人の成長を見届ける

それが唯一私が出来る事


今日もまた、一人

黄金を纏って、巣立って行く










Jewel.36













今思えば、随分と沢山の異世界を巡り渡ってきたと思う。戦時中の最中だったり激闘の乱戦だったり、又は平和な世界だったりと…―――各世界の特色が様々な異界を、確かに私は歩んできた

何十という時を越えただろう歳にもなれば、私にも弟子という存在が現れてくる。笑える話、物好きな人達がいたもので私の強さに憧れた者、私の聖性に惹かれた者、私の存在に確信を持って強さを求める等様々な理由で私の背中を追う者達が後を絶たなかった。こんな私にどうして…、と何度も疑問に思った事か。当初はソレがとても嫌(というか恥ずかしくて)で逃げていた事があったけど、年齢という止まってしまった歳月を重ね、様々な経験を重ねてきたた事で次第に私の考え方が変わっていき――――今では羞恥という拒絶を感じる事は無くなり、弟子という存在を受け入れていく様になった

所詮、私は世界を去る身だ。いつまで滞在出来るかが分からない。フレイリの所為で勝手に強制送還させられる事だって何度かあった。こんな中で正直弟子だなんていても面倒くさいし、意味もない事だけど―――…この私が"何か"をした事で、彼等の為になるならば、そして、少しでも私がその世界に居た証明になってくれたのなら、私は誠心誠意を込めて精一杯の事をしてあげよう

私は来る者は拒まず、去る者も拒まない。その事もあり、そうしていく内にいつの間にか私の後ろには沢山の人達が後を追っていた。この世界でいうと、私の力に惹かれ手持ちに入ったポケモン達や忠誠を誓う神々のポケモン達だったり

勿論、それはこの世界に住む人間達もそうだった






「――――ミリ!見つけたわよォォォ!会いたかったわ!そんなわけで早速バトルしましょうバートールー!」

「元気だね〜」







聖地から始まり、このシンオウ地方を歩んでからも、一人また一人と私を師として慕ってくれる人達がいた

その中にも、彼女はいた

彼女は私を友と呼び、ライバルと呼び、姉妹とも表現した。師として、という表現はしていなかったが――――しかし、結果彼女は他の者達同様に私の後を追ってきた。私に勝ちたいが為に、共に隣で立ち歩む為に

彼女は私にとって数いた弟子として、血の繋がらない"きょうだい"として、そして友としての一人にしか過ぎない。けれど、この世界の住人として住む彼女は私にとって特別な対象だった。彼女という人間性を始めとした様々な要素に、いつの間にか吸い込まれていたのだから―――…





「――――…もう!ミリ!次は絶対に本気出して戦ってもらうんだから!そして次も絶対、私達があなたに勝つんだからね!」








――――――
――――
――










ドォォオオオン―――――…







『決まったああああああッ!聖蝶姫のダークライが繰り出す最後の一発のはかいこうせんが空中飛び交うトゲキッスに必中したァァァァ!空中戦を制したのはダークライ!まさかダークライが空中戦しでかすとは思わなかったぜぇえええ!ダークライ必殺、ダークホールそしてあくむコンボが繰り出す地獄の技に空中戦と体力に自信があったトゲキッスも流石に精神的に無理だったかーーーーッ!二匹のバトルが始まって…約一時間と15分!すげぇ!さっきからそうだったがこんな長期戦もりもりなバトルは初めてだァァァ!ダークライかっくいいぜ!トゲキッスも可愛い顔してかっこよかったぜぇえええ!第四試合を勝利したのは聖蝶姫ェェェ!』

「「「ウオオオオオオッ!!!!」」」








空は、青々として晴れ晴れとした晴天だったが―――気付けばもう、空は夕暮れの色が空を染め上げようとしていた

地面は揺れ、爆風が巻き起こり、光線が飛び交う。それはまるで別の世界で嫌でも見続けた戦場と酷似している様で

バトルはどちらも一歩も引かない激しいものだった







『さてさて次に金麗妃が繰り出したのは、金麗妃が最も信頼している相棒!ガブリアス!その雄々しい姿はまさにシンオウリーグチャンピオンの最終ポケモンとして相応しいポケモンだ!第四試合で勝利したダークライは引き継ぎ試合継続となります…―――――お、おおお!?おおおおおおっとぉおおお!!こここれは!なななな、なんと!早い!試合開始してから瞬殺とも言ってもいい早さで勝敗が決まったああああああッ!ガブリアスのギガインパクトがダークライに必中!どうやら急所に当たった様だ…!やはりトゲキッス戦での疲労とダメージ、そしてガブリアスの技の重みがダークライをフィールドの壁に叩き付けられたァァァァ!まるでお前には興味が無いとばかりの勢い!強い!やはりガブリアスの宿敵は聖蝶姫の右腕、水色のスイクンかぁあああ!!?』





「――――戻って、闇夜」








心夢眼のシンクロが切れ、本当に意識が無くなり審判から判決を下った闇夜を、今まで私の目に徹底(むしろ傍観)していた刹那がサイコキネシスで回収する

壁にめり込んでいた闇夜の身体が剥れ、浮かび、ゆっくりとこちらに向かってくる。意識を取り戻したのか私の前に辿り着くと《…申し訳ない》と視線を伏せる闇夜に私はよしよしと黒銀色の身体を撫でる






