決着を着けよう

私達だけの、決着を










Jewel.35




















GF・K協会シンオウ支部主催、マスターランクコンテスト

怒濤の六日目にして、私達は勝利を手にした

決勝戦で最後に戦ったメリッサ。彼女はジムリーダーとしてコーディネーターとして十分な実力者だった。彼女のポケモンは、強い。彼女が私に向ける闘争心はシロナに負けないくらい強いもの。だから私は誠意を込めてバトルに挑んだ。メリッサと交わした「最後の決着を着けよう」という約束と共に

主催者から受け取った、マスターランク優勝者に贈られるウルトラリボン。そして同時に私はこの日を持ってシンオウを代表するトップコーディネーターになった。コーディネーターとして目標でもあり最後の最終地点でもある存在、私はその頂点に立った。本来なら舞い上がって嬉しがる事だろう、しかし、手にした栄光などそっちのけで――――私の意識はもう、勝利したと同時に別の方向に向けていた




ワァァァァァァ…!!!!





『―――――…リーグ協会シンオウ支部リーグ大会決勝戦に勝利し、四天王戦を勝ち抜き、見事その栄光を掴んだのは――――…金麗妃でお馴染みの、シロナ選手だあああああああッ!!!!』

「「「「ワァァァァァァ!!!」」」」








シロナが、リーグ大会に優勝し、リーグ大会七日目に行われた四天王戦にも勝利した

それは即ち彼女がこの日をもってシンオウを代表とするチャンピオンになったという事――――…








「――――…無事に、優勝出来たね」

「…」
「キュー」
「……」
「………」







本来ならトップコーディネーターになった事で色々と手続きをしなくちゃいけなかったところを無理言ってお願いし、シロナの四天王戦勝ち抜き試合を観戦しに行った私達(協会側がアルフォンスさんに手配してくれたのか、でも専用座席が無いからと彼の隣で観戦していたのは此処だけの話

彼女は、立派に成長していた

誰もが見ても凄腕のトレーナーになったシロナ。輝かしい金色の髪を靡かせた彼女は、とても綺麗だった。そして友としてとても、誇らしかった







「おめでとう、シロナ」

「そっちこそおめでとうミリ!待っていてね、すぐにでもあなたとバトル出来るようにするからね」

「フフッ、楽しみにしているよ」







表彰式を終え、殿堂入りの為に案内されていたシロナを待ち、すれ違って交わされた私達の会話

言葉は、要らない

お互いに掛ける言葉はこれだけで十分だ







「…言いたい事は言えたらしいね」

「ありがとう御座います、アルフォンスさん。案内して下さって」

「構わないさ、これくらい。…さて、戻るとしようか。ユリが君の優勝を祝いたいっていっていたからね。今日は久々にご馳走だな」

「わーい!」

「…」
「キュー!」
「……!」
「………!」








背を向け、お互いに違う方向へ歩み出した私達

沈黙を守る静かな廊下に響く私達のヒールの音が余韻を残す








再び会える日を確信して







―――――
―――










コンテスト大会が終わり、リーグ大会が終わり―――熱気で盛り上がったシンオウが落ち着きを取り戻そうとする最中


対するこっちはものすっごく忙しい日々を送っていた


新たにGF・K協会シンオウ支部トップコーディネーターとしての必要な書類に色々記入する作業だったり、トップコーディネーターとしてテレビに出演したり数多いマスコミの前に出て取材を受けたりと、まあ予想はしていたけどこうも忙しなく動き回されるだなんて(おねーさんそこまで頑丈じゃないのだよ

道中、様々な人達から祝福を受けた。アルフォンスさんやユリさんから始まって、デンジとオーバーとトムさん、各ジムリーダーの皆さんや旅先で親しくなったトレーナー等、沢山の人が「おめでとう」って言ってくれた。一つの目標に進み、努力して、達成した時に受ける祝福の言葉は相変わらず心に深く響かせてくれる。だから私は頑張れる。たとえそれが過酷で辛い日々を送っていようが、目標に向かってひたすら進めれるから

