瞳が開かれてもミリは虚ろに光りを灯し、ボーっと虚空を見上げる。先程の余韻が残っているのだろうか。自分を見下げる存在に気付き、ゆっくりと顔をそちらに向ける。瞼に落ちたレンの涙がポタリと落ち――まるでミリが涙を流した様に、線を描く

漆黒の瞳が鮮血の瞳とカチリと絡み合う。…しかし、レンは視線を逸らした。顔を歪ませ、唇をキュッと噛み締める。後悔の念から、顔を合わす勇気が起きなかった



拒絶されてしまったら、嫌われてしまったなら…



グルグルとレンの中を支配した







――しかし、









「…レン、涙が流れてる」










ミリの言葉から紡がれた言葉は、拒絶なんかではなく――レンはハッとして顔をミリに向ける。そして目を張った。――ミリが、自分に微笑んでいたから


か弱い細い腕がレンの頬に伸び、頬に触れる。細くて長い指が涙を拭い…初めてレンは自分が涙を流していた事に気付いた。茫然とミリを見つめるレンに、ミリははにかんだ。涙を拭った手を頭にスルリと持って行き――その白銀に触れ、優しく撫でたのだった


その優しい手付きはレンの全てを許していた。細い指が頭を撫で、髪を絡ませ、梳く…一つ一つのそれがレンの涙腺を脆くさせ、涙で表情を歪ませた

表情を隠す様に…レンはミリの身体を抱き締めた






「ミリ…!」

「レン、」

「っ、ごめんな…本当に、本当に…ごめん、ごめんな……!俺は、っ俺は…!」

「良いんだよ…レン」

「っ、ミリ…」

「私がレンを拒絶するわけ、ないでしょ?」

「――――っ!!」






ミリの言葉はレンの全てを許し、レンに深くも…優しい衝撃を与えた

溢れる涙は頬を伝い、ミリの頬にも伝い、そしてシーツに染み込んだ






「俺を…許してくれるのか…?」

「うん」

「…っあんな事、したんだぞ…それに頬を、叩いちまったし…」

「うん」

「……ミリ…どうして…」

「愛しているからだよ、レン」

「っ!!」

「愛しているから…愛しているからこそだよ。理由なんて、そんなもの必要ないよ。レンがそうだったように…私も貴方を、愛しているから」

「ミリ…」

「だからもう、泣かないで。ね?」






頭を撫でながら、ミリは言う

レンは抱き締める力を緩め、顔を上げる。ミリは微笑み、両頬に手を添え…触れるだけの優しいキスを落とした






「…ミリ…」

「…もし、レンが良ければ話して欲しい。今はまだ言わなくても良いよ。ナズナさんの真実を聞いてから、レンの話を…聞きたい」

「ッ…!」

「…無理には、聞かないよ」

「いや、言う…言わせてくれ…。俺の全てを、知って欲しい」






レンはミリに覆い被さり、ミリの頭を抱え込んで感情のままに舌を捩じ込ませた。涙を拭うのも忘れ、表情を綻ばせて…キスで自分の想いも含め全てをぶつけた

対するミリの方も、レンの頬に流れる涙を拭ってあげ、首に腕を回してレンのキスに、想いに答えた。ミリの表情も綻ばせて、嬉しそうに笑っていた






「私、レンの事…もっと知りたい」

「あぁ…俺も、ミリの事を知りたい」

「うん。話そう…お互いの事を。互いに支えあえる様に」






それは互いを繋ぎ止める約束でもあり、互いを絡ませ逃げないようにさせる為の…束縛に近い約束でもあった

その意味は、説明しなくても二人には分かっていた






「…ミリ」

「ん…?」

「…もう一度、いいか…?」

「……今度は優しくしてね」











暗闇は夜明けを知らない





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