモンで行かせろ、だろ?そうだ、単純に考えれば済む話だ」

「しかし、そう簡単に怪電波が効かないポケモンなど見当が―――」

「いるだろ、使い方によっちゃ怪電波から守れるポケモンを





 波動ポケモン、ルカリオとかな」

「「「「「!!!!!」」」」」

「数ヶ月前に起こったこうてつじまでの騒ぎの件はこちらに報告されている。あの男…ゲンと言ったか?そのルカリオは怪電波を防ぐ為に自分の波動を身体に纏って防いだって話だ。その話でいきゃ、今回も防げると思うぜ」





思わぬゼルの提案にコウダイも含め、回りの者達は驚きの表情でゼルを見返す

流石、総監というべきか。ポケモンの性質を見抜いた上での提案に、納得せざるおえない。予想外とも言える言葉に、ざわざわと回りがざわめき始める






「確かにゲンがこうてつじまでの騒ぎを沈めてくれたのは聞いていたけど……まさか波動にそんな使い方があるだなんて」

「なるほど、ゲンだからこそ出来た事だ。…普通なら考えにくい」

「他にもそういう事が可能なポケモンを探せ。知恵を使えば不可能を可能にしてくれるぜ」

「なるほど…それでしたらエスパータイプとかもいけそうですね」

「バリアーとか張っちゃえばいけそうかな!?」

「ゲンをリーグに呼べ。ゲンのルカリオから怪電波の防御術を学ばせろ。ジン、シロナ、ルカリオを持っているだろ?お前等のルカリオならすぐにでも習得出来るはずだ」

「はい、分かりました」

「今からゲンを呼びます」

「チームを形成しろ。あの催眠怪電波を止めるチームからミリ様をお救いするチームとかな。危険が伴う仕事になるが、腹を括ってもらえ。怪電波が止まれば後は何も怖くはねぇ、後は警察なりなんなり突入すればいいだけの話だ」






行き詰まっていたところの、ゼルの指示は彼等にとって光が差したのも同然で

さっそくゲンに連絡しにその場を離れるシロナ、従業員に指示を出すコウダイ、活気を奮い立たせるオーバなど様々に動き出す彼等の姿をしばし眺めつつ―――ゼルは、ある人物達にも言付けを忘れずに口を開く







「ナズナ、お前はそのチームに加われ。お前のお得意の技で内部をガタガタに崩してやれ」

「!…いいだろう」

「ゴウキ、お前もだ。ぶっ飛ばしてやれ。警察との連携に関しては後で指示を出す」

「あぁ、分かった」

「レンガルスも呼べ。アイツも情報屋だか知らねぇが役に立つはずだ。…それにアイツのポケモンなら、あの怪電波なんざ余裕だろ。無論、ナズナ…お前のポケモンも同じ様にな」

「!――どうしてそう言える?」

「?」






意味深な言葉を言うゼルに、ナズナとゴウキは眉を潜める

当の本人は、不敵に笑っていた






「そのうち分かるさ」









その笑みの意味は、何?





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