探そう

見つけ出そう


答えの、先を











Jewel.25













彼とは、ミオシティより少し離れた孤島にあるこうてつじまで皆(と野生のポケモン)とのんびりピクニックを楽しんでいる時に、力の気配を感じて時杜に見に行ってもらったのがキッカケでもあり、出会いでもあった

彼の名前は、ゲン

芯の強い心と屈しない硬い意志を持った、握手をした手から感じ取った力の性質も彼自身の性格や感情等興味が湧かせる彼こそは、ルカリオを従えた――――ルカリオと似た力を持つ、波動使い







《失せろルカリオ》

《ボールから出てきて最初の言葉がまさかのそれか》

《ミリ様に近付くな失せろ消えろ半径一キロまで消えろ速攻に居なくなれ》

《朱色の同胞、流石にそれは無理な話だ。ゲン様の行く道こそが私の行く道でもあるのだからな。…というか何故私は毎回お前にそんな事を言われなければならないんだ》

《お前に同胞などと呼ばれる筋合いはない!》

《というか何故また構えるんだ。私はバトル以外でのお前とのバトル、戦う意思はないと何度も言っているはずだぞ。………まてまてまて何故波動を溜めているんだ…!》

《私の赤き波動で直々に引導を渡してやろう!覚悟しろ!青色め!》

《ちょっと待て同胞!それは答えになっていない返答だぞ!それに青色ってもはや名前ですらない!…まてまてまてバトルするならこの場の状況をまず先に考えてからにしてくれェェェ!》






ドォォオオオオンッッ!

ゴゴゴゴゴッッ!

ガキィン!ガキィン!








《あーあ、また始まっちゃった》

《相変わらず全てのルカリオ嫌いは健全だな》

《少しは落ち着かないのかアイツは》

「…」
《今に始まった事ではないだろ》

「……ゲン、なんか…色々とごめんね」

「はは、その色んな意味がどんな意味かが気になる所だけれど、こちらのルカリオはあれしきの事は気にしていないから安心してくれ。むしろいい修業相手でアイツもアイツで楽しんでいるはずさ」

「あ、あはー…」







先程購入したおじさん特製の美味しいクレープを口に含めながら、二人(と皆)で朱翔とルカリオのバトルをのーんびりと見守る←

私の目の前に広がる光景は今に始まった事じゃない。これで何回目だろうねぇー、ルカリオ種族が私の目の前に現れた瞬間に勝手にボールから出てきてバトル起こしちゃうのって






「朱翔、元気な事はイイ事だけど、あまりルカリオに無理させちゃダメだよ〜」

《御心配無く、マスター。今日こそ奴の息の根を止めてみせましょう!》

《心配の要素だらけだぞ同胞!そしてまた質問に答えてない返答!》

《黙れルカリオ!マスターと私の間にお前が入ってくる資格は無い!よってお前は排除!排除対象だ覚悟しろ青色がアァァアアアァァァッッ!》

《なんて理不尽で横暴ンンンッ!》




バコォォッ!

ドゴォォォッッ!

ドッカァァァァンッッ!





「元気だねぇ〜」

「はは、そうだね」

《ええええ…》






朱翔は自分に強い劣等感を抱いている。同じ同族のルカリオに強い嫉妬心も抱いている。劣等感と嫉妬心、それらは強い嫌悪感となって朱翔の心を縛り、蝕んでいる。もう、朱翔はどこの誰よりも強くて立派なルカリオになっているとしていても

そのせいか、私の近くにルカリオ(というかルカリオの波動)を見たり感じたりしたら勝手にボールから出てきて、一方的に強く当たってはしまいにバトルを繰り広げる。私の制止が無ければきっと息の根を止めんとばかりの勢い…てか勢いどころかまさに今現在実行中……元気だなぁ(モグモグ←



