さあ、羽ばたけ さあ、舞い上がれ 時は遂に幕を開けた 栄光を、その手で掴み取れ Jewel.33 『――――――これより、グランドフェスティバル・コンテスト協会が主催、シンオウ地方マスターランクコンテストを開催します』 遂にこの日がやってきた 『段々と寒くなって来る、テンガンザンから吹く寒風に身を凍えさせる今日この日。心配だった天候も眩しいくらいお日様が燦々と照らしている今日…――――遂にこの日がやってきたんだぜぇえええええええ!お前ら盛り上がってるかあああああああッッ!!??』 「「「イェェエエアアアア!!!!」」」 宴の知らせを示す、上空に弾く花火の音。蒼空に羽ばたくのはムックルの群。天に向かうは色とりどりの風船と混じって見えるフワンテ達の姿。空間を響かす金管バンドの演奏 此処はヨスガシティ ヨスガシティ中央通りにある、コンテスト会場。そこは沢山の人に溢れ返っていた。会場の前には様々な露店が建ち並び、コンテストの壁画には大きなスクリーンが設置されている スクリーンには、タキシードに身を包み、首には不釣り合いな水玉の大きな蝶ネクタイを付けたアナウンサーが映し出されていた 『おーし!いいぜいいぜぇえええ!お前らこのまま熱を冷めさせんなよぉおお!俺も最初っから最後までクライマックスな勢いでテンションハイマックスで行かせてもらうかんなァァァァ!』 「「「イェェエエ!!!!」」」 『上品やらエレガントやらそんなの関係ねぇ!俺は俺の道をゆく!そう!たとえこの後上司にこっぴっどく怒られたとしても!俺は抗ってみせる!』 『あらあらー、いいのかしらそんな事言っちゃって〜』 『!!お、お前は…!!』 『アナタ、此処がGF・K協会の大会という事を忘れたわけじゃないでしょうね?何処かの大会…それこそリーグ大会の実況じゃないんだからもっと言葉を慎みなさい。下品よ、色々と』 『げげげげ、下品!!??下品!!??うわなんか今俺の心に深々と突き刺した!抉られた!!!!』 『所詮は雇われって事よ』 『ガガガガガーンッ!!!!』 「「「アハハハハ!!!!」」」 一人俄然熱く燃え上がる実況アナウンサー。そんな彼に近付くドレスに身を包んだお淑やかな女性アナウンサー。どうやら今回の大会の中継はこの二人で執り行われるのだろう だがしかし、実況アナウンサーに対する女性アナウンサーの営業スマイルの舌から出る言葉は辛いものに感じるのだが。心底傷付いた様子らしい実況アナウンサーは地べたに膝を着いて涙を忍ばせ、初っ端からコンテストにあるまじき光景に観客は笑う。いいのだろうか、あれで。雇われていたんだ、彼、と思うのは人それぞれ 『ぐずっ…俺めげねぇ…!どんなに辛くて苦しい言葉で心抉られても俺挫けねぇ…!』 『アナタの心境なんてぶっちゃけどうでもいいからシャキッとしなさいみっともない』 『場に関係無く毒舌!』 『申し遅れました私、司会進行役を勤めさせて頂きますリオと申します。この盛大なるマスターランクコンテストを支える基盤として精一杯勤めさせて頂きます。本日はどうぞ宜しくお願いします』 『スルー!?…あ、俺はタイキ、実況アナウンサーを勤めさせてもらいます!会場内の皆さん、会場外の皆さんから始まり、テレビやラジオの前の皆さんにこの感動を伝えられる様な、そんな実況をしていきたいと思います!つーことで盛り上がっていこうぜぇえええええええ!!!!』 「「「イェェエエアアアア!!!!」」」 『ではまず始めにオープニングセレモニーから…――――』 ****** 『―――――…それで、今日はオープニングセレモニーで終わりそうなのよ。ナギサシティから海を渡ってファイヤーの松明を渡し合う伝統のレースですって。ファイヤーってあれでしょ?