微笑ましいその姿 でも裏に隠れる闇の姿 それでも、彼等は輝き続ける Jewel.29 ――――…そう、それはあの日 ユリさんとアルフォンスさんのご夫婦と出会ったのは、ミオシティで特設ステージが開かれたライブコンテスト ユリさんが帰宅しようとした私に話し掛けてきてくれたのが出会いでもあり、キッカケだった 「髪ツヤッツヤ!肌超キメ細か!睫毛長い!化粧は…うっそ!していない!これは化粧をしていない顔だわ!化粧要らずでこんなに綺麗だなんて…!!スタイルも抜群だし、胸も形良いしお尻もいい形してるし…うんうん、これは女も男も関係無しに注目しちゃうわよね!もう周りの人達がジャガイモみたいに見えちゃうくらい!」 「(ええええこの人一体何ィィィィ!)」 「ポケモンもすっごく綺麗で可愛くてカッコいい三強だし!間近で会えて本当に良かったわ〜!あ、カイリュー!聖蝶姫ちゃんにサイン貰わないとね!カイリューもそうだけど他の手持ちもあなた達のファンになっちゃったみたいでね〜!良かったわねぇカイリュー!」 「リュー!」 「(ええええぇぇぇぇ…)」 私達を囲む観客の皆さんの輪を、彼女の手持ちのカイリューを使い邪魔だとばかりにゴミの様に(笑)退し(いやアレにはびびった)、掻い潜って私の目の前に現れたユリさん。シロナとはまた違った、輝かしい金の瞳と滑らかな水色の髪をポニーテールに決めていた、気の強そうな女性。強そうなカイリューを後ろに従えている姿を見ると、相当な強者、指図めドラゴン使いのトレーナーだろう。カイリューの他にも腰に装着してある数個のボールからも、ひしひしと"何か"を確認出来た。この人は、強い。容姿よりも印象よりも真っ先に、彼女の内なる真の実力感じた(いやでもカイリュー使っちゃ駄目でしょどれだけ強行突破だったの(ry 私の前にずんずんと現れた彼女。相当な実力者で、カイリューも従えて来ると言う事は、私達のやる事は一つしかない。バトルには特に支障は無かった。闇夜がテレパシーで名乗りを上げたので、全てを闇夜に任せようとした。そんな時、 対面して第一声の言葉が、「コンテスト見たわ!あなた達、本当に凄かったわ!もう惚れ惚れしちゃうわ!」だった。金の目をキラキラと輝かせて、拳を握って。バトルじゃ無かった、の拍子抜けと彼女がまさかこんな言葉を言って来るとは思っていなかったから少し驚いてしまったけど、すぐに私は調子を取り戻して「ありがとう御座います」と言葉を返した これはよく言われ慣れている言葉、言うなれば社交辞令のお世辞言葉。この人もきっとその類いで、次にはバトルでも待っているのだろう。けれどそうじゃなければ早く帰るに限る。そう思った私はいつもの様にお礼の言葉の後に適当にあしらって、増えていく群衆から立ち去ろうとした私を…――――彼女は逃がさないとばかりにガシッと手を掴んできたじゃないか。思わぬ予想外の行動と、キラキラとした眼差しを強く私に向けながら、「それでね!何処が一番感動したかっていうとね――――」と、まさかのマシンガントーク。これには驚かされた。いや本当。流石の皆も彼女の登場はともかく、彼女の止まらない熱弁に目を点にしていて(あの蒼華までも…!) 一言二言での言葉なら対処は出来るけれど、相手はマシンガントーク、しかもこの子達を純粋に感動してくれていると手の感情で分かっていた為、無下にする事は出来ない(いやする気は無いけれど)。止まらない彼女にどうしようかと困っていた時に現れたのが―――――…ユリさんの旦那さん、アルフォンス=イルミールさんだった 「ユリ!!」 「あらあなた!遅いわよ!」 「いやいや遅いじゃないだろ…!此処まで来るのにどれだけ苦労したか…!