「貴女は…ずっと、耐えてきたんですね」





私は、呟く


後ろにいる、もう一人の私に






「可哀相に…」







そう、可哀相に



けど――






「――貴女も、可哀相ですよ……」






哀しく憂いを浴びた表情を浮かばす一人の女性に、私は彼女の代わりに泣く事しか出来なかった



(過去が蘇る分、私自身の過去が押し潰され消えていく。だから私はもう、自分が誰だかワカラナイ)


―――――――――
――――――
――――
――











「白亜、黒恋、蒼華、時杜。…悪いがしばらくの間、ミリの元から離れてもらう」






目の前にいる四匹のポケモン


俺はそう、宣告する






「ブイ」
「ブイブイ」
「…」
「キュー…」

「悪いな、帰って来て早々に」

「「…ブイ〜」」
「…」
「…キュー…」






コイツらが帰って来たのはあれから一日が過ぎていた

何処をほっつき歩いていたかは知らねーが、只の散歩って訳じゃなさそうだ。俺が此所に居る事に心底驚いたらしく、白亜と黒恋が飛び付いて来た(白亜は純粋に、)(黒恋は敵意に)。蒼華と時杜は俺が来た事に安堵しているみたいだった

帰宅したばっかのコイツらに、こんな言葉は酷だと思う。けど、そうでもしないとミリが無理をしてまでコイツらに気を利かせるのは目に見えていた






「キュー」
「…」

「お前らは賢い。この意味、分かってくれるよな?」

「「…」」






ミリの容態を一番に知っているコイツらなら、俺の気持ちを分かってくれる筈

コイツらが此所にいればミリに無理をさせてしまい、それがミリに苦痛を与えてしまうかもしれない。対してコイツらの方も、何も出来ない腑甲斐無さの中で居なくちゃならない



今のミリには、安息が必要だ



ポケモントレーナー業から一旦身を置いて休ませないと、壊れちまう。ミリの動力源がコイツらでも、だったら尚更離れさせなきゃいけない






「…悪いな、本当だったらお前らがミリのそばに居なくちゃならねぇのに」






ミリはコイツらに心を開いている

手持ちに心を開いて信用するのはトレーナーとして、それは当たり前の事。ミリの容態関係無くコイツらがそばに居てやれば、ミリも落ち着いてくれる、と思うのも当たり前。もしかしたらミリが必要としているのは、俺なんかじゃなくてコイツらかも知れねぇ






でも俺はコイツらが羨ましくもあって、…妬ましかった。俺よりもコイツらに魅せる笑顔が羨ましいと思った。鋼より硬いミリの心を素直に開かせるコイツらが憎かった。全てが、どうして俺じゃないのか――


俺の中にある見えない邪心がコイツらとミリを決別させた。悪いとは本当に思っている。ミリの為を思って、…なんて只の言い訳に過ぎない。黒い感情が俺の中をジワジワと支配し…でも、俺は善人を通す。申し訳ない顔をして白亜と黒恋の頭を撫でた






「俺が使っているパソコンに、お前らを預けさせてもらう。寂しくねぇ様に、アブソルとスイクン、トゲキッスにミルタンクも一緒だ。…マツバやミナキには伝えておく。もしかしたらそっちに預けてもらえるかもしれねーからな。それまでの間、悪いが我慢してくれ」






アイツらにはまた我が儘を聞いてもらうはめになるかもな。…ま、スイクン二匹にセレビィも居れば向こうにしてみれば万々歳な話だろう(特にミナキなんかな


俺の言葉に、腕の中でもぞもぞと動く白亜と黒恋は哀しそうな表情を浮かべながら、同じ顔同じタイミングで頷いた。涙まで流す姿まで見ると、本当に罪悪感でいっぱいだ

蒼華と時杜の方を見れば、二人は頷く事は無かったが、瞳を見れば従うと言っていた。コイツらは、もしかしたら俺の気持ちに気付いているかも知れない。…けど、俺は何も言わない。俺は白亜と黒恋を床に降ろし、テーブルの上に置かれた四つのボールを手に持った

一個ずつボールを向ければ、赤い光線が包み込みボールに戻っていく。白亜、黒恋、そして蒼華と時杜の順番に、一匹ずつ…



ポゥ…



時杜をボールに戻し、早速近くのセンターに向かおうとエルレイドが入っているボールを取り出そうとした時、頭の中に声が聞こえた








《僕らは無力です。全てを知っていても、ミリ様を救う事は出来ない。だから僕らはレンさんの言葉に従います。僕らのせいでミリ様に負担を掛けてしまうなら、尚更》






キィインと聞えるのはテレパシーだとすぐに分かった







《ミリ様を救えるのは、レンさん、貴方しか居ません。どうか、どうかミリ様を救って下さい。過去に囚われ過去に落ちたミリ様を、光となって救って下さい。貴方には、それが出来る






いにしえの、あの人の魂を持った貴方なら、ミリ様を救える――》












誰のテレパシーまでかは、分からなかった





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