シロナの方も聞けば忙しい毎日を送っていると小耳に挟んだ。やはりチャンピオンとして膨大な仕事が大量にあって、引き継ぎやらなんやらと大変らしい。特に此処の前チャンピオンは病気お亡くなりになられたらしく、引き継ぎに時間が掛かるとも聞いた。由緒あるリーグ、しかもチャンピオンといえば責任が違ってくる。シンオウの頂点を背負っていき、初女性チャンピオンという事もあって熱の入れ方も違っているはず

彼女は言っていた、「私達のバトルに相応しい大舞台を作ってみせる」と。出会った当初から正々堂々と勝負を望み、ただひたすらに私の背を追いかけてきたシロナ。互いに頂点に立つ約束と共に前々から交わし続けた約束を、果たしたいが為に

シロナはシロナなりに、相応しいステージを作りたいんだとあのような台詞を言ったのだろう。意気揚々と楽しげにキラキラと感情のオーラを膨らます彼女を、微笑ましい思いで見守っていた事は記憶に新しい。彼女が思い描く大舞台…―――簡単に想像がつく内容に、流石に「(いや、無理でしょシーロナちゃん…)」と内心苦笑を浮かばせていた

仮に、もし。シロナが本当にチャンピオンになれたとしても、大いなる壁がシロナの行く手を塞ぐ事は間違ない。そう、リーグ協会シンオウ支部上層部の方々の存在だ。チャンピオン成りたてのヒヨッコの若者の願いを、はいそうですねと簡単に叶えてくれるわけがない。大会を主催するだけでも莫大な費用が掛かり、また大会を運営するに当たって本部にも要請しなくてはいけない関係、時間も要する

今となれば頂点に立てた私達。一人はリーグチャンピオン、一人はトップコーディネーター。しかし、たかが一端のトレーナーの最後のラストフィナーレの舞台を作れる程、リーグも世間も甘くは無く、優しくない





―――だから、私は期待はしていなかった





いつか、いつかでいい

お互いに時間が取れて、落ち着いた頃に待ち合わせて、

世間が知らないところで私達の最後のバトルをすればいい




私は別に、何も望まない

シロナの成長を見届けるなら、シロナとまた楽しいバトルをすれば、それだけでいいんだよ




だからね、シロナ…――――













『――――…俺達は、この日を待っていた。そう、この日を、この時を。トレーナーだったら、そしてファンだったら誰もがこの瞬間を一秒でも早く待ち望んでいた事だろう…






なんだって今日は遂に金麗妃のチャンピオンと聖蝶姫のトップコーディネーターのガチンコバトルが始まるんだからなあああああああ!!!!お前らァアアアアア!最初っから最後まで盛り上がっていこうぜイェアアアアアアアーーーーーッ!!!!』

「「「「イェェエエアアアアッ!!!!」」」」
「「「「うおおぉぉおおおおッ!!!!」」」」
「「「キャァアアアーーーッ!!!!」」」」




「(本当にやりやがった!!!!)」









此処はリーグ大会が行われた会場であり、本来なら大会が終わって全て片付けられてしまっているはずだった、小さな孤島

リーグ大会が終わって人の足が途絶えただろう会場は、リーグ大会同様、否リーグ大会以上に人で溢れ、賑わいを見せていた






『よっしゃぁあああ!!この大会を開催するにあたってェェェ!お前らに数点確認だ!まず一つ!金麗妃と聖蝶姫が今や凄腕のトレーナーだって事は知っているよなァァァ!?』

「「「イェェアアアア!」」」

『前々から二人が互いにライバル同士で競いあっていたのも知ってるなァァァ!?』

「「「イェェエエアア!」」」

『んでもって二人ともめっちゃ美人なのは知ってるよなァァァ!?』

「「「イェェアアアア!」」」

『美女美少女が戦う姿はむっちゃ絵になるよなぁぁぁ!』

「「「イェェアアアア!」」」

『よーしそこまで分かってんなら、最も重要な事は分かってる前提で進めるぜ!この大会は、何を隠そう………今まで互いに競いあってきた二人のラストバトルを飾る舞台!ラストフィナーレを飾る二人の為に用意された大会!いや、違うな、二人をずっと影から応援してきた俺達の為でもある一日だけの特設大会!此処には!誰もが二人の結末を見届けたいが為に集まった…―――つまり俺達は二人のファンに過ぎない事を忘れるなよぉおおおおお!』