それよりも、ユリ!また君の悪い癖が出ているぞ!聖蝶姫達が呆気に取られているっていうか注目されているから止めなさい!」 もはや野次馬の様にユリさんの暴走(※マシンガントーク)を傍観している観客の皆さんを掻い潜って現れた一人の男性。余程揉みくちゃにされていたのか、服や髪が乱れていたのは置いといて 白いワイシャツと黒のジーパン、スラリとした長身。手に持つのは、分厚い本。髪は太陽に煌めく綺麗な白銀色に目がいき、眼鏡の下に隠れる緋と藍のオッドアイの瞳もまた、とても印象的だった。しかもこれまたイケメン。温厚で優しそうな、でも芯の強そうで。彼の腰に装着されているボールからもひしひしと存在が感じられ、この人もデキる人だと悟った でも私はすぐに分かった 彼は何かを持っている事を。秘めたる"何か"を持つ、とても興味深い力を… 「何よー!良いじゃないのちょっとくらい!ただ私は聖蝶姫ちゃんに今日の感動を伝えているだけよ!」 「リュー!リュー!」 「…」 「キ、キュー…(汗」 「……」 「………」 「ほら見てよあなた!カイリューも熱弁しているわよ!」 「ちょっとどころじゃないだろ!ユリが聖蝶姫の手を握って語り始めてから約5分49秒、カイリューが三強に熱弁して今これで6分が経過しているんだぞ!十分長いぞそれはもうマシンガントークだ!」 「そういうあなたも悪い癖が出ているわよ!細か過ぎるわよ!さっきだって道に迷うし眼鏡忘れるしボール忘れるし!それこそあなたの所為で色々と時間が掛かっているのよ分かってんの!?そんな愚夫のあなたに振り回されたんだから聖蝶姫ちゃんと会話するくらい別に良いでしょ!?」 「愚夫って何だ愚夫って!色々俺の心がグサグサとブロウクンハートされてるんだけど!とりあえずユリお前は目の前に立つ聖蝶姫の顔を見ろ!周りを見て自分の立場に気付いてくれぇえええ!」 「何よあなたのくせにぃいい!もううるさいあなたにはお仕置よォォォカイリューやっちゃいな!」 「リュゥゥゥゥッ!」 「そうやってまたバトル仕掛けるのもお前の悪いくせ……(ドゴォォォッッ!)ッギャアアアア危なッ!危なああああ!!!ちょ、ま(ガガガガガッ)ッ殺す気か!こうなったら、ガブリアスゥゥゥゥッ!」 「ガァアアアアッ!」 「リュゥゥゥゥッ!」 「聖蝶姫ちゃんはこのままお持ち帰りするのよ!いくらあなたでも邪魔はさせないわよぉおおおおお!!!!」 「止めろユリィィィィ主旨が違う!いつの間にか誘拐になっているぞそれは流石にさせられないっていうかいい加減暴走止まれぇえええ!!!!」 「―――――…っ、あははは!」 心夢眼で視ている光景と、耳で聞こえる二人のやり取りに、柄にも無くつい笑ってしまった 今まで仲の良い「夫婦」というモノを見てきたけど、こういうやり取りを街のど真ん中でやってのける仲の良い夫婦は初めてで。きっとこの二人はずっと未来永劫円満に仲良く過ごせるだろう、と浮かぶ妙な確信。そう思ったら余計に笑いが止まらなくなって 急に私が笑い出した事によって眼前に立つ二人と二匹の行動が止まり、呆気に取られた表情をこちらに向けてきたのが分かる(蒼華達も同様に私を見ている為、私の視界は自分に映っている)(あらやだちょっと恥ずかしいじゃないの)。それでもまだ、いや余計に笑いが込み上げてきて止まらなくなってしまった私に感化されたのか、周りからもドッと笑いが溢れ返って 笑いの的になってしまった二人はぎこちなさそうに顔を見合わせるも、数秒経ってから同時に噴き出して笑った 「―――――……ハハッ、これは参った。ユリを止めるつもりが、結局俺まで巻き添えを食らってしまうなんてね」 「あらやだあなた、心外だわ。