――…一方、 「レン!よく来てくれた!やっとスイクンを私に譲ってくれるんだな!?」 「んなわけねーだろアホが!誰がやるかお前なんかに。寝言は寝て言え。つーか再会した第一声がそれかよミナキ」 「まあまあ、二人ともよく来てくれたね。さ、此所でもアレだし中に入ってくれ」 「すまない、邪魔をする」 紅葉彩る歴史に風情ある街、エンジュシティ その中にある、町全体を一望出来る古く大きい屋敷にレンとゴウキはいた。出迎えたのは、家の主であるマツバに丁度遊びに来ていたミナキ。ゴウキとミナキは初対面だが、マツバとレンとゴウキは一週間振りの再会だった 早速部屋を通した四人を出迎えたのはゴーストタイプのポケモン達。与えられた部屋の座布団の上に腰を降ろしたゴウキを見て、マツバは改めてミナキを紹介し、レンはミナキにゴウキを紹介する。お互いに自己紹介をし、軽く会話を済ませたゴウキとミナキ。ゲンガーがルンルンとお茶を持って来たので有り難く頂戴する。マツバとミナキとレンが久々に会話に花を咲かす中、ゴウキは庭から見える景色に視線を移す 部屋から見える景色はとても綺麗で、国宝になってもおかしくない絶品な景色。「良い景色だな」とゴウキは素直に感嘆を零した。紅葉彩る紅葉、風情溢れる町並み、威風堂々と立つすずのとうとやけたとう。穏やかな風が、エンジュシティを優しく包み込む。気に入ってくれたようで嬉しいよ、とマツバは笑った 「…そういえば、二人共聞いたぜ?ミリ姫とレンとゴウキさんの三人で【三強】って呼ばれているのを。しかもゴウキいう名前を聞けば、一週間でカントーとジョウトのバッチを制覇した偉業があるらしいじゃないか!」 「まさかあの日のすぐにゴウキさんとジム戦するとは思わなかったよ…。まさかだよね…みやぶるされた訳じゃないのにゴーストタイプをぶん殴るなんて」 「あぁ、こいつのカイリキーを前にゴーストタイプが居ようが関係ねぇぜ?つーかゴウキを前にしたら鬼に金棒だぜ?マツバ」 「ははっ…戦いたくないと言ったすぐに現れたゴウキさんにはもう白旗を挙げたい気分だよ」 「フッ、あのバトルは中々の見応えがあった。どうだマツバ、もう一度勝負するか?」 「うん、遠慮する」 よほどゴウキとの戦いは驚かされる事ばかりで、戦いは勘弁だと引きつらせてマツバは笑えば三人は笑う。隣りにいるゲンガーもほとほと参っているそうで、ゴウキの鋭い灰色の眼がゲンガーを映せば、慌ててゲンガーはマツバの影に潜り込んだ そういえばレン、お前は集めないのか?、あ?俺はいいんだよと会話をする二人に、さてそろそろ本題に入ろうか、とマツバは言った 「二人が電話じゃなくてわざわざこっちに来てくれた理由。何となく分かるよ」 「そうか、なら話は早い。俺達は改めてお前に感謝と礼を兼ねて此所に来た。…――捜し物は、無事に見つかった。お前の助言がなければ見つかる事はなかった。礼を言う、千里眼のマツバ」 「あぁ、見つかってくれたんだね?良かったよ。詳しい話は僕は聞かないつもりだ。報告してくれるだけで嬉しいよ、【鉄壁の剛腕】のゴウキさん」 「少ないが礼を用意したかったが、急だったものだからすぐに用意は出来なくてな……だから変わりにポケモンバトルでも、一発」 「あはは、全力で遠慮する!」 「そういえば最近忙しそうにしていたと思ったら、なるほど…ゴウキさんはマツバに捜し物を頼んでいたのか」 「まぁな。マツバ、俺も礼を言わせてくれ。サンキューな、お前が居なかったら見つからなかった。俺も礼になるもの用意出来なかったからな…しょうがねーからポケモンバトルで、一発」 「もっと遠慮するかな!」 レンの場合ならきっとアブソルで急所一発狙いで撃沈だろう。既にアブソルの的確な急所狙いは経験済みなものだから、これにはミナキも苦笑を漏らした 「ま、冗談はこれくらいにしておいてだ…。マツバ、お前に頼みたい事が一つと…二人に報告する事がある」 「マツバに頼むならまだしも、私達に報告か?何なんだ?それは」 「――…ミリの事だ」 此所には居ないミリの名前を出せば二人は黙り、真剣な表情に変わる。何故ならば、レンとゴウキが真剣な顔で二人を見ていたからだ マツバとミナキが最後に記憶しているミリは、自然公園事件後のコガネシティのポケモンセンター。変装をし、パタパタと元気良く動くミリに少なからず安心した二人。しかし最近になってミリが体調を崩した関係連絡が届かず、しかも実家で休むという不調の知らせ。しかもミリの手持ちをこちらに預けてくる程だ。数日前に手持ちを引き取りに来たレンに話を聞けば体調は回復しつつある、と聞いたが心配な事には変わりはない 二人はまっすぐにピジョンブラッドの瞳を見据える。向こうもまっすぐにマツバとミナキを見つめ、部屋の中は沈黙が広がった。カコン――…と響くのは庭にある獅子落としで、沈黙広がるこの部屋に大きく響かせた 「良い話が二つ、悪い話が一つある」 「…良い話を聞かせて貰おうか」 「ミリは元気だ。体調は回復して良好、そろそろ旅しても大丈夫な程まで回復出来た。手持ち達の件があるから、お礼がしたいと言っていた。その内こっちに顔を出してくると思うぜ」 「ほ、本当かい!?それは良かったよ!」 ホッと息を吐くマツバ。後ろにいたゲンガーもホッと顔を緩め、それから嬉しそうに笑みを深める ミナキも同じ様に安堵の息を零した 「ミリ姫が元気だって話を聞いて安心した…以前の事があったからな、かなり心配していたんだ。蒼華達もずっと心配そうにしていたからな。…しかし良かった!マツバ、またミリ姫の手料理が食べれるぞ!」 「あぁ!ゲンガー達、ミリちゃんの手料理を楽しみにしていたし、僕も楽しみにしていたからね!何を作ってもらおうかなぁ〜、やっぱここは肉じゃがな家庭料理とか」 「舞姫の料理はプロ級だからな、肉じゃがも絶品だろうな」 「お!ゴウキさんもミリ姫の手料理は既に食べたんだな?ミリ姫の料理はどれも美味いが、私はカレーを薦めるぞ!」 「あぁ、カレーは一昨日食べた。スパイスがしっかりきいた、舞姫らしい優しい味を出していてとても美味だった」 ミリの料理は絶品 それはもう、プロ並以上で 知識が豊富で技量もある彼女は、材料と調理具さえあれば簡単に手早く美味しく出来上がる。しかも自身の力を使い、かなり冷やさなくちゃならない物を数分で冷やしてしまうミラクルを駆使したり、何時間も焼かなくちゃならないものを数分で焼いたりと…冷凍工程焼き工程蒸し工程等々完全無視な、凄いしか言えない位のマジックみたいなミラクルみたいな力と、そして誰もが舌を巻く料理の腕を持つ その為、ミリの手料理に引き込まれた者は数多くいる。それは、此所に居る者全員が当てはまっていた 「ミリ姫が作った料理は本当に美味しかった。マツバの家に泊まった時なんか、朝昼晩とミリ姫の見た目も味も良く栄養満点な料理を一日食べれるマツバを羨ましく思ったぜ」 「やっぱ一ヶ月間当たり前に作って貰っちゃったけど、こうも食べなくなると本当に無性に食べたくなるよね。…レン、ミリちゃんが体調が戻ったら是非来てくれって言っておいてね!」 「………………」 「…、レン?」 「…何だレン、その不貞腐れた顔は」 意気揚々とミリの手料理について熱く語るマツバとミナキだったが、ふとレンに視線を移せば…――眉間に皺を寄せ、ムスッとした表情で景色を眺めるレンの姿があった。苛々しているのか、指を小刻みに動かし机を叩いている。誰から見ても、不貞腐れて機嫌が悪くなっているのは見え見えで 分かりやすっ、二人は同時に思った 「…気にするな二人共。白皇は空白の一ヶ月に自分が居ない事が気に入らないだけだ。フッ…しかも愛する者の手料理を、自分が食べる前に他の人間が食べている。理不尽な思考だが、しょうがない事だ」 「…………愛する者、だと…!?」 「……あー、なるほどね…。やっとレンは、自分がミリちゃんの事が好きって気付いたんだね」 「…だからなんだよ」 「当時の無自覚にも呆れてものが言えないぜ、レン。気付くのが遅過ぎなんだよお前が。再会からリアル鬼ごっこして帰って来たらガッチリ手繋いでいたら誰だって気付かない訳がない」 「ほう、そんな事があったのか。その時から白皇の独占は始まっていたのか…簡単に想像がつく」 「ゴウキさんも【三強】として行動していた時、正直大変だったでしょ?」 マツバの問い掛けにゴウキは頷き、ほとほと参っている素振りを見せ、溜め息を零しながら答える 「あぁ、呆れてしまう程にな。俺が舞姫と二人で(強調)話そうとするだけで不機嫌になり、最悪舞姫を引っ張って引き離そうとしたな。二人(強調)で会話していたら後々舞姫に内容を聞こうとしていたし、会話に割り込んだ事もあったな」 「何そのあからさまな嫉妬振り!?」 「分かりやす過ぎだろ!?」 ゴウキから告げられた、今まで明かされなかった【三強】の出来事。知られざる真相を耳にしたマツバは食べていた紅葉饅頭を落とし、ミナキは飲んでいた茶を噴き出した それだけではない、とゴウキは続ける 「……舞姫が一人で行動しようとしたものなら無理矢理着いて行こうとするわ後々何をしていたかを掘り出し、悪い虫が浮上すればフラリと居なくなったと思ったらその原因を自ら叩き潰していたりした。空白の一ヶ月で、舞姫が知っていて自分が知らない話が浮上すれば先程みたく不機嫌になっていたな。それから舞姫が少しでも気に食わない事をしたもんなら口を塞ぐと脅し、舞姫が謝っても最終的には――…キリがない。以下省略」 「以下省略!?」 「しかし唯一の救いが舞姫は心が広かった。悪く言えば、何も気付いていなかった事だな」 「ゴウキさん…大変だったんだね…色々と」 「レェェエエン!!貴様それは流石にやり過ぎだろ!どれだけ独占欲強いんだ!いやむしろ最後の言葉は聞き捨てならんぞ!?最終的に何だ!?最終的にお前は何をしたんだ!?」 「あ?最終的にだと?んなもん、キs「だぁああああ!寝言は寝て言え馬鹿者!!」……別に良いだろ、俺達もう結ばれている仲だ。誰にも文句言われる筋合いはねぇぜ」 「「………は?」」 「だろ?ゴウキ」 「目に余る行動は変わらず控えて欲しいものだ」 「ハッ、無理だな」 「レン、お前…!」 「今…なんて言った…?」 「ククッ…これはもう一つの良い話として取っておいた重大な話だ。心して聞けよ? 俺達は、めでたく恋人っつーもんになったんだよ」 エンジュに悲鳴が響き渡った → |