「ありがとう、闇夜。素晴らしい戦いだったよ」

《…あのガブリアス、以前より強くなっている》

「そうだね。あのガブリアス、素早さと攻撃力がより一掃磨きが掛かっている。いくら一戦終えているからといって、君を一発で倒すくらいだからね。…お疲れ様、闇夜。ゆっくり休んでね。ボールの中で休む?」

《いや、影の中で休ませてもらう。…蒼華、後は頼んだ》

「…」
《あぁ》







第一試合、バトルの流れを決める重大な役目を、ルカリオの朱翔が担い出場した。相手は朱翔が最も嫌悪する、ルカリオ。リオルから育てていたシロナのルカリオは立派に成長し、今となれば大舞台に立つ雄々しい姿へと変貌を遂げていた。シロナのルカリオはリオルの時から朱翔に憧れを抱いていた(朱翔は嫌がっていたけど)。何度かバトルした事はあったにせよ、朱翔と真っ向勝負が出来る事が一番嬉しそうに見て取れた(朱翔は嫌悪感故に闘争心丸出しにしていたけど)。そして始まったバトルは、前々と比べて見事な戦いっぷりだった。初戦から長期戦に持ち込んだこのバトルは二匹の体力を激しく消耗し、互いの放った渾身のはどうだんがぶつかりあい―――フィールドに力尽きて倒れる二匹を最後に、引き分けという形で決着が着いた

第二試合はミロカロスの水姫。対するシロナも繰り出してきたのは、ミロカロス。またもや現れた同種同士のバトルに観客の熱もヒートアップしただろう。シロナのミロカロスは水姫の数少ない友達だった。二匹が仲良く水浴びしている姿を何度微笑ましく眺めていたか。二匹はまた、私達と同じで友達でもありライバル同士、ミロカロス同士何か通じるものでもあるのかもしれない。そして始まったバトル、こちらもまた見事なバトルを繰り広げてくれた。水姫は基本コンテスト専門として活躍しているが、バトルの方も引けを取らないくらい強い。シロナのミロカロスもまた一段と強く、美しくなっていた。持久戦を得意とする二匹のバトルは長期戦に持ち込み、朱翔と同様に渾身のぜったいれいどを互いに繰り出し―――お互い見事綺麗な凍り付けになり戦闘不能、引き分けという事でバトルは幕を閉じた

第三試合はアゲハントの風彩。中継戦を担う風彩の相手はトリドトン。この二匹もまた仲が良く、よく日向ぼっこをして遊んでいる姿を目撃していた(基本シロナのポケモン達とは仲が良い)。その中でも始まったバトルはお互い鋭くて激しい攻防を繰り広げ、またもや長期戦へ持ち込んだ。最後は持久戦を苦手とする風彩の体力が徐々に尽き欠け、ソレを狙って放たれたトリドトンのストーンエッジが炸裂し、攻撃を避けきれず風彩が戦闘不能になってしまう

一試合二試合を終え、三試合でやっと勝敗が決まったこのバトルは試合の流れを大きく変えた事だろう。しかし私も簡単に流れをそちらに持ち込ませるつもりはない。そのままトリドトンの試合で続行したバトル、ダークライの闇夜を繰り出し―――風彩とのバトルで疲労したトリドトンを一発で倒し、流れを中立に戻す事に成功する

それから始まった第四試合はダークライの闇夜、相手はトゲキッスで始まった先程のバトル。一撃で倒したとはいえ、一試合を終えていた闇夜には本当に頑張ってもらったと思う。長期戦で、しかも空中戦(いやぁまあダークライってそもそも宙に浮いているから出来る事は出来るけども)、対するトゲキッスも可愛らしい顔とは一変した力強くて図太いバトルだった。人懐っこくてちまちまチョキチョキ鳴いていたあのトゲピーの時とは偉い違いだ。勝利は闇夜になるも、次に繰り出してきたシロナが最も信頼するガブリアスの攻撃で急所にあたり、戦闘不能になってしまう

そして次は、第五試合――…







「――――……さて、蒼華。次は君とのバトルを一番に望む子とのバトルだよ」

「…」
《奴もまた一段と逞しく、牙が鋭くなったのが見て分かる。闇夜を一撃で倒せたくらいだ、強くなったのは認めよう。だがしかし、自分の宿敵になれるかどうかは話は違う。全ては主人の勝利の為に戦うのみ。ただそれだけだ》

「フフッ、手厳しいね。でも…―――違いない」








今までも、蒼華との決着を望む子達が多くいた。目の前に立ち塞がるシロナのガブリアスだったり、メリッサのゲンガーだったりと。それだけ蒼華の存在は威圧的で魅力的で―――誰もが目指す、憧れの存在だったに違いない。気持ちはよく分かる。蒼華の力は手持ちの中でも一番強く、神々のポケモンを含めた全てのポケモンに一目置かれている。私もソレには同感で、蒼華には絶対の信頼を持っている。彼が負ける事は無いだろう、勿論、私を裏切る様な真似なんて、絶対

