ピジョンブラッドの鋭い瞳、端整な顔立ち、白銀色の髪、スラリとした体格、見慣れた服装。どれもこれも全く同じ姿でミリの前に現れたレン似の"何か" 憎たらしい事にその男が着ている服は今のレンが着ている服と同じ物―――つまりミリがレンの為に作ってプレゼントをした、あの服を着ていたのだから。ミリはかなり動揺しただろう。どの様に思ったかは推測しきれないが……鋭い彼女だからこそ可能性は低いが、誤解をしたまま終わらないでもらいたい。アレは、レンではない別の何かだという事を さて。一連の流れを映像越しで眺め、その観察眼と"気"を見抜く力を持ったゴウキが、その重い口を開いた 出した答えは――― 「アレは間違いない、ポケモンだ」 たとえ映像越しとて見間違えるはずがない。人間とポケモンとでは発する"気"が違う。それは長年見てきたゴウキの揺るがない真実 人間では考えられない俊敏な動きを見せつけ、あのミリに一発一撃を与えた。極め付けはあの【三強】と謳われた蒼華と時杜と刹那の三匹を戦闘不能にさせた実力を持っている。誰が聞いても納得のいく答えだった 大方予想がついていたらしく、この場にいる全員は今更驚く事は無かった しかし…… 「………」 「…ポケモンで考えられるのは……メタモン?」 「……メタモンは流石に無理あるぞ」 「いや、メタモンではない。仮にメタモンだったとしてもあのような戦いをする個体はそうはいない。一度試しにこの俺自ら戦ってみたが、手応えは全く無かった。実に呆気なくな」 「「(戦ったのか…)」」 「しかし仮にポケモンを相手にしても舞姫は果敢に立ち向かい、その柔の技は相変わらず隙が無い。…かといって過信して敵に突っ込むなど言語道断だ。見つけ出したら正座してでも反省してもらわないと。兄貴は許さん」 「フッ…そうだな。その時は正座したアイツを全員で囲んで…もう二度と無茶な真似はせぬよう叱ってやらんとな」 「…お兄さんお父さん、顔が怖いよ」 「流石のミリ姫も尻尾巻いて逃げるぞ」 問題は、それは"何のポケモンか"だ 一般的に変身を可能とするポケモンは思い当たるところ一匹しかいない。あの、軟体ピンクでスライムみたいなポケモンを。しかしあのメタモンがあんな動きが出来るとは到底思えない となったら自然と別のポケモンになってくる。サカキとマツバとミナキとゴウキの四人は、記憶にあるポケモンの探りに入る 「…しかし、あんな瓜二つに真似るポケモンなど、この世に存在するのか?」 「うーん…」 「…この時こそポケモン図鑑が欲しいものだ」 「…俺の知る限りだと、ミュウくらいだが」 「ミュウ!?幻のポケモンじゃないか!確かにミュウは私もへんしんして姿を眩ましていると文献で読んだ事あるが……奴等がミュウを使っていたとは、思いたくないな…」 「俺のところの下っ端が随分苦戦していたものだ。ミュウの事ならあの二人にでも聞けばいい。……ロケット団としてミュウの存在はかなり大きかった。そんなミュウが簡単に奴等の手に落ちていたとしたら…獲物を横取りされたとなるな。実に気分が悪い」 「そ、そうか…」 「メタモンやミュウ以外になると……駄目だ、見当が付かない」 「…まるで、化かされた気分だな」 そう、まるで化かされた気分で 独白に呟いたゴウキの言葉に、レンはピクリと反応する。一見反応は小さいものだったが―――ハッとしたような、何かに気付いた、そんな様子だった ミナキは先程から黙っていたレンにも質問を投げ掛けた 「レン、情報屋として何かネタはあるか?お前も黙っていないで一緒に考えてくれ」 「……………」 「……?レン、どうした?」 「………その件だが、大方目星が付いている」 レンに投げ掛けられた質問に答えたのは 沈黙を守っていた、ゼルだった 「フッ。総監ともなれば、やはりそちらの事には詳しいか。流石総監様と言うべきか?」 「おぉ。そうだったな!すっかり忘れていた!」 