「…では、気を取り直してそろそろ本題に移らせてもらう」





ポケモン達にミリ特製の夜食用ポフィンを与え、皆それぞれ美味しそうにむしゃむしゃ食べている姿を背景に、トレーナー達は本題へと突入する

今いる部屋は先程の部屋とは違い、ソファーなど存在しない。和室とも言えるし休憩室とも言える部屋。座る物は無く、必然的に畳の上で腰を降ろす事になる。輪になる様に囲まれた中央には、ミリが用意したお菓子が美味しそうにお膳に並べられていた

右にはレン、左にはゴウキと挟まれたミリは、膝の上に時杜を乗せ、後ろには蒼華を鎮座させる。これから話す内容は二匹にも関係しているのは確実で、二匹が居た方が説明しやすいしなにせ助言を貰える。伝えれる範囲内だったら答えられるが、範囲外もしくはそれ以上を聞かれたら答ない。否、答えられないのが正しいか。ミリ自身、あの聖地に行ったのは数時間程度、【記憶】もまだ思い出されていない中、安易に答える事は難しい。なので一番最もあの聖地に詳しい二匹に頼るしかないのだ。二匹も分かっているので、ミリに呼ばれる前には既に隣りに寄り添っていた

ちなみに刹那と白亜と黒恋の三匹は一緒に仲良くポフィンを食べていた。三匹共美味しいポフィンを口に含めてご満悦な様で、白と黒と緑の尻尾をゆさゆさと揺らしていた。その光景が可愛くて微笑ましくて心の中でミリが悶えていたのは別の話






「レンは話してくれました。次は私ですね。…全てを答えたいとは思っていますが、何せ私にも分からない事実。…最善は尽くします」

「あぁ、よろしく頼む」

「皆さんも色々と質問したいはずです。…と言っても、どんな質問が来るかはある程度予想はしておりますので…」






スッと細められる目許は先程の穏和な優しい光では無く、何処か険しく、そして冷たく真剣なモノ。表情も穏やかでは無くなり、無表情とも取れるその表情を膝の上から見上げる時杜は心配そうに鳴く

一緒に旅をし、共に過ごして来たレンとゴウキはこの表情はミリは大真面目だと分かっていた。しかし同時に、この表情の時は――感情を殺している。その事も、知っていた






「なら話は早い。俺が知りたい事は貴女の想定内の一部だ」

「…聖地の事ですね」

「そうだ。それは麗皇が最も知りたい事だろう?」

「あぁ」





二人にとって、聖地は二人の運命そのものが変わってしまった原因でもあり元凶でもある






「他にも聞きたい事がある」

「何でしょうか?」

「【異界の万人】、……と言う言葉は知っているか?」

「――――……っ」

「「!!」」






ナズナから問われた衝撃な内容にミリは小さく眉を顰め、隣りに居たレンは大きく瞳を開かせた。腕の中にいる時杜も驚き、蒼華も驚き目を細める






「…どうやらその反応を見ると知っているらしいな。…俺からしてみればまさか麗皇も反応するとは思わなかったが」

「レン…?」

「っ…いや、気にするな。俺も只、名前を知っている程度だけだ」

「キュー…」
「…」

「【異界の万人】か…そういえばシンオウチャンピオンが気にしていた神話と同じ名前だな」

「「!?」」

「シンオウチャンピオン…あぁ、そういえば今のシンオウのチャンピオンは神話を調べているんだったな。そうか…【異界の万人】という言葉は神話から来ているのか」

「ナズナ、その神話がどうかしたのかね?」

「俺がまだロケット団から抜け出す前、あの二匹の言葉を耳にした事があってな。…『助けて、【異界の万人】の主様』と。それが最初で最後だ、後はもう聞こえなくなったが…どうも気になって頭から離れなかったんだ」

「あぁ、だからシンオウに戻ったら親の仕事を継いで調べようとしたんだね?」

「親父は考古学者、その職を継げば詳しく調べられると考えたんだな?」

「そうだ」






テンポ良く進まれる会話に、ただ唖然とするばかり。レンはチラリとミリを横目で盗み見する

【異界の万人】はミリの前世。状況が状況だった為、簡単に教えては貰ったが、確実に言えるのは【異界の万人】の力がミリの身体に影響を及ぼし、苦しめているという事実。実際に【異界の万人】がどの様な経緯で神話に描かれたかは知らなかったし、知る気もなかったのもあった

