出会いは些細な処から

小さな出会いが、輪を結ぶ


そして彼等は友となる










Jewel.28













今日も空は晴れ晴れとした晴天だった








「―――――…ちょっとあなた!早くしないと遅くなっちゃうじゃないの!てか!どうして道に迷っちゃったりしてんのよ!」

「いやぁー…こっちの道であっていると思っていたんだけどなぁ」

「あなたの方向感覚は生まれた時から色々と終わっているのよ!…………いいえ、そもそもあなたに道を任せた私がいけなかったわ。ごめんなさいあなた。あなたはなんにも悪くないわ」

「地味に傷付くなー…」






此処はコトブキシティ

高層ビルや様々な企業が建ち並ぶ、シンオウ地方で最も近代的な都市でもある此処コトブキシティ

沢山の人間とポケモンが縦横しては盛んに活動しているそんなコトブキシティの中に、二人の男女が道を迷っていた







「そうよ私の間違いよ…待ち合わせをコトブキシティにした事そのものが間違っていたのよ…」

「コトブキシティは迷いやすいからな」

「コトブキシティにある大通り公園で待ち合わせにしようって言ってくれたのに、誰もが分かる大通り公園の場所を、まさか一本の道を間違えただけで変な場所に出てしまうなんて…!」

「都会って怖いな」

「間違えた本人がしみじみ言わない!」







うんうん、と腕を組んで高層ビルの上を扇ぐ男に、女は容赦無く男の耳を引っ張り、男の悲痛な声が上がった






一人は。緋色と藍色のオッドアイの瞳と端整な顔を眼鏡の下に隠す、煌めく白銀の髪を持った男――――名を、アルフォンスといった

一人は。光を連想させる様な輝かしい金色の瞳と、まるで絹の髪の様な細くて柔らかい髪を靡かせる、淡水色の髪を持った女――――名を、ユリといった

彼等の姓は、イルミールといった











「もー!これだから都会は苦手よ!一本間違えればすーぐに迷っちゃうんだから!誰かさんがいればもっと分からなくなっちゃうし!」

「なんだろう、今すごく心が痛い」

「ちょっとあなた!地図!タウンマップ!…まさか、まさかだけど…タウンマップを忘れただなんて、言わせないわよ…?」

「安心してくれ、ユリ。流石にタウンマップは持ってきて…………、………………………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………」

「………」


「…ハハハ、えっと、その…うん、ごめん」

「あなたあああああああ!!!」







ユリの叫びと、パコーン!という乾いた音が虚空の中に消えていく




どうして二人はコトブキシティで道に迷うはめになってしまったといえば、今日は、そう。今シンオウで一躍有名に活躍しているトレーナーとお茶をしよう、と前々から予定してあった約束の日で

前に地元で開催されたコンテストで知り合った、二十歳もいかない大人びいた美女トレーナー。その相手こそ、この地方にいる人間なら誰もが知り、誰もが憧れと羨望の目差しを向ける彼女で

ジム戦やコンテストなど多忙で忙しい彼女に無理を言ってやっとこさ約束の日になってくれたというのに。相変わらず事態は都合良く回ってはくれない。都会があまり好まないのかそういった土地を避けていたユリはまだ方向感覚というものは安心してもいい、しかし方向感覚そのものがおかしい・ありえない・馬鹿なの?馬鹿なの?と評判なアルフォンスが隣にいれば嫌でも道に迷ってしまう。とりあえずアルフォンスに関してはイケメンで好評な一面とまさにギャップがあり過ぎてどう対処すればいいか困ってしまう

今日も今日とて慣れない土地に自分達のポケモンで降り立ち、約束の場所に行こう→けれど場所何処だっけ?→あぁ、公園ならこっちだった気が→ちょっとあなたそれ本当?あっているの?ねえねえあなた本当に大丈夫なの?→逆方向に進んでしまい、路頭に迷うハメに

ちなみにこの時点で約束の時間を過ぎていたりする








「もう!本当にあなたって言う人は…呆れて物が言えないわ」

「それは俺も昔から感じてるさ…」

「昔も今も変わらないあなたを見たらあの子達絶対に呆れて終わりよ!?」

「いや、アイツらは呆れるんじゃない。馬鹿にするに違いない。絶対鼻で笑うぞ」

「それもそれでどうかと思うけど……ハァ、とにかくあの子には本当に土下座して謝らないと」

「そうだな」

「あなたがね」

「俺か。やっぱり俺なのか」

「当たり前でしょおおおお!あなたが我先にズカズカ行っちゃうからこんな事になっちゃうんだからあああ!」




ギュッムッ!!!





