「部屋に行ったら居ないから、もしやと思って捜しに行ったら案の定だ」

「ったく、この馬鹿!こんなに冷たくなりやがって。一人でこんな所まで…何考えてやがんだお前は」

「無断で勝手な行動は慎んでくれと前にも言った筈だが?」

「あらー、まさかの駄目出しですか」

「「当たり前だ」」





後ろを振り向いてみれば、暖かそうなコートを着込んだレンとゴウキさんがやってきた。来た早々お叱りの言葉を受けるとは思わなかったんだぜ(むしろ来るとは思わなかった)

コートが無かったから毛布持ってきた。どうせ暫く此所に居るんだろ?と言いながらレンは私に毛布をかけてくれた。もふもふと、触り心地の良い毛布はとても居心地が良い。ありがとうとぬくぬくと毛布に纏う私を二人は笑い、左右に腰を降ろした。右手にはレン、左手にはゴウキさんと、まさにこれは両手の華だ(華?






「皆ぐっすり寝ていたでしょ?」

「あぁ。仲良く寄り添って寝ていた」

「てか…良く私が此所にいるって分かったね」

「ばーか、お前の居場所なんてすぐに分かるんだよ。俺を舐めんなよ?」

「あらー」





やっぱり一人で居るよりも、こうして三人で居る方が楽しい





「(あ、そうだ)」





良い事を思い付いた私は、左右に座る彼らの腕を取り、自分の元へ引き寄せて密着させる。突然腕が伸びて引き寄せられた事にびっくりする二人を視界に入れながら、私はパチンと指を鳴らす

モフッと私達三人の上に被さったのはレンから受け取った毛布より大きくて長い毛布。パチくりと目を丸くするレンだったが、私がしたい意図を理解してくれたみたいで、腰を動かしより密着させ毛布を自身に包めた。対するゴウキさんも分かってくれた様でレンと同じようにしてくれた





「あったかーい…」

「そうだな」

「こういうのもアリだよね!」

「ま、たまにはな」

「えへへ…うん、暖かい」





私を中央に、密着された毛布の中はとても暖かい。レンの温もりとゴウキさんの温もりが、冷たい身体をじんわり暖めてくれる。絡める腕はそのままに、私は毛布に顔を埋める













私が黙れば、二人も黙る。沈黙が広がり、ゆるゆると毛布から顔を上げチラリと左右に居る二人を見上げる。二人とも、ただ黙って真っ黒な海を見つめていた

しかし二人の発するオーラは嘘はつけない。私には分かるんだ、二人が私に色々と質問したい事なんて。腕を絡めた場所からでも、感情を読み取れるんだから





「――…別に黙っているつもりは無かったんだ。言っても良かったんだけど、機会がなかっただけでさ…」

「「…………」」

「私、本当は15歳までの記憶が無いんだ。本当に忘れているモノだったり、朧気に分かるモノだったり色々だけど、今じゃもう…覚えていないに等しいかな。だからちゃんとした記憶は、16歳からなんだよね。ほら…以前私さ、二人にポロポロっと昔の事言っていたのを覚えてる?アレは16歳の記憶で、事実だよ。実際私色々ポーイッてサバイバルナイフ一本でサバイバルより危ない経験した事あるし!……だから今まで私が話した事は本当の事。嘘はないよ」

「「……………」」

「部屋から出る間際に言ったあの台詞……私はね、気付いたら聖地の泉に居たんだ。その前に、自分が何をしていたか覚えていないの。どうやって私は聖地に入れて、入る前は何をしていたかでさえ…」

「「………」」

「持っているのは自分の知識とサバイバルで得た技量のみ。それ以外は何も持っていなかった」






元々フレイリが勝手に飛ばしやがった時に辿り着いた聖地。自分の足で聖地に入ったわけじゃないから、記憶とかそれ以前の問題。持ち物なんで持っていないから、私の言い分に嘘は無い

……そういえば滞在していた世界に住んでいる友達は元気にやっているかな?←まて






「…それでね、聖地から出たら私はマサラタウンに居て、初めて白亜と黒恋に出会ったの。…そして、その日からポケモントレーナーになろうって思ったんだ」

「……そして、トキワのセンターで俺と出会った」

「そうそう。懐かしいなぁ…確かあの時チーズとチョコレート交換したんだっけ」

「懐かしいな。…あの時、ゴールドカードとか結構騒がれていただろ?…自分が何でゴールドカードになっていたのかは、」

「分からない。…実は、二人曰く生活環境がなっていないあの家…とりあえず私の家になっているんだけど、本当かどうかは分からないんだ。気付いたらマサラタウンに居て、初めてあの家見つけて中に入ったらいつも使っているバックがあって、中を開いたらゴールドカードがあってね。顔写真は私が写っていたから…あぁ、この家は私の物なんだってね。すんなり受け入れれたよ」

