ミリ達がシロガネヤマに行く前の会話





「流石に私が居ないとヤバい気がするんだよね」

《出て行く事態僕はヤバいと思います》

「分身を残せば良いんだけど、流石に止めた方が良いと思うんだよね〜…あ、そうだ良い事考えた。黒恋、」

「ブイ?」

「私にへんしん、してみて?」

「ブーイ!」




ポンッ




「お、いい感じ!流石は黒恋、それじゃ此処は黒恋に任せよう!それじゃ私は手紙でもとりあえず書いておこうかな。とりあえず」

「…フィー」
《…すぐにバレると思うよ》






実際、変身する以前に布団の中でお昼寝しちゃった黒恋ちゃん。変身の意味が全く無かったりする



―――――――――
――――――
―――












「ッ、離せゴウキ!」

「落ち着け白皇!今行っても何も打開出来ないぞ!」

「ブイブーイ!」






マサラタウンの少し離れにある家の前で、今にもトゲキッスを繰り出して空を飛んで行きそうなレン。怒りで若干我を忘れているらしく、ミリが居たらすぐさま拳骨を食らわせ怒鳴り散らす勢いだ

そんなレンの腕をゴウキは掴み、黒恋は足を掴んでそれを止める。後ろに引っ張られて前に進めなくなった為レンは振り返り、抵抗をする。しかしゴウキの力は遥かに強い為、振りほどくにも振りほどけない






「白皇、シロガネヤマに行ってもまだ申請が通っていないから入れない事を忘れたか!」

「ブイブイ!」

「んなもん知るかっ!申請がどーこーよりもあんな危険な山にミリが行ったんだぞ!?早く連れ戻さねーと夜になっちまう!」






まだ空は青いが、そろそろ夕焼けに差し掛かり薄暗くなってもおかしくはない時間帯。野生のポケモン達も自分の巣に戻って行く姿も、少ないがちらほらと見える


夜の山は危険だ。闇に覆われた険しい山ほど恐ろしいものはない


視界を奪われ方向感覚も失われ、足場を崩し崖から転落する危険性もある。シロガネヤマは危険な山と言われる程で、勿論野生のポケモン達も凶暴で強い。襲われたりもしたら生きては帰れない場合もある






「考えろ、白皇。…舞姫は時杜の力でシロガネヤマに移動した。時杜の力と蒼華、そして刹那がいる。お前のアブソルや俺のジバコイルだって居る」

「奴等がいるから危険は少ない、と言いたいんだろ?ざけんな!アイツらがいくら強くても危険なものは危険だ馬鹿野郎!ミリは俺やお前みたいな構造はしてねーんだぞ!?」






いくらまだ明るくても、手持ちのポケモン…シロガネヤマの凶暴ポケモン以上に強いポケモンを持っていたとしても、危険な事には変わりはない

ちょっとした事でも命の危険にも関わってくる。山の危険さはレンもゴウキもそれは嫌でも知っている。山は何度も経験してきた為、対処法はいくらでも知っている

が、ミリは違う






「アイツはまだ病人なんだぞ!?体調だってまだ治っちゃいねぇんだ!シロガネヤマは気候と気温の差が激しい場所に…弱まっているアイツが行っちまったら悪化するだけだ!」






ミリの体調が悪い原因と理由は知っている。実際に少しの事でも身体が怠さを訴え、体調を崩す事も知っていた。だからこそ、負担とこれ以上の悪化をかけさせない為にしてきた。今回もミリの為を想って配慮したつもりだった

愛する人を危険な目に遭わせたくない。しかもシロガネヤマだったら言語道断。それにミリは只でさえ危険な事をしでかしてしまう。無頓着とも言える為、自分がなんとかしないと、と思っていたレンだった






「とにかく腕を離せ!足も離せ!お前らが止めても俺は無理矢理でも行く―――」

「黒恋、この馬鹿の腹に向かってとっしん。むしろ股間でも構わん。殺れ

「ブイ!」




ドカッ




「Σグハッ!!!?」







今にも腕を振り切り飛び立とうとするレンに、ゴウキは無情にも黒恋に命令を下す。殺れ、やらとっしんを命令する場所がやけに憎しみが込められているのは気のせいなんかじゃない

勿論黒恋の方も容赦無くレンの腹に向かってとっしんを食らわす(股間じゃなくて本当に良かったと思う)(いや、むしろそんな一面見たくない)。モロに直撃したみたいでレンは地面に崩れ落ちた。さっきの尻尾チョップといい、良い所が全く無いレンだった(黒恋はまた決めポーズを取っていた






「テメッ…ゴウキお前何しやがる…!モロに入った、…っガハッゴホッ」

「流石だ黒恋、受け身もさせずにモロに食らわすその勢い。後で美味しいものを食わせる様舞姫に伝えといてやる」

「ブ〜イ」

「テメェらこの野郎マジふざけんなこんな時に…!」

「お前は少し頭を冷やせ」






地面に崩れ落ち、腹を押さえ唸るレンの前に立ち、ゴウキはレンを見下ろす

憎しみやら何やらを込めた目で見上げるレンに、ゴウキは溜め息を吐きながら口を開く






「舞姫の身体を考え、舞姫を想っての事なら分かるが…心配し過ぎは舞姫を束縛してるのと変わりないぞ」

「っ…なん、だと!?」

「もう本人が居ない以上、俺達にはどうする事も出来ん。申請が通らない、時杜も居なければ尚更な」

「っだからってアイツをあんな場所に…!」






ガッ、とレンはゴウキの胸倉を掴んだ

お陰様で腹の痛みはどっかいったみたいだ。ピジョンブラッドの瞳を鋭く光らせ睨みあげるレンに、ゴウキは静かに言った









「舞姫の事、少しは信じてやれ」









衝撃がレンの身体を貫いた








「舞姫には舞姫の意思がある、舞姫には舞姫の考えがある。俺達には舞姫の主張を尊重する事が出来ても拒否する資格は無い。…それは一番お前が分かっているだろう?」

「っ…」

「今俺達が出来るのは舞姫の無事を信じ、舞姫の帰りを待つのみだ。夕飯には帰って来る、と手紙には書いてあったんだ。舞姫は戻ってくる、絶対にな」

「………」

「…愛する者の帰宅を待つのも大切な事だと思うぞ」






レンの肩を叩き、胸倉を掴む手を退してゴウキはレンに背を向ける

トトトト、と歩み寄る黒恋を抱き上げるゴウキ。茫然と立ちすくむレンを置いて家の中に入って行く。振り返る事はないその背中は、後は自分で考えろと伝えている様に見えた








「信じてやれ、か…」










残されたレンは只一人、まだ青い空を静かに見上げた





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