事の発端が、ゲンが突然レンを呼んだのが始まりだった。思わぬ人物からの突然の連絡にレンは驚くも、一つの返事で了承したのだ。電話先の相手の声色は真剣そのもの―――何かあったに違いないとレンは悟っていた





さっそくといった様子でゲンはレンにある写真を取り出した。その写真は―――隠し撮りされた、ある男が写し出されていた

写真を受け取ったレンは写真を見て―――形良い眉を寄せ、「………こいつは誰だ?」と訝しげな視線と共にゲンに投げ掛ける

ゲンは小さく驚いていた






「………君が知らないとなると、彼は裏の人間ではないらしい。彼の名はチトセ、年齢は33歳で独身。コトブキシティの大通り沿いにある『リコリスの花』という喫茶店の店長をしている」

「リコリス…あぁ、副幹部長の経営している喫茶店か。あの喫茶店にはまだ入った事ねーんだよな。ミリとシンオウで再会したら連れて来ようと思っていたが」

「残念、もう私達はミリと行ってきたよ。アスランさんと一緒にね」

「………、あの時か。アスランから話は聞いていたが…まさかあそこの喫茶店だったのか。チッ、ふざけやがって」

「……包み隠さず舌打ちするところは変わってないんだな」

「フン、まあいい。気に食わねぇが、アスランがアレで大層喜んでいたんでな。結果由として――――で、この男の情報が欲しいのか?お前くらいなら、簡単に情報が集められるだろーが。何故今更俺を頼る?」

「そうであって欲しかったが…私が調べても何も出なかった。だからこそ裏に詳しい君に頼みたい。彼が、何者かを」

「…………。表で何も出なかったからといって裏で出てくるとは限らねぇのは分かってるはずだ。けど、お前はこの男が裏の人間だと断定付けている。…その根拠は何だ?」

「……………」

「それに今、この状況の中でお前がこうして動いているとなれば――――ミリに関係している事だな?」







そう―――今、こういう状況からこそゲンからの連絡は、何かあると踏んでいたからレンはゲンの元へと足を運んだ

数週間前はミリを奪い合う仲だった。しかし、今は違う。そのミリは行方不明、彼女を見つけ出す為に共闘し合う仲になったのだ

もう、あんな思いはしたくない

大切な存在を、取り戻す為にも―――









「……今更言う事じゃないが、私が波動使いの人間なのは知っているな?」

「愚問だな。数ヶ月前にこうてつじまでの騒ぎでお得意の波動の力を使って爆発を食い止めたっつー話は聞いてるぜ?波動電波野郎」

「(ピギィィ)……人に見られていないはずだったのに、その情報網は恐ろしいな」

「で?この流れでいけば何か感じ取ったのか?」

「あぁ。あの日を境にその男の波動が気になっている。勿論、悪い意味でだ」






今でも忘れた事はない

あの日感じた、あの不吉な波動の意味を







「世間はまだミリを思い出しつつある中、たとえ【聖燐の舞姫】とはいえ初対面の客相手に―――この男はミリに対し……黒く歪んだ波動を感じ取った。それは私のルカリオもシロナのルカリオも同様に感じていた。あれは、危険だと」

「―――!!」

「あの男は確実にミリの事に気が付いていた。じゃなければあんな波動なんて…向けられるわけがない。それからか嫌に気になって仕方が無い。ミリが行方不明になったあの日も、何故かあの男が浮かんだくらいだ。私の勘は嫌なくらいに当たる―――もしそうだとしたら、」

「………お前の波動と勘には定評がある。確かに、気になる話だな」







「どうぞ。ご馳走様でした」

「「ブイ!」」

「――――ありがとう御座います」







「ゲン、この話…他に誰か知っているのか?」

「誰にも話していない。勿論、あの四人にもね。彼等はリーグ関係者、ただでさえ率先して動いているんだ…私の勘や波動の事だけで動かしたくはない」

「………」

「お近付きになりたいのかサービスなのかは知らないが、土産物としてミリが好きそうなヘアピンなんかも同封していたな。本人は気にもせず白亜に着けていたが…やはり嫌な予感は拭い切れない」

「―――!?」

「それから―――、?どうかしたか?」

「ヘアピン………もしやこれの事か?」






今度はレンがズボンのポケットから手帳を取り出し、挟んで合った写真を取り出した

それは、一週間前のあの日―――闇夜から受け取り、ナズナの手によって敵のアジトを見つけ出したキッカケを与えてくれた、あのヘアピンで

写真を見たゲンは、まさかヘアピンの写真を持っているなんて思わなかったらしく、驚いた様子で写真を見返した






「あぁ、それだ。間違いない。ミリのバックの中にそのヘアピンが見つからなかったからな、爆発に吹き飛ばされて壊れたのかと思っていた。…しかし、何故レンがそのヘアピン、しかも写真を持っている?」

「…………。まさに棚からぼたもち、だな」

「は?」

「ゲン、でかした。お前の波動も勘―――やっぱり俺が認めただけの事はあるぜ」

「!…やっと私を認め……いやそうじゃない。一体何の事か説明してくれないか?――――って、おい!レン!待て!最後まで説明しろ!!」










展開が、動き出した







* * * * * *








場所は変わって

此処は、とある場所―――






「さて皆さん、随分とお待たせしました。さっそくお仕事に入ってもらいます」






薄暗い部屋の中、チトセは言う

眼前で暇を持て余し続けていた者達に向けて






「やっとかよ。待ちくたびれたじゃねーの。このままパラスみたいに腐っちまうのかとおもったぜ」

「おや。ではそのキノコをはぎ取って生計でも経てますか。まあ私は全く食べたくないですが。ラムダの生やしたキノコなんて食べたら食中毒になりそうですね」

「おい」

「レディを待たすなんていい、度胸しているじゃないの。いい加減うんざりしていたところだったわ」

「同じく。忘れられているのかと思いましたよ」






ロケット団復興の為に『彼岸花』と手を組んだ元団員―――アポロ、ランス、アテナ、ラムダの四人。チトセの言葉に待っていましたと声を上げる

何せ今まで連絡も無くただただ暇な毎日を過ごしていたのだ。外では色々と騒がれていてもこちらには全く関係ないとばかりに平和で暇な日々。いい加減うんざりしていたのだから

アポロはクスリと笑う






「新たな任務―――やはり、リーグがアジトの居所を見つけ出したからでしょうか?」

「おや、お耳が早い。その通りです。あの男がこちらの居所をキャッチしましてね。どういう方法を駆使したかは知りませんが、今まさに彼等は私達『彼岸花』とロケット団の壊滅を企てているところでしょう」

「徹底してアジトを眩ませていたこちらの居所を掴むなんて、流石はナズナ様といいたいところですが……面倒な事になりましたね。居所が知れたとしたら彼等が一斉にこちらに攻めてくるのは目に見えてます」

「簡単にはさせませんよ。仮に彼等が攻めてくるアジトには大方見当がついてますし、万が一攻略されたところで特に問題はありません」

「頼もしいですねぇ」

「で?俺達は何をすりゃいいんだ?せっかく温存してたんだ、いっちょ仕事で精を出さねぇとな」

「そうそう。派手に暴れちゃうわ」

「ではチトセさん、私達に指示を下さい」

「その前に、皆さんに差し上げたいモノが」





不意にチトセは持参してきたバックの中から、ある物を取り出した

テーブルの上に置かれたソレは、小袋あった。何かがたくさん入っている。アポロがその小袋の中身を開けて出てきたのは―――真っ赤に燃える、彼岸花のブローチ

四人は首を傾げた






「――――これは、前に頂いたブローチですね。今更これを何故私達に?しかもたくさん」

「それを貴方達のポケモンに着けてあげて下さい。次のお仕事で役に立ってくれますので。勿論、貴方達が着けているブローチにも同様の効果がありますので安心ください」

「役に…?こんなブローチが、一体何の役に立つのかしら?」

「効果?なんだ、細工でもしてあるのか?」

「―――――そのうち分かりますよ」







ニヤリと、眼鏡を光らせチトセは嘲笑った









(真っ赤な真っ赤な)(不吉な花)



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