次の旅は、何処にいこっか











Jewel.38













私達に与えられた一日だけの特設リーグ大会。シロナがチャンピオンを捨ててまで行われたあの大会で、私は彼女に勝利をした。故に私は必然的に殿堂入り、そしてシンオウチャンピオンの称号を得る事になる

シロナは私にチャンピオンを譲ろうとした。しかし私はその申し出を断った。シロナと戦えた事で十分満足しているし、この非公式な大会でチャンピオンになっても意味が無い。それに私なんかよりシロナがチャンピオンになってくれた方が一番彼女自身の為になると思ったからだ。シロナはカンナギタウン出身。カンナギタウンといえば、テンガンザンに近い町、そしてシンオウの神話を熱心に研究している有名で伝統ある町だ。そしてシロナの祖母さんは有名なあのカラシナ博士で、その孫のシロナ自身も神話に興味がある…―――チャンピオンという職は、何かしら融通が利く。特権で他の地方の神話を顔一つで学べるから、シロナにはもってこいの権限だ。それを無駄にさせたくないし、せっかく正式にチャンピオンになれたんだ。シロナには頑張ってもらわないと

本音といえば、そもそも私はチャンピオンに興味無いからそんな話は正直めんどくさいわけであって(ゲフンゲフン

私が断れば、予想通りシロナは驚いた。何で…、と言われたから断る旨を伝えればそれこそ驚き、不意に出ただろう事に私は「私に不可能は無いのさ!」とピースをしながら笑えばシロナも噴き出して笑った



さてさて。そんなちょっと前までの出来事をのんびり説明している私であります、が






《ミリ様ミリ様次は何処に旅をしますか出来れば僕はこんな寒くて凍えちゃう場所なんかじゃなくてもっと温かくて過ごしやすくて動きやすい場所がいいですむしろ違う土地に行きたいのですよミリ様ミリ様》

「ふりぃぃぃぃ」
《ボクも色んなところに行きたいよ寒いよここよりもっと温かい場所があるなら行きたいよ寒いよお仕事ばかりでつまんないよ遊びたいよ寒いよとにかく寒いよよよよよよ》

《主、リーグの中にあった別地方のパンフレットをくすね…もらってきたぞ》

《もっとマスターの素晴らしさを世の人間達に知らしめるべきです!故にまた違う地方へバトルを!》

《…………(ジーッ)》

「ミロー!」
《私も違う地方へ行ってまた一からコンテストに出場してみたいです!》

《ミリ様寒いよミリ様寒いよミリ様寒いよミリ様寒いよミリ様寒いよ寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い》

「ええええぇぇぇぇ」

「…」






皆さんの荒ぶりに現在押し潰されそうな状況の中にいたりします






「戻って来て早々に…とりあえず皆落ち着こうか!…あ、ちょ、時杜ちゃんコート引っ張っちゃ駄目だって風彩も駄目だって!」

《寒いよぉおおお!ミリ様寒いよよよよよよ!僕にはこの寒さは生き地獄ですよォォォ!》

「ふりぃぃぃぃ!」
《ボクも無理ぃぃぃ!羽が凍っちゃうううううう!》

「ええええええええ」

《闇夜、朱翔、水姫、お前達は行くとすればどの地方を旅をしてみたいと思う?私は主の行く道のままに進むと決めているからどちらでも構わない》

《そう思うのはお前だけじゃなく私達にも言える事だが……そうだな、一つ言うとすればダークライという存在を知らない地方に行けたらなとは思うが》

《リーグ大会という戦闘競技を有するものがあればなんでもいい。それこそマスターの良さを世に知らしめれば尚更だ》

「ミロー」
《私は…コンテストが出来たらそれでいい、かな》

《ふむ、そうか。ダークライをあまり認知せずリーグ大会があってコンテスト大会があって寒くない場所か…そうなると南寄りになるから、南方中心に探してみるか》

「おーい、もしもしー?」

「…(溜息)」







時杜と風彩は二匹して私の着るコートの中に潜り込んでイヤイヤと身体を震わせ(現在外は-10℃)(確かに寒い!)、刹那達は様々なパンフレットを開いては楽しそうに談話中(あらあら、朱翔まで仲良くしてる)、そんな彼等を溜息付きながら紐を使って嫌がる妖精二匹を拘束する蒼華……うん、とってもシュール。というかとっても穏やかで皆が可愛い。最近は色々バタバタしていたからなぁ…まるで小さな子供達がやんややんやと集まっているみたいなそんな光景が(ry