「いやいや、忘れてたってミナキ…」 「全地方のポケモンの情報が日々本部に届くという。此処では未発見で別地方に生息するポケモンなら、きっと変身出来るポケモンがいるはずだ」 「「…………」」 「…?レン?」 「ゼル、どうかしたか?」 「「……?」」 レンとゼル、二人の表情は暗く…重い レンはソファーに座り、前傾姿勢で額に手を置いたまま動かない。対するゼルもソファーに座り、足を組み、腕を組んだまま同じ様に動かない。二人して微動だにしない姿に、回りの者達は首を傾げた 「………おい、ゼル」 「言うな。…今は、何も」 「…………」 二人は知っている アレが、何のポケモンかを しかし二人はその事について一切口を割ろうとはしなかった。レンの表情には動揺と困惑を、ゼルにも一瞬であれレンと同様に動揺と困惑の色をちらつかせていた。誰が何を見ても、二人とあのポケモンには何かあったと勘ぐらざるおえない 全員がこちらに視線を向け、答えを待っている事に気付いたゼルは、小さく溜め息を吐いた。その重い口から出た言葉は、求めていた答えとは違うものだった 「…悪いが、今は答えが出せねぇ。あの似非愚弟の件はこちらで調べる」 「「「!」」」 「!…しかし、あんな映像を見てしまった以上そんな悠長な事を、」 「仮定が成り立たねぇ以上、安易に仮説を言うつもりはねーよ。…今は何も言わずに従え。これは総監命令だ」 「うわ出た、職権乱用。そうやって不都合な事はなんでもそう言う。君の悪い癖だぞ」 「さてはゼル、お前…友達いないだろ?」 「ぶっとばすぞ」 あまりこの件に触れたくないとばかりにバッサリ切るゼルに、不満を持ち抗議するゴウキに、不満と疑問を持ちつつ茶々入れしに入るマツバとミナキ ビキリと片眉を吊り上げるゼルだったが、けして口を割ろうとはせず視線を落とすだけ。レンもずっと沈黙を守ったままだ。双子同士口を閉ざしてしまった以上、この件の詮索は難しいだろう 一体、アレは何なんだ。そこまでして二人が口を割ろうとはしない理由が、あるというのか サカキは仕方無しに肩を竦めた 「……総監様のご命令とあれば、今は偽者の件は置いておくとしてだ」 「サカキ、その総監様は止めろ。舐めてんのか」 「(無視)俺としたら、姿が無かった謎の声の方が気になるんだがな」 「――――…天晴れ天晴れ。実に興味深い話だ」 「流石は我等が聖蝶姫、我等が女王。その推理力と洞察力、この状況に対する冷静さ、そして昔と変わらぬ強者の眼は惚れ惚れしてしまう。ククッ、愉快愉快。なら是非とも我々と共に同行し、ゆっくりと茶を交えようではないか。時間はたっぷりとあるのだから」 映像の外、つまり闇夜の視界外から聞こえた声 特徴的な喋り口調に渋みを聞かせたバリトン声。印象に残る声色は、耳に残って離れない 「……それは俺もずっと気になっていた。あの偽者、確実にその声に従っていた。…奴は一体何者なんだ」 「『彼岸花』の一員で、間違いないな」 「…俺がミリに手を出した風に偽装しやがるんだ、相当歪んでやがる。…チッ、胸糞悪いったらねーぜ」 「…元ロケット団員、の可能性は?」 「いや、それはありえん。声を聞く限り、年輩の人間…そんな団員は生憎カツラしか記憶していない。殆ど若い連中ばかりだ」 「……ゴウキ、もう一度警察で『彼岸花』の団員を粗い直せ。もし万が一奴がリーダーだとしたら、必ず何かしら手掛かりが残っているはずだ」 「分かった。至急取り掛かろう」 謎がまた、謎を呼ぶ あの男は、あの偽者は、一体何者か その答えに辿り着く事が出来たら、『彼岸花』の真相が明かされる事になるだろう 「クックックッ…愉快愉快。人の心配よりもまずは自分の心配をしたらどうかね?まずは、自分のポケモンのやられる姿とかな」 バタバタバタバタバタ… ――――バタン! 「ッ聞いてくれ!ナズナが奴等のアジトを突き止めてくれた!」 「「「「「「――!!!!」」」」」」 → |