目が覚めたミリが真っ先に視界に入れたのはレンの優しいピジョンブラッドの瞳に、月光の光に反射され美しく輝く彼の白銀 「目が覚めたか、ミリ」 「ぁ…」 「熱もないな。ちゃんと眼も見えている。…良かった」 安堵の息を漏らすレン。くしゃりと頭を撫でた後、顔を近付けてミリの瞼にキスを落とす 目が覚めたばかりのミリに、流石に今の状況はさっぱり分からなかった 「私は、一体…」 「…何処まで覚えてる?」 「……暗闇の中で、レンが助けてくれたのは…」 「…それだけ覚えているなら、十分だ。…昨日のは、思い出さなくていい」 「……?」 頭を傾げるミリをレンは微笑を零しながら頭を撫でる。その微笑が何処か辛そうに見えたのはミリの間違いなんかではない 気になっている様子であろうミリの首筋に頭を埋めて、気にするなと小さく呟く。それ以上聞かないでくれと雰囲気でそう語っていた。聞くにも聞けなくなったミリは窓から見える空を見上げた 「……あ、かい…」 満月が見えた その満月は――紅かった 「……?」 ミリはおかしい事に気付いた ――紅い満月を見ても、発作が起きない 今までどの世界に足を踏み入れ、何度か紅い満月を目撃してきた。その時必ずと言っていい程強い動悸が走り、発作が起きる でも今回はそれが感じられなかった。むしろ嫌な予感さえもしない。ミリは困惑した。一体全体、どうなっているのか、理解不能だった 「満月が紅く見えるか?」 「!!」 「お前があの満月が嫌いな事は知っている。…大丈夫だ、俺がいる。ほら、こうしとけば安心だろ?」 「っ…」 どうしてその事を知っているのか、どうして紅い満月で苦しんでいる事を知っているのか…もう、何がなんだか分からなかった ミリの手を取ったレンは指と指を絡ませてギュッと握る。じんわりと暖かい温もりに、ミリも応えてキュッと握り返す 只、それだけなのに何故か身体は楽になっていった。どれもこれも謎だらけで… 一つ言えるのは、この温もりにまた出会えた事。それだけでも十分だった 「…レン」 「ミリ」 「……ありがとう」 レンがいなかったら ずっと、あの闇の中にいた 「助けてくれて、ありがとう」 ミリは腕を伸ばしてレンの頬を包んだ 目を張るレンを視界に入れながら ――ミリは初めて、自分から唇にキスを落とした 「本当に…ありがとう」 たった触れるだけのキスでも、まるで時が止まっているかの様に 唇を離したミリは、微笑んだ。ありがとう、また同じ言葉を呟いてレンの胸に顔を埋めた。その顔は泣きたい様な、でも幸せそうな表情を浮かべていた レンはミリの身体を抱き締めた。闇の中では強く抱き締めたそれは、今度は壊れ物を扱うかの様に、優しく―― 「ミリ、愛してる」 「レン、大好き」 それからまた一つ、甘いキスを 紅い満月はミリの身体を蝕むも、二人の姿を優しく見守っていた―― * * * * * * 『いつも光の存在は【私達】を照らしてくれていた。光があるからこそ、【私達】は此所まで頑張る事が出来た。光が無ければ、【私達】は己の宿命に押し潰されやがては自分をも見失う』 先程まで真っ暗だった世界 今は、目が眩む程の真っ白な空間 『もう一人の【私】の闇は今までの【私達】の闇よりも、深い そうですよね、フレイリ』 『あら、気付いていたのね』 『フフッ、お久し振りですねフレイリ。私が気付いていないとでも思ったらそれは間違いです』 白い空間にいるのは先程、闇の中に現れたオレンジの存在 ミリと同じ容姿をした彼女はクスクスと口元に手を当てて小さく笑う 『意識体として再会は今日が初めてね。どう?もう一人の【貴女】は』 『彼女はしっかりと自分を持っている、意志が強い子です。…ですがその分、脆い所がある』 『そう、脆い所がね。今回、【貴女】のいる世界に居る事によって満月の影響が凄まじく強い。…その為にも、あの子にも【異界の守人】という存在が必要なのよ』 『今まで出会っていなかったみたいですね』 『えぇ。運悪く、あの子を待つ前に命を落としてしまった者や、力に目覚めていない者、あの子が会う前に世界を去ってしまったりとね』 【異界の守人】は唯一無二である【異界の万人】とは違い、それぞれの世界に必ず誰か一人は存在する ミリは沢山の世界を巡ってきた。しかしフレイリの言う通り、何かしらの理由で巡り逢う事が叶わないでいた。本人自身、その存在を知らなかったのもあるが 『見つかって良かったわ』 『そうですね』 白い空間にフワリと現れた一つの光 光はある映像を浮かばせた。そこに映っていたのは――互いの唇を重ね合わせ、嬉しそうに笑うミリとレンの微笑ましい姿 あら、と二人はクスクスと笑った 『彼には偽りの真実を伝えておいた。…それが本当か、嘘かは彼自身が感じる事』 『そうですね…もう一人の【私】がこの世界で暮らせるにはそれしか方法はありません。既に【異界の万人】だなんて、言えるはずはありませんから』 『そうね。…でもあの子は"恋"を禁忌だと言うけど、結局は人間だもの。…フフッ、しかしあの子が恋ねぇ…。保護者として嬉しいわ』 『私も、もう一人の【私】と彼が気持ちが通じ合えて嬉しいです ―――ですが…』 ブン―― と、また別の光が一つ現れる 『………』 『…気になるのね』 『…えぇ』 そこに映る、一つの映像 映像に映る、一人の人間 『……嵐が、来そうね』 『はい…』 映像に映るのは、一人の青年 ――カシミアブルーの瞳を持つ青年は、あまりにもレンに酷似していた 『…願わくば、最悪な事態にならない様に』 映像に映るレンとミリに、名も知らぬ一人の青年 オレンジの存在は、苦悶の表情を浮かばせながらレンと青年を見つめていた (彼等を繋ぐのは、一体何?) |