「寂しくなるよ、本当に」






ふたごじまの研究所前

カツラは眼前に立つ――二人に言う






「まるで家族と暮らしていた日々を味わっていたのに、もう二人が行ってしまうのは本当に寂しいよ




 ――…ナズナ、ゴウキ君」

「俺も、本当に久々に楽しい毎日を過ごせた。礼を言う、カツラさん」

「世話になったな、カツラ」






今日は、ナズナとゴウキが自分達の故郷に帰郷する日

帰郷すると同時に、ここでお別れを意味していた。新たな道を進む為、ナズナとゴウキはシンオウに戻る

ナズナは父親の職を継ぎ、考古学者に

ゴウキは、シンオウ四天王として





「はぁ…二人が行ってしまうとレン達も帰ってしまうからね…。また寂しい日々を過ごすのか…」

「本当ですよねー、寂しくなりますよね…。うぅ、この数日楽しかったから二人は正直行って欲しくないのが本音…!!」

「「ブィィィ…」」

「すまないな、舞姫」

「今までありがとう、ミリさん」

「っ、いーやー!ゴウキさん帰っちゃ駄目なの一緒にいるのー!ナズナさん駄目なの一緒にいるのー!むしろ二人共帰るなー!」

「「ブーイー!!」」





数日間共に過ごしただけでも、全員の中にある絆は確かなもの

いつも一緒にいた者と別れを惜しむのは当たり前。【三強】として過ごしていたゴウキは尚更。本当に研究所が明るくなったよ、と言うカツラに行っちゃ駄目ー!と駄々をこね二人の腕に抱き着くミリ。足元にいた白亜と黒恋もヒシッと二人に抱き着き駄々をこねる。時杜も寂しそうに触覚を垂らしながら二人の回りを飛び、刹那も尻尾を垂らした。全員が全員、二人の別れを惜しんでいた

ナズナとゴウキは互いに顔を見合わせて、小さく笑う。ポンと二人は抱き着いてきたミリの頭を撫で、それぞれ白亜や黒恋、時杜と刹那に蒼華の頭を撫でていく

若干涙ぐむミリが二人を見上げれば、二人はまさか涙ぐむとは思わなかったらしく目を点にする。しかしフッと笑みを零すと、ゴウキはもう一度ミリの頭を撫でてあげ――その小柄な身体を引き寄せて、軽く抱き締めてやった。同じく目を点にするミリだったが、すぐに嬉しそうに笑みを深め、逞しい身体をギュッと抱き締め返した。楽しかった、と耳元で静かに呟き――…ゴウキはいつもの笑みで、笑った





「…レン、いつもみたいに割り込まないんだね」

「あのなー、俺だって空気ぐらい読むっつーの」





ゴウキから身体を離し、今度はナズナに飛び付くミリを視界に入れながらカツラは言う。今まで黙っていたレンは苦笑を零しながら眼前にいる彼女達を見る

ナズナに抱き締められ、嬉しそうに表情を浮かべるミリを見つめながら「最後ぐらい、アイツの好きにしてやるさ」とレンは言う。ゴウキとナズナはミリにとって家族同然な事は周知の事実。別れの挨拶を拒ませるつもりは毛頭無い。抱き締めた事については気に食わないがこの際気にしない方向で←






「「ブーイー…」」
「…」
「キュー」
《元気でな、二人共》

「お前達も元気でな」

「(えぐえぐ)二人共、これ!重箱!朝から作ったの!お母様と一緒に食べてね!(シュビッ)……っ、わぁあああん!!(号泣)レェエエーーン!」

「おー、よしよし」






何処から取り出したか分からない重箱をナズナに渡すも、耐え切れなくなったミリはレンの胸に飛び付いた

回りが苦笑を零せばレンもつられて苦笑を零す。自分の胸でしゃくりをあげる存在の頭をポンポンと撫でてやる。抱き着いたミリをそのままに、レンは二人に顔を向ける






「元気でな」

「お前もな、麗皇」

「あぁ」






切れ長の鋭い銀灰色の瞳を細めてナズナは言う

手を差し出して来たので、レンもその手をとって握手を交わす。ナズナが笑い、レンも笑う。お互いに掛け合う言葉は、これだけで充分。手を離したナズナは最後に「幸せにな」と言った






「うぅ…いーやーナズナさぁーん…」

「おいおい、最後くらいしっかり見送ってやれって」

「いーやーゴウキさぁーん…」

「ほら、涙拭けって。ったく、手の焼ける奴だ」

「「ブーイー…」」
「キュー」





未だぐずり嫌々と頭を振るミリ。苦笑はそのままに、ポケットから自分のハンカチを取り出して涙を拭ってやる

足元にいる白亜と黒恋も涙ぐんでいたので、時杜もハンカチでニ匹の涙を拭っていたりするのは置いといて←






「うぅ…レーンー…」

「おら、ちゃんと前向けって」

「レンも行っちゃうんだよね、シンオウ…」

「ばーか、俺がお前を置いてシンオウに行くわけないだろ?」

「うぅ…シンオウに行っても私達を忘れないでね…!毎朝毎晩レンを想って手を合わせるからね…!」

「聞けよ」





むしろそれ俺死んでる設定じゃねーか、とレンは思うもフルフル震えるミリの身体をポンポン叩きながらレンは苦笑を零す

頑張って固形物チーズ見ても投げない努力するから、とか今度レンちゃんが食べれる甘いお菓子作っておくね、とか、明らか変な方向に向かっているミリ。始めは笑って聞いていてレンだったが、流石にその口を黙らすか、と頭に過ぎらせ行動に移そうとした


――…が、








「何を言っているんだ白皇。お前もシンオウに行くに決まっているだろ?」















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