「「オオオオオオオッ!」」













「熱いねー…」






地面が揺れる程に大きい歓声に、フィールドにある選手入場口の隅に控える私はハハッと苦笑を浮かばせる







《…まさか本当に、私達とのラストバトルを飾る大舞台を作り出すとは思わなかった》

《有言実行とはまさにこの事だな》

「…」
《人間の本気は時として末恐ろしいものを感じさせる》

《シロナさん色んな意味で凄い人だね…色んな意味で》

「あの子は本当に、飽きない子だね…この私の想像を遥かに陵駕しちゃってるよ……おねーさん着いていけない…」









――――…事の発展は、一週間前






シロナの四天王戦観戦をきっかけに暫くユリさん家にお世話になる事になり(二人とも家の中でも相変わらずだった)(色んな意味で)、コンテスト協会の手続きだったり取材だったり縦横無尽に忙しかった私達を嫌な顔をせず受け入れてくれて、お蔭様ですっごく負担少なく動き回る事が出来た―――そんな穏やかな(かどうかは微妙な)日常

今日も今日とて沢山の取材に終われ、げっそりしつつユリさんの家に戻り、用意してくれた美味しい夕飯をご馳走になっていたら――――流れていたテレビから、『○○月○○日、リーグ会場で金麗妃と聖蝶姫のラストバトルが一日だけの特設大会として開催!』…―――なんて流れたものだから飲んでいたジュースを誤飲して噎せたのも記憶に新しい

一緒に食卓に並んでいた、リーグ協会に一番詳しいアルフォンスさんに聞けば、「チャンピオンは君との本気のバトルを望んでいる。そのひたむきで揺るがない気持ちがリーグを動かせたんだよ」と微笑を浮かばせて言ってくれた。どうやってシロナが上層部を動かせたかは流石に教えてくれなかったが(当たり前だ)、つくづくシロナには驚かされるばかり。ガブリアス繰り出して脅してないかものすっごく心配になった


―――…よくよく考えれば、あの子はやるときには本当にやる子だ。それこそ「本気と書いてマジで読む」ってくらいに。いや本当にやってくれるなんて、あの子の行動力には本当に拍手を送ってあげたい。むしろ頭撫でまくって可愛がってあげたい←


それからというもの、メディアは特設大会でのバトルの話を(しつこく)追及し、世間は私達の最後のバトルに注目し、この話に持ち切りだった。ユリさんなんか「旦那使ってでも特等席とってもらって観戦しにいくから!」と意気揚々と拳を握り、ナギサシティに戻ってみれば「聖蝶姫ぇえええファイトォォオオオ!」「「ミリちゃぁあああんッ!」」「俺達は聖蝶姫を応援してるかんなああああ!」「「聖蝶姫万歳!!」」「「萌ェェェ!」」と無駄に熱く歓迎を受け(しかも町中に応援メッセージが書かれた旗が…!)(やり過ぎだ!)、「よし、なら私は君の勝利を信じて特製パフェをご馳走しよう」「よーしミリがいっちょ勝てる様に胴上げすっか胴上げ!」「よーし俺はそのままお持ち帰りする」「やめんか!」とトムさんやオーバやデンジに手厚く激励を受けたり、知り合いからも同様に声援を受けたりと…―――とにかく濃い一週間だった。嬉しいけど色んな意味で疲れた←








『―――――よーし!いい具合に盛り上がった所で、今日この特設大会を開いた張本人!金麗妃改め、新チャンピオンとして輝いたシロナ選手に開幕の宣言と一言言葉を頂いちゃうぜ!お前ら!心して聞くよーにッ!』






そういえばあの人、どっかで見た事あるなぁって思ったらコンテスト大会で中継やっていたアナウンサーの人じゃん、とぼんやり思っていると


金色が、輝いた


開放された空から燦々と降り注ぐ太陽が金色を輝かせ、艶やかに揺らめいた。金髪と黒のコートを靡かせた、久々に見た彼女は―――――また一段と、頼もしくなっていた








『―――――…改めまして、私の名前はシロナ。気付けば色んな人から金麗妃だなんて呼ばれちゃってますが、この度にリーグ大会を優勝し、四天王戦にも勝ち抜き、念願のチャンピオンになる事が叶いました。色々とチャンピオンとしてまた何か色々と言わなくちゃいけないかもだけど…―――私そーいうのぶっちゃけかたっ苦しくて苦手なのよねぇ〜。今は無礼講って感じで置いといてもらってもいいかしら?いいわよね?答えは聞いてないわ!』