あなたが止めてこなければこんな事になる事は無かったのに」 「リュー」 「ガァア」 「お二人共、とても仲が良いんですね。微笑ましく思います」 「ハハッ、ありがとう。……――――あぁ、そうだ。この機会だし自己紹介をしよう。俺の名はアル、アルフォンス=イルミール。リーグ協会に勤めている。君の活躍はリーグでも聞いている。何かあったら力になるよ。よろしく、聖蝶姫」 「私はユリ=イルミールっていうの!私、あなたの大ファンなのよねぇー!今日の機会であなたとお友達になれたら嬉しいわ!よろしくね、聖蝶姫…いえ、ミリちゃん!」 これが、出会い 「アルフォンスさん、ユリさん こちらこそ、よろしくお願いします」 「…」 「キュー」 「……」 「………」 これが、キッカケ ―――――― ―――― ― 近い内に会いたい、と連絡が入った 断る理由も無かった。久々に会いたいと思った。あの夫婦は出会った当初から私達に強烈な印象を与えたし、ゲンとはまた違った興味深い対象だったから 「はい、ミリちゃん、ミリちゃんが頼んだチョコレートバナナパフェ!とっても美味しそうねぇー」 「わわ、ありがとう御座います…!」 「遠慮しないで食べてくれ。今日は俺達の奢りだ。…まぁ遅刻してしまった分も色々含まれているけど。しかし噂通り聖蝶姫は甘い物が好きなんだね。特にチョコレート系の甘い物が」 「目の輝きが可愛かったわ〜。あ、ミリちゃん隣のミュウツーが盗み食いしようとしてるわよー」 「あらあら、刹那ちゃーん」 「Σ……!」 此処はコトブキシティにある、人通りが少ない小道に隠れた喫茶店 モダンで落ち着いた古風ある雰囲気と、心地好い小さなオルゴールが流れる静かな店内。兼ねてから予約を取っておいてくれたお蔭か、今私達がいる場所は個室で、蒼華達もゆったり出来る和室に通してくれた(蒼華達はボールが無いから、公然の前でゆっくり出来たものじゃないからね)。今、私の後ろには腰を落ち着かせた蒼華と、頭上をふよふよする時杜と、隣にはパフェをすっごく食べたいとばかりに尻尾を揺らす刹那がいる そして私達の目の前に座るのは、ユリさんとアルフォンスさん 私達を誘ってくれた、(目の前でイチャイチャッぷりを見せてくれた)とっても仲の良いミオシティに住むご夫婦さん 「あ、ねえねえミリちゃん!あれからどう?バッチはどのくらいまでゲットした?」 「ふっふっふーバッチはですねぇー、数日前に全部揃いました!」 「あら!それは凄いわね!おめでとうミリちゃん!」 「えへへ、ありがとう御座います!この子達が頑張ってくれたお蔭ですよ〜。よしよし」 「…」 「キュー!」 「……!」 この時点で既に、私達はシンオウ地方のジム全てを制覇していた バックの中にあるバッチケースには全てのバッチが光り輝いて納まってある。毎日時杜が磨いてくれているからピッカピカでツヤッツヤ!(ルンルンと磨く時杜ちゃんが可愛くて可愛くて←)バッチをなぞるたびに、あぁ、自分達はとうとうジムバッチ制覇したんだなぁって実感して 時杜の力(空間移動)や刹那の念力(吹雪防止)、蒼華の足(歩行援助)で訪れた最後の街キッサキシティ…うんうん、流石は最北の街キッサキシティ、皆の力を借りて行くのは良いけれど凄まじい雪にどれだけ足場を取られたか(最悪自分の力を使ったけど← 皆には本当に感謝ばかり。改めてお礼の言葉を言いながらそれぞれの頭を撫でてあげる。蒼華は静かに擦り寄り、時杜は嬉しそうに宙を舞って、刹那なんて尻尾を振りながら美味しそうに私のパフェを遠慮無く食べ始めちゃうんだから、なんかもう笑っちゃうよね(あーでも刹那ちゃん私の分も残しといて← 「情報はこちらの耳にも入っているよ。