皆は蒼華を宿敵として追い掛けてきた。けど蒼華は残念ながら彼等の事を宿敵とは思っていない。否、思えないのだろう。あまりにも力の差があり過ぎた。何百年という長い時間を生きてきた蒼華に、叶う相手は何処にもいない

―――……いいえ、違う。唯一、蒼華に対抗出来て、激闘を繰り広げ、時には共に共闘しあい、蒼華が宿敵と認めた相手が確かに存在した。しかし―――…時が流れ、前世の記憶が無い以上、確証は無い

今日もまた、蒼華はフィールドに立ち、その圧倒的で威圧的で、絶対的な力を存分に振るう。そしてまた、対峙する相手が自分の宿敵になるに値する相応しいポケモンかと見極める為に






「…」
《―――…だがしかし、手加減して戦うのも苦労するというのにこちらの意図を知らずに本気のバトルを望むとは。奴等は余程、氷結の先に在る死を見たいらしい》

《うーん、いくらミリ様の制御の力があるからって、昔と変わらず蒼華の力は強いから……死者が出ないか心配だよ》

《一理ある。蒼華、公平なバトルだとはいえ、死者を出すなよ》

「…」
《出来ればそうしたいものだ。しかし主人が奴等と約束を交わした以上、約束を違える事は避けたい。…主人よ、どうする?》

「あ、あはー。そうだね…とりあえず、ぜったいれいどとはかいこうせんを禁止しておけば全然違ってくると思う。いつもラストフィニッシュはそれで決めていたからね――――……さぁ、蒼華。これが最後のバトルだよ。楽しんできてね」

「…」
《承知した。後は主人の指示に従おう》







蒼華が優雅な足取りでフィールドに歩んで行けば、益々歓声は上がり、客席のテンションが高く上がっていく。それはもう、このシンオウの寒さを吹き飛ばすくらいの熱さだった

蒼華からの眼で通じる、心夢眼で見た光景

眼前に立つガブリアスと、少し遠くに控えるシロナの姿。闘争心に燃える二人の眼はまっすぐ蒼華に向けられていた。今にも戦い出したいとばかりに雄叫びを上げるガブリアスに、蒼華も雄々しい雄叫びを上げた








『とっ…とうとう現れたぁああああッッ!聖蝶姫の右腕!聖蝶姫の相棒!三強の内の一匹の、スイクンの登場だァァアアア!』

「「「ワアアアアアア!!!!」」」

『人間でもポケモンでも同様に全てに置いて一目置かれている聖蝶姫のスイクン!誰もがスイクンとのバトルを望んでいるのは周知の事実!ジムリーダーも然り、コンテストでラストバトルを繰り広げたジムリーダーでもありコーディネーターでもあるメリッサさんのゲンガーも然り!そして金麗妃のガブリアスも、聖蝶姫のスイクンとの決着を望んでいる!バトルが開始され、昼飯を抜いてまで長期戦へ持ち込みまくったこの特設リーグ大会はかれこれもう6時間が経過しようとしている!長い!長いバトルだ!空腹を忘れちゃうくらい迫力があって見応えがあるこのバトル!最後の第五試合は一体どんな激闘を繰り広げてくれるのかッ!これは絶対に眼を離しちゃなんねぇ!お前らァァァ!絶対に見逃すんじゃねぇぜぇえええ!!』

「「「イェェエエアアアア!」」」







ああ、なるほど。もうそんなに時間が経っていたんだね

楽しい時間って、あっという間に流れてしまう。少なくとも、私はこのバトルを楽しんでいた。シロナ達が此処まで成長した姿を見て、心が踊っていた







「―――…とうとう出てきたわね、スイクン!ミリにとって一番信頼し、一番強いポケモン……あなたとのバトル、すっごく楽しみにしていたわ!」

「ガァアアアアッ!」

「今まではあなたに勝つ事は出来なかった。私達がまだまだ未熟で弱かったから。……でも、今は違う!今日こそはこのバトル、勝たせてもらうわ!」

「…」

「ミリ!これがラストバトルになるわね―――…悔いの残らないバトルをしましょう!私達は全力であなた達と戦います。盲目の聖蝶姫、チャンピオンであるこの私に本気で掛かってきて頂戴!」









――――…シロナはもう、誰もが認める立派なトレーナーになった

私の背中を追い掛け続けてきた彼女。まだまだ未熟な彼女を見守り始めてから、約半年…―――彼女は今、その金色の瞳を私の背中ではなく違う世界を写し出している


そして彼女は今日この日をもって私の元から巣立って行く

黄金輝く麗しい光と共に

新たに秘めた志と共に








「――――…えぇ、勿論!私達は、最初っから全力で行かせてもらう。だから―――…覚悟しなさい、シンオウチャンピオン。私達は負けない、絶対に!」

「…」

「キュー!」
「……」











なら最後に、本気になって戦おう

貴女達がソレを望むなら



友として、ライバルとして、血の繋がらない"きょうだい"として

私は最後まで貴女の成長を見届けよう













(さあ、最後のバトルだ)


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -