『いきなりなんですが、貴女に一つ、聞きたい事があります』 暗闇に浮かぶもう一人の【自分】 「…何でしょうか?」 『貴女のそばにいる彼を、貴女はどう思っていますか?』 「……彼…?」 突然に問われた質問にミリは頭を傾げる 暗闇は人の中にある時間を狂わせる。少しの時間であっても、まるでずっとそこに居た錯覚を思わせる。思考も狂わせる為、その質問を頭に叩き込み答えを出させるのに時間を有した 彼、という存在を思い出したミリはゆるゆると頭を振った 「…彼は、関係ないのでは…」 『そうかもしれません。ですが質問に答えて下さい、もう一人の私。貴女は彼を、どう思っていますか?』 「…どうもこうも……私は彼の事は、大切な仲間だと思っています。それ以上もそれ以下もありません」 今更、そんなこと 聞いて何になるのか 『嘘、ですね』 「え…?」 『貴女は知っている筈です。貴女が彼に想っている気持ち…それは、【私達】が、勿論私も、ずっと押し殺していた本当の気持ち』 「…知りません、そんな気持ちなんて」 『少なくとも貴女は感じている筈です。…さぁ、思い返してみてください。貴女の隣りにいる彼を、彼と一緒にいる自分を』 「………っ」 ミリの脳裏に浮かぶ、白銀 ピジョンブラッドの綺麗な瞳を持つ、彼 「………レン」 彼はいつもミリのそばにいた。いや、気付けばミリの隣りにいる事が当たり前になっていた ミリの隣りで笑うのも ミリの頭を撫でるのも ミリを優しく包み込んでくれる抱擁も 「ミリ」 気付かないと言えば嘘になる でも、だからってどうすれば良い? 初めての事だった 数多の世界に行き渡り、様々な世界の人達と出会ってきた。しかし、その気持ちに達するまでには既にミリは世界を去っていた 宿命の為―― それが今までミリにとっての全てだったから 『…恐れる理由は分かります』 「…そう、私は恐ろしい。彼が、レンが…私と関わった事で人生が変わってしまうのを。私のせいで、関係無いレンを巻き込んでしまうのを」 只でさえ自分は異端 罪悪感がミリの中にはあった。いや、罪悪感だらけだった。ミリと関わっていくだけでも…確実に彼の何かが変わっていくのを、ひしひしと感じ取っていた それに自分のせいで彼の心を追い詰めさせてしまった。償いたくても償えきれない 本当なら、自分のせいで影響を及ぼしているなら、早々に彼の前から立ち去らないといけない。彼の人生の事を考えれば、致し方ない事 でも―― 「私は彼の元を…離れる事が、出来なかった」 離れる事は幾らでも出来た 機会は幾らでもあった 彼の前から立ち去る事も、最終的には記憶を消す事も――けど、それは通用出来ないのはミリは分かっていた レンの前から消えた事がある。でも彼は勝手に居なくなったミリを探し出した。記憶を消そうにも、記憶は完璧に消す事が出来ない為いつかは思い出してしまう―― 『本当の、気持ちは?』 「……本当の…気持ち…」 『少しくらい、気持ちをさらけ出しても…罰は起きませんよ?』 「……私は、」 そう、私は 「彼から、離れたくない…!」 いつかは離れないといけない 頭では分かっている ――分かっているのに 「あの暖かい温もりを…初めて得た温もりを、手放したくない…!」 レンはいつもニヒルな笑みで、しかし優しい笑みでミリを包んでくれていた どうしようもなく温もりが欲しい時があった。しかしミリの性格上、自分から求める事はしなかった。いや、出来なかった。恥ずかしいのもあったし、果たして彼が受け入れてくれるのか…。けど、レンは受け入れる所か自分からミリを抱き締めてくれた それがどれだけミリを救ったか、それをレンはしっかりと分かっていた 「私の"光"を…消えさせたくない…!」 「俺は、お前の"光"になる」 いつの日か言われた言葉は衝撃としてミリを貫いていた 初めてだった、そんな事を言われたのは それに言われなくてもミリにとって彼は既に光だった。回りの全ての生きとし生けるものもミリにとっても光だったが、特に一番レンは光輝いていた レンの一つ一つの行動は、冷めてしまったミリの心を溶かしていた。光としての彼の行動は、確実に闇のミリを照らしてくれていた 「私は…っ」 「ミリ、」 「私は、レンの事が…好き」 いつの間にか白銀を目で追っていた 気付いたら温もりを求めていた 知らずに鳩血色の瞳を恋い焦がれていた その存在を、愛しいと思っていた 「…大好きなの。私は、レンの事を」 でも、こんな恋は…叶わない 知らなかった方が良かったかもしれない 「実らない恋は、気持ちを封じるしか…私には出来ない」 それしか方法はないから だから―――― 「だからお前は勝手に溜め込むなって言っているだろーが」 白銀が、輝いた → |