さあ選ぼう

次なる選択を


私達の、次の一手を










Jewel.31













「――――…えーと?こっちの雑誌には…あー、特別大した事は書かれてねーな。最近結構落ち着いてんからな、市民週刊は特にこれといったモンはねーな。何処かで事故った話も聞かねーし」

「そっか、良かった良かった。アレから結構経ったけど、もうアレに懲りて暴走族の皆さんが街中でまた暴走しなくなって安心した〜」

「ああ、うん、そうだな。アレ食らってもまだ暴走族精神貫く奴等が居たら俺はそいつらを本気で尊敬するわ」

「あらー」

「キュー!」

「お?そいつは今日の新聞だな。えーと…何々、『マサゴタウン在中ナナカマド博士と考古学サラツキ・ツバキ博士が遠征から帰郷。二人の研究が今後どの様に発展していくか期待』『今日の天気は寒空が続くも一日中真っ青な空』『ヨスガシティ、〇日後にふれあい広場が堂々オープン!』…あー、テレビでやってたヤツか、手持ちポケモンと散歩が出来るんだってな。今度時間があったら此処に行ってみようぜ!…って言ってもお前の場合常に散歩常備だったな」

「…」
「キュッ!」
「……」

「あはは。でも機会があったら皆で一緒に行こうね」

「おうよ!そん時が楽しみだぜ!」

「…で、数日前に発売された週刊誌には『金麗妃、無事にジムバッチを完全制覇する!』。勿論、『盲目の聖蝶姫、コンテストもジムバッチも完全制覇!』って書いてあるぜ。『リーグ大会にて金麗妃vs聖蝶姫のバトルに大いに期待!』だとさ」

「あらあら」








此処はナギサシティ

町外れにある、小さな無人発電所の中。今となれば集合場所であり秘密基地となってしまった馴染みある場所に、私達はいた






「…にしても。お前にこうして読み聞かせんの久々だな、ミリ」

「そうだね〜」

「おーおー、そうだったな〜。会うとすりゃお互いバトル三昧、トムさんの所で食いモン食ったり浜辺で遊んでいたりしてたからな」

「それから、デンジが停電起こしちゃうから叱りに来たりしたよね」

「だな。いい加減にしてもらいたいぜ…停電になると親に追い出されて駆り出され、すれ違うじーちゃんやばーちゃん達に『今日も頼むよー』とか言われて…此処まで走る俺の気持ちを考えてもらいたいぜ、なあ?」

「知らねぇ」

「おい聞け馬鹿」







目が見えないので、旅を始める前まではよく二人から雑誌や新聞に書かれている情報を私に読み聞かせてくれていた

ラジオやテレビからも情報は欠かせない。けれどそれらだけだと不十分。ラジオやテレビでは語られなかった事を、新聞は事細かく掲載し、雑誌等はそれこそ相手の尊厳関係無しにダイレクトに掲載してくれている。口コミ等様々に、私は多くの手段を駆使して情報を求めた。でなければ、私達はあまりにも無防備で、無知だったから

目が見えない現実は、辛い。特にこういった"読む"行為が限り無く制限させられるのだから。心夢眼、という優れた能力があったとしても、だ。字が読めない仲間達、平仮名だけでも精一杯な時杜、読めたとしても限度がある刹那達の目を無理に酷使したくない。点字、という便利な物がこの世にも存在しているけど、簡単に手に入る代物じゃ無い事は分かっている。あったらあったで凄いけど

二人の存在は当初何も知らなかった私達にとって、とても大きなものだった。二人は、嫌な顔をせずに雑誌等を手に取って私に聞かせてくれた。二人の話を聞き、二人から情報を収集し、周りの住人達やテレビ等からも収集した上で、私が知るポケットモンスターの常識と知識をフルに活用して、なんとか今まで過ごす事が出来た。本当に、二人には感謝している





「もー、私達だって来るのに限界はあるんだからさ。私達が此処に居る時に停電起こすんだったら話は別だけど」

「いやいやミリ、居ても居なくても駄目だからな」

「あれ?」

「結構言いたい放題言ってくれるが、俺だってこれでもなんとかしようとしているんだぜ?ただコイツが耐久性無さ過ぎなだけだ。俺は何も悪くねぇ。―――…それに、」

「それに?」

「大きな事を起こす為の小さな犠牲は厭わない」

「オイィィィイイィイッッ!何テメェ「俺今マジ名台詞決まったんじゃね?」ってどや顔決め込んでやがるんだ!犠牲は俺達か!?俺達なのか!?」






今となれば二人以外にも私に様々な情報を教えてくれる人達がいる。ミオシティのアルフォンスさんや、その街の図書館で出会ったゴヨウというトレーナーを始めとした、色んな人達が