『Σうおおい金麗妃!?まさかのぶちまけた!』

『だってぇ〜、そのうち絶対素に戻っちゃいそうなんだも〜ん☆』

『も〜ん☆、って!だけどそんな金麗妃も可愛いぞぉおおおおお!今絶対金麗妃のファンは思わぬ一面に悶えたに違いねぇ!そうだろお前らああああ!』

「「「ウオオオオオオッ!」」」







おーい、シロナちゃーん





『コホン。さってと、ちょっとしたジョークは此処までにして――――…会場内の皆様、そして今テレビを御覧になられている皆様、今日は私が開いた特設大会にご来場、ご観戦頂き誠にありがとうございます。そして私の我が儘を聞いて下さったタマランゼ会長及びリーグ協会の皆様、本当に感謝ばかりです。本当に…ありがとうございます』






シン、と。先程まで歓声で盛り上がっていた会場内が嘘の様に静まり返った






『皆さんもご存じの通り、金麗妃であるこの私と盲目の聖蝶姫であるミリはライバル同士と呼ばれし間柄です。同時に私達はライバルであり、友でもあり、姉妹でもあり、そして…かけがえのない大切な存在。私達はお互いに競い合い、お互いを支え合い、お互い約束を交わし、お互い目標に向かって頑張ってきました。それは、私の口からは言わなくてもきっと皆さんなら分かってくれるはず――――…そして、私達は目指していた目標に辿り着いた。私はチャンピオン、ミリはトップコーディネーターへ』












「私達は世間に認められているライバル同士。同時日に行われる大会に別々に出現して、私達がトップを奪う。シロナがチャンピオン、私がトップコーディネーター……なんだかそれって、素敵じゃない?」









『旅の道中、私はあの子に約束をした。「私がチャンピオンになって、あなたがトップコーディネーターになったら、私達に相応しい大舞台でバトルをしましょう」と。ミリは言ってくれた、「楽しみにしているよ」と、「正々堂々、本気のバトルをしよう」って…―――今が、その時。今まで交わしてきた約束も、この約束も、このバトルでフィナーレを決める







―――――…そうよね、ミリ!』








名前を、呼ばれた




呼ばれるままに、吸い込まれる様に出て行けば――――息を呑む音から始まり、弾ける様にまた歓声が、上がる

いつもの様に、堂々と。蒼華を隣に、時杜は肩に、刹那を後ろへ闇夜は影へ。私達は歩む、シロナがいる元へ―――ううん、違うね。私が今最も倒すべき相手である、シンオウリーグチャンピオンの元へ

彼女と戦う、フィールドへ








『つつつつつ、遂に聖蝶姫の登場だあああああああッ!今日も今日とて三強を従えて現れたあああああ!マジ美しいぜ聖蝶姫ェェェ!今から女同士のガチンコバトルが始まるってわけだぜお前ら絶対に一秒も見過ごすんじゃねぇぞォォォ!』

「「「イェアアアア!」」」




「ミリ!どう?私が手掛けたこの大舞台―――気に入ってくれたかしら?」

「フフッ、十分過ぎるくらいだよ」

「それは、良かったわ」







互いにフィールドの中央まで歩み寄り、私達は対面する

再会を祝い、そしてこれから戦う戦意を込めて、私達は握手をする。そしていつもの様にシロナは私の身体に腕を回してギュッと抱き締めてきたので、私も同様にシロナの身体を抱き締め返した


私達は、笑った








「―――シロナ、私と貴女が出会って貴女は私を倒したいと頑張って此所まで登り詰めて来た。この時を、待っていました。シンオウリーグチャンピオンである貴女と、シンオウトップコーディネーターであるこの私。あの時の約束を果たした今、私も本気になって勝負を挑みましょう」











可愛い可愛い私のシロナ、

もう貴女は、誰もが認める立派なトレーナー



だから私も貴女の存在を"認め"、誠意を込めて戦おう

それが貴女の"望み"なのであれば









「「さあ、私達の最後のバトルをしましょう」」












地面を揺らし、空気をも震えさせる程に歓声が止まる事を知らない




―――――そして、激しいバトルが始まった








(今日で、決着が着く)


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