パシン―――






「っ…」

「だからって自分を傷付けるな!!」






嘲笑とも言えるその言い方に、俺は腹を立てた。俺の悪い癖が出ちまい、ついミリの頬を叩いてしまった

渇いた音が静か過ぎる部屋を大きく響かせた。俺の叫びも、きっと一階まで響き渡ったんだろう。叩かれた本人は、抵抗する事も無く叩かれた方向を向かれ、漆黒の髪がフワリと靡いた。叩いた俺自身の手がジーンとしてきたのを感じ取れたのに気付くと、相当な力で叩いてしまったと後悔した

叩いた後、沈黙が襲い静寂が起きる。ミリの頬は赤くなっていた。そして一向にこちらを振り向こうともしないミリに、もう一度頬を叩いてこちらを振り向かせ様かと思った

けど、ソレをする前にはミリの口がゆっくりと動き始めていた







「…だって、傷付くなんて、慣れているし…」

「……な、ん」

「…自分が傷付くのも、傷付けられるのも、それが…当たり前だったから…今更そんなの…意味が無い」

「…ッ!」






小さく呟かれた言葉はダイレクトに俺の心を突き刺した






「っ…」

「痛いのも、辛いのも」

「ミリ、」

「苦しいのも、全て、全て、全て」

「もういい、…何も言うな」

「だから私には、痛みなんて感じたとしても傷はすぐに治ってくれる…そう、すぐに。傷をつけてもつけてもつけても、たくさんつけても…」

「もう何も言うな!!」








パシン―――





また、渇いた音が響いた

今度は反対方向に顔を逸らされる、ミリ。肩で息をする俺は、またやってしまったと後悔をする

ミリの頬もさっきの頬と同様に赤くなっていた。慌てて俺は「悪ぃ、」と呟きながらミリの頬に触れる。前髪やら髪やらで隠れたミリの表情は、先程と全く変わらずに、虚ろだ。俺という存在を写さないその瞳が、ゆっくりとこちらに向かれる

大丈夫、と小さな唇は言う








「痛みはあっても、傷は治るから」










俺はミリの唇を塞いだ






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