「……ねぇ、フレイリ」

『なぁに?ミリ』

「私のお父さん…どんな人だっけ?」

『…………』

「おかしいんだよね…前まではしっかりと覚えていたんだよね…。お母さんも、妹も、どんな人だったか思い出せないんだ…。ねぇ、これってどーゆう事なの?何で私…忘れてきているの…?」

『………ミリ』

「本当に、本当におかしいよ…前までは、ちゃんと…皆の笑顔も、思い出も、全て覚えていたのに…っ、なんで…?なんでなの…?お父さん、お母さん…あれ、妹の名前も分からないから、呼べないよ…っ、どうして…どうしてなの…?私の記憶、どうなっちゃうの…?」

『………っ』







そして始まった、記憶の崩壊




あぁ――…憐れな蝶は今もなお、

瞼の裏に、夢を見る

家族という、失われた存在を






――――――――
――――――
――――
――






二日が経った

時刻はもう時期お昼頃

ふたごじま研究所の前にいるのは、ナズナさんと時杜。私の後ろに並ぶのは白亜と黒恋と蒼華と刹那の姿





「それじゃミリさん、時杜を借りていく」

「はい、行ってらっしゃいナズナさん。ナツメとマチスさんとキョウさん、そしてサカキさんに会ったらよろしくとお伝え下さい」

「まさか首領まで知り合いだとは驚きだったが…分かった。そう伝えておく」

「時杜、後はお願いね」

《はい、任せて下さい!》





早速、ナズナさんが無事見つかったと昨日四人に連絡(キョウさん捜すの大変だった…)をした。案の定皆さんかなり驚かれた様子で、でも無事ナズナさんが見つかって、ナズナさんが休息だった事に安堵し、喜んでいた。会いたいと皆は言ったので、今日この日にナズナさんは全員に会いに行く事になった

皆それぞれ仕事があって、しかも一人は遠い場所、もう一人は全員と会う事を拒否した為、ナズナがそれぞれ一人ずつ会いに行くことに。その為には時杜の力は欠かせない。大役を任された時杜は宙に浮きながらピシッと敬礼をすれば、足元にいる白亜と黒恋もピシッと敬礼を返す。もう最近この三匹可愛すぎて駄目死ねる





「夜には帰る様にはする。夕飯は俺抜きで考えといてくれ」

「はーい」

《僕の分はお願いしますね!》

「フフッ、大丈夫時杜の分は刹那につまみ食いされない様に死守しとくから」

《食わないなら貰う》
「「ブイブイ」」(頷
「…」

《駄目だからね!?》





此所にいないカツラさんはお仕事で一度セキエイリーグに、レンとゴウキさんは朝っぱらからどっかにフラリと出かけて行った。つまりこの研究所に居るのは私達しかいない訳で、見送る人も私達しか居なかったりする





「昨日は忙しそうだったから言えなかったが…ミリさん、俺はもう貴女に色々と聞かない。後の事は俺自身が調べていく。後、貴女は貴女だ。…辛い事を聞いて、本当にすまなかった」

「やだナズナさん、どうしたんですか?藪から棒に。んふふ〜何の事だかさーっぱり分からないかな〜」

「…フッ、俺の独り言として受け取っといてくれ」






昨日はある意味忙しかった

泊まらせて貰っている限り、労働で返さなきゃならないからこの研究所の家事全般はやらなきゃいけなくて。それからナズナさんの事を報告しに色々と電話かけて対応していただけでもう一日が終わっていた

朝目が覚めてすぐに皆のご飯の準備でしょ〜、皿洗って洗濯物干して、まずナツメに電話して〜お昼の時間になったからご飯作って〜、マチスさんに電話して〜(嬉しさと今までの怒りで荒れるマチスさんを宥めるのに苦労した)、キョウさん探して連絡して〜(一番大変だった)夕飯になったから支度して作って〜、片付け終わった後今度はシルバー経由サカキさんに回って〜(久々シルバー相変わらず可愛かった←)………アハー気付いたら寝る時間になっていてしかも皆とまともに会話する暇もなく疲れて眠っちゃったんだよね〜、タハー←





