「舞姫、お前に相談を持ち掛け頼み事をしたいと同時に許可が欲しい」

「…藪から棒に言ってきましたね、ゴウキさん。勿論!私で良ければ相談を乗りますし頼み事とか引き受けますよ!…でも、許可って一体…」

「これは俺も含め、全員(マツバとミナキや刹那諸々)が望んでいる事だ。白皇にとっても重大な事だ…良いだろうか?」

「なるほど…そんなに重大な事なら尚更断る訳にはいきませんね…!許可でもなんでも、ゴウキさんの為なら!」

「そう言ってくれると信じていた。では、舞姫…単刀直入にその許可の内容を言わせてもらおう








暫くの間、白皇を拉致らせてもらう」

「……へ……?」




―――――――――
――――――
―――










「――…ゼルジース様、一体何をなされて…?」

「…見て分からないか?ケーキ作ってんだよケーキ」

「…またその様な甘い物を…しかもご自分自ら難しいロールケーキを作り上げるなんて、一体どんな風の吹き回しなんですか?若くして糖尿病になりたいのですか?」

「馬鹿野郎、俺は糖尿病にならねぇ」

「ツッコミはそこですか」






広いキッチンに二人



それは、ゼルジースとガイルの姿






「…しっかりと分量はなってますね…一度砂糖と塩をお間違えになられた時がありましたからね、ゼル様は」

「若気のいたりだ」

「そのロールケーキは?」

「食う」

「……………。この、もう一つのロールケーキは…?」

「あ?それか?…――ミリ様に送るロールケーキだ」






綺麗なラッピングを施した箱の横には、とても美味しそうに出来上がっているフルーツロールケーキ

箱に付いているロゴにはしっかりと英語で「親愛なるミリ様へ」と筆記体で書かれていた






「………まさかプレゼントで存在を主張なさるおつもりですか?」

「それもある」

「"も"、とは?」

「――…聞いた話によればミリ様は無類の甘い物好きらしいじゃねぇか。親しみがさらに湧くぜ、甘い物の感動は分かちあわねぇとな」

「……後は?」

「レンガルスへの嫌がらせ」

「…………そうですか」






甘い物の匂いが充満するキッチンの中で、生クリームを手際良く泡立てるゼルは不敵に笑う

なんて子供じみた嫌がらせなのだろうか、とガイルは思う。しかし敢えて口には出さないガイルは賢い男。もし口に出してしまったらその生クリームを被る大惨事が起き兼ねない







「ガイル、お前何しにきたんだ?……用がなけりゃ出ていってくれ。俺はこれから全集中をかけて生クリームのデコレーションに入る。ケーキは見た目が大事だからな…!気が抜けねぇぜ…!」

「用ならしっかりとありますのでご安心を。――…こちらをご覧下さい」






ガイルの手にある、数枚の資料

ホイップクリームの袋を持つ手を置き、訝しげにソレを受け取るゼル。なんだこれ?とカシミアブルーの瞳は訴えるが、文字を追って動くその瞳が、最後のページを捲った時――…鋭く、細められる






「…へぇ、なるほどな。中々、面白い物があるじゃねぇか。――…よく漁ったな、ガイル」

「――…封印されし記憶が、解き放たれた。少しでも思い出した奴等も中にはいるでしょう。…いずれ、人々はこの問題に注目を向ける」

「違いないな」

「この件に関しては如何なさいますか?」

「――…この件は、俺達の知識では仮定は成り立たない。結果なんて尚更だ」

「では?」

「高みの見物、といった所だな」







パサッ、と厨房に置かれた数枚の資料




――…そこに同封された写真に映る人物は、とある人物と酷似していた









「シンオウ、ホウエンを殿堂入りし、ホウエンのチャンピオンを勤めていたポケモンコーディネーターであり、ポケモンマスター。六年前に姿を消し、人々からその存在を消し、消息を絶った女





 ――…その者は、"盲目の聖蝶姫"」







資料に記載された写真




オレンジ色が鮮やかに、その存在を主張していた







「…さて、どう動くだろうな」








盲目の聖蝶姫



燈色の蝶は、今は何処に――――










新たな幕開けの、予感





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