皆の様子を(蒼華の心夢眼で)眺めながら、私は頭を捻る。どうしようか、と蒼華に話を降ってみても彼は相変わらずの反応で私を見返すだけで余計ソレが私を悩ませる



と、言うにもこれには訳があった






「どうしようかなぁー」







――――――
――――
――








「え、次の旅がしたいって?」

「そーなのー」






大会後待っていましたとばかりに忙しくなった日常、お互いやっと一息ついて久々に再会出来たシロナに私は唐突に抱いていた悩みを打ち明ける


突如こんな事を突拍子に言われれば誰だってキョトンとするのは明白で、彼女も私をまじまじと見返してくるけどそんなの気にしない。うーんこのガトーショコラ美味うまし。「ずっと考えていたんだ」と言いながら私はまた一口ガトーショコラを口に含める

うーん、うまー






「あなたトップコーディネーターになれて殿堂入りを果たしてもまだ旅がしたいと思っているのかしら?」

「勿論、ポケモントレーナーに旅の終わりは無いからね!」

「良いわねー若いって!トップコーディネーターとしての仕事はどうするのよ?」

「まだ未成年だから、旅がしたければ沢山してきて人生の勉強として励んで来なさい。そして色んな地方でまたトップコーディネーターになってコンテストマスターになって帰ってきなさい。って幹部長に言われたから晴れて私は自由の身!」

「うっそ!?あの幹部長が!?」

「そしたらリーグの副幹部長コンテスト協会の支部長が、チャンピオンにもなって社会勉強してくるのもいいかもしれない、って言ってくれたからね〜噂に聞くよりも皆さんとても優しい方々ばかりだよ!」

「うっそー…」









そう、全てを悩ます原因を作ったのは彼等から頂いた言葉から始まった


仕事の都合上、GF・K協会シンオウ支部の支部長さんと一緒にリーグに行く用事があった。その時あの幹部長と副幹部長…ええっと、コウダイさんとジンさん?のお二人と偶然にも出会い、ついでにとお昼ご飯をご馳走してもらう事になった訳なんだけど

その時言われた三人の言葉を聞いた時杜や刹那は勿論、影の中に潜んでいた闇夜やボールの中にいた朱翔や水姫や風彩が…そりゃもう嬉しそうに感情を膨らませて喜び、お仕事終わらせて支部長と別れて、センターに戻って早々騒ぎ出す始末。落ち着かせるのにどれだけ時間が掛かったか…!

最近は忙しかったから、皆に我慢させてしまった事があった。そう思うと申し訳なく感じるし、それだけ皆がまた旅をしたいんだと考えるとそれこそ腰を上げたいところ。私も次の旅とかしてみたかったからね、色々と楽しみが膨らむばかり

お仕事に関しては三人の言葉も手伝い、全て済ませた。必要な書類記入やら、報道の取材だとか、色々。いや本当に大変だったよ皆の力が無かったら盲目の私には特にキツかったよ本当に。大会も終わって何週間か経過してシンオウも落ち着きを取り戻しているから、そろそろ本腰を上げてもいいはずだ。

故にもういつでも旅立てる様に荷造りは万全だったりするのさあはー←






「まぁあの人達の目的も大体想像つくし、別に構わないからいっかなってね」

「……他地方のリーグとの、架け橋って事かしら?」

「そう。聞けば地方リーグ協会ってなんだか対立している部分があるらしいじゃないの。仲立ち役、みたいな感じかな」

「へぇ〜」

「それでどの地方に行こうか迷っているんだよねー」







コンテスト協会は特にそんな話は無いけど、どうやらリーグは言わば冷戦状態らしい。詳しい話はあまり聞いて無いむしろ興味ないから分からないけど。でもそういう意味になっていく筈だ。良く言えば架け橋や仲立ち役、悪く言えば偵察と…―――まあ私はそういうの関係無しに普通に旅させてもらうからあまり関係ないけど。どこもかしこも大変だ

そんなリーグ状勢よりも、一番私が頭を捻らせているのが、まさに次の旅する地方の選択肢だった。シンオウ以外にも見応えのある地方が沢山ある。それは私の知るゲームやアニメでお馴染みの、あの地方。カントーやジョウトとかオレンジ諸島とかホウエンとか、シンオウとはまた違った特色を持つ地方。行けるなら全ての地方に足を運ばせてみたいんだけど…――行きたいところばかりで迷いに迷って路頭に彷徨い中だったりする。とりあえず、皆が言う寒くなくてダークライ認知無しでリーグ大会があってコンテストがある場所…と言われても無知識故に余計に決められないんだよぉおおお(ジタンバタン)何処だそんな条件の良い地方はァァァァ(ゴロンゴロン