カントーの伝統のポケモンなんでしょう?毎年見てきて今更思うのもアレだけど…アレ絶対海渡っている最中に水に濡れて消えちゃうって。海に落ちたらおじゃんよおじゃん』 「へぇー、ファイヤーの炎かぁ。まあ大丈夫でしょ〜ファイヤーの炎だからそう簡単に消えたりしないって。リレーの人だって簡単に落ちちゃう程ヤワじゃないかもだし(いや本当は分からないけど」 『まあね〜。それがお昼挟んで、夕方まで入って…あーその後古臭い幹部長のおじさまのかったるい長い話を聞かなくちゃいけないのが辛いわ〜』 「こらこら、将来お世話になる人の悪口は誤法度だよ」 『しかもあの人、おばあちゃんの知り合いだし』 「余計にダメでしょ」 テレビはアナウンサー達のコントを流し、次はオープニングセレモニーが流れ始めた。ステージを盛り上げてくれる多種多様なポケモンやトレーナーを始めとしたダンサー達が流れてくるリズム良い音楽と共に様々なパフォーマンスを演出する 会場内では今まさに盛り上がりを見せている中、私は与えられた控え室の中で出番を待っているところだった 「それじゃそっちは明日から本格的にやるんだね。エントリー者って結構いるでしょ〜?」 『いるいる!うじゃうじゃいるわ!聞いたら軽く五十人はいるそうよ!』 「あらー。やっぱりリーグの方が多いんだね〜」 『まあその分やり甲斐があるってものだけど。でね、明日から予選を行なって、上位8名の出場者から本選が始まるのよ。予定だと一日目がオープニングセレモニー、二日目と三日目が予選、四日目と五日目が本選、六日目が決勝戦でその日の内に表彰式、七日目が四天王戦……つまりまるまる一週間って事ね。かなりのハードスケジュールだわ〜!』 「あ、本当?ならシロナの決勝戦見れるかもしれない」 『!!本当!?』 「うん。こっちの予定だと予選の一時審査と二次審査、本選の一時審査と二次審査両方それぞれ一日で終わるから、例外が無ければシロナの決勝戦には間に合うと思うんだ。でも四天王戦の時はこっちの協会側と色々お話聞かなくちゃいけないから観戦出来ないと思うけど…」 『やったわ!ミリが来てくれるなら百人力よ!俄然やる気が出たわ〜!』 陽気に、そして嬉しそうにテンションを上げるシロナの声がポケギアから流れ、心地好く私の鼓膜を震わせる。きっとシロナの事だから、周りの事なんて忘れて一人飛び跳ねてるんだろうなぁ、と思うと自然と頬が緩んだ 此処は会場内にある控え室。協会側が私に配慮をしてくれたお蔭で、嬉しい事に私達は個室へ通してくれた。煩い場所が苦手な私には本当に嬉しい配慮だ。中は指図めベッドが無いビジネスホテル、みたいな。お蔭様で皆の緊張を煽らないで済んで本当に有り難い。盲目も悪くないね(まて さてさて、今日の主役の皆さんはというと、今。オープニングセレモニーを中継するテレビ映像を興味津々と眺める時杜と刹那と風彩と水姫と、場所を離れて一人瞑想する朱翔、相変わらず私の影の中にいる闇夜と、私の隣に腰を落ち着かせて仮眠をしている蒼華…………はい、とても緊張感がない(笑)かく言う私もオープニングセレモニーが開催したにも関わらず、同じく同様にオープニングセレモニーの最中にも関わらず電話を掛けて来たシロナと談笑中(笑)お互い緊張感まるで無し(笑)しかも私達の会話なんてお互い優勝する前提で進んでいるから、他人からしてみれば面白い会話だよね← お、テレビに映ってるあのパチリス可愛い 「シロナ、嬉しいのは分かるけど熱くなり過ぎちゃダメだからね。シロナはちょっと暴走しちゃうところがあるからさ、油断大敵だよ〜」 『分かってるわよ〜!安心して!私が主に暴走する原因はミリ絡みだから!』 「あ、あはは…(どう安心しろと…!!??)」 