今から約135時間46分18秒前……キッサキシティのキッサキジムリーダー、スズカとの勝負に勝利したって事をね。君の手持ちのルカリオのインファイトがフィニッシュしたって事もね」 「?………キュー…?」 「あぁ、ごめんごめん。つまり、五日前にはこちらに話が伝わっていたって事さ。君の活躍も聞いているよ」 「キュー!」 「ごめんなさいねぇ、ウチの旦那ってばこういうのにうるさいっていうか細かいっていうか」 「話は聞きましたよ〜、アルフォンスさんのお話。優秀な情報屋という、とても興味深いお話を」 口には出さないけど、二人はミオシティでちょっと有名なご夫婦さんらしく(いや、勿論良い意味でね! アルフォンスさんはリーグ協会シンオウ支部にある「情報管理部」っていう部長を勤めていて、彼の事を人は【白の鬼才】と呼び、また砕けた名前では【歩く情報屋】なんて異名が付いちゃうくらい情報に強い人らしい(分かりやすい異名…)。先程の会話でそれが事実だって証明されたけど(確かに細かい、細かい情報…!)。なんでも、彼に知らない情報は無いって断言出来ちゃうくらいに凄い人で……―――でも、その反面すっごく残念な所が多々あるそうで(まぁ敢えて聞かないし言わないけど!)。他にも彼がまだポケモントレーナーとして遠い地方で活躍していた時はまた違った異名が別にあるみたいで(此処ではあまり知られていないみたい)…なんだっけ、えーと……ウィッシュ地方?ん?ティッシュ地方?ん?……んんんん?← ユリさんは生粋のエリートトレーナ出身で、昔は違う地方でかなり活躍していたらしい。手持ちにあの強いカイリューが居たからドラゴン使いかなぁ、って思っていたけど、どうやら私の予想は的中していたみたいで。ユリさんは何処かの地方にある竜の郷出身らしくて、ドラゴンポケモンを扱う屈指の実力者だったみたい。この地方ではあまり知られていない【煌龍翔】っていう凄い異名があったって聞いた(これはまた、強そうで) まぁそんな活躍しまくっただろうお二人も、今はすっごくラブラブなご夫婦!アルフォンスさんの失態に怒るユリさん、暫く喧嘩していたのにいつの間にか仲直りして、ピンクのオーラやら薔薇の花を振り撒くだかなんだか……あっれー私も先程似たような光景を見たようなry トウガンさんやゲン、他の街の人と会話をしていた時に浮上した二人のお話。その内容に驚くも、逆に納得した部分が多々あった。異名とかぶっちゃけどうでもいいけど、二人の姿を見て感じた事はあながち間違いじゃ無かったって事だね そんな事をしみじみ思っていると、ユリさんは私の言葉に「どんな面白い話が広まっているか気になるわね〜、あなた」と、アルフォンスさんに向かって笑う。その声色は呆れている様な、でも嬉しそうで。「変な話じゃなければいいんだけどな」と言う彼も、ユリさんに向けるその声色も、感情も、お互いがお互い、とても温かいものだった 「(こういう両親、いいなぁ…)」 お互いがお互いを思いやる関係。夫婦として、それは当たり前かもしれない でも、それでも。二人は夫婦として男女としても、とても素敵だった。少なくとも私はそう思えた。沢山の"夫婦"という存在を見てきたけど、二人もまた違った色をしていて、見てて飽きない。とても、眩しいくらいに 眼は見えなくても、心で視た二人の姿。仲睦まじい二人が両親だったら、否――…私の"親"という存在が、二人みたいな両親だったら、一体私はどうなっていたんだろう そんな事まで思ってしまった自分の心境に、私は苦笑する。どうやら私は二人の目に見える愛情に焦がれてしまったらしい。焦がれているだなんて、嗚呼、馬鹿げている。