旅先で訪れる様々な出会い

奇跡でもあり、偶然でもある


必然とも呼ばれるキッカケは

小さな光となって、積み重なっていく










Jewel.30













ミリは、一つ一つの出会いを大切にしている







どんなに小さな出会いだとしても、その小さな出会いや一瞬の出会いだろうが、ミリは大切にしている

出会いも、思い出も、一つ一つを大事に記憶と心に刻み込んで

何億人、何万人の数以上存在する人間や生き物の中で、その人ひとり出会える確率は限りなく低い。出会えない確率が多い何万人の中から、出会えた事は奇跡とも言える







ミリという存在もまた――――出会えた事そのものも奇跡である







【異界の万人】、唯一無二の存在



どの世界にも属さない、どの世界にも存在しない―――在そのものが奇跡とも言える尊い存在

彼女に会える確率などもはや通用しないくらい、出会えた事は本当に光栄な事なのである

その道にいる者であればあるこそ、【異界の万人】に御目通りが叶い、また【異界の万人】が自世界に訪れたこそまさに讃えるくらい光栄で栄誉に近い奇跡。ただし、【異界の万人】はただの一般人間に紛れているため、見つかる可能性は限り無く低く、見つかる事もまた、奇跡でもある






















「――――…時杜ちゃーん、今日の予定はどうなってる〜?」

《えーとですね…はい!今日は午前中にノモセシティのマキシマム仮面さんとの組み手があって、午後はトバリシティのスモモさんの指導が入ってます!》

「あらあら、今日は一日動く事になるのかな」








此処はとあるポケモンセンターの宿泊施設

ソファに腰を落ち着かせるミリの回りにふよふよ浮かぶのは時杜。自分専用にと与えられた、小柄な身体には少々不釣り合いな手帳をバックから取り出して中を開きながら時杜は言う。手帳に書かれてある字は…残念ながらまだまだ発展途中らしく読み難いがご愛嬌。隣(むしろミリの頭の上)にいた風彩が手帳を覗いて、指図め「読めない字だね」と茶茶を入れたのだろう。《僕が分かればいいのー!》とプリプリと怒って時杜は風彩のお尻をペシペシと叩く







「今日はたくさん動く事になるから、よし。朱翔には活躍してもらわないとね」

《バトルならこの私が!》

《バトルよりも指導だがな》

《バトルなら!この私が!》

《聞け朱翔》

「あはは。まあバトルして得るものはあるからねぇ、やる気満々な朱翔に色々お願いしちゃおっかな」

《はい!お任せ下さいマスター!》








やはりバトルの事となると我先にミリの前へ名乗り出た朱翔。バトルとミリの事になると回りが見えない彼は、言葉の訂正を影の中から口を出す闇夜の存在なんてお構いなしだ

まだ時間にもなっていないのに既に闘志むき出しにしてメラメラに燃える朱翔を頼もしそうに笑い、彼の頭を撫でていると、ミリに近付き身体をスリスリと擦って来る存在が現れる






「ミロー」

「そういえばノモセシティの近くに浜辺があったね。マキシさんの組み手が終わったら皆と一緒に水浴びしよっか」

「ロー!」

《貴様、水姫!勝手に横から出てくるなんて!いくら同じ仲間だとしても許さないぞ!》

「ロ、ロォ…」

《朱翔、そんな事で怒るな》

《煩い闇夜!》

「ああコラコラ、喧嘩は駄目だよ〜。よしよし、皆平等平等」







しなやかな首を伸ばして擦り寄って来たのは水姫。水浴びと聞いて嬉しそうに鳴く水姫に、主を横取りされたとばかりに躍起になる朱翔を影の中で闇夜が抑えるのも、もはや日常になっている

また朱翔がキレて一騒動起こす前にミリはよしよしと頭をそれぞれ撫でて場を収める。また嬉しそうに擦り寄る水姫と、満足だとばかりにすぐに影に潜る闇夜、そして改めて膝を折って畏まる朱翔それぞれに可愛がっていると、またミリの元に近付く存在が

それは先程手帳に書かれていた字を指摘された時杜を頭の上に乗せた刹那だった(風彩はふらふらと部屋を飛んでいる)手には時杜が書いた手帳があり、文字を難なく習得した刹那はパラパラと捲っては書かれている内容に視線を落とす(どうやら彼は時杜のご愛嬌な字が読み解けるらしい