「それだったらホウエンに行ってみたらどうかしら?」





と、そんな荒ぶる私の思考回路がシロナのお言葉でピタリと停止をする

そしてシロナが私の口にパフェ(彼女が食べていたのはチョコレートバナナパフェ)を一口食べさせてくれた

うまー幸せ〜






「最南にある地方で、此所よりもっと暖かい場所よ。雑誌で見たけど、観光名所が色々あって見どころだしコンテストもあって中々強いジムもあるらしいの。此所にはいないポケモンも生息しているから、探求心バリバリなあなたにはぴったりな場所かもよ」

「へぇ〜」

「ある場所には有名な温泉が湧いていたり宇宙センターがあったり海中洞窟が存在したり…ホウエンもシンオウみたいに歴史深い場所だからねぇ。勿論向こうにもリーグ協会がちゃんと存在するわ。…互いの協会のお偉いさん方が堅物な人ばっかみたいだし、やっぱり北と南じゃかなり情報が乏しいし仲も良くならないし…もしあなたが仲立ち役になってくれるのなら、チャンピオンとして私はホウエン地方をお勧めするわ」

「ほー、なるほどねぇ。やっぱり何処の地方も大変なんだねー」







ホウエン――…極寒のシンオウと真逆な位置にあり、気温も何もかも違う最南にある地方。なるほど、確かにホウエンはいいかもしれない。寒くなくてリーグ大会もあってコンテスト大会も……あ、そういえばホウエン地方はGF・K協会の本部があるじゃん!忘れてた!(←)

せっかくシロナからの推薦もある事だし、GF・K協会の本部がある事も思い出したお蔭もあってホウエンへ傾き始める。やっぱりトップコーディネーターになれたんだ、本場のコンテストにも出場してみたいしね!んでもって次こそはホウエン地方リーグ協会主催のリーグ大会に出場して、殿堂入りを果たさないと…―――






その時、不意にピンと頭に閃めくものが一つ





暫く考え―――クスリと、小さく笑みを浮かべる







「…分かった、なら私はホウエンに行くよ」

「あら、本当に?」

「シロナがシンオウという最北で頑張って、私がホウエンという最南で頑張る。そうだね…――うん、よし!私ホウエンでチャンピオンになってホウエンとシンオウの架け橋になるよ。シロナがチャンピオンしてくれるなら、私向こうで頑張ってみるよ」

「!本当に!?ホウエンでチャンピオンになってくれるならそれこそ私あなたをホウエンへ勧めるわ!本当はあなたとずっと一緒にシンオウに居てこうしてパフェ食べていたかったけど…チャンピオンになってくれるなら話は違うわ!あなたを応援するわ!ミリ!」

「ありがとう、シロナ」








私がその言葉を言ったものなら本当に嬉しそうに大はしゃぎして、勢いのまま抱き着いてきたシロナによしよしと頭を撫でる。本当にこの子は、チャンピオンになっても全然変わらないんだから

チャンピオン…―――頂点だなんてさらさら興味ないのに、この私をそう思わせるだなんて、随分この子に感化されてしまったらしい。いや、シロナだけじゃない。デンジやオーバー、この地方で出会った様々な人達に触れてきたのもあったのかもしれない。本当に笑える。旅の一区切りを終わらせ新たな旅をするという事は皆との別れを意味するのに、本当に笑える―――…まだ皆と、接点を持ちたがっているだなんて






「(ほーんと、笑っちゃうよね…)」






自分の不思議な感情は置いておいても、ポケモンマスターになる為の布石の一つにチャンピオンという選択肢もあっても良いのかもしれない。リーグ関係者にもなればより詳しく話を聞けるのもあるから、このチャンスを逃してはいけない

シロナや皆がいないリーグ大会になんてもはや眼中に無し。私達に敵う敵などいないし、負ける気も無い。皆もやる気満々だから、それこそ私達が負けるだなんて事は…アリエナイ

けど、チャンピオン、かぁ。今まで頂点に立った事なんて、記憶が曖昧なくらい久々だから―――…自由が束縛されちゃうのは否めないけど、それはそれで構わない

私達は私達の道を進めばいい

ただ、それだけだから







「楽しみだね」

「…」
《はい!》
《あぁ(モグモグ)》

「刹那ちゃーん、結局私のケーキ全部食べちゃダメでしょー」

《うまくてな。つい》

「あらあら。それじゃ新しいの追加注文しちゃおうかしら。今日は私の奢りよー!」

「わーい!」












新たに約束を交わした今、今度は目的の為に突き進むのみ



次の旅が、楽しみだ







(さあ、次の旅が決まったら準備をしよう)


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