《仕方無いからお前達に見せてやるとしても、責任は取らないからそのつもりでいろ。万が一この事を主が知って激怒したあまり、記憶を消さんとばかりにお前達を攻撃したとしても私は止めないからな。尚且、私もお前達に攻撃するつもりでいるから覚悟をしておけ》

「え。なにそれ恐い」

「…これから見せるって時にお前はなんていう恐ろしい事を……」

「記憶を消さんとばかりに、か……………流石のアイツも事情を話せば分かってくれるんじゃないか?」

「だ、だといいね…」

「「………」」

「ミリ様のお気持ちを反した時点でその覚悟が出来ている。…ま、その時はその時だ」

「安心しろ。もしそんな事があったとしたらこの俺がアイツの口塞いでやっとくからその隙に逃げればいい」

「「「「ふざけろ」」」」

「レンガルスふざけんなぶっ殺すぞ」

「…父親を前にこうも清々しく言うとは…度胸のある奴だ(ヒクリ」

「ははは…」






場所は変わって、此処は先程全員が集合して闇夜から映像を見せてもらった部屋。先程同様に全員ソファや椅子に座り、眼前に立つ闇夜を見返す

かなり物騒な事を言っていた闇夜であったが、ズズズッと影の中に潜り込み―――先程同様に部屋を闇で埋め尽くし、彼等の前に薄暗い光の映像を作った。流石に二度目となると、もう誰も驚く事も警戒する事もなかった

そして映る、六年前の映像






「……あ、出た。ミリちゃん、相変わらず美人さんだね。眼福眼福」

「……チャンピオンマントをしている事以外、私達の知るミリ姫と全く変わっていないな…」

「本当に盲目なのだな…視線が合わん。しかし映像を見る限り…まるで盲目である事が嘘の様に見える」

「ミリさん…刹那……」

「盲目だからかな、落ち着いてる子になってるね。…お、アプローチ掛けられている。青春だねぇ。…ハハッ、ミリ君も罪な人だ、清々しいまでのスルーだよ」

「…無自覚もここまでくれば呆れてしまうな」

「アイツは確か四天王だったロイドっていう男のはず。何気安くミリにセクハラ紛いの事してやがる。…つーかミリもミリだ抵抗とかなんなりしやがれ笑ってんじゃねーよ!」

「ミリ様…貴女という人は……」






六年前の、闇夜の視界から映し出されたかつての思い出

全員は今まで残された映像や写真でしか聖蝶姫の姿を見た事が無かった。しかし、この闇夜から映し出された映像にて、初めてしっかりと聖蝶姫の姿を確認する事が叶った

聖蝶姫、またの名を【盲目の聖蝶姫】

やはり改めて見ると聖蝶姫は自分達の知るミリにしか見えなかった。唯一違うのが盲目である事。盲目故に活発さが落ち着いた雰囲気であるが、それ以外は全く何も変わっていなかったのだから





《…まずは、何を見たい?》

「六年前に起こった、『暴行猥褻及び殺人未遂事件』当時の映像を見せてくれ」

《…いいだろう》






ブゥゥウウン―――

映像は新たな場面を映した


そこに映し出されたのは―――






「―――!!ミリッ!!!!」

「ッミリ様……!!」

「「「「―――――ッ!!!!!!」」」」

「こ、れは酷い………!」

「これだけの傷を受けてまで…ッ取り乱さなかっただなんて信じられん…!」






映像は―――あの忌々しい事件当時の姿を、隠す事も誤魔化す事もせずそのままに映し出された

事件当日の姿らしい。頭には包帯、眼帯で眼を隠し、頬はガーゼや湿布など貼られ、首にも包帯が巻かれている。あの綺麗で長い黒髪はバッサリと切られ、肩甲骨辺りにまでなっていた。見ていてとても痛々しく、こっちまで痛みがシンクロしてしまいそうなくらいに、ミリの傷は酷いモノだった

全員は驚愕した。やはり話に聞くのと実際に映像で見るのとでは違う。画面から眼を背ける事が出来ないでいた

映像の中にいるミリは今もなお笑ってポケモン達を宥めている。勿論それは映像の持ち主である闇夜にも該当する。それぞれ手持ちのポケモンに頭を撫でて、そして同じ言葉を繰り返すのだ

