「ジョーイさんの話に聞いたら、俺は道端で倒れていた所を当時のナギサジムリーダーに助けてもらっていたらしい。…礼も兼ねてゼルの事を聞いたら、やっぱり『居なかった』って言われた。…それまでは良かったんだ、それまでは…」





夢かと思った

最悪な、悪い夢を



けどそれが現実だった事にすぐに気付いた




―――誰も、ゼルジースという存在を、知らなかったのだから






「信じられなかった…俺達が旅路で会話した奴等も、訪れた先のジョーイさんも、ジムリーダーも、小さい頃のダチも、全員が…アイツを、ゼルジースの存在を忘れて……いや、まるで最初っからゼルジースの存在が無かった事になっていた。…唯一、救いだったのは両親だけがゼルの存在を覚えてくれていた事だった…」






「ゼルジース…っ私は認めないわ!どうして、あの子が消えなくちゃいけないのよ!何で、皆ゼルジースの事を、忘れているのよ…っ」

「母さん…」

「レンガルス…お前だけでも、無事で良かった。…希望は捨てては駄目だ、母さん。…アイツは、何処かで絶対に生きている。信じるんだ」






希望は捨てては駄目だ

そうだ、希望は捨ててはいけない

アイツは、生きているんだ




――絶対に、見つけ出してやる







「それから、俺の旅はいつしかゼル探しに変わって、ゼルを探す情報を集めまくったら、情報屋になっていた。…あの時結構荒れていたのもあったからな、がむしゃらにバトルしまくって色んな情報を貰いに旅していたら、気付いたら俺は【白銀の麗皇】と言われるまでになっていた。…気に食わなかった名前だったが、ゼルが生きているなら…同じ容姿をしているんだ、絶対誰かが俺をアイツと間違えてその情報がポロッと出てくるに違いねぇ。…気に食わなかったけどな」






今思えば、相当荒れていた

いつも片割れがいた存在が無くなった、孤独


旅の楽しみなんてさらさらなく、力と情報だけを求めていた、あの頃

人やモノになんて執着なんて湧かず、目標だったチャンピオンの地位にも興味が湧かず……全てが全て、灰色同然だった







「俺が17の頃だったか…、家にも一本の連絡も入れずに色んな地方飛び回っていた俺に、連絡が入った



 両親が、事故で死んだって…な」






突然の、連絡だった

慌てて帰って来た自分を迎えてくれたのは、見るも無残な姿になった両親の亡骸

原因は…忘れた。あまりにもショックで、あの頃の記憶が曖昧過ぎていたから。…ゼルジースという片割れを失った自分を、ずっと支えてくれた両親を亡くした俺は…もう、目標が見失いかけていた


その時だった






「ポケモンの声が、聞こえたんだ」






「主人、目標を見失ってはいけない。…忘れてはならない、あの日の事を。主人には、ゼルジース殿がいる。…ゼルジース殿を、信じるんです」






空耳かと思った

むしろ夢かと思った

でもこの声は確実に――目の前の、エルレイドから聞こえていた。テレパシーでもない声に、驚いた。エルレイドだけじゃなく、全てのポケモン達の声が、自分の耳でしっかりと聞こえていた

何故、ポケモンの言葉が分かる様になったのかは――当時の俺は、理解が出来なかった






「それから俺はウォッチャーになろうと決めたんだ。…きっかけなんて単純だ。元々絵描くの得意だったし、観察が好きな方だった。それにポケモンの声が聞けているなら、また違った一面も見えるだろう、てな。…はっきり言えば、バトルに疲れていたんだ、あの時の俺は」






ウォッチャーなんて、只の逃げだ

バトルから身を引く為の口実に過ぎない


エルレイドを残し、他のパーティを全て変えた。俺が【白銀の麗皇】とバレない為にも、情報を集めやすくする為に






「……今回の件で、ナズナの事を調べ始めようとしたのは、俺がカントーに来た時だったか…いや、始めは探す気は無かった。どっかの話で聞いただけの噂だったから、興味は湧いたが追及する気は起きなかった」






沢山の情報を集めた

他の奴等が、俺に情報を求める程に


今回も手に入れた情報は興味を示すモノがあった。…色違いのイーブイが、実験台になったイーブイが逃走し、研究所は大爆発。情報からだと対照的なイーブイだって話を聞いて、興味が湧いた。対照的な色、どんな色なんだろうかと

たったそれだけの、興味だった


――しかし






「その時に、ミリに出会ったんだ」






初めて見たミリの印象は、オレンジ

センターに居た俺は珍しく寝坊して、朝食時丁度回りに席が無かった。その時俺の視界にオレンジが…ミリが入った。まさかそのミリの手持ちに対照的なイーブイ…白亜と黒恋を手持ちにしていたなんて気付く訳がない。一人で朝食をしていたミリに、朝食食べる為にも何気無く話し掛けたのが始まりだった

好きな色を身に纏っていたミリは、少し会話をしただけでも――灰色だった俺の世界を明るく照らしてくれた

久々に、笑えた気がした







「白亜と黒恋を知ったのは、コロシアムの中継を見た時だ。…アレにはかなり驚かされたぜ、まさか対照的なイーブイが数週間前に出会った人間の手持ちに居たなんてな」






そして感じた、過ぎった予感

もしかしたら、これは当たりなのかも知れない






「只の勘、にしてはどうもその言葉で済ませるモノじゃなかった。…白亜と黒恋を見て、確かな核心が芽生えたんだ。…あの二匹の事件の裏に、また何か別の事件が潜んでいる。もしかしたら、ゼルの事も分かるかも知れねぇってな」






仮定はともかく、結果はビンゴ


対照的なイーブイの白亜と黒恋

実験させた張本人のナズナ

ナズナから解き放たれた記憶の光の欠片


…そして、ナズナを陥れたゼルジース







「…繋がっていたんだ。何もかも。……俺の勘は、当たっていたんだ」







ゼルジースは生きていた

生きて、くれていた




嬉しかった、泣きたかった




でも――黒幕だった事が、ショックだった






「…あの時、無理矢理でもゼルを気絶してでも森の中に入らなきゃ良かったんだ。……ゼルジースは、変わってしまった。…全て、俺のせいで…優しいアイツを、狂わせてしまったんだ」






もし、過去に戻れるなら

あの頃に戻って、

無くしたモノ全てを、取り戻したい








(無理な事はわかっている)(でも、叶うなら…返してほしい)



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