《バッチを全て取得しても尚予定は詰まっているんだな》

「そうだねぇ。マスターランクやリーグ大会はまだいつ開催されるか分からないし、何もしていないよりも大会が開催されるまでの良い暇つぶしになってくれるよ」

「…」
《向こうが勝手に約束を突き付けて嫌な顔をせず引き受けてしまった主人も人が良過ぎると思うが》

「あ、あはー…まあまあ。慕ってくれているんだからその気持ちを無下にしちゃいけないからね」

《ですねー》

「ふりぃ〜(笑)」

《あー!風彩!また僕の字を馬鹿にしたなー!刹那が読めるんだから皆だって読めるんだから!読めるんだから!読めっ、読め…よ…め………(うりゅ)うわあああんミリ様ァァァ!!》

「おーよしよし。大丈夫大丈夫、人間の文字を書けるだけでも私は十分だと思うよ時杜ちゃん」








全てバッチは揃った。リボンも、残す所はあと一つのランクだけ

今まではジム戦の為、コンテストの為と日々修業に時間を費やしてきた。勿論、娯楽にも時間を費やしてはいたが。目標が一段落付くと後は最終段階の為の最終確認だけ。結果は後から着いてくる。今はのんびりと、久々の暇を堪能するだけ

…と、思っていたのだが。蒼華の言う通り(ちなみに彼はずっとミリのそばに居た)、旅先で出会った人達と交流を深めていく内に気付いたら約束が交わされて、こうして休日(というかオフの日暇な日)に約束を果たしに駆り出されるのが最近の日課。毎日が楽しいからミリとすれば嬉しい話なのだが、ポケモン達からすれば人が良過ぎる主に妙な約束(いやむしろ約束よりも悪徳セールス)こきづけられないかハラハラしていたりしていなかったり

ミリは基本的マイペースでお人好しな性格だ。気に入らない事は関心を示さない反面、気に入った相手ならとことん可愛がる習性を持っている。例を上げればデンジとオーバ、そしてシロナ等が該当する。興味深い相手にも相当し、ゲンやアルフォンスといった癖のある人物にも該当する。そして真面目で律義な部分もある為、こうした小さな約束でもミリはキッチリ果たす。それが、友と呼び、仲間だと思える存在なら尚更

予定が真っ白で何も無いより、こうして予定がぎっしりあってちょっと忙しい方が充実あって人間らしくて良いと思うんだよねぇ、と。どんどん予定が手帳に埋まっていくその様を見てとても意味深な言葉を言いつつミリはケラケラと笑ったのも最近の話


さてさてそうと決まれば、とミリはパンパンと手を叩く







「一日は長い様で短い。今日も充実した一日を送らないとね。さてさて時杜ちゃん、今の時刻は何時かな?」

《ぐずっ……えっと…今は午前9時30分です!》

「約束の時間は?」

《9時45分です!》

「よしよし、偉い偉い。時計まで読める様になった時杜ちゃん勤勉で偉いよ〜可愛いよ〜」

《えへへ…!》

《主、私も時計ぐらい読めるぞ》

「うんうん、分かっているよ刹那ちゃん。刹那ちゃんは飲み込みが早いからねぇー、おねーさんは君の将来性に色々と期待してるよ〜」

《む。…ミリ様!僕、この調子で頑張って将来はミリ様の眼と通訳と秘書になります!》

《なら私は主のボディガードと隠密諜報になる》

《競ってどうする》








今日はノモセシティとトバリシティに出張。きっとこのままトバリジムリーダーにスモモの相手を任され、夜はトバリジムの方々に厄介になる形で一泊するんだろう。スモモは随分とミリを尊敬し、慕っていたから

次の日はデンジとオーバに会う為にナギサシティへ。その次の日はトウガンとヒョウタと会う為に、そしてメリッサとランチタイム、図鑑報告の為にマサゴタウンに行ったりと、その日様々に

今日も明日も明後日も、ミリ達は忙しなく動く










「行こう、皆」

「…」
《はい!》
《あぁ》
《分かった》
《承知しました》
「ミロー!」
「ふりぃ〜」









そしてまた、紅い空間が開かれては淡い光の名残を残すのだった








(今日も楽しい一日が始まった)


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