私は大丈夫だから泣かないで、と―――






「……闇夜、ミリの傷は…顔だけじゃねーんだろ?身体にもまだ、」

《あぁ。身体中痣だらけで痛々しいものだったそうだ。見ていられない、そう仲間が言っていた》

「「「「「………」」」」」

「…闇夜、お前は見なかったのか?その、身体の傷を」

《……主の身の回りの世話は殆ど女子グループがやっていた為、私達男子グループは見てはいない。流石の私も主の裸体を見るわけにはいかない。主もあの日から露出を拒み始めた…触れられたくない境界線だと私達男子グループは一切触れなかった》

「……そうか」






痛々しい姿は見ていて辛いものがある

ふとレンに小さな疑問が湧いた。ミリの身体には力が、恐ろしい治癒力がある。この目で見たから間違いない、忘れられない光景を記憶しているからこそミリの身体中の傷に違和感を覚えた。本来だったらすぐにでも治っていたはず(いやだからといって傷つけていいかと言われたら違うが)、そんなふとした疑問の中で不意にゼルに視線を向けたら―――ゼルも同じ様な事を考えていたらしく、互いに意味深な表情で一瞬だけ視線が絡み合った(すぐに視線を反らした






《簡単に早送りで流してやろう》






映像が進む

ミリの痛々しい姿が日を追うごとに治っていき、徐々に包帯やら湿布等が取られていく姿。それと同時にミリの服は可愛らしい服から黒の服装に変わっていき、露出を拒み始める。白いスカーフで絞められた首を隠し、黒い服装で傷を隠す。その姿をオレンジ色のコートにチャンピオンマントの組み合わせだから、かなり徹底した姿に変わってしまっていった

同時進行で身の回りに起きた出来事も流される。警察の人間が現れ事情徴収から始まり、セキという似非リーゼント警察が護衛に入る。解せない形でアスランから有休休暇が与えられ、穏やかに二週間が過ぎていく

相変わらず手持ち達に自分の気持ちを悟らせない完璧な笑顔のまま、ミリは仕事復帰を果たした。自分の傷を、その服装で隠しながら






「――――アスランの言う通り、アイツの服装が変わっちまっている。笑顔も…アイツらしくねぇ顔してやがる。…無理矢理笑ってねーとやってられないって顔だな。仮面を被ってるっつー表現はあながち間違ってねーな」

「気も……先程見た聖蝶姫のモノと違ってしまっている。心に傷を負ってしまった者が自分を押し殺し…無理矢理振りまこうとしている者達と同じ気だ」

「僕の眼からも…ミリちゃんの心の壁がより一層厚くなってしまったと見えるよ。他人に触れられたくない拒絶感………無理もない、あんな目に合わされたんだから」

「「「「…………」」」」






普通の人間なら確実に騙せる完璧な笑顔

しかし自分達は違う。伊達にミリの傍で、ミリの笑顔を見てきた。華の咲く様な、太陽みたいな笑顔が、大好きだった。だからこそ、あの笑顔は―――気持ち悪いくらい、悲痛で、完璧な笑顔だったのだから

不意にゼルが舌打ちをした






「…ミリ様があんな目に合われたというのに、何故本部は気付けなかったのか…あまりの無能さにはらわたが煮えくり返る思いだ」

《無理もない。聞いた話では主は結界の力を使い、惑わしの力も使っていた。普通の人間は確実に気付けない。一体いつ、使ったかは知らんが》

「ハッ、そーかよ。…ミリ様も困った御方だ。そのお力、こういう場合は厄介だぜ」






ゼルは溜め息を零した

たえず映像は流れる。完璧な笑顔のまま、チャンピオンに戻ったミリは四天王達からの歓迎を受けている。四天王達は嬉しそうだ

そしてミリもまた嬉しそうに微笑を深めるのだ。自分の居場所に帰ってこれた、そんな安堵感を抱きながらミリは四天王の元へと歩むのだ






「ただいま、みんな」













「――――この頃の事は分かった。次は【氷の女王】の事だ。何故あの絶望の島でわざわざ手を下してきたのか、本当に仮面になっちまったのか…これで原因が分かるはずだ」

《………あの、"討伐"の件か》

「…闇夜、頼む」

《……日を負って説明した方がいいな》










映像が、変わった






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