聖地が全てを変えた 聖地が、俺達を引き離した 何度、聖地を憎んだか 何度、己を悔やんだか ―――…けれど、聖地が逆に自分達を導いたと考えれば、どうだろうか 「――…皮肉だな」 ふたごじまの研究所 与えられた部屋で俺は呟く 「聖地は俺達を引き裂いた。俺とゼルを、お前と紗羅を。…俺達の家族も、引き裂いた」 「…………」 「が、聖地という繋がりからミリと出会える事が出来た。――…悔やみ、憎み、絶望もした聖地を…今じゃミリを引き合わせた事に感謝している。ハッ、……笑いたくなるぜ」 「………」 眼前に立つのはエルレイドの綺羅 綺羅はただ、静かに俺を見据えるだけ 「俺も随分と、変わった。……"白銀の麗皇"、そう呼ばれていた時の俺と今の俺は、違う」 灰色の、世界 興味を失せた、目標 ただ情報を求める為に その為に必要とした、力 「これから、どうするか」 ゼルジースは生きていた 最も一番知りたかったのはアイツの生死 ――…目的は、達成された 「綺羅、お前はどうしたい?」 〈――俺に聞く以前に、考えはもうついているのでしょう?主人〉 「ハハッ、…やっぱお前は分かっているか」 俺の耳に聞こえる、綺羅の声 刹那のテレパシーとは違う、列記とした声 「綺羅…――久々に、見せてみろ」 〈承知しました〉 聖地から授かった、ポケモンの声が分かる不思議な力 この力は、俺だけじゃない 綺羅の瞼が閉じ、ゆっくりとソレが開かれ煌めいたのは燃える鮮血の瞳。俺と同じ瞳が妖しく光れば、パァッと緑の身体が光りを放つ。薄暗い部屋は光で明るくなり、眩しさで俺は目を細める 光が徐々に収まり――…そこに居るのは、瞳の色と同じ色を纏ったパートナーの姿 鳩血色をした、エルレイドがそこにいた 「何年振り、だろうな」 気付いたのは、キルリアだった頃の綺羅が試合中に戦闘不能で倒れた時 光りが綺羅の身体を包んだと思ったら、現れたのは赤い色をした綺羅の姿。身体の色が鮮やかに変わったと思いきや、戦闘不能だった体力が回復した そして、戦闘能力も想像を超えるレベルまで、上がっていた 「時杜より深い色、だが赤い事には変わりはない。身体に変化はないか?」 〈今のところは平気です〉 「そうか、ならいい」 赤い身体に変化した綺羅の力は強い。ステータスが一気に上がり、実力は伝説に匹敵するんじゃないだろうか。以前初めてスイクンと戦った時にそれは発覚した この状態を【もうか】や【しんりょく】や【げきりゅう】、【むしのしらせ】みたいなモノと比較してくれれば分かるだろう。体力がギリギリになればなるほど力が上がるこの力。それからこの状態になると綺羅の体力も回復してくれる、まさに起死回生な力。しかし俺は積み重ねた修業で綺羅の力を何時でも引き出せる事が叶った。後、何時でも色を変えれる様にも出来た しかし力が強過ぎな為、綺羅の身体に負担が掛からない為にも特別な時にしか発動はさせないと決めている 「ミリの言う事が本当なら、紗羅の方もお前と同じだったりしてな」 〈……〉 「当時の手持ちだった奴等も、何で戦闘能力が上がったのか――説明がつく」 聖地に入る前に既に居た、綺羅以外の俺の手持ち 綺羅みたいな身体の変色は無かったが、全員瞳が同じ鳩血色をしていた。勿論、力も増幅し一時は己の力が暴走し大変な思いまでした事がある。しかし修業で瞳も普通の色に戻り、何時でも色を変色し力を引き出せる様にまで成功した しかし綺羅も含め全員――力の影響か、普段の姿でも他の種族の仲間達よりも強くなってしまっていた …まぁ、長年の経験も含まれての強さもあったり、エルレイドなんかかくとうタイプだからとゴウキに鍛え上げられていたし…(遠い目)強くならないわけがない← 「軽く六年、といった所か…アイツらにモニターで顔は逢わせても会っていないのは。元気にやっていやがるかな、アイツらは」 〈…仲間にまた、戻すのですね?〉 「――…そこまで見抜いていたのか」 綺羅を残し、手持ちを変えたのはウォッチャーに転向する為 白銀の麗皇だった牙を隠す為に、ポケモンバトルから逃げる為に ――もう、腹を括らなきゃならない 「今度はゼルジースをただ捜すだけじゃねぇ。捜し出して、見つけ出したら――…一発、ぶん殴る。…何しでかすか分からないアイツを、止める為に」 ゼルジースが見つかった しかし奴は敵に成り兼ねない アイツは一体何を企んでいるのか…今なら、分かる アイツも同じ、俺の双子の片割れだ 「そしてミリを…ゼルジースに奪われない為にも、俺達はもっと強くなる 今度は、守る為に――…」 聖地は【異界の万人】が造った ミリの前世は【異界の万人】 俺の前世は【異界の守人】 ――ゼルもきっと、【異界の守人】 ―――目覚めよ、同じ魂を持つ者よ 私の力と記憶を、受け継ぎ 今一度、あの方と……―― 何故、俺達が聖地に導かれたのか ……今なら本当に、説明がつく 「……今はまだ、動くつもりはない。ミリが心配だからな…そばに居たい」 〈俺は主人に従うまでです。主人が幸せなら、俺も幸せです。主人が幸せだと思うなら、それだけで十分です。俺も、仲間達も〉 「…――幸せだぜ、すっごくな。…本当に、幸せだ」 もう俺は、この幸せを手放さない もう、大切な人を失わせない 今度こそ、守ってやる…――― コンコン、と控え気味に部屋の扉を叩く音がして俺は視線を移す。誰だ、と言えば「私、」という声が聞こえてきた。ミリだ、そう分かれば無駄に警戒はしなくていい。綺羅をボールに戻し、椅子から立ち上がって扉の前に足を向かわす ドアノブを掴み、ガチャリと捻ってドアを開ける。ゆっくりと開かれたドアから現れたミリに自然と口許が緩む。目が合えば愛くるしい瞳を細め、フンワリと笑ってきたミリにどうかしたのか?と言えば「おやすみ言いに来た」とゆったりとした口調で言ってきた 「手持ちの皆が眠っちゃったから、私も寝ようと思ってね。だから先に寝るね」 「そうか。ゆっくり寝ろよ、ミリ」 「うん」 何気ない会話でも、自分の心が暖かくて満たされていく ――あぁ、本当に幸せだ 認めれば認める程、想いは募っていく。ミリと会えて、良かったと心から思えてくる 「おやすみなさい、レン」 「おやすみな、ミリ」 細い顎に指を添えて柔らかい唇にキスを落とせば、もっと身体は幸せで満ち溢れる 自分の首に回された腕も、抱き締めたこの温もりも――全てが全て、幸せの渦の中に飲み込まれてしまいたい 守ってみせる、この幸せを → |