まるで私が愛情に飢えている子供じゃないか。バカバカしい。ああ、でも、きっと二人のお子さんは絶大な愛情を注がれているんだろう。簡単に想像出来る そんな、意味も無い思考を終止符を打つ為に、頼んでもらったチョコレートバナナパフェに乗っているバナナをフォークで差す。もう既に大半が刹那の胃の中に収まってしまったみたいで残り少なくなってしまっていた。コラコラ、と満足げな刹那の頬をペシペシ叩いていると、「どうかしたのかい?」と急にアルフォンスさんがこちらに問い掛けてきた 「…え?」 「少し、君の笑みが何処か暗い影を差していた様に見えてしまっていてね」 「!」 「ごめんなさいねぇ。ウチの旦那、妙に目敏い所があるのよねぇ〜」 「君にはちょっと似合わない表情をしていたからね、気になってしまったんだが……俺達、気付かない内に君に何かしてしまったか?」 「!いえ、そんな事はありませんよ!全然!」 自分では完璧に取り繕ったつもりだったけど、流石は鬼才と呼ばれるだけあって観察力が鋭い。まさか、些細でしょうもない馬鹿げた自分の心境に気付かれてしまっただなんて 気にしないで下さい、そう言って誤魔化して笑い、それこそ誤魔化す様にパフェのアイスを掬って口の中に含めるも……うぅ、視線が痛い。オッドアイの瞳が鋭く眼光を光らせているのが痛いくらいに分かるっていうか…先程の優しい雰囲気は一体何処行ったんだ!と悪態を吐きたい。何なんだ私はいつ彼のスイッチを押してしまったんだ ダラダラダラダラと内心ヒヤヒヤしていると、ペシッ!と軽い音が響いた 「あたっ」 「ちょっとあなた!ミリちゃんが困っているでしょーが!」 「!ユリさん」 「ごめんなさいねぇミリちゃん。ウチの旦那、スイッチ入っちゃうとこうなっちゃうのよねぇ。普段は残念なのに」 「残念って、お前なぁ………否定しないけど」 「(しないんだ)」 「…」 「キュー」 「……」 終止符を打ってくれたのはユリさんだった。いつもの事らしく、ユリさんはやれやれと言った様子で「ミリちゃんに嫌われたらどうするのよ!」とアルフォンスさんを叱る 正直助かった。内心ホッとする。本当、鋭い人はトコトン目敏いから嫌になる。知らなくていい事にも、気付いてしまうから でもアルフォンスさんは何も悪くない。そう思わせてしまったこちらに落ち度はある。だから私は素直に「ただ、」と口を開く 「二人が、羨ましいと思って」 「…羨ましい?」 「羨ましいといいますか、微笑ましいと言うべきでしょうか。二人を見てるとほんわかします。あ、眼は見えませんが」 「あらあらミリちゃん、可愛い事言っちゃって〜」 「きっとお二人の息子さんは幸せでしょうね。優しくて頼もしいお二人がご両親に持てているので」 二人に息子がいる事は勿論話に聞いている なんでも、アルフォンスさんによく似たイケメンで(てかアルフォンスさんって外人っていうかハーフだったんだね!だからこんなに顔立ちがハッキリしているんだね!)(という事は息子さんはクォーターか!)、ユリさんに似たしっかり者で(あ、うん、良かったねお父さんに似なくて)そして両親同様に凄腕のトレーナーとして違う地方で活躍しているって教えてもらった。トウガンさんに← うんうん、と頷きながらまた一口パフェを食べると、「あらやだ〜!」とユリさんが嬉しそうに声を上げた 「息子の事まで耳に入っているなんて〜!あの子も随分と有名になってくれたわねぇ。今頃何しているのかしら」 「自分で言っちゃアレだけど、アイツは有名だからなぁ…俺の名前が出たら確実出るくらい」 「息子さんは、確か… ――――…お二人、でしたよね?」 前々から、違和感を感じていた ユリさん達の息子さんは、本当は二人だと 聞いていた話は、皆して一人って教えてくれた。