ゼルジース=イルミールは俺の双子の兄。…双子だから、もあるが良く他人に間違われる程似ていた。性格も当時はまんま一緒だった。…が、人間全てが一緒なわけじゃ無い。性格が一緒って言ってもそれは二人一緒に居る時で、一人ひとりの個性とか性格とか違っていた。…あの頃の俺は、右も左も分からねぇクソ生意気な餓鬼だったな。それはアイツにも言えるんだが…。同じ双子でも、アイツは優しかった。傷付いたポケモンなんか見つけると無我夢中で抱えてダッシュでセンターに持って行ったりとかして、結構振り回されたりしたな。俺の場合、優しいっつーよりも…お節介でな、ゼルが持って来たポケモンを介抱したりその後の処理とかしてやっていた

アイツは傷付く事も傷付かれる事も嫌いだった。誰よりも、人の痛みを分かる奴だった






「…一つの楽しみを、二人で分かち合おう。二人で旅して、二人で世界を見て、二人で当時のチャンピオンをボッコボコにして最後は二人でチャンピオンに君臨して、最後は互いに大切な存在が現れるまでずっと一緒だ、ってな…幼いながら良くそう言っていた」






俺はゼルが好きだった

双子だから、兄弟だから

俺にとってゼルは大切な存在で、欠かせない存在だった




二人で居れば怖くはない

二人で居ればチャンピオンになれる

二人で居れば困難に乗り越えれる


そう、思っていた





現に俺達は調子良くバトルに勝っていったり、途中で巻き込まれた事件にも立ち向かっていけた。嬉しい事、楽しい事、負けて悔しい気持ち全て一緒に分かち合った。分かち合って、それをバネにして俺達は勝ち進んだ

順調だった。何もかも






――しかし、









「俺達がミオシティから出て旅をし始めて、暫く経った時だった






 俺達は、不思議な森に迷ってしまったんだ」








* * * * * *









「なぁ、レン。これがハクタイのもりか?なんか違う気がするんだけど…」

「気がするんじゃねぇよ、違うんだよ。ポケギア見てみろよ明らか違いすぎるだろ」







トレーナーになって、一緒に旅をし始めてから約数ヶ月

ミオシティを出発点として様々な町を訪れたレンとゼル。行く先々で出会ったトレーナーを千切っては投げ千切っては投げての繰り返し、相手を完封無きまでに叩き潰し、ジムがある町には挑戦状を叩き付けたりと、二人は順調に駆け出していた

この時点で二人のバッチは二つ(コールバッチ・フォレストバッチ)を獲得してあり、彼らの手持ちのラルトス二匹は数々のバトルをこなし、無事にキルリアに進化していた。二人にとってキルリア達の存在は欠かせず、一つひとつのバトルを勝利する度に喜びを分かち合っていた


さて、そんな絶好調な二人は今、漠然と広がる一面の森に、ただ唖然とするばかりだった






「またお前道間違えただろ」

「いや、ちゃんと地図見たしジョーイさんにもジュンサーさんやポリスマンや(以下省略)に聞いたぜ?…おかしいな、ちゃんと言われた道のりを辿ったはずなのに…」

「……はぁ、今日は『俺が先陣を切る!』とか言ったもんだから任せたのが失敗だったぜ…。………そうだよなー、お前は方向音痴だったよなー!うっかり親父に負けないくらいのうっかりだったよなー!任せた俺が馬鹿だった!」

「はあ!?おま、あんの親父と一緒にすんじゃねーよ!俺の何処があのアホ親父と負けないくらいうんたらなんだよ!」

「現に道間違えてるんじゃねぇかぁああーーーッッ!どうしてマップの現在地がアッチに移動してんだよ!?馬鹿でもこんな迷い方しねぇよ!」

「知るかぁああーーーッッ!それはこっちが聞きてぇよ馬鹿野郎ぉおおッ!!こちとら道間違えねぇ様に必死なんだよォォオオーーッ!!だったらお前も何か一言言えよ!何一人でビッパのホッペ堪能してんだよ!?」

「逆ギレすんじゃねーよ!!てか別にいいじゃねぇかよビッパのホッペつっつくぐらい!マシュマロみたいにフニッて指が埋まるんだぜ!?そもそも道はお前に任せてあるんだから自分の言葉位責任持てゴルァアアア!!」

「ざけんなぁああ!!俺だってビッパのホッペ堪能してぇんだよォオオーーーッッ!!……クソッ!お前なんて恐いモノが嫌いなくせに!」

「テンメェエエエエーーーッッ!!どぅわぁれが恐いモノが嫌いだってぇええ!?どぅわぁれがお化け屋敷とか墓地とか心霊スポットとかビデオとかが苦手だってぇええ!?あ゛ぁ!?昨日だって早く寝たのは俺が見る心霊番組を避けるつもりだったなんて聞き捨てならねぇぜゴルァアアゼルジース!!」
※そこまで言っていない

「ハッ、ざまぁねぇなレンガルス!!ロストタワーとか行きたくねぇのはお見通しなんだよ!!一人でビクビクしながら彷徨ってゴーストタイプと仲良くなるんだな!!」

「テメェ言ってくれるじゃねーか…!!……つーかこの話今全く関係ねぇだろ何話逸らしてんだよさっさとこの状況を打開する策考えやがれやチクショォオオーーー!!!!」

「るせぇええーーッ!!言われなくても考えてるわゴルァアアアーーッッ!!お前も文句言う前に考えやがれやチクショォオオーーー!!!!」







会話を聞いて理解された方は生暖かい目で見守ってやってください←



今回、いや今日に限ってゼルが次の街に俺が進める!とレンから地図を奪ったのが始まりだった。レンの制止振り切り、「ちゃんとジョーイさんやジュンサーさんやポリスマンや…(以下省略)にしっかり聞いてきたから大丈夫だ!!」と珍しく熱く言いくるめて来るものだから、「まぁそんなに沢山聞いてきたなら大丈夫だろう」と片割れの努力を無に帰せない為にも、レンは道案内を全てゼルに任せた。多少、いやかなり心配な事がモヤモヤと浮上していたが、ゼルもそんなに馬鹿じゃねぇ、と全てを任せていた


