もうこの時から

俺達の運命が…狂い始めた









スイッチが入ったゼルは本当に有言実行する奴だった。回りが見えなくなる、そんなゼルは何度もレンや両親や当時の友達を振り回してきた

最近捕まえたスボミーを使って、ゼルは嫌がるレンを無理矢理連行させた。つるのむちは本当に便利だな、と鼻歌で呟くゼルをテメェぜってぇー殴り飛ばす!と叫ぶレン。自分の中にある嫌な予感は一向に膨れるばかりで…何故、こんなにも自分は焦り、この嫌な予感は消えてくれないのだろうかと戦慄する。とりあえず抵抗するもお構いなしに進んで行くゼルを、帰って来たら夕飯の中に(憎しみを込めて)たっぷりの激辛唐辛子を練り込ませたモノでもぶっかけてやろうと目論むレンだった


そして連行されて着いた先には、目を張る程の綺麗な湖が広がっていた






「うわっ…すげぇな」

「っ…」







瑞々しく、神々しい湖

清々しい、新鮮な空気

透き通る水が、光を浴びて輝く


生まれて初めて、こんな綺麗な場所を見た







「すげぇ…ははっ!ほら、レン!俺の言う通りじゃねーか!!」

「あ、あぁ…」







抵抗も忘れ、己に潜む嫌な予感を忘れレンは只ただ、目の前の景色に魅入る。スボミーに蔓を解かれても、目の前の湖を、食い入る様に見つめる。ゼルは自分の予感が当たった事で上機嫌になり、嬉しそうにレンに言葉を投げ掛ける

ルンルンとしながらスボミーをボールに戻し、ゼルは目の前に広がる湖を見渡す。自然の風景が好きなゼルにとって、この湖の存在は大きく心に響いたんだろう。うっとりとした、それでいてキラキラした目を全体に見渡す

対するレンはハッと正気に戻ったと同時にドッと嫌な予感が押し寄せた





「ッ…ゼル!もう良いだろ!?…さっさと帰るぞ!」

「はぁ!?せっかくこんなすげぇ場所に来れてそれはねーよ!」

「ざけんな!本当にマジで帰るぞ!」

「お、なんか湖の中央になんか発見。…アレは、紅い祠か?へぇ、見ろよレン!あの紅い祠を中心に四つの祠がそれぞれあるぜ!」

「聞けよ!」







湖の中央には、紅い祠

それは大きくて壮大で、立派なもの

紅い祠を中心に、泉の淵の北南東西それぞれ四つの小さな祠が聳え立つ



森の中に囲まれた、不思議な湖

とても幻想的で、とても美しい






「っ…」



―――ドクン、ドクン


「ッ、マジで帰るぞ、ゼル!」






嫌な予感が心臓を速めさせる。切羽詰まった表情で冷や汗を拭うのも忘れ、ガシッとゼルの腕を掴む。早くこの場を離れないと、何かが崩れる。グルグルと焦りがレンを襲う

…しかしゼルはそんなレンを目もくれず、うっとりとした表情を変えずに眼前に見える祠を見つめていた。レンが強く腕を引いても一歩も動かないゼルは、もうレンの言葉が届かない

しまいにはその腕を振りほどき、湖の淵にまで走り出してしまう。完全にレンの存在を忘れたゼルは、もう何も見えない。「ゼルジース!」と叫ぶが振り向かず、止まってくれないゼルに舌打ちするレン。嫌な予感を押し止どめて、仕方無くその後を追った






「…レン、見ろよ!祠の中央…なんかオレンジの光が見えねぇか?」






湖の淵に着いたゼルは、遠くに見える祠の中央に光る"何か"の存在を見つける。レンはゼルの隣りに到着し、肩で息を切らせながら指を指された場所を目で追う

確かに眼前に見える祠の中に、小さいがオレンジ色の光りが輝いているのを微かに見えた。優しい色をしたオレンジ色を見て、微量だがレンを安心させた






「綺麗だな…」

「あぁ…」







自分の瞳の色は好まないが、片割れの瞳の色は好きな二人。小物とか服とかは主にその色で、黒とかそういう色も好んでいた。しかし誰にも言っていない二人の好きな色は、眼前に見えるあの光の色みたいな、オレンジ色だった

自分の家の部屋から見える、海の地平線から覗く太陽から零れる夕焼けの色。空はオレンジ、海もオレンジ一色に染まるその光景が、二人は好きだった。一時の間だけど、全てを一色に染めてくれる、あの色を







―――…め……めよ……―――


―――わ…の…生ま…り…―――







「ッ!!」






また聞こえた、声

ゾクッと寒気が走り、現実に戻る






「また聞こえた。あの祠からか…?」

「ゼル!帰るぞ!もう良いだろ!?」

「よし、祠に行くぞ!」

「ハァ!?」







突拍子に言われた言葉にレンは目を張る。ガシッとレンの腕を掴み、前に進もうとするゼル。慌てて足を踏ん張って前を進むのを拒むレンに、振り返ったゼルの眉が歪む

そんなゼルをお構いなしにレンはゼルの腕を掴んで逆方向に引っ張る。ゼルの方も突然引っ張って来たレンに驚き、慌てて足を踏ん張る。レンも眉を歪ませゼルを見れば、バチバチと火花が散った。お互いがお互い、同じ格好をしていて、しかも間に花火を散らす姿は何処か滑稽だ






「帰るぞ」「行くぞ」


「「………」」


「行かねぇ」「帰らねぇ」


「「………」」









「行くぞレンガルス!!!!」

「帰るぞゼルジース!!!!」

「テメェ行くっつったら行くんだよ!何怖じ気付いてんだよ!行かなきゃ男が廃るぞ!?」

「テメェ道迷った分際で何言ってやがる!怖じ気付くとかそういう問題じゃねぇよマジで帰るぞゼルジース!つーか何処から聞こえる男の声が聞こえた時点で普通にヤバいだろ!?」

「知るかぁああ!お前がそんな奴だったとは思わなかったぜレンガルス!見損なったぜ!」

「ざけんなぁああ!俺はお前がそんな無鉄砲な奴だとは思わなかったぜゼルジース!馬鹿じゃねーのか!?」

「なんだとゴルァアア!!!」

「やんのかゴルァアア!!!」






ゴッ





「「グォォォ…痛ってぇなこの石頭めがぁああ……!!!!」」






引っ張って、引っ張られ

胸倉を掴み、掴み返され

最終的には自分の額を同時にぶつける二人は本当に馬k(ゴホン)…双子なんだな、と思わせる






「テメェェェ…ぜってぇー夕飯の飯に激辛唐辛子混ぜてやる…!!」

「ハッ、甘いな…寝ているお前の口に角砂糖たっぷり入れてやる…!!」

「んだとゴルァアア!!……オラァアッ!十字固めッッ!」

「グァッ!?テメェやりやがったな!?……このっ、肩固めッッ!」

「ギャッ!?コイツ!……良いだろう倍返しにしてやんぜこの野郎ぉおおおーーッ!!!!」

「それはこっちの台詞だこの野郎ぉおおおーーッ!!!!」







ガツン!!













―――目覚めよ、同じ魂を持つ者よ




私の力と記憶を、受け継ぎ




今一度、あの方と……――








フワッ…







取っ組み合いを始め、互いに渾身の一撃を与えた二人の前に

紅い祠に届く、橋が現れた






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管「この双子ウケる」





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