隣りに座るミリは蒼華の頬を撫でながらただ静かに三人の会話を聞いていた。その表情は無表情で、レンには暗くも見えた。ミリに声を掛けようとしたレンだったが、話を切り出したナズナに遮られてしまう






「後、もう一つ貴女に聞きたい事がある。――…貴女自身が、一体何者であるかを」

「…………」

「!ナズナ、それは…」

「お前らも思わない訳はないだろう?三強として旅をしていたなら、疑問に思わない訳がない」

「「……」」

「人の事情に首を突っ込むつもりは無かったが…俺はこれでも科学者だ。追究するならトコトン追究するタチだ。…それにこれは、お前達の関係にも影響していくだろう」

「だからって、それでミリが辛い思いしちまったら…」

「分かりました」

「!ミリ、」

「想定内、です。その言葉を言われるのは。…良いでしょう、私が言える範囲内でお答えしましょう。聖地と【異界の万人】、それから…私の事を」






ゆったりとした口調で、ミリは言う。四人の視線を受け、四人の顔をそれぞれ見渡してから、小さく息を吐いた

視線を落とし、腕にいる時杜の頭を優しく撫でる。艶やかな唇をゆっくりと動かし、歌う様に旋律を流す







「…聖地、それは名も無い一つの空間から作り上げたもの。外界から閉ざされた、唯一の異空間でもあり時空間。何物にも染まらない、清らかで純粋で神々しい事から、足を踏み入れた者達は皆口を揃えてこう言った。【聖地】と。いつしか聖地は神々が住む土地とまでに神話に描かれ、またその土地に足を踏み入れた者は望まれるモノを与えてくれると伝えられ、多くの人間が生涯をかけて聖地を探し回った」






まさか此所で、【異界の万人】について聞かれるとは思わなかった。今までの経緯で【異界の万人】という言葉に辿り着けれる筈はない。これはミリの想定外だった。しかし、聖地を造ったのは他でもない【異界の万人】である事は事実。この単語無しには、聖地については語れない






「聖地、それはある者が何かのキッカケか、或いは自分の意思で造ったモノ。その意思の殆どが、この世界が自分の故郷であるという意味を持ち、聖地はその目印に過ぎない。また、今の言葉で言ったら、別荘とも言えましょう。自分が造り、自分だけの空間、そして世界――…形、風景は人様々。自分の故郷、思い入れのある場所に似た、その者の意思により形は日々変化していく。そして聖地は神出鬼没。普通なら絶対に足を踏み入れる事は出来ない。縁がなければ、又はその者が認めない限り…――難攻不落、侵入不可能。もし稀に入れたとしても、待っているのは天か地か。……何故ならば、聖地からの置き土産が強大なモノなのだから」





人は黄金を手に出来ると言った

人は自分の願いを叶えてくれると言った



しかし――手にしたのは想像以上のモノで、強大なあまり自滅した者が数多くいた






「聖地を造りしその者は――何を隠そう、【異界の万人】その者なのだから」







【異界の万人】

数々の異世界を統べる者

唯一世界の秩序を変え、世界を救い、世界に介入する存在


又、他にいる介入者などを統べる者でもあるその存在は、代を経て――ただ一人






「…【異界の万人】については、実は私も詳しくは分からないんです。分かるのは、人間で、女性で、そして――時杜や蒼華みたいな幻や伝説のポケモンや、様々なポケモン全てを統べれる力を持つ者。……今のところは、それだけは伝えときます」






本人でさえも未だ知り得ない【異界の万人】

それがこの世界の【万人】なら尚更で、今の時点で情報が少ない中安易に口に出せる事は出来ない


それに、とミリは言う






「せっかくナズナさんがシンオウに戻って神話を調べるんですもん、楽しみは取っておいた方がトコトン追究出来ますもんね」






ニコッと笑みが変わり、最後にウインクを付けて話を終わらせたミリ

あまりにも要領が多い内容で理解に乏しく、しかも最後のミリのウインクに圧倒され呆気に取られたナズナ。それは回りに聞いていた三人もそうで、長い話から突然会話を終了させたミリにどう口を開けば良いか分からない顔をしている。その顔がミリのツボを刺激したらしく、クスクスと笑い出した

それと、と誰の質問も言葉も受け付けずにミリは続く。四人を再度見渡すその顔には優しい笑みを浮かばせるが――…






「最後のナズナさんの質問には、答えたくても出来ないんです





 実は私、過去の記憶を持っていないんですよ」









憂いを浴びた、悲しい笑み





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