でもやっぱりこの二人相手だと遠慮無く色々聞けるし、専門的な話や知識レベルや頭脳レベル等を上げられると色々と口を濁したい所だけど(酷っ)やっぱりこの穏やかな空間が、二人といるととても居心地が良かったから








「ったくテメェはよぉ。ミリが帰ったら覚悟しやがれ」

「知らねぇ」

「喧嘩は誤法度だよー」

「あーもうお前が唯一の俺の癒しだぜ……。さてさて続きを読みます……か、ん?…あ、……はァ!?」

「何だオーバ。斬新なアフロでも見つけたのか?」

「んなわけねーよ!おいデンジ!お前これ見てみろよ!」

「急に何んだっつー…………………は?はァア!?」

「何?何々?どうしたの二人共?」

「……………」

「……………」

「?」

「あー…マジかよ」

「ふざけてやがる」

「??」

「…」
「?」
「……」







突然、二人の様子がおかしくなった

何かを見つけたらしく、声を荒げた後、きっと食い入る様にそれを見ている。しまいには悪態を吐いているから、きっと二人にとってあまりよろしくない記事があったのかもしれない

どうしたんだろう、と皆と首を傾げていると――――急にガシッと強く肩を掴まれた







「わッ!!!???ななな、何!?」

「……………ミリ、驚かずに聞いてくれ。俺達は重大な新事実を目の当たりにした」

「心して、聞くんだ」

「う、うん…?(とりあえずびっくりした。心臓がやばばば…」

「実は――――…」











―――――
―――










「聞いてよミリ!面白い事が記事に書いてあるわよ!」






時は数日が過ぎて、今日

久々にシロナと会う事になった私達は待ち合わせとしてセンターの一室を借りて、まだ来ないシロナに紅茶を飲みながらのんびり待っていた所だった

ドタバタとけして賓がよろしくない足音が聞こえたと思ったら、バタン!と自室の扉が開かれた。相手は言わずとしれた、シロナ。本来だったら「久し振り」と言うべき所だけど、テンションが高いシロナに、そして勢いを殺さずに私の元へ足早と来る彼女にとりあえず「どうしたのー?」と聞いてみる

シロナの手には雑誌が手にあった。私が座るソファーの隣に腰を降ろした彼女は早速雑誌を持ち直してページを捲り始める。ペラペラと紙が擦れる音が耳を小さく霞めていく音を聞きつつも、私はもう一口の紅茶を口に含める。うん、うまー

私の眼の代わりになってくれている時杜が、興味津々と雑誌を覗いてくれている。何やら興味深い記事が目白押しらしい。目的のページを見つけたシロナは私に見せる様に持ち上げた







「此所の写真に写っているの、私とあなたよ!ほら、数週間前あったイベントのバトルがあったでしょう?それが見事写っているのよ!『ライバル同士のコンビネーションは最強無敵!』ですって!これ見たらつい嬉しくなって買ってきちゃったの!」







雑誌に掲載された記事。それはいつの日か開催された小さなイベントで撮られた、バトルを楽しむ私達の姿だった

たまたまバッタリ再会した町で開かれていた、小さなイベント。楽しそうに集うトレーナー達の姿に、「ミリ!私達のコンビネーションを見せにいくわよ!」「あーれぇぇぇ」と意気揚々と気持ちを高ぶらせては私を引きずってエントリーしていたのも今となれば良い思い出

あの時は朱翔とシロナのルカリオ、水姫とシロナのミロカロスという同族同種のペアで挑んだあのイベント。水姫とミロカロス二匹はともかく、同種ルカリオが嫌いな朱翔を宥めながらのバトルは大変だったなぁ(バトル中にまさかルカリオに攻撃する朱翔に何度も驚かされた)。けれど本当に楽しかったなぁ。なるほどこれは週刊誌、だから数週間前の事が書かれていたのね〜






「へぇー、そんな事が書かれているんだ。楽しかったなぁ、初めてシロナと組んだタッグバトル。景品欲しさにシロナ頑張っていたもんね」

「まぁね!あ、こんな事も書いてあるわよ?『盲目の聖蝶姫、今回のリーグ大会とコンテスト大会はどっちに出場するのか!?』……ミリ、あなたどっちに出るの?」

「うーん、どうしようね〜」












「今回の大会、リーグ大会もコンテスト大会も―――…開催日は、同じ日なんだよ」










数日前に言われた、衝撃的言葉

リーグ大会とコンテスト大会が同日同時刻に開催されるという、両方出場したい人間にとってかなり衝撃で痛手な話。流石に聞いた時は「(゜д゜)……うそーん」と阿呆顔になってしまったけど