『今の内に此処であなたをつけまとうストーカートレーナーをけちょんけちょんにする勢いで勝ち進むから安心してね☆』 「いやいやいやいやちょっとシロナちゃん落ち着こうか」 オープニングセレモニーが始まる前の五分前、タイミング良くポケギアが鳴り出した 相手は勿論シロナで、「暇だったから連絡しちゃった☆」と相変わらずな彼女にずっこけたのは数分前。ポケギアから流れるシロナの声。約束を交わしてからその後は連絡を取っていなかったから、なんだか久し振りに感じる(日数的には久々だけど)。声のトーンからしてみて、緊張してガチガチしている様子は見当たらない。むしろテンション高めで若干不安な点が多々浮上するけど…ま、いつもの事だから大丈夫でしょう← シロナから語られた現在のリーグ大会の様子。やっぱり伝統あるリーグ大会だけあってオープニングセレモニーがまさかのリレー…ファイヤーの松明を持ってリレーするなんて、これはアニポケ?アニポケなの?(確かセキエイリーグにあった様な…)面白み、というのはシロナの話っぷりから感じられないところをみると…出場者はリレー選手が到着するまで暇を持て余しているってわけね。うん、今の私達みたいって事ね(あ、刹那があくびした)。対してこっちは様々なパフォーマンスが放送されていて、『ワンダフルゥウウウウ!!!!オープニングからパネェぜぇえええ!』『『『イェェエエアアアア!!!!』』』と派手に盛り上がっている。元気だ 『あ、そうそう。そういえばミリの方はどう?今何をしてるの?』 「実はこっちもね〜、オープニングセレモニー真っ最中なんだ〜」 『あら、そうなの?』 「うん。こっちはオープニングセレモニーが午前中に終わって、午後から出場者の挨拶を兼ねたアピールパフォーマンスで今日は終わるかな。明日から本格的に予選が始まるんだ〜」 『へぇー、それじゃ今日はリーグもコンテストもオープニングセレモニーで終わるって事ねぇ〜』 「だねぇ〜」 今日はまだ忙しくない。忙しいくなるのは、明日からだ リーグ大会は一週間の長い期間で行われる。対するこちらは、一日早い六日間の予定で行われる。リーグ大会とコンテスト大会の違いは、出場者の数と一日の開催時間。リーグ大会は出場者が多いから、特に予選が夜までバトルが持ち越しされる。コンテストとは違って、バトルは早く終わったり延長したりと先が見えない。だから日程は大幅に見積もって予選本選それぞれ二日間で行われるのだろう。フィールドが多面あれば一日で済むかもしれないけど、生憎会場のフィールドは一面しか無い。まあ五十人程度だったら一面二日間でなんとかなるかもしれないけど こちらもかなりハードなスケジュールだ。予選と本選に一次審査と二次審査を控えている。十五人という少ない人数(けど聞けば結構多いらしい)、まだリーグと違うのは競技の演目の時間が定まっている事だ。与えられた時間内、どれだけ審査員や観客に満足のいく演技を見せられるかが勝負の見せ所 ………本当だったら緊張真っ盛りな時間帯なはずなのに、こうも呑気に寛ぐ私って一体… 『それでねミリ…―――――って、あら、ゴヨウ?どうかしたかしら?………ええええ!もうちょっとミリと電話させてよ!切るなんて嫌よ!』 「…?ゴヨウ?ゴヨウがいるの?」 『?…あぁ!そういえばあなた達知り合いだったっけ?そうなのゴヨウよ!リーグ大会にエントリーしているのよ〜ついさっきそこで知り合ったの…―――もう!うるさいわよゴヨウ!あとちょっと!あとちょっとだけぇぇぇぇ!』 「あらあら」 ポケギアの先で何やら騒がしい騒音が混じって聞こえてくる。随分と暴れているみたいで、口調が雑になりつつあるシロナと向こう側の人達に苦笑を漏らす しかしゴヨウまで出場するとは思わなかったからびっくり。