月光が照らす、ふたごじま

誰もが寝静まった、夜

窓から見える三日月を見上げる、二つの影





「今日の月も綺麗だな。……今も、あの月は紅いか?」

「…紅い、ね。綺麗な、でもとても…恐い月だよ。私が見えるあの月は、ね…」

「そうか…でも、こうすれば全然、恐く無いよな…?」

「うん。……とても、暖かいよ。暖かくて、安心する」





月光の光が差し込む窓の前で、窓に手を添えて空に見える三日月を見上げるミリ。後ろから包み込む様に抱き締め、ミリと習って空を見上げるのはレン





「フフッ、コーヒー飲んだお蔭で眠くないや」

「…そりゃお前、あんなもんガバガバ飲んだら誰だって眠れねぇよ」

「あまりの甘さに噴き出したもんね」

「お子ちゃま味覚め」

「む。違うよ、コーヒーが苦すぎるだけなんだってば」

「それをお子ちゃま味覚だって言うんだよ。…一杯のコーヒーに角砂糖入れ過ぎなんだよお前は。入れるなら一個にしとけ一個に」

「うー…精進します」

「ったく…」





誰もいない部屋の中にいるのは自分達二人だけ。ポケモン達も、途中で出ていったゴウキ達も、誰もいない。月光に照らされた二人の髪は艶やかに煌めき、その表情も穏やかだ。キュッと細い身体を抱き締め、艶の良い肌にキスをすればミリはクスクスと嬉しそうに笑い、またそのミリもレンの頬に唇を添えればレンも嬉しそうに目尻を緩める。互いに握って離れない絡まれた指は、離れる事はない





「……静かで、綺麗だね」

「…あぁ」

「なんだか…久し振りな気がする。こうして…二人で居るのって」

「…そうだな。いつも周りにゴウキやポケモン達が居たもんな…。幾ら数日前だからって言っても…本当に、久々だって思えるぜ」

「本当…そうだね」





今の空間を楽しみたい

誰にも邪魔されない、二人だけの空間を





「…………レン、そろそろゴウキさん達の所に…行く?」

「…ガラにも無く餓鬼みてぇに泣き叫んじまったからな…今更顔合わせるのも…気が失せる」

「…それは私も言える事かなぁ…あー、やだやだちょっと恥ずかしい…」

「…なら、もう少しこのままで居ようぜ。それくらいの我儘くらい、聞いてくれるだろ。…な?」

「……うん、そうだね」





願うなら、誰にも邪魔されない二人だけの空間が、続いて欲しい

そんな想いを込めて、重ねられた唇はとても甘く…そして優しかった







* * * * * *







「落ち着いたか、白皇」

「あぁ、まぁな。……さっきの事は脳内消去しとけ」

「残念だったな。人の記憶はそう簡単に消えはしない。衝撃的な事なら尚更な」

「よーし今から俺が直々に消し去ってやんよ」

「おぉ!ミリ君達!今そっちに向かおうとしていたんだよ。来てもらって悪いね」

「………えーっと、カツラさん。何ですかあのポケモン達が積み重なっている山は…」

「ミリ君、下を見てみなさい。ほら、長い茶髪が見えるだろ?…あ、手がバシバシ動いてるね」

「本当だ…まるで人間みたいな…」

「ちなみにアレ、ナズナだよ」

「ナズナさぁああん!?」






先程の沈黙広がる静かな部屋とは違い、別室で遊んでいただろうポケモン達がいた部屋は、とても賑やかだった

気を遣い、部屋を出て行った三人と再会をしようと部屋に足を踏み入れたミリとレンを迎え入れたのは…積み重なれたポケモン達の真下に押し潰されたナズナの姿。初めて見た光景に驚くミリに笑うカツラ。一度見れば免疫でも付いたらしいレンはすぐに標的を変えゴウキに掴み掛かり、それを軽々受け止めるゴウキ(だからお前ら助けろよ byナズナ






「ナズナさん!?生きていますか死んでいたら返事しないで下さい!」

「中々面白い事を言うね」

「い、生きて、る…!すまないが…ッこいつらなんとかしてくれ…!(バンバンバンバン」

「ガウガウ!」
「リュー!」
「ハッピー!」
「ミル〜」


ドサドサドサドサ


「グハッ…!」

「ポケモンタワーが崩れたぁああ!!……ちょ、ま、ナズナさぁああん!?口から魂出かけてますよ!?」

「ブイブイ!」
「ブイブイブイ!」
「フー」
「フィー!」
「ジバジバジバ」

「わぁあああ!?ちょっ、ソコ!便乗して乗らないの!…こらこらこらこらナズナさん死んじゃうから駄目ぇええ!…ちょ、レンもゴウキさんもナズナさん助けてあg「オラァアッ!」「させるかッ!」……だぁああああ!何なんだよこのカオスはチクショウまず二人をぶっ飛ばすぞコラァアーーーッ!!」









(暫くお待ち下さい.....)










「……助かった、ミリさんすまない…お蔭で死なずにすんだ…貴女が居なければ後少しで川渡る所だった…!」

「良かった…!クリスタルから助けてもこんな事で死なれたら本当笑えませんよナズナさん…!それにカツラさん呑気に笑ってないで助けてあげましょうよ!」

「あはは、いやぁ悪いね。こーなるのは日常だったから目が慣れてしまってね」

「慣れても助けてあげましょうよカツラさん…」





ハッハッ!と声を上げて笑うカツラにナズナはゲッソリと表情を引きつらせて盛大な溜め息を零す。ミリは二人と周りにいるポケモン達に苦笑を零しながら、レンが言っていたのはこの事だったんだ、とぼんやりとグレン島に向かう際にレンから聞いたやり取りを思い出す

中々無い光景だからお前も見とけ、と最後に付け加えられた言葉に少なからず楽しみにしていたミリ。レンが絶賛(むしろ引きつっていた)する程のナズナの一面。…しかしまさか話に聞いた内容がカオスな状態になってしまうとは予想も付かなく、ポケモン達に懐かれるナズナを見て、何でロケット団やってたんだろう…と疑問を浮かばせる。ナズナが元ロケット団員だった事を知れば誰だって思うに違いない





「おい、ゴウキ」

「何だ」

「…今の見えたか?」

「…見えなかった」

「だよなー…」





ミリの視界の隅では、取っ組み合いを繰り広げていたであろうレンとゴウキが床に沈められていた。レンの腹の上には白亜とトゲキッスが仲良く座り、レンが息を吸う事で上下に二匹は動く。対するゴウキの背中には黒恋とデンリュウが座っていて、近くでは刹那がどっかから手にした棒で二人を突っ突いている(何をしているんだ

完璧ナズナの存在をフル無視して取っ組み合いに熱中していた二人だったが…――ふと耳にしたミリの怒声に近い叫び声を聞いた瞬間…ドーンという大きな音が部屋中に響き渡っていた。視界の隅に鮮やかなオレンジがフワリと入ったと思ったら…気付いたら、自分達は床に沈められていた。見事な背負い投げだった





「流石は舞姫…取っ組み合い中の俺達を光の速さで押さえ込むとは…」

「あー懐かしいぜ…俺達が出会ったばっかだった頃、光の速さでゲンコツ一発貰ったな…アレはマジ脳天に響いたのを覚えているぜ」

「お前は一体何をしでかしたんだ。…いや、疑問に思う前に今更だったな」

「テメェ言ってくれるじゃねーか…」

「「ブーイ」」
「フィー」
「リュー」
《………(つんつん》





「はーいそこの二人に乗ってる四匹と棒を突っ突いている刹那〜(てか何やってんの刹那)。夜の夜食タイムですよー」











早く話を進めてくれ





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