というか!私が驚く事は!まさかコンテスト大会はリーグ協会の管轄外だったって事だよ!リーグ大会だからリーグ協会が主催するのは分かるけど!分かるけどォォォ…!てっきり二つの大会はリーグ協会の管轄内、それぞれ部署があるもんだと思っていた私の考えを大いに覆してくれた。聞けば、リーグ協会はナギサの海を越えた先にあって、コンテスト支部(正式名所はグランドフェスティバル・コンテスト協会シンオウ支部)(略してGF・K協会)(もっと略してコンテスト協会)(長いわ!)はヨスガシティにあるんだと。わっけわからん。てかポケモン絡みはリーグ協会が全て取り仕切ってくれているもんだと思っていたのに!どうしたリーグ協会いいのかリーグ協会…!

まあ、うだうだしてもしょうがない。なんとかなるでしょ〜、と思う私の言葉に何人の人が脱帽してずっこけたか(無自覚)。あれ、私おかしな事言ったかな?(無自覚!







「シロナはリーグ大会の方だよね?」

「えぇ、勿論よ。ミリと対決出来る相応しいチャンピオンとなってみせるわ」







愚問だったようで、シロナは私の問いにエッヘン!と堂々と宣言する

この時点でシロナは十分立派なトレーナーになってくれていた。私に勝ちたいが為に、私と本気の勝負がしたいが為に、シロナはこれまでずっと頑張ってくれた。出会った当初のシロナ以上に自信に満ち溢れている彼女に、見ていて本当に頼もしい限り。きっと、次のバトルは本気でシロナと戦う事になるでしょう。そう思うと身が引き締まる思いというか、本当に…楽しみ




―――――そうと決まれば、私の答えはただ一つ










「――…よし、決めた!シロナがリーグ大会に出るなら私は…コンテストに出場するよ」

「え!?コンテスト!?どうしてよミリ、リーグ大会はどうするのよ!」

「フフン、それはですね〜」







リーグ大会に出るものだと思っていたシロナ。まあそれもそうでしょう、彼女の手やオーラからも全く私がリーグに出場する事を疑ってすらいなかったから

でも、私はコンテストを選んだ。驚く彼女に私は紅茶のカップを揺らし芳香を楽しんでいた手を止める。カップを置いて、シロナに向けて私は笑って言った






「私達は世間に認められているライバル同士。同時日に行われる大会を別々に出場して、私達がトップを奪う。シロナがチャンピオン、私がトップコーディネーター……なんだかそれって、素敵じゃない?」








世間は今、私達に注目している

メディアはリーグとコンテストが同時日に開催される事でも大ニュースだと取り上げている。ただでさえメディアの眼は私達に向けられている。シロナはリーグ大会出場は周知の事実、対する私は二つの大会の出場券を両方握っている。誰もがきっと、シロナ同様に私という盲目の聖蝶姫はリーグ大会に出場しようと思っているだろう。リーグ大会には、シロナが出場する。お互いライバル同士なら、白熱した舞台をリーグ大会へ持ち越し、正々堂々と勝負する。誰もが考える―――私達の結末

だけど、私は敢えて皆の考えを覆す方向を取らせてもらう

人々は、私達に注目している。なら遠慮無く、私達は好き放題やらせてもらおうじゃないか。シロナはリーグ、私はコンテスト。同日に開催される前代未聞の大舞台で、二つのトップを奪い去る私達の偉業とも取れるストーリーを、メディアは蟻子の様に群がらせては大胆に取り上げる事間違いない


始めはポカンとするシロナも、私の言いたい主旨を理解してくれた様で、おかしそうに声を上げて笑った








「いいわ、私がチャンピオンになって――トップコーディネーターになったあなたに、勝負を挑ませてもらうわ!あなたのコンテストが見れないのは残念だけど…絶対にチャンピオンになって、大舞台で勝負しましょう!チャンピオンの権限使ってね!」

「互いに頑張りましょう、シロナ。そして是非ともその権限とやらでシロナが作る大舞台を作り上げて、私をそこに連れてってね」

「勿論よ!―――約束よ」







約束――――――…
























私には見える

シロナが、輝かしい栄光を手にした瞬間を

シロナが、立派なトレーナーとなって私の前に立ち塞がる瞬間を








「――――…本当に、楽しみだよ」










黄金の光の中、闇をも打ち消し、全てを明るく照らす輝かしくて麗しい【金麗妃】




この暗闇の視界の先に、光を感じさせるくらいに成長を遂げた彼女を、私は微笑ましい気持ちで共に約束を誓いあったのだった











(まるでそれは暗闇の奥に沈んだ私の心をも照らしてくれたようで)


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