「やはり兄弟だからかな、真面目な所はゴウキ君と似ていたよ。雰囲気もそうだしその鋭い灰色の瞳もね。たとえ異母兄弟だとしても兄弟は兄弟。…時にゴウキ君。君はお酒を飲むと饒舌になる口かな?」

「あー、コイツは顔変わらず阿呆な事をしでかすぜ?例えば何もない所でコケたりぶつけたり人認識出来ねぇし」

「何を言う白皇。俺は酒ごときに酔うはずはない。そもそもそんなドジ踏まない。そうだろ?舞姫」

「(・_・)エッ..」

「そっちこそ、確かに酒には強い耐性を持っていても一定の量を摂取すると舞姫にセクハラ行動を起こすじゃないか。俺より質悪いぞ」

「ハッ!俺はただミリに話しかけているだけだぜ?それに俺が酔うだと?馬鹿な話もあったぜ。なぁ?ミリ」

「( ・_・;)エ....」

「白皇、舞姫が困っているだろ」

「んだよそっちこそミリを困らせてんじゃねーよ」









「酒でまさかここまで話が飛躍するなんて…二人は負けず嫌いなんだねやっぱり」

「二人共…私の間で喧嘩しないでぇぇぇ…」




――――――――
―――――
―――










「…お手紙、お返しします」

「読んでくれてありがとう、ミリ君」






長い長い話が、終わった


読んだ便箋を丁寧に封筒の中にしまい、それをカツラさんに返す。受け取ったカツラさんは、今まで溜め込んだ思いも含め全てを話せた事で、オーラが清々しいさが伺える

隣りに座るレンとゴウキは、只黙って瞳を閉じたり考え込んでいる。少し離れて立つ刹那も、一人瞳を閉じて沈黙を守っている。…こんな状況なのにチラチラと視線を向ける私は本当に空気が読めない←






「はは、やはり言葉が出ないみたいだね」

「…ナズナは俺達が今日此所に来るのを詠んでいたのか…」

「まさかあの眼が未来を視えていたとは驚きだ。…あの眼は俺がナズナと出会った時には眼帯を付けていた。障り程度に話を聞いたが、どうやら緑内障で視界を失ったみたいでな。会った時は既に光は失っていた」

「緑内障…目の神経が死んでしまう病気、ですか…。神経が失えば、もうその眼は光は通さない。神経そのものが死んでいるから手術で眼球を換えて治る病気なんかじゃない。進行する病気ですから進行止めの薬でしか止める事が出来ない…」

「ミリ君やはり中々詳しいね。そうだ、緑内障は進行する病気だ。薬を処方してもやはり進行を防ぐ事が出来なかったみたいだ」

「…視力を失う、か…」






離されていた私の手が、レンの温もりに包まれると同時にギュッと強く握り締められる。私は少し驚いてレンを見上げる。――レンは唇を噛み締めてこちらを見つめていた。私は苦笑を零して、キュッと握り返した






「…ミリ」

「ありがとう、レン」






手から伝わる感情は探らなくても分かっていた

視力が失う怖さは見に染みて良く分かる。だから、ナズナさんが受けた絶望も分かるし――それが急に視えて、しかも信じられない未来を視れば尚更






「ミリ君」

「はい」

「手紙で分かる通り、ナズナは君を買っていた。…この手紙を見て、君の話を聞きたい」

「………もう一度、手紙を」

「あぁ」






またカツラさんから手紙を受け取り、封を開ける(手は離してくれなかったのでレンと一緒に開ける事に←

改めて開いた一枚の便箋。私は膝の上に便箋を広げ、手を翳して瞳を閉じる。…達筆に書かれた文字からは一切の迷いを感じられない。相当な覚悟をして、ペンを持ったんだろう

皆が注目している中、ゆっくり瞳を開く。便箋を持ち視線を上げ、思った事を口にする






「…彼が一体何があって、どう思ったかは彼自身が言葉にしない限り、誰にも分かる事はないでしょう。でも分かるのは、彼は力を得た戸惑いと同時に力への恐怖、先が視える恐怖は…彼を蝕んだでしょう。力が無い者が力を持つと、優越に浸るか絶望に墜ちるか。…ナズナさんは、視えた未来が未来なだけあって……気持ちは痛いほど、分かります」

「ミリ……」

「力を得た人間の未来はあまり良いものではありません。伝説のポケモンが、歪んだ心を持ち我が目的の為に狙われるのと同じで…人間も、欲望の為に狙われてしまう。中にはその力を使い、良い方向に使う者や…悪事に使う者がいたり。勿論、力を持っている事を知られたくないと隠れる者など、ね」






きっと私は…力を持っている事を知られたくないと隠れる者の一人になる…かな


そんな事頭の片隅で考えていたら、ギュッと握られる手の力が込められる。…隣りからの視線が痛い。両方から(特にレンから)。二人は私が力を持っている事は知っているから、視線が痛いのはこの際しょうがないにして






「私は彼の気持ちが痛いほど分かります。彼が相当な覚悟を決めたその心中も、記憶と身体が解き放たれたその瞬間も、彼が今日この日まで…あの暗闇にいる気持ちも、全て」






自然と握られていないもう片方の手に、力が籠る






「君は…まるで自分も同じ境遇に遭ったみたいな言い方をするんだね」

「捉え方はカツラさんにお任せします」

「…………ナズナは、助かるか?」

「はい」







私は安心させる様に、笑った







「私は"記憶の光の欠片"を元の在るべき形に戻す方法を知り、彼を助けるすべも知っています。――ですがその為にはカツラさん、貴方の役目が重要になっていきます。貴方の役目、あるモノの存在は…ナズナさんの、"器"ですね?」

「…"器"が何かは分からないけど、君がそう言ってくれて安心だ。君達が良ければすぐにでも案内しよう






 ―――それは、ハナダのどうくつにある」







――――――ハナダのどうくつ









「ハナダのどうくつか…シロガネヤマと匹敵するほど凶暴な野生が密かに生息しているあの洞窟か…」

「行きましょう。…彼を早く闇から光に救い出す為に。迷っている時間はありません」






私達は立ち上がった












「……」




レンは一人、ミリを見つめていた






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