「Σあたたたた!ちょ、ユリ、耳痛っ、まっ、耳が痛あああ!」

「そもそもタウンマップとか持って来るでしょーが!どうしてタウンマップがジャ●プになってんのよォォォ!あなたバックの中身確認しないで重さで確認して持ってきたんでしょ!?絶対重さで持ってきたんでしょ!何でジャ●プ!ジャ●プよりマガ●ンでしょーがこの、馬鹿ああああああ!」

「ユリ頼むから落ち着けええええ耳が!耳がああああ!」







これが数年も経てば、携帯電話ならぬポケギアやウオッチなど様々に便利な物が発明され、近代化していくのだが残念ながら今の時代は、まだタウンマップは本や雑誌などの分厚い形が主流で

しかし仮に此処にポケギアという便利な物が手元に存在したとしても、きっとアルフォンスは想像を裏切らない行為を犯すだろう。これが普通の人間だったら、申し分なかったのに







「………ハァ…本当、道を迷う情報屋なんて聞いた事ないわよ。あなたこれでも一端の情報屋?馬鹿?馬鹿なの?あなた馬鹿なの?」

「馬鹿馬鹿連発するなって…オフ状態はどうしても緩むっていうか、色々と」

「色々緩んじゃ駄目でしょーが!」






見た目とは裏腹のドジでマヌケで、しかしソレを補う頭の回転とキレの良さ。ユリがぼやいた言葉通り、彼には二つの名前があった。情報屋としての、名前を、顔を

彼はこれでも天才だった

天才、だけど―――マヌケだった

馬鹿と天才は紙一重という諺を表しているとでも断言してもいい自分の旦那に、ユリはほとほと溜め息を吐くばかり。眼鏡の下に隠れるイケメンが風化している。カッコいい所はカッコいいのに。色々と残念過ぎる

そんな事を振り返り改めて溜め息を零すユリの隣で、彼は眼鏡の縁を上げつつも「仕方無いか」と小さく息を付いた







「こうなれば最後の手段」

「……ちょっとあなた、まさかアレをするつもり?」

「約束の時間が過ぎてしまっているし、全ては俺の所為だ…彼女を待たせてはそれこそ悪いからな」

「それは当たり前だけど…」





バックの中から取り出した、一冊の分厚い本。アルフォンスは慣れた手付きでペラペラとページを捲っていく

緩く優しい光を宿していた眼鏡の下にあるオッドアイが、一瞬にして鋭く眼光を光らせる。雰囲気が変わった彼の姿を、ユリは言葉を濁す

さっきまでの雰囲気と違い過ぎる、今の彼の姿には長年付き合ってきたユリも未だに慣れた事は無かった。否、慣れたとしても、さっきまでのドジとマヌケが一辺して急にかっこよくなる旦那にユリは色々と眩しい物を感じていたりとかいなかったり。惚れた弱みですね分かります←







「………でもソレはこんな場所でやるものじゃないわよ。人が居なくても、いつ誰かが見ているのか分からないのに」

「問題は無いさ。今の時間帯、僅か数分で此処の場所を通る人間は居ない。アレをしてもさほど問題は無いはずさ」






その本にあるページは何も書かれていなかった。一体彼にはどんな光景が見えているのだろうか

ユリには事情が分かっているのだろう。でも…、と言葉を詰まらせては回りを警戒を向けるユリ。そんなユリを、アルフォンスはフッと小さく笑みを零した







「それに、せっかくユリが頑張って彼女と仲良くなったんだ。今日この日に、仲違いはさせられないさ」

「!あなた…」

「ユリ…」







ぶわっ…!!








気のせいだろうか

二人の周りに、何故か真っ赤な薔薇が咲いているように見えるのは








―――――その時だった









「いやぁー、お熱いですねぇー」

「…」
「キュー」
「……」
「………」

「んー、でもなんだろうあのデジャヴ感。微笑ましいのに何故か感じたデジャヴ感。でもでも、ラブラブな事は素敵な事だよあのままキスとかしてくれたら色々と美味しいものを見れたという事になるんですよねニヤニヤ。あ、私視力ないけど」

「……」

「お!いいねーいいねー刹那ちゃん。実にいいアイディアだよ。では早速あの二人の劇的なシーンをこのカメラに納めるのだよ刹那ちゃん!今まさに君の実力が試される時なのだよ刹那ちゃん!」







「「……………………」」




























「えっと………ミリちゃーん?」

「はッ!バレた!」

「いやいやバレたって君…」

「…」
「キュ〜」
「……」
「………」






ユリとアルフォンスからそう離れてはいない自動販売機の影の中

ひょっこりと顔を出す四匹のポケモン(一匹はカメラ常備)に混じって身を隠していたのが、二人の待ち合わせを約束していた張本人で







「ユリさん、アルフォンスさん、お久し振りですね。元気そうで何よりです」






ミリは微笑ましそうに笑った







(高層ビルの間に、一つの光の柱が差し込んだ)

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