のんびりと心夢眼の力を借りてしみじみと朱翔の暴走(え)を振り返っていたそんな時、二匹が放つ衝撃の風が吹き、食べていたクレープのクリームがペチョッと私の頬に付いてしまった






「む、」

《あ、ミリ様クリームが頬に…ちょっと待って下さい今ハンカチを》

「ああ、大丈夫かい?今の風で飛んでしまったみたいだね。今拭くから少しじっとしていてくれ。………よし、取れた」

《ぼ、僕の役目が…!!!!》







頬に付いたクリームを、時杜がハンカチを取り出して拭いてくれるよりも先に、ゲンが変わりに自分のハンカチで拭いてくれた(先を越されたとばかりに時杜はズーンとショックを受けている)(そんな君も可愛いよ時杜ちゃん萌←

ありがとう、と言えばゲンはどう致しましてとポンポンと軽く応える様に頭を撫でてくれた。こそばゆい気持ちを感じつつも、私はまた一口クレープを口に含める。うん、美味しい。平和だ(しかしこの和やかな雰囲気と背景の惨状がミスマッチ過ぎる事に果たしてミリは気付いているのか






「クレープ食べるには此処は少し危険な場所みたいだ。他に零した所はあるかい?」

「ううん、大丈夫」

《僕の役目ェェェ!》

《落ち着け時杜》

《もうゲンは主の兄みたいだな》

「違うよ刹那、ゲンはお母さんだよ」

《そうだったな》

「…」
《憐れな》

「ちょっと待とうか君達」






時杜と刹那と闇夜のテレパシーは残念ながらゲンには向けられていないので、私のお母さん発言にゲンは私達の会話の内容を察したみたいでヒクリと口を引きつらせながらムニィッと今度は私の耳を摘む

いや、私が言っちゃうのもアレだけどゲンはお兄さんよりもお母さんみたいなんだもん←

世間一般な"お母さん"と比べるとちょっと違うかもしれないけど、こうしてかいがいしく配慮してくれたり心配してくれたり叱ってくれたりお世話してくれたりそんな彼はお兄さんじゃなくてお母さんでいいと思うよ。うん(ええええ)年齢はゲンの方が上でお兄さんでも話が通るかもしれないけど(いや本当は私の方が年上だけども)彼は母だよお母さんだよトウガンさんは兄みたいだとか言うけど彼は立派なオカ(いい加減黙ろうか








――――彼は、私にとってとても興味深い人間だ







この世界にルカリオ…否、ポケモンと同等の力を持つ者が存在しているなんて

なによりこの私の"存在"を瞬時に察したその直感力。一体その"存在"がどんな存在かまでは本人まだ分からないみたいだけど

だからこそ、私達はこうして一緒に旅をしている

出会った時、彼があのキャラクターだという事には気付いていた。こうてつじまで出会ったあの時も、正直驚かされた。まさか彼に出会っただなんて。まぁそれはいい。何が驚いたって、突然彼が言い出した「君の力を探らせてくれ」という言葉に、だ。他の世界で私の聖性に気付く人間はいたけれど、まさか面と向かって私に言ってくれたのは初めてだった。本来だったらお断りして逃げるやら記憶消すやらと手段を下すつもりだったけど(こら、そこ。ヒデェとか言わない)、彼の強い眼と彼の放つ波動に興味が湧いた。彼だったら、大丈夫。不思議とそう思えたから

一週間という限られた短い期間、彼が何処まで私に気付けるのか。どんな答えに辿り着けるのか―――私は柄にもなく彼に期待をし、実は楽しみにもしていた

けれどその反面、彼には深読みはしてもらいたくなかった。深くを知れば身を滅ぼす。私の"存在"を知ってしまい、後戻り出来なくなってしまったら…―――その事もあって、私は彼にヒントも何も言わない。自分で言ってきたんだから、見つけ出すのなら、自分の力で






――――彼もまた、内なる秘めたる波動の奥に"ある存在"を眠らせた生まれ変わりの存在






それが、誰かは言わない

少なくとも彼自身に自覚は無いらしい。しかし自覚が無い分、どうして自分が波動を秘めているかが分からないみたいだった。たまに感じる彼の視線の先と纏う感情は、別の、遠い場所に向いている。彼もまた、自分を探す迷い人だった。何故自分に力があるのか、力の意味や、自分の存在さえも

だけど、いつか知る事になるでしょう

私が口出す事じゃないし、口を出すつもりもない。ただ私は見守るだけ。彼が、ゲンが、一体どんな答えに辿り着けるのかを。そしてその答えにどの様に応えていくのかを






ま、それはさておき


私の力の真意を簡単に見つけ出す真似はさせないけどねぇ〜んふふふふ〜←








「このクレープ美味しいなぁ。また帰りに買って食べたいねー。今度はチョコレートじゃなくて別の味とかさー!」

《私も別の味を食べたい》

《僕はお腹一杯かなぁ。闇夜、残りの僕の分いるー?》

《要らなければ食べよう》

「こら、それは駄目だよ。夕飯が食べれなくなるだろう」

「えー」

「えー、じゃない。偏食は身体に悪いよ。そんなに甘い物を食べていたらお腹がもたれてしまうよ」

「ブーブー」

「いや、ブーブーじゃなくてね」

「お母さん!」

「そんな口を言ってしまう悪い口は摘んでしまうぞ」

「Σむぐぐー!」






《青色覚悟ォォォオオオッ!》

《だからお前は少しは落ち着いたらどうなんだ!》







「…」
《…………平和だな》









私達は笑った






――――――
―――









「―――――ミリ、君のその力は…強力な力だと思う。けれど、凶悪じゃない。君の力はそう、善の力だ。ポケモンが君を慕うくらいだ。それだけは、分かったと言っておこう」


「現に君は、綺麗なフルートを吹いては空気を澄ませている。ただ吹いているだけじゃない。私には、何か理由があって吹いているのではないのか、とも思っている。敢えてソレが何かは……いつかの時にでも、聞かせてもらう」








一週間という期間はあっという間だった

楽しい毎日があっという間に過ぎていく様に、少なくとも、そう思える私はゲンとの旅は居心地が良くて楽しめていた








「ミリ、ありがとう。私の我儘で一週間も付き合わせてしまって。…頑張ってくれ。今の私には君を応援する事しか出来ない。君の活躍をトウガンさんやヒョウタ君と一緒に応援している」

「私の方こそ言わせて欲しい。ゲン、ありがとう。楽しかったよ、ゲンと過ごした日々を。私は忘れないよ、ゲンという素敵な人を」

「私も君に出会えた事を忘れない。博識で聡明でしっかりしている一面もあればマイペースでフラフラする危なっかしいミリを、忘れたりはしない」









結局、ゲンは気付く事は叶わなかった

私という、【異界の万人】という存在を

けれどゲンの答えはあながち間違ってはいなかった。これが彼なりの答え。十分だ。これ以上の答えは求めない。後は、彼がこれ以上踏み込めなければそれだけでいい






「―――…また会いましょう、ゲン」







芯の強い心と屈しない硬い意志を持った、正義感が強くて優しくて、お兄さん(お母さん)みたいな存在だったゲン

少しでも貴方と過ごせた事を、私は本当に忘れない。貴方という素敵な人を、私は遠くから貴方を見守っていきたい






《ゲンさん、イイ人でしたね》

《そうだな》

《奴とならまた旅をしてもいいと思える》

「…」
《主人、次は何処へ行く?》

「そろそろ次のバッチを取りに行こっか。コンテストも開催されるって聞いたからね。手続きしないと」










さようなら、ゲン


さようなら、こうてつじまのポケモン達










遠ざかっていく、慣れ親しんだこうてつじま

また再会の言葉を零し、私達は先に進む








(少しでも楽しい思い出を作ってくれて、ありがとう)


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