しかし、任せてみたら気付いた時には既に知らない森に迷ってしまっていた



レンは後悔した

あぁ…やっぱゼルはゼルだ、と



自分のうっかり父親の遺伝子を受け継いでいるレンとゼル。本人達が否定しても、確実に父親の血(遺伝子)を受け継いでいた

父親は双子や妻にも言われる程、うっかりだ。自分の眼鏡何処やったっけ?とグルグル探すが全然見つからない。家の中全部探しても見つからない眼鏡は、結局見つけた場所が自分の頭の上にあったという実話(むしろ伝説)がある程に。残念な事に父親を誇れるものは無く、その証拠に彼は極度の方向音痴で、そして極度の恐がりだった。右を指せば左に走り、ゴーストタイプが驚かせば泡を吹いて倒れる。良い面はちらほらとあるが、自分達が受け継いだのはまさに彼らが最も嫌がるモノだった


ゼルは父親の方向音痴を

レンは父親の恐がりを


父親程、過度じゃないのが救いだった。ちゃんとゼルは右を指せば右に行くし、人にちゃんと聞けば目的に(なんとか)着けれる。レンの方もゴーストタイプが出てきても昏倒せず(ポケモンは平気)、心霊関係の番組見ても(なんとか平常心で)普通に居れた。ゼルと同じで誰か人が居ればロストタワーやらなんやらに行けれるが、つくづくあんのクソ親父いつか絞めると毒突くばかりだ

その代わり、母親はしっかりしていた。もう、それは神経質じゃないかと心配される程に。本当に父親と正反対過ぎてどうして結婚出来たのか不思議でしょうがない。しかし嬉しい事に双子は母親のしっかりした所はちゃんと受け継いでくれていた。しかもほどよく中和されて←






「あー、一体此処マジ何処だよ。おかしい…言われた通りに進んだはずだぞ俺」

「どーするんだよ、このまま時間が過ぎると最悪野宿だぜ?それだけはマジで避けてぇからなんとかしてくれ。この際綺羅達のテレポートでセンターに戻ろうぜ」

「いや、この際このまま進んでみるのもアリだ。なんかあるかも知れねぇぜ?珍種のポケモンとか強いポケモンとか」

「そりゃそうかもしんねぇけどよ…こんな訳もわかんねぇ森に彷徨って野たれ死ぬなんて俺はゴメンだぜ?」

「だったらレン、お前は此所にいればいい。俺ちょっくら行ってみる。つーか行く」

「や、お前ちょっと待て。お前は重大な事を忘れている。俺達は仮にもあのうっかり親父の息子だと言う事を忘れるな」

「何事にも探求心が大事だぞレンガルス」

「知るか!俺は安全な道を選…」








―――…れか……―――







「…ん?」

「おい、レン。お前何か言ったか?」

「いや、俺はなんも…」










――……めざめし、ち…――





――……うまれ……ふたたび……――









「……聞こえるな。男の声、か…?」

「……………」

「森の中から聞こえてくる…おい、レン。どうす………おーい、レン〜?生きてるかー?」

「ムリオレカエリタイ」

「よし、生きてるな」







突然耳に響いた、声

遠くから聞こえてくるのは男の声


――それは、森の中から響いていた






「……ゼル」

「あ?」

「俺…すっげー嫌な予感がする」

「…そうか?」







背後からじわじわと這う嫌な予感

森から響く、まるで誰かを呼んでいる様な声に、自然と身構えてしまう


レンは眉間に皺を寄せて森を睨み付ける。本能が、あの森に入るなと訴えていた。たらりと額に垂れるのは自分の冷や汗。何故だろうか、この森に入ってしまったら…何かが崩れる予感が、した






「そりゃお前、こういうの苦手だからそう思うんじゃねーか?」

「…いや、違う…そんなんじゃねぇ。アレだ…本能が、行くなって言っている」

「…ふぅん。俺は逆に、本能があの森に行けって言っているぜ」







カシミアブルーの瞳を輝かせ、珍しくうずうずして森を見るゼル。その顔を見てヒクリと口元が引きつった


この場合のゼルは何を言っても聞いてくれない。キラキラ輝かす光は、自分を写してはくれない

危険信号が、レンの中で鳴り響く






「レン」

「駄目だ」

「いいじゃねぇか。行ってみようぜ?」

「ヤダ、駄目だ。俺は行きたくねぇ。ぜってぇーぜってぇーマジで行きたくねぇむしろ行かねぇ」

「…スボミー、つるのむち」

「スボー」

「あ?…は、ちょ、おまぁあああ!?ッなにしやがるゼル!スボミーとか反則だろ!?」

「往生際の悪い奴は強制的に連行するからな〜。スボミー、行くぞ」

「スボミー」

「ヤメロォオオオーーッッ!俺は行きたくねぇんだ!離せ、ッ…嫌だぁあああ離せこの野郎ぉおおおーーーーーッッ!!!!」















あの時、無理矢理でも


アイツを…止めれば良かったんだ








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