「…つまり、舞姫が家を使い出したのはその時から、という事になるんだな?」

「はい。アレから何度か使ってましたけど…まぁ、使う日数少なければ生活環境なさすぎって言われてもしょうがないくらい閑散としてましたし…今じゃなんだかレンの家になってきてるからどうなってんのかなぁ〜みたいな」

「んだよミリ、なんか文句でもあるのか?ん?せっかく俺が自分の家から皆が住みやすく使いやすい様にリフォームしてやってんだ、感謝してもらわねぇとな」

「…それはお前"が"使いやすい様にしているだけだろ…」

「ゴウキ、何か言ったか?」

「何も」

「あはは、それからレンと会って、一週間後のコロシアムでゴウキさんとバトルをした。…楽しかったなぁ、あの時が初めての大舞台だったんだ」

「アレがか?…だったらそれは凄い事だ。あの勝負は全力でやったんだ、それが初舞台だったと聞いたら…舞姫、いつか化けるぞ」

「悔しいんだろゴウキ、初心者に負けたからな。ハッ、ざまぁ」

「白皇後で覚悟しろ」

「返り討ちにしてやんぜ」

「そーゆうレンも二対一の時負けたじゃん」

「ん?なんか今聞き捨てならねぇぜ言葉を聞いたぜ。ん?この口が言ってんのかそうかそうかこの口が」

「ちょちょちょ…!近いんだけど…!ゴウキさんヘルプ!」

「…ふたごじまの空は綺麗だな」

「ゴウキさん!?」

「…――ミリ、」





ニヤニヤと近付いてきたレンから逃れようとゴウキさんにヘルプを求めるがまさかのスルーにカルチャーショックを受ける中、ニヤニヤから一変して静かに問い掛けるレンの声が耳を霞めた

振り向いてみれば、ピジョンブラッドの瞳がまっすぐこっちを向いていた。至近距離で、揺らぐ事のない綺麗な鳩血色の奥底に光る瞳に、不覚にも心臓が跳ねる。自分達を纏う毛布の下では、私の身体を覆う毛布の上を逞しい腕が包み込む様に抱き締めていた






「…レン…?」

「ミリ…話してくれて、ありがとな」

「…………」

「お前が俺に言いたかった事は、この事だったんだな。…大丈夫だ、お前には俺がいる。同じ台詞をお前に返してやるよ。ミリ、お前はもう…一人じゃない」

「っ…」

「記憶が無いなら無いで、新しい記憶を増やしていけばいいだけの話だ。もし、忘れちまったら俺が一から最後まで教えてやるよ。だから、一人で抱え込まなくていいんだ。…な?記憶を無くした分…一緒に新しい記憶を作っていこうぜ、ミリ」

「………レン」

「舞姫、俺の事も忘れては困る」

「ゴウキさん…」

「舞姫が記憶を無くした事実があろうが、舞姫は舞姫だ。俺達の知っている舞姫には変わりはない。お前が黙っていたからという、罪悪感を覚える必要は何処にもない」

「………」

「白皇の言い分も最もだ。舞姫、お前は一人ではない。頼れる仲間はちゃんといる。無論、俺も含まれている。俺達は仲間だ、『三強』だ。…少なくとも、俺はこの三人で三強と言われている事を誇りに思っている。…そうだろ?」

「ま、違いねぇな。ククッ…さぞ無敵だろうなぁ?三強…フッ、三人でいれば負ける気はしねぇな」

「…フフッ、そうですね」

「…なら、一人で溜め込まずに俺達を頼れ、舞姫。白皇ばかりではなく、俺にもな。…白皇ばかり、良い思いはさせないぞ」

「ハッ、言ってろゴウキ」






鼻で笑い飛ばすレンは、もっと私を抱き締めて私の首元に顔を埋めてくる。これは絶対にゴウキさんに見せつけている。ちょ、髪がくすぐったい。対するゴウキさんは呆れた表情を浮かべてレンを見るが、私と視線が合うと鋭い銀灰色の瞳を細め、フッと笑った


私も笑い返し、キュッと腕に抱く二人の片腕に力を込める。逞しい二人の腕の、毛布に包まれた私達の温もりに抱かれて、私は一人…――涙を堪えた






「レン、ゴウキさん」

「…ん?」

「……何だ?」

「――…もう少し、此所に居ても良い…?」

「……あぁ、全然構わん」

「当たり前だろ?…ほら、こうして居れば、全然寒くはねーぜ。…たまには良いな、こーゆうのも」

「そうだな」

「うん!」







月に照らされた、さざ波響くふたごじま

暖かい温もりと、三人で見上げたこの空を、私は絶対に忘れない









(この記憶は誰にも消させてやるもんですか)



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