「「父さん!母さん!見てくれよ!」」

「なーにー?……ってあらあらまあまあ!ちょっとあなた見て見て!双子が三つ子になっちゃったわ!」

「おー凄いな、何処からどう見ても三つ子……てか俺が子どもの姿になったようなものじゃないかコレ。俺が真ん中に入ったらまさに三つ子じゃないか!」

「よく考えたわねーまさに親子ね!此処まで瓜二つだと笑っちゃうわ!…あ、ちょっと尻尾が出ちゃってるわよ〜。まだまだねー」

「「あー!こらー!」」








脳裏に過ぎるのは、かつての思い出




――――――
――――









「おいそこ愚弟。勝手に話を進めるんじゃねーよ」

「あ?」

「聞き捨てならねぇ話をしやがって。勿論その話、この俺も見届ける。一人だけ突っ走ってんじゃねぇぞレンガルス。……俺もミリ様の業を背負うと誓った身だ、愚弟なんかに先を越されてたまるかよ」

「!…テメェ…」






いつから話を聞いていたかは定かでは無いが、治療室の扉を背にゼルが立っていた。その表情は不機嫌そのもので、とても気に食わないとばかりに眉間に皺が寄っていた

カツカツと歩を進めていき、蒼華の眠る液体回復保管機の前に立つ。隣りに立つレンに向けてギロリと睨むのも忘れない。勿論レンもゼルに向けて同じ様にギロリと睨んだので、二人の間にはバチバチと見えない火花が散らしまくっていた

その姿を闇夜は液体回復保管機越しで静かに見つめつつ、先程のゼルが言った言葉に疑問を投げ掛ける






《……お前と主の関係性、所謂職場の上下関係だけだと思っていた。が…今の言葉を聞く限り、それだけではないらしいな》

「フッ、当然だ。俺は生涯をもってミリ様に身も心も捧げる気持ちで生きてきた。…理由なら、聡いお前なら大方分かっているんじゃねーか?」

《…………》

「ま、そうじゃなくても俺はミリ様を守っていく所存。この愚弟よりも強ければ地位もある、どっちが優秀かだなんて聞くだけ愚問だな」

「おいテメェふざけた事抜かしてんじゃねーよ愚兄野郎ぶっとばすぞ」

「やってみろよ愚弟の分際め返り討ちにしてやんよ」






売り言葉に買い言葉。二人はさらにバチバチと見えない火花を散らす。仲がいいんだか悪いんだか、こうもさせてしまう元凶がミリなのだからつくづく厄介だな、と闇夜は金の瞳を細めながら傍観する

ゼルもまた、ミリに対し深い愛情と全てを受け入れる覚悟、ミリの牙になる決意をそのカシミヤブルーの瞳に秘めていた。そしてレンには無かった強い忠誠心と、ちらつく狂気の光―――総監という立場のくせに、何故この男はミリに対してそこまで執着しているのか。きっと誰もが疑問に思う事だろう

しかし、少なくとも闇夜はゼルがミリを慕う意味に気付いていた







「――――我が名は【異界の万人】十代目、真の名はミリレイア・フィール・レイチェル。異世界を統べる統率者であり、また人は私の事を【女帝】と呼ぶ。……と、まぁこんな感じにかたっくるしいのを抜きにして、とりあえず不思議な力を使える人間の一人だと思ってくれればいいから〜」













《(―――…なるほどな)》





ゼルと名乗るこの男は、所謂"あちら側"の人間

数時間前に自分の闇を振り切った偉業を見る限り、その道は長いと推測する

……なら、その双子であるレンと名乗るあの男も……?









と、その時だった






「カッコいい事言っているところ悪いけど、君達だけで盛り上がらないでくれないか?勿論、僕らもその映像を見させてもらうよ」

「そうだ、まだまだ時間はたっぷりある。その二人が仲良く喧嘩出来るくらいにな」

「!…チッ、聞いていたのかよ」

「おい勝手に外野が乱入してくるんじゃねーよ」

「俺達もこの件に足を踏み入れた以上、知る権利も見る権利もある。尚且、舞姫の仲間であり家族としてなら尚更な」

「『彼岸花』を完全に壊滅出来なかった責任としても、俺はミリさんが受けてしまった傷を見なければならない」

「フッ。だったらこの俺も該当する。あの時アポロの独断を見過ごした、己の失態も兼ねてな」

「シンオウやホウエンの皆が知らない真実、彼等に話せないのなら私達には話してほしい。…君だけ、背負わなくていいんだ」

《……………》






どうやらゼルだけではなかったらしい。治療室の扉を見てみると、他の部屋にいたはずの者達が全員集合していたのだから。彼等は不敵な笑みを浮かばせながら、自分達の存在を主張した。自分達の事も忘れられては困ると

レンとゼルだけではなかった。全員が、覚悟を決めてミリと向き合おうとしていた。それは友情であり仲間であり家族であるからこそ、見て見ぬ振りをせず真摯に受け止める。きっと此処に居ないシロナやダイゴ達も同じ事を言ったに違いない

嗚呼、ミリはこんなにも人に愛されている

そんな人間達相手に、何処まで秘密を守っていけるのか。どう立ち向かっていけば、ある意味余計なお世話とも取れるこの者達の手から、遠ざける事が出来るのだろうか―――


闇夜は小さく溜め息を零した






《映像を映す事は簡単だ。しかし……主が認めた相手だからこそ、全てを知られる事を恐れて闇に葬った。…お前達があの映像を見て全てを知ってしまったら、主は……》

「頼む、闇夜。お前だけが頼りだ。今はアイツの事は考えないでくれ」

「見せてくれ。ミリ様の姿を、そしてその痛みを」

《………お前達双子といいそこに居る者達といい…本当に厄介な奴等だな》










主、すまない

こいつらがあまりにも主に一途過ぎてどうやら私には手に負えないらしい









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