「舞姫よ、正々堂々本気を出してかかってこい。俺も全力を持って戦おう。容赦はしない」

「こちらこそ、胸を借りる気持ちでイカせてもらいます。遠慮はしません」




「「ブイブイ!」」
「カイリキー!」
《ミリ様頑張って下さい!》
《これは見物だな》
「…」





「行くぞ舞姫!」

「はい!ゴウキさん!」


「やめんかぁあああああああ!!」





ゲンコツが落ちた!

(ガゴーンと良い音がした)





――――――――
――――――
――――
――












「ミリ、俺は今猛烈に困っている」





アサギの浜辺から帰ってきたレンとゴウキとミリはセンサーの部屋に戻っていた

後は眠るだけになった三人は、広い部屋にある割り振られた自室にいた。その中でレンは、自室に行こうかと足を動かそうとしたミリに唐突に問い掛ける





「…んー…どうか、した…?」





しかし対するミリはフラフラで、レンを振り向くその瞳も虚ろ気味だ。返事も消え入りそうで、瞳にはレンが映っているのかさえ分からない状態だ

それもそうだろう。二人に真実を話す時には眠気が襲いかかっていて、その眠気を耐え続けていた。ミリは我慢していた。しかし自室に帰ってきた、と分かった瞬間には眠気がマックスに跳ね上がり、今ベットがあったら飛び込む勢いだろう。それほどミリは我慢していた

消え入りそうな返事と眠気で潤んだ瞳、フラフラしながらも頭を傾げるミリの姿は誰が可愛いくない、と言うだろうか

レンはしばらくミリを眺めた後、口元を吊り上げてヒョイっとミリを抱き上げた





「…、んー…レン…?」

「お前それ、他の奴等には見せんなよ?」

「…?……うんー」





普段姫抱きされれば顔を真っ赤にして抵抗していたミリも、流石に眠気マックスなら抵抗する気も…いや、眠過ぎて抵抗のての字も忘れていた

今のミリの心境を言えば、温かい温もりがとても心地が良い…とでも思っているんだろう。眠気は思考を低下させると言う事はまさにこの事を言う






「…レン…?」

「…ミリ、お前か弱い身体で…色々、背負っていたんだな…」






ナズナを見つけられるのは『鍵』の役目であるミリ。イコールそれはミリしかナズナを救う事しか出来ない

摩訶不思議な非現実的で、ナズナを助けなくてはいけない使命感。自分を巻き込ませない様にもしてくれた。白銀の麗皇が自分だとは知らなくても、かなり追い込まれていただろう。しかもこの話に一番関与していて関係がある、不思議な力がミリには備わっていてその力の理解もある。結局、ミリしかこの話の全貌を解き明かせない

思い詰める事があっただろう。自分だけしか解決する事しか出来ない。しかもこんな摩訶不思議な話を打ち明ける事が出来ない






「ミリ、良く頑張った


 …ありがとな、話してくれて」






摩訶不思議な非現実的な話を無理矢理頭の中に叩き込んだ

ミリの言う、有り得ない事はアリエナイ。もはや現実にもふつふつと浮き出ているのを、レンは感じていた



今己に出来る事は――腕に抱く存在を、守る事










「…フッ、寝ちまったか」





気付いたらミリはレンの腕の中で規則正しい寝息を零しながら眠っていた

愛らしい、とも見えるその寝顔はレンの面にも微笑を浮かばす



レンは小さく笑い、顔を近付けて無防備に眠るミリの唇にキスを落とした――

















「………しかし、困った」





珍しくも、顔を上げたレンの表情には苦悶に近い様な、ほとほと困った表情をしていた







「……ゴウキが居る中で、ミリと一緒になんか寝られねぇ…!」









寝たもんなら気付かれた途端にバックドロップの餌食にされてしまう

理由を言っていないからこそ、安易に一緒に寝ているなどと口から漏らしてしまったら…堅物真面目な奴の事だ、俺がミリに手を出したと勘違いされ、乱闘騒ぎになっちまうだろうな…。と、レンは一人戦慄した




精神安定の意味もある

一緒に寝るのが、今ではもう当たり前にもなってしまった

やましい気持ちはあるか、と聞かれれば、無い…とも言えるし有るとも言える(男だし)。しかしその気持ちを置いておけば、ミリと一緒に寝る事は必要不可欠で、無いと正直言って安心して眠れない…









「………Zzz」

「あー…チクショウ。…仕方無ぇ、今日は頑張って耐えるか。…チッ、これがミリもゴウキも早起きしなけりゃなんとか打開策考えられんのに」






ミリはラジオ体操

ゴウキは日々の鍛練

自分はと言えば、その時間を全て睡眠に回してしまうだろう



ミリが先に起きるなら、何も言わず自分を置いてラジオ体操しに行くだろう。僅差で無くなった温もりで自分は起きるからまだしも…これがゴウキだったら、自室が近いので嫌でも眠っている部屋の前を通らなければならない。こっちにはドアというプライバシー保護する便利な物は、無い

自分のベットにミリがいたらそれこそキャメルクラッチ、ミリのベットに自分がいたらバックドロップ…確実に自分が生き残る可能性は、低い










レンは大きな溜め息を零した





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