「ナズナ、以前刹那が…光源氏計画という言葉を言っていたんが、一体どんな知識を与えたんだ?」

「………?いや…特別何も教えてはいない。…常識は既に備わっていたから、必要最低限の事しか…」

「光源氏計画って…光源氏が自分の愛娘を自分好みに育てて、そのまま愛する人に仕立てちゃおう☆な計画ですよね?…へぇー、刹那そんな言葉を知っているなんて、もしかして刹那は読書好きなのかな?…でもゴウキさん、どうして光源氏計画?」

「…舞姫、お前はお前のままで居てくれ…どっかの馬鹿に染まらず純粋に」

「??はーい」

「「…(汗」」







《光源氏計画という言葉なら、トキワのトレーナースクールの講師が言っていたぞ》



いや、何故そこにいたんだ

―――――――
―――――
―――









先詠みした先の未来では、俺は"人間"ではなく"クリスタル"になっていて、俺自身の記憶は"光の欠片"として各地に飛び散っていた。初めは信じられなく、実際に死に際で俺がそんな摩訶不思議な事なんて出来るとは思わなかった。理由なんてそんなもの理解不能、非科学的な存在…現実味の無い話なんて到底理解が出来ない。今でもそう思っているが、実際にそれは現実に起きた







灼熱の炎に包まれた身体は、突然眩い光りを放ち、光は炎を守り、身体を包み込んだ。包まれた身体は形を変え――人の型だったそのシルエットは、一つの大きなクリスタルへと変形した

クリスタルの頂点に浮かぶ大きな水晶玉が、ピキィッと亀裂が走る。燃え盛る炎の中、亀裂の音が静かに響き――やがて、亀裂は水晶玉全体に入ってしまい、パリン!と音を鳴らし、砕け散った





――キィィイン





水晶玉は大きく五つの欠片に分かれた。欠片は光りとなり、灼熱の炎から抜け出して一つの光りの道筋となって四方八方に飛び散って消えた。光りの存在を追い、特殊能力で消えていたミュウツー及び刹那はその光の一つを追った

炎の中から五つの光が飛び出した事に疑問を持った、炎遣いの謎の男は噴射を止めようとした。しかしその前には戦闘不能になって瀕死になったポケモン三体が、生死を振り切り自らその炎の中に飛び込んだ。それは勿論、クリスタルになったソレを奴等に気付かせない為に。燃え盛る炎に身体を焦がし、苦痛に耐えながらクリスタルを抱え込んだフーディンは、最後の力を振り切ってテレポートをした


灼熱の炎の噴射を止め、謎の男とゼルジースが見たのは…――灰も残らない、跡形も残らなかったフィールドだけだった






「…死んだな。跡形もなく」

「イーブイの件は如何しますか?」

「フッ…どうやらナズナが言っていた未来には、俺はイーブイを使わずともあの御方と出会えているらしい」

「信じる、おつもりですか。…只の戯言では?」

「確かに、これから死ぬ奴が今更戯言言ってもしょうもない事だ。だが、奴の目に嘘は無かった。…奴の戯言に、掛けてみようかと思ったまでだ」









唯一の救いだったのは、ゼルジースと謎の男は砕け散った"記憶"や"クリスタル"の存在に気付かなかった。…それが不幸中の幸いか、奴等は砕け散った"記憶"や"クリスタル"の存在そのものさえも、知らなかったのだから




それから俺は気付いたら暗闇の中にいた。勿論この暗闇は既に先詠みで知っていた。一面真っ暗なこの世界、身体と言う原形をとどめていない俺は、無情に流れる時と空間に只ひたすらに待つだけだった。死んだと言ってもおかしくない、そんな俺に光がまた見えるのかと、そんな不安さえ思った

一体何時間この暗闇の中に居たんだろうか






「気付いたら、ミリさん…貴女が居た」







「ナズナさん、少しの辛抱です。早く貴方をこの暗闇から解き放たれる為に。貴方を、貴方の言う事件から解放される為に








 ―――それまで、待っていて下さい」








視えていた未来、彼女と出会う事は知っていた。そして彼女はやってきた。俺と同じ暗闇の空間に、俺の欠片を携えて

彼女の状況は理解していた。彼女が今、どんな状態にいるのかも。現に初めて見た彼女は…本当に消えてしまいそうな危うさを持ち、漆黒の瞳は綺麗だが何処か朧気で、俺には全てに絶望している様にも感じ取れた。この状況にも理解出来ていない様子だった――が、違った。彼女は全てを知っていた

励ましに近い言葉、俺と約束してくれた誓いに随分と救われた。どうも、暗闇に居過ぎると人の心を恐怖に陥れる。そんな俺に、彼女の言葉は勇気づけられた。再度また来た彼女には心底驚いたが、彼女が無事である事に安堵し…また彼女と共に行動する彼女にとって大切な存在を、託すしか方法は無かった




そして時間がまた過ぎた


気付いたら、俺はクリスタルの中から全てを見ていた








「これか…奴の気配の原因は」
「生きていたとはな…俺の炎が、お前達を完璧に消えさせたと思っていた」
「サーナイッ!」
「ナズナ…お前の予言は、どうやら戯言じゃなかった様だな」
「今、さっき私達が向かった滝壺に着いたそうです。此所まで来るには…十分も掛からないでしょう」
「あ、なた、は…」
「いずれ、貴女を迎えに行きます」







自分のポケモンがあの謎の男――ガイルにやられていく姿。サーナイトとガイルが俺というクリスタルを壊そうとし、またゼルジースも摩訶不思議な力で俺を壊そうとした事。ふと居なくなったサーナイトとガイルが持ち帰って来たモノを受け取り、腕の中に眠る存在を愛しそうに抱き締めるゼルジース。そして、別れを惜しむゼルジースの行動の全てを――俺は只、唇を噛み締めて耐える事しか出来なかった





そして――






パァアアアア―――









「…おはようございます、ナズナさん。久々の光は、どうですか?」

「…あぁ、とても…眩しいな」






俺はやっと、


クリスタルから――人間に、戻れた








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