「そうそう、これも独り言だ。……昨日、貴女と殆ど会話が出来なかった二人…特に麗皇だったが、避けられているんじゃないかと心配していた」

「あらーそれは大変!昨日は忙しかったからねぇー、駄目だね〜会話のコミュニケーションは大切だね〜〜〜………ってマジですか」

「「ブーイ」」(コクコク
「…」(コクリ
《そういえばそんな事ぼやいてはゴウキにはたかれていたな》
《そのゴウキさんも浮かばない表情をしてましたよ?》

「あらー」





これはなんたる事実だ

…朝っぱらから居なかったのは、もしや私が無視してるかと思って拗ねてしまった行動なのか…!?←違

考えてみれば、確かに昨日は二人と全然会話していないし目線も合わせていない。家事が忙しかったし、電話対応も大変だったし、特に掃除が、ジム整備が大変だったし(あれ、なんでこんな所までやってんだろ)…まぁ、逆の立場だったら私も思うわな、シカトされてんじゃないかってね。…なるほど、これがすれちがいって訳か…←だから違う






「カツラさんがいたらこう言うだろうな、『若い青春はいいねぇ〜』って」

「あはは…誤解解いておきます」

「麗皇は別にしろ、ゴウキもアレでまだ若者の仲間だ。そう考えてしまうのも無理はない」

「ちなみにナズナさんの青春は?」

「さて、どうだろうな?」





切れ長の、ゴウキさんと同じ鋭い銀灰色の瞳を細め、フッと笑う目の前のナズナさん。こうして見ると本当にゴウキさんと似ているなぁと思ってしまう

母親が違って、生活環境が違うと体格の差が表れるのはしょうがないとしても、やっぱり兄弟な事に変わりはない。本当に、兄弟というものはかけがえのない宝物だよね






「これからもゴウキと仲良くしてやってくれ。アイツ、義母さんが格闘家だった関係、あんな厳格な奴になってしまったが、元は良い奴だ。…それから白亜と黒恋、刹那の事もよろしく頼む。自由になった刹那は、自分の意思で貴女といる事を希望した」

「!…刹那、」

《この名前を貰った時からずっとそう思っていた。私の存在を認めてくれる者達と、私は歩んでいきたい。…ずっとそのつもりでいたからな、今更選択肢を与えられてもこっちを取るまでだ》

「刹那ーーッ!!」

「「ブイブイ!」」
《刹那〜〜ッ!!》
「…」





白い身体に飛び付けば、細くて逞しい腕が易々私の身体を受け止めてくれる。白亜と黒恋も刹那に飛び付き、時杜も刹那の頭に飛び付いた

顔は変わらず無表情だけど、緑色の尻尾は嘘をつけない。嬉しそうにゆらゆらと揺らすソレにナズナさんは笑い、私達も笑った





「では、行ってくる」

《行ってきます!》

「行ってらっしゃい」

「「ブーイ!」」
「…!」
《気をつけて行ってこい》





くるんと時杜が回転すれば、ナズナさんの後ろに紅い空間が現れる

白亜と黒恋、刹那と蒼華の頭を順番に撫でたナズナさんは、最後に私の頭もポンと撫でてくれた。まさか私にもやってくれるとは思ってもみなく、びっくりするも、嬉しくなって私は笑った。小さく笑みを返すナズナさんは、肩に時杜を乗せて、空間に足を運んだ



――…ブゥゥウン



紅い空間はナズナさんを迎え入れ、ゆっくりとその空間を閉じていき、ソコに空間があったという名残を無くした










「行っちゃったね…」

「「ブーイ」」
「…」
《そうだな》

「……さぁて!皆さんご注目!ここにあります〜モンスターボール!誰のモンスターボールでしょか?」

「ブイ!」

「そう!黒恋ちゃん正解!これは刹那ちゃんのボールだよ!今まで何も着色していない普通のモンスターボールが…?」



――パチン



ポフン




「「ブィ〜!!(゜゜*」」
「…!」
《緑に変わった…!》

「はーい指を鳴らしてフッと視界を遮れば、あらあらびっくり!モンスターボールが緑になっちゃった!うふふふ〜、これで本当に刹那は私達の仲間だよ〜〜!時杜が帰ってきたら歓迎会やろっか!」

「「ブィ!!」」
「…!」
《ありがとう、主》

「皆大切な仲間だよ!」








一色に染まった、緑のボール





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