彼とはミオシティの図書館で知り合って仲良くなったんだけど…――――確かに彼とはバトルした経験があるし、彼のポケモンは中々見応えがあったのも記憶していた。知的で温厚で優しく、自分の時間を割いてまでこんな私に本を読んでくれた物好きな彼 けど…そっか、ゴヨウが出ているんだ。それはそれで楽しみが増えたって事だね 「それじゃそろそろ切ろっか、シロナ。ゴヨウに迷惑掛けちゃダメだよ?」 『で、でも…!』 「こっちも丁度、係りの人に呼ばれたからさ(※嘘)。それにメイクさんに衣装の最終チェックしてもらわなくちゃいけないし(※これから)、この子達のコンディションも確認しておきたいし(※済んでる)」 『うっ………なら、しょうがないわね…』 「お互い、用事が済んでからまた連絡しましょう――――…私達が優勝した後でも、ゆっくりね」 『!…そうね、絶対よ!絶対私…この大会で優勝するから!ミリ、あなたもコンテスト大会頑張ってね!』 「えぇ、勿論!頑張りましょうね、シロナ」 ピッ… 「―――…やれやれ、シロナったら。これがどっちが年上か分からないって」 こうもして言わないと中々引かない彼女は、まるで別れを駄々こねる子供みたいで。相変わらず可愛いシロナに私の口元は緩むばかり。ムスッとしたりムキになったりシュンとしたりころころ表情が変わる様子が目に浮かんでは胸がキュンキュンすr(ゲフンゲフン 最後に連絡を取り合う約束を着けて回線を切ったポケギア。するとタイミングよく目が覚めた蒼華が、やっと終わったかと言った様子で私を視る。どうやらずっと待っていてくれたらしい。よしよしと蒼華の身体を撫でていると、《ミリ様〜》とテレビを見ていた時杜がこちらに飛んできた 《ミリ様、お疲れ様です!随分と長い電話でしたね》 「あはは、そうだね。女の子は長電話が好きなんだよ。特にシロナはイマドキの女の子だから長電話の一つや二つ、場の状況関係無くしちゃうんだよ。きっと」 《…主よ、その台詞はまるで主がイマドキの女の子ではないと捉えられるが》 「闇夜ちゃん、流石に普通の人間より長く生きてみるとイマドキも何もないよ」 《…どう言葉を返せばいいか返答に困る》 《フン、簡単な事だ。長電話をされても嫌な顔一つもせず相手に合わせ、また相手の為に一歩を引くミリ様はそれだけそこら辺の人間と違ってお心は優しく寛大でご立派という事だ》 《なるほど》 「あはは。敢えて私からは何も言わないけど」 「…」 「ミロー?」 「ふりぃ?」 ―――――コンコンッ 「!――――はい、」 「失礼します。ミリ選手、他の選手の衣装チェンジが終わりましたので次入って下さい。勿論、メリッサ選手以外の人払いは済んでいますのでご安心下さい」 「何から何まで…ありがとう御座います」 オープニングセレモニーは選手達の着替える時間の為にあると言ってもいい 私は協会側とメリッサに無理を言って、着替えは最後で、他の選手が居ない状態にしてもらいたいと頼んた。見ず知らずな場所と見ず知らずな人間の前で肌を露出する気は無い。今までの大会は着替えなくて良かったのに、マスターランクは着替えるなんて私何も聞いていない!(ワンピースでいいよって言ったら怒られた何故 何を思ってくれたのか返事一つで了承してくれた協会側とメリッサには感謝。係りの人が待つ中、私は立ち上がって蒼華と時杜と刹那以外の皆をボールの中へ戻す。貴重品等見落としがないかポーチの中身を確認してもらい、三匹を連れて係りの人と向き合って、言った 「…やっぱりワンピースじゃダメですか?」 「普通にダメです!」 「ならスエット…」 「もっとダメです!」 「ですよねー!」 やっぱり私の主張はバッサリ切られて、隣にいる蒼華の紐に良い音と共に後頭部を叩かれるのだった (そして舞台は開幕する) |