一人、そう一人と。でも何故か、私にはそう思えなかった。何故か、そう…何故か 分からない。分からなかった。私は何処かで、彼等の二人の息子さんを知っている。もしかしたら―――…忘却された記憶の何処かで、私は彼等の事を知っているのかも、と………でも、これはきっと私の気のせいだ。気のせいだと思い、蓋を閉めておく。だって私は、彼等に出会った事はないんだから 私の勘が的中したのか、空気が固まった 心夢眼で視た彼等の姿 驚愕した、彼等の不釣り合いな姿。大きく開かれたユリさんの瞳は――――…金色に輝くその瞳は、次第に涙まで浮かばせていた。嗚呼、予感は的中していた。これは、二人でしか分からない問題があった。踏み込んではいけない、迷宮の闇が潜んでいた 震えるユリさんを、アルフォンスさんは黙って肩を抱き寄せる。しまいには嗚咽を漏らし泣き出すユリさんを、彼も目尻に涙を浮かばせながらユリさんの手を握った 私は二人の姿を、知らない振りを決め込む事にした。つくづく、こういう時は盲目って便利だと思う。眼が見えないから、他人は見せたくない姿を出す事が出来るから。私も、気付かない振りが出来るから。時杜が心配そうに私と二人を映すけれど、黙って二人を見てもらう様に頼んだ。蒼華と刹那も、ただ黙って二人を映してくれた 「…ごめんなさい、何か失礼な事を言ってしまったみたいで…」 「違う、違うんだ…君は何も失礼な事だなんて言っていない…っ、むしろ…俺達にとって一番嬉しい事なんだ…」 「……………」 「…」 「…キュー…」 「……」 アルフォンスさんは眼鏡を外して涙を拭う ユリさんはアルフォンスさんの胸の中で涙を流す 世間ではきっと、気丈に振る舞っていたんだろう。気丈に振る舞って、自分達家族は幸せだと見せて。でも、本当は、すっごく…脆かった 一体何があったのかは分からない。二人の息子さんの内、一人が不慮の事故で亡くなった、としても……アルフォンスさんの言葉は妙に引っ掛かるものを感じる。きっとこれは口では説明出来ない"何か"があって、彼等を苦しめているんだろう ――…何故か、見過ごしてはいけない気がした 「ユリさん、アルフォンスさん…」 「っミリちゃん…ごめんね急に…」 「すまなかったね…急に取り乱してしまって」 「…色々、あったんですね。人には言えない、皆さんでしか分からない深い事情が」 「「っ…」」 「――――――…この世の中は、全てが私達の常識で成り立っているとは限りません。常識なんて、そんな壁はもはや薄っぺらい紙でしかない」 「「!」」 「希望をけして捨ててはいけません。どんな事があっても、信じるんです。絶望に負けてはいけません。たとえその道がどれだけ茨の道であろうが、複雑で迷宮入りな理の中だとしても、信じ続けるんです」 「「―――――…ッ」」 「―――…いつか、お二人の息子さん達に会ってみたいです」 二人の愛を一身に受けた、二人に似た最愛の息子達 会う事が叶わなくてもお二人が、否、四人が幸せであるように 「だから、お二人は笑って下さい」 泣いている姿は、貴方達には似合わない だから笑って下さい。笑って、喧嘩して、仲良くなって薔薇を咲かせてイチャイチャしている二人が一番似合っているから 「ありがとう…ミリちゃん…!」 「いつか、いつかでいい。俺達の息子達と……会ってやってくれ」 「はい、勿論です」 その日が来る事を、そして、皆さんの闇が晴れる時がくる事を 私も祈ろう。皆さんの為にも 皆さんに本当の幸せが訪れる日を (でも、何故だろう)(記憶の残像の中に、緋色の眼と藍色の眼を持つ青年が…浮かんでは、消えた) |