旅は道連れ

一週間だけの、奇妙な旅












Jewel.24













今日の天気は、晴天

真っ青な雲一つも無い空。海から吹く風に乗って潮の香りが鼻を霞める。ブォォォ…と船が出航する汽笛の音の後に聞こえるのは運河が通る船の道を開ける為に橋が上がる音が続いて聞こえてくる

現在の時刻は正午を過ぎた午後の二時を回ろうとしている。太陽が真上に存在するお陰か、ポカポカと陽射しが温かい。陽気に誘われて海岸にはポケモンがのんびりと日向ぼっこをしている姿が垣間見れる。浜辺にはトレーナーが活発にポケモンバトルに勤しむ姿など、地域が違うだけで皆が皆、とても平和に暮らしていた






「こんにちは〜」

「おう!いらっしゃい聖蝶姫のねーちゃん!今日も今日とて綺麗だねぇ!」

「いえいえ、そんな事ありませんよー。私なんかより奥さんの方が綺麗に決まってますって〜」

「へへっ、そうかい?アンタに言われるとちぃと誇らしいものがあるってんだいハッハッハッハ!ま、アンタも十分綺麗だから自信持ちな!」

「あはは、ありがとう御座います」







此処はミオシティ

シンオウ地方で最も東に位置する港町にある、露店のクレープ屋の前にミリ達は居た







「で?今日は何がご希望かな?」

「クレープ下さい!」

「ハハッ、クレープな!了解!味と作る数を教えてくれ」

「はーい」

「キュー!キュー!」
「……」

「…お?なるほどなるほど、お前達はそれが食べたいんだな?中々良い味覚してんじゃねーか。さては普段から聖蝶姫から良いモン食ってんだろー?」

「キュー」
「……」

「ハハッ!そうかそうか!で、そっちのスイクンは?」

「…」(フイ

「…って、ありゃ?お気に召さなかったかな?」

「あぁ、すみません。この子ったらあまり甘い物好きじゃないんですよ〜。だからこの子達の分と、そうですねぇ…お勧めなチョコレートのクレープ系を一つ下さい!」

「キュー!」

「後は、このクレープで!」

「了解!毎度あり!おじさん聖蝶姫のねーちゃん達の活躍を願って頑張って作っちゃうからなー!楽しみに待ってろよ!」

「……!」
「キュー」
「…」

「はーい」








今日も今日とて三強を従えて、優雅堂々と歩むミリもクレープ屋の前では歳相応な女の子

テレビや噂など勝手に作った彼女への偏見と印象が異なる姿に誰もが驚かされるも、逆にやはり彼女は人間で17歳の女の子だと再認識をさせられる。クレープ屋から香ってくる甘い匂いにルンルンと表情を綻ばすミリと、楽しみだと宙を舞うセレビィと早く食べたいとばかりにうずうずして尻尾を揺らすミュウツー(…と、甘い匂いに少々噎せるスイクン)。普段から聞く三強の別の姿にも、やはり驚かされる事ばかりだ

人間らしいというべきか、ポケモンらしいというべきか

楽しみだね〜、と二匹の頭を撫でるミリの姿を視界に入れつつも、クレープ屋の店長は思った。俺もいつかこんな娘を持ってみたいなぁ、と(だが残念な事に彼には既に元気な息子がいた








「はいよ!出来たぜ!」

「キュッ!」
「……!」

「わぁ、ありがとう御座います!」

「お代は聖蝶姫のねーちゃんの美しさでチャラだチャラ!その代わりと言っちゃアレだが、次のコンテストもジム戦も頑張ってくれよ?」

「え、いいんですか!?わわ…では遠慮無くお言葉に甘えちゃいます!ありがとう御座います!…皆、クレープ屋さんのおじさんの為にも頑張ろうね。えい、えい、おー!」

「キュ!(モグモグ」
「……!(モグモグ」
「…」

「ハハハ!頑張ってくれよー!」








「――――…ミリ!!!!」













出来たてホヤッホヤな美味しそうなクレープをそれぞれ受け取ったミリ達はクレープ屋の店長から激励を受けつつも、無償で頂いたお礼を述べた後、クレープ両手に踵を返した、その時

一人の男性の、切羽詰まった声が響いた

三匹が視線を向けたその先には―――青い帽子を被った青年と一匹のルカリオがこちらに向かって走っていた。随分と長い距離を走っていたのか、ミリの前にたどり着いた時には既に息を切らしていた

ひとしきり呼吸を整える青年に、ミリは彼の名前を言った。名を呼ばれ、顔を上げる青年は盛大な溜め息を吐き出した後、腕を伸ばし――――ムニィッ、とミリの両頬を摘んだ






「Σわふっ!?」

「ミリ…君にはさっき、その場所を動かない様に、って、言ったはずなんだ、が!?」

「だ、だっひぇ、ひぇのはえに、くふぇーふやはんが…!」

「お腹が減っているなら減っているで用事に出る前に言ってくれないかなそういう事は…!戻って来たらまた君がいなくなってしまった、探し出す、私の、気持ちを、少しは考えてくれないかなぁ……!(息切れ」

「ば、ばうばう!ばうー!?」

「…」(溜息
「キュー」(モグモグ
「……」(咀嚼

「あ、あはー…くふぇーふ、ゲンの分もかっひゃからたびぇて〜おいひいよ!」

「君って子は…!!!!」







ミリの両頬を摘み、静かに怒りを表す青年の名は、ゲンと言った


彼は今――――…一週間だけの短い間、ミリと共に旅をする仲間だった









(奇妙な